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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「ブルータス」中編

「で?器は?」

アポロンは予め着けてきた腕輪を見せつける。それは金糸を縫われた高級革に純銀の装飾をあしらったもの。しかし悪霊はそれを高級なものと分かった上で、どこか渋るような態度を見せる。

「浅はかだなー、高級なものなら飛び付くと思ったのかあ?」

「これでは嫌か」

「なあその人差し指の指輪」

「これはもう精霊を宿している」

「じゃあ、オレもそこに入ろっかなあ」

「何だと!?そんな事出来るのか?」

「いくら王子でも知らないだろう。霊匣に宿せる精霊は1人じゃないって事」

「何だと」

「昔は少しあったんだ、重ね宿。1つの霊匣に精霊が複数入ることな。単純に、重ねられた魔力は肥大する。じゃあ何故、誰もやらなくなったか」

おもむろに悪霊は覇王剣を拾い上げ、その剣先で土をいじくり始めた。

「その分、激しいんだ、消耗がさ。人間の精神力も、精霊も」

そう言うと悪霊は覇王剣を地面に突き立て、まるで何かを企むような笑みをアポロンに浮かべてみせる。

「この際、やっちゃおうぜ。面白そうだろ?クキキッ」

直後、悪霊はパンパンと手を叩いた。

「出てこいよっ」

アポロンの人差し指にある指輪から一瞬の赤い閃光が走る。アポロンは目を見張った。心の中とは言え、霊匣から精霊が出てくるのが“見える”なんて。そもそも、精霊など人間の目には“決して見えない存在”なのに。ならこの悪霊も、シーナも、幻覚ではないのか。指輪から出てきた精霊シーナ。色鮮やかなワンピース1枚しか着ていない彼女はキョロキョロしながら、アポロンの背後に隠れる。

「わあ!」

「いやん怖いっ」

「ケッケッケ」

「何の、真似だ」

「あ?これから同居しようって奴の顔を拝んでやろうって思ってな。オレはバス。お前は?」

「わわ、わたし、シーナ」

「あ~あ~、見るからにお人好しな顔しやがって」

「うふ、お人好しだなんてっ」

シーナが照れるように払った手から、赤い閃光が放たれる。見事なノールック攻撃だ。アポロンはそう、間一髪でそれをかわしたバスを見る。そしてとっさにひっくり返ったバスは素早く後ろを振り返る。赤い閃光は爆炎と成し、岩壁を激しく抉り、轟音と共に土砂崩れを起こした。バスは呆気に取られていた。

「バス、お前も気を付けた方がいい。彼女は、加減を知らない」

「・・・・・・まじすか」

本来、精霊と契約するに当たって“こんなに時間はかからない”。ましてや、目を瞑ったまま固まるなんて事はない。エンディは不安げに横目でアポロンを見つめる。

「ではもう1種類はどういったギガスなんですか」

「ギガスという精霊、といったところですわ。精霊は本来、肉体を持ちません。しかしそれは間違いで、肉体を持つ精霊も存在するのです。そしてその肉体を持つ精霊が、正真正銘のギガス」

「ふぅー」

突然アポロンが息を吹き、目を開けた。まるで夢から覚めるようなその様子に、エンディは思わず笑みを溢す。

「王子!」

「あぁ」

「アポロン様、ご無事で何よりですわ」

「あぁ。しかし貴女も思い切ったな。1人で、こんな所に」

「お国の為ですわ」

「ザ・デッドアイの動きを教えてくれ。トップが代わったと聞いているが」

「如何にも。ザ・デッドアイは初め、魔虫や魔法に関する情報を目当てにしてました。しかし先日、その目的は情報ではなく、力の誇示へとお変わりに」

「力の誇示?」

「恐らくは、情報の収集に満足し、理想への具現をお望みになったのです。お国を離れる前、妾は理想の魔虫というお言葉を耳にしましたわ」

「理想の魔虫・・・。つまりはその力を使い、アマバラとプライトリアの支配へと、いよいよ動き出した訳か」

「それが、妾は1つ疑問を」

「それは?」

「少なくとも妾が接していたザ・デッドアイの方々は、理想というお言葉さえ使えど、支配などという事はお考えになってなかったと思うのですわ。しかしそれがまるでお人がお変わりなったかのよう。それはどこかクーデターとは違い、まるで態度をお装いになっていたようにお見受けしました。そしてその態度をお装いになっていた方々が、トップに」

