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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「ブルータス ―リベンジ―」前編

ニルヴァーナって、あのただの民間企業だよな?。なのに、何でそんなのがザ・デッドアイと繋がって・・・。いや、マフィアと民間企業の繋がりなんて、考えたら普通だ。ザ・デッドアイだってただのマフィアだ、こんな研究員やら、研究所やら、外部の奴を引き入れない限りモノに出来ねえか。つまりは、この民間企業は、ザ・デッドアイの協力者って訳だ。しかしこんな情報元、初めて聞いたな。ていうかそれよりだ。何なんだよ、ザ・マッドアイって。

「お前ら、ザ・デッドアイじゃなくて、ニルヴァーナの人間か?」

その場に居る研究員の全員の手が止まった。その“空気”が、最早答えだ。しかし1人の男が違うと応えると、研究員達は動き出した。

「魔獣薬作ったら、さっさと出てってくれ」

「ザ・マッドアイって何なんだ」

「さあ、自分で聞けばいいんじゃないか?」

思わず舌打ちが洩れる。言い方は気に食わないが、こいつらも下っ端なら聞いても意味はない。くそ、俺は、今は死んだと思われてる。ノコノコ顔を見せたら、流石に説教だけじゃ済まない。どうせなら、このまま独りで調べるか?。

「・・・出来たぞ」

「あぁ」

「言っとくが、どうなるかは分からないぞ?」

「あ?」

「だってそうだろ、例えクスリが完璧でも、誰も使ったことのない、ましてや今初めて作ったクスリ――」

「分かってる分かってる。どうせ俺はもう亡霊みてえなもんだから、どうなったっていい」

ラルガは袖を捲った。魔獣薬の入った容器を注射器にセットしたその時、その白衣の男が突然ちょっと待ったと言い出した。

「あ?ふざけてんのか?」

「予め、お前の血液を魔獣薬に混ぜた方がいい。その方が少なからず拒絶反応を起こす確率も減る」

「チッ知るかよめんどくせえ」

「おいおい、俺はお前を助けようとしてんだぞ。お前だってどうせなら生きたいだろ」

「・・・・・・ああもう!さっさとやれよ!てか最初からやれよ!」

1滴の血液採取を終えたラルガは白衣の男を横目に見ながら、暇潰しにとディスプレイをタッチしていく。ここからでも掴める情報は掴んでおく為に。――そういや、そもそも魔獣って、何なんだ。単なる商売道具にしちゃ、派手過ぎる。数も少ないし、そもそも魔獣薬をどこかに売っただの1度も聞いた事がねえ。まだまだ大麻の方が金になるはず。それともまだ未完成ってか?。いや、売るのが目的じゃねえのか。だったら何だ。くそ!ムカついてきた。俺らは、訳分かんねえ何かのモルモットってか?。

「おい、もういいぞ」

「・・・あぁ。さっさと打てよ」

そうラルガはディスプレイに目を置きながら腕を差し出す。魔獣薬よりも、“訳が分かんねえ事”の方が気になる。人間を駒だとか、実験体だとか言いやがってた。ただのマフィアだよな?・・・いや、ただのマフィ、ア・・・じゃ――。

そしてラルガは眠りについた。それから目を覚ましたのは1時間後の事だった。



第11話「ブルータス ―リベンジ―」



――少し前。

戻ってきたザ・デッドアイの拠点。治癒玉に包まれてストライクが寝かされる一方、アテナはホールを見つめる。あたしが、負けた。無様に逃げてきた。18の時にお父様からアイギスを貰ってから、あたしは最強の騎士になった。何か沢山求婚されたけどそれはともかく、魔虫なんて、取るに足らない相手だった。アイギスが無かったから“あれ”に勝てなかったなんて思いたくない、けど・・・。歩み寄ってきたティネーラに気が付き、アテナはとっさに顔を背ける。

「姫、泣いてるんですか」

「見ないでよぉ」

「皆、噂で知ってますよ。アテナ姫、子供の頃は誰かに負ける度に泣いてたって。でも、負ける度に強くなるって」

「だって悔しいもん」

「信じてますよ俺は。必ずリベンジするって」

「当たり前でしょ、やってやるんだから、絶対。ねぇティネーラ、これ、プライトリアに繋げられない?」

「え、でもあっちのホールが修復出来てないんじゃ、無理ですよ」

「何でもいいから、あっちに行くの!」

「・・・えー、そう言われま――」

〈アティ〉

「ん?お父様?ねえ!早くホール直してよ!そっち行きたいの」

〈ほう、それはちょうどいい、ホールならつい先程直った〉

「ほほホント!?早く!早く繋いでよ」

〈落ち着きなさい。何があった?〉

「負けたのあたし、魔虫に。だから、お父様、あたし霊匣にもう1人精霊を宿らせる」

「お姉様」

アルテミスと同じように、ティネーラも驚いていた。霊匣を2つ持つならまだしも、霊匣にもう1人、そもそもそんな事が出来るなんて、聞いた事がない。

〈おや、重ね宿の事、話した事あったかな〉

「ううん、ずっと前に、お父様が精霊と話してたの、たまたま聞いたの」

〈・・・そうか〉

直後にホールに青い光がちらついた。それからアテナとティネーラがホールを抜けると、そこにはゼウスとアポロンが居た。真っ先に、アテナは父に抱き付く。

「お父様」

「しばらくだったね。元気そうで何よりだ。アリーは一緒じゃなかったのか?」

「治癒玉作ってるから」

「そうか」

国王のふとした眼差しに、ティネーラは頭を垂れる。

「セナタ第6隊長、慣れない異世界での娘達のサポート、よくやってくれた」

「勿体無いお言葉です国王様。ですが、今のままでは力足らずなので、俺も強くなりに戻って参りました」

「そうか。アテナが負けてしまうほどの魔虫か。確かに、霊匣を増やすより、重ね宿でないと厳しいだろうな」

「国王様、それで、重ね宿とは一体どういったものなのでしょうか」

「1つの霊匣に、複数の精霊を宿らせる事だ。だがその力の代償は大きい。故に、もう200年ほど前になるだろう、当時の国王が禁止したのだ」

「そうでしたか。では、畏れながらご教示願えますでしょうか」

「うむ」

駄々をこねるような言い方のルーナにも、アルテミスはまるで妹を見るような優しい笑みを浮かべて見せ、ホールに手を差し出した。

「行きますか?あちらへ」

「・・・え」

声を漏らすルーナ。そして顔を見合わせるルアとヘルとルーナ。

「(いいんじゃない?行けば)」

「う、うん、だよね?行こうよお姉ちゃん」

「・・・そうだね。ストライクさん、ちょっと留守番してて下さい」

「あぁ、ノイルさん達が来たら言っておくからね」

――何も、異常はねえな、ハッ・・・ハハハ。壁にもたれ掛かるように眠っていたラルガが立ち上がった時、白衣の男が歩み寄った。その表情はマフィアとか関係ない、ただ実験の成功を眺めるようなものだ。

「血液取らせてくれ」

舌打ちはした。しかしラルガは黙って腕を差し出した。それから雑居ビルを出たラルガはまた何となく、街頭ビジョンに目を留めた。隣の国マシエスタ、そこにある拠点に陣取るブルータス。たった一体だが、軍隊はおろか、ミサイルですら歯が立たない。ラルガはそんな風景に背を向け、独り街を歩く。――ルーファーさんに知られずに動くなら、ニルヴァーナに行くしかねえな。

“おもちゃ箱”片手に、ユピテルはコーヒーを飲む。館内庭園「エントラスパーク」の一角で、“のんびり”過ごすそんなユピテルを、ベルデルートは少々呆れた眼差しを向けていた。そしてそんなベルデルートに、ユピテルは呑気な微笑みを返す。

「焦りは禁物さ。実験にはね、経過観察というものが必要なんだよ」

「つまり、何かが起きるのを待っているのか?」

「あぁ。俺の予想じゃ、そろそろ『プリンセス』の兆候が出る頃なんだけどね」

「それは、むしろ今はやる事はないという事か?」

「うん。せっかく来たんだ、ベルデルートくん、コーヒーでも飲んでみたらどうかな」

「・・・美味いのか?」

「そりゃ好みは人それぞれさ」

小さく首を傾げ、ベルデルートはユピテルのコーヒーを覗き込む。液体を味わうという習慣、人間とは不思議なものだ。それからベルデルートは“そういう係り”の女の前に立った。

「コーヒーをくれ」

「サイズはいかがなさいますか」

「サイズとは何だ」

「・・・はい?」

「私はコーヒーを飲んだ事がない」

「え。・・・ほ、ホントに?」

「あぁ。そもそも、コーヒーとはどんな味なんだ」

「えーと、苦いです。でも苦さと香りをたしなむのが醍醐味っていう、そんな感じのものですよ」

「苦い、か」

「もし何でしたら、苦さを抑えたカフェラテなどどうでしょう」

それから、ユピテルの隣に座ったベルデルートはカフェラテを少し、口に流し込んだ。ユピテルは内心面白がりながら、そんな彼をじっと見つめる。するとベルデルートは眉間に小さくシワを寄せ、口からカップを放すと目を泳がせた。そして、首を傾げた。

「・・・よく分からないな。それより、『プリンセス』の居る施設に案内してくれ。全員の顔ぐらい見ておきたい」

「あぁいいよ」

アルテミスは父に抱き付いた。お父様と声を上げて。先程の“誰か”のようだと、ゼウスは優しく娘の髪を撫でる。しかし同時に、ゼウスは不思議そうに“彼女ら”を見た。彼女らは自分に、国王に挨拶1つしない。

「この子達が、アリー達が行動を共にしているという子達かな?」

「はい。ルア、ルーナ、ヘルです」

「あ、こんにちはぁ」

ルアのまるで“友達の親にするような挨拶”に、ゼウスは思わず笑みを吹き出す。

「うむ」

「何かお城みたい」

ルーナの呟きに流石に我慢出来ず、ゼウスは笑い声を上げてしまう。“一応”国王らしい服装はしている人間を前に、特に畏れたり、瞳の奥に何か黒いものを募らせる訳でもない。どうやら、純粋な心の持ち主くらいだという事は分かった。

「それで、何故こちらに来たのかな」

「ルア達を、精霊使いにする為です」

「異世界の住人が精霊使いか、ふむ、それは面白いね」

ゼウスはヘルとルーナ、そしてルアの腰に挿されたプリマベーラを一瞥していく。しかし解せないのは、“こんな可憐な子”が何故異世界に来てまで、力を求めるのか。

「ザ・デッドアイと、戦う為なのだろう?力を求めるのは」

「はい」

ルアが応える。

「それは何故かな?」

「ママが、ザ・デッドアイに殺されたんです」

「そうか。それは悲しい事だね」

「お父様、お姉様達はどこですか?」

「アティとセナタ第6隊長はバルコニー、アッパーは前線へ向かった」

「なら私達もバルコニーへ行きます」

「うむ」

アルテミスに連れられながら、ルアとヘル、ルーナはキョロキョロしていた。まるで美術館みたい。それにアルテミスさんのお父さんも、向こうから歩いてくる兵士の人の服装なんかも、本当に映画に出てくるような感じ。

「(アルテミスって、普段何して遊んでるの?)」

「普段は、中庭のお花畑で精霊とお話してます。精霊はお花が大好きで、そこには色んな精霊が立ち寄ります。そこで色んな精霊とお話するだけで、世界中の色んな情報が聞けるのです」

「(おー。ボクみたいな“ケモノ”とか見てみたいんだけど)」

「では、私の守護獣に会わせてあげましょう」

「(あっ!?思い出したっ)」

「どうしたのヘル」

「(高級肉、食べさせてくれるって、アルテミス約束したよね?)」

「あらあら、ちゃんと覚えてますよ。一段落したら差し上げましょうね」

「(やった)」

廊下をぐるっと回り、バルコニーに出たルア達はとっさに空を見上げた。ブンッと風を切る大きな音が駆け抜けたのだ。それは空飛ぶバイクだった。そんな光景にルアとルーナを差し置いて、ヘルは独りで興奮した。

「ワンッ」

「いい景色だねお姉ちゃん」

「うんそうだね」

緑溢れる壮大な景色を眺めているようにしか見えないアテナとティネーラ。しかし近付いてみると、2人は“歓談”していた。まるでそこに居るのが2人ではないかのように。

「さあ、皆さん、心を鎮めて祈るのです、そうすれば波長の合う精霊があなたを受け入れてくれます」

時折吹き込む風が気持ちいい。そんな事を思いながら、そして2人と1匹は目を閉じた。ふとした静寂を、“ぬくもり”がふっと包み込む。それは暗い洞窟の先に、灯火を見つけたかのよう。そんな感覚だった。――それからルアは目を開けた。姿は見えない、強いて言うなら、それは神秘的な光の塊だ。しかし、“それ”が何かは理解出来る。何故なら心がそう認識するからだ。

「こんにちは精霊さん」

恐れはないが、緊張はしていた。しかしそんなルアに、精霊はキラキラと舞って見せた。

〈お名前は?〉

「ルア」

〈あたしはペルーニ、よろしくね〉

本能が理解していた、その優しさと、ぬくもりを。そうルアは笑みを溢し、頷いた。ふとルアは周りを見渡す。誰も居なかった。ヘルやルーナどころか、アテナ達も。

〈大丈夫だよ。霊匣が出来るまでの間だけだから。初めての時は、みんなこうだよ〉

「そうなんだ」

――それからヘルは目を開けた。ルア達の匂いすら感じなくなったバルコニーで、目の前に居たのは、とてもキレイな“大きな鳥”だった。

「(ボク、ヘルだよ)」

「私はシュナカラク。珍しいものだな。守護獣は本来、精霊使いにはならないものだが」

「(そうなんだ。何かすごい歳上っぽそうだね)」

「いかにも。私はかれこれ、250年は生きてるかな」

「(ひえー。ねぇ、精霊ってこんな風に普通に見えるものなの?)」

「人間には見えない。ただハイクラスの精霊になれば、見せる事が出来るようになる」

「(そうなんだぁ)」

「それはそうとすぐに分かった。ヘルと、ルアって子の絆がとても強く、深いのが。その絆は2つの霊匣の霊力をよく混ぜ合わせられるだろう」

「(おお!もしかして合体技?)」

「あぁ。だがそれにはヘルとルアだけじゃなく、ヘルとルア、私とルアのパートナー、全員の心が1つにならなければならない」

「(うん分かった)」

――それからルーナは目を開けた。上半身が少女で、下半身がヘビ。そんな姿の精霊が目の前に居た。2人はお互いに、目をぱちくりさせていた。

「ああた、あたし、ルーナ」

「わたたた、わたし、リヒカ」

しかし突然、2人は吹き出し、笑い合った。

「何か、ルーナって、わたしと同じ匂いがする」

「そう?やっぱり分かる?あたしが人間じゃないって」

「うん。でも関係ないよね?友達だもん。ねぇせっかくだから見せてよ。変身した姿」

何となく、変身する事に抵抗を感じなかった。そんなルーナに、リヒカは満面の笑みを浮かべる。

「じゃあ、霊匣は左手のそれにしよっか」

ルアはユピテルの言葉を思い出し、何となくプリマベーラを取り出した。

「お父さんにね、精霊さんと話した時に見せてあげてって言われたの。でも、何でか分からなくて」

〈ルア、これが何なのか分からずに使ってたの?〉

「う、うん。これ、ただのクロスボウじゃないの?」

〈じゃあ、先ず霊匣作ろっか、それから教えてあげるね?〉

「うん」

ペルーニから糸のような光が伸び、ジュシアル・ブーツに優しく触れると、間もなくしてルアは空気と雑音、みんなを認識した。しかしルアには、突然の疑問が頭に焼き付いていた。これは、ただのクロスボウじゃない?・・・。お父さんは、一体、幾つ隠し事してるの・・・。

〈改めてよろしくねルア〉

「うん。それで、これ・・・」

〈そのボウガンに、霊力を注いで。大丈夫、自然と出来るから〉

ペルーニのぬくもりのお陰で、戸惑いはない。そうルアは自然と肩の力が抜けていた。そしてスーッと、ルアはプリマベーラに霊力を注いだ。まるで鍵でも開いたかのように、パアッと光が解ける。するとそれはもう、ルアの知ってるプリマベーラではなくなっていた。重厚な金と黒に染まり、シリンダーに沿って小さな弓弭(ゆはず)が7つも飾られた、まるで美術品のようなプリマベーラ。

〈それはね、霊器(れいき)だよ。霊力で動かす武器なの〉

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