「装う、か・・・。まるで最初から二分していたかのようだ。それで装ってなかった者達はどうなった、殺されたのか?」

「ただ、お戸惑いに。それ以上は」

「そうか」

拠点の家捜しも粗方終わり、ルア達が“下請け会社”を後にした頃。ノイルの携帯電話が鳴り出す。一体何を聞いているのかと、ルアは“一瞬にして表情を引き締めた”ノイルを何となく見ていた。

「何だ」

ソクラが尋ねる。

「魔虫だ。サザーリニの自動車工場から、まぁそこが拠点なんだろうが、今確認出来た限りで、30体だとよ。しかもまだ出てきてる」

「何だって?すぐ行くぞ」

「いや、サザーリニより近い、マシエスタにあるビルの上にも魔虫が確認された」

「まじか、どうなってる、ザ・デッドアイは“あっちの世界”をモノにしようとしてるんじゃないのか?」

「さあな。だがマシエスタの方は今は新型だがたった1体、サザーリニにはすでに軍が向かってる。だから、俺らはマシエスタだ」

「大丈夫なのか?出国手続き」

「どういうこと?」

するとノイルとソクラに、アテナが尋ねる。

「マシエスタは国が違う。あんたら、パスポートなんて無いだろ」

「いいんじゃない?突撃しちゃえば」

真顔でそんな事を言うアテナに、ノイルとソクラは顔を見合わせる。そして目と目で通じ合っていた。いやダメだろ、と。

「あっちだって、こっちは任せろって言うはずだ、例え魔虫が何か分かんなくたって。だったら先ずすぐに落とせる拠点をやっつけた方がいい」

そんな時にノイルの携帯電話がまた鳴り出す。相手はさっきと同じキャプテンであるベクトラ。ノイルはスピーカー通話のアイコンをタッチする。

「ノイル!80体超えたぞ!どんどん出てくる、とりあえず向かえ!」

「まじすか」

「今まだロドニオスだろ?」

「はい、マシエスタは後回しっすか?」

「だろうよ、ここままじゃ100超えるぜ?」

「了解っす。すぐ行きますっ」

電話を切るとノイルは小さなため息を吐くが、ノイルと顔を見合わせたソクラは黙って宥めるように頷いて見せる。

目を覚ますと、すぐに記憶がフラッシュバックする。――くそったれ。もう戻れねえ。ならどうするか。このまま、“死んだ事にしておく”か?。けど、この俺に、他に行くところなんてねえ。頭に焼き付くのは、あの女共が意気揚々と研究所に入っていった後、幸運にも“痺れ”はよくなり、クソ警察がやって来る前に逃げれた事。何も考えず、必死だった。ラルガはただ仰向けになっていた。空を見上げ、怒りと畏れ、そして空腹を感じていた。仮眠取って体は大分良くなった、でも腹が減ってしょうがねえ。

コンビニから出てきたラルガはふと、街頭ビジョンに映るニュースに目を留めた。それは魔虫のニュースだった。サザーリニの自動車工場から、100体を超える魔虫が突如として出現した。ラルガは首を捻った。まったく、聞いた覚えのない作戦。ただ俺みたいな下っ端には伝えてないだけかも知れないが。しかし拠点が攻められてるんだ、ロドニオスだって落ちた。それならこんな作戦、考えてみたら不思議でもなんでもない。――ん、何だあれ。

100体以上の魔虫たち。その中に紛れ込む“見知らぬ魔虫”に、ラルガは目を留めた。こんな、でかいやつまで、ザ・デッドアイは作ってたのか。――そうだ、あの魔虫のデータ、それを使えば、もっと強くなれる。もうすべてどうでもいい、怪物にでも何でもなってやる。あの、アテナとかいう女を殺る為なら。

科学研究機関「ニルヴァーナ」にて。ユピテルはパソコンの前に座り込み、いつものように研究に勤しんでいたが、そんな彼の下に1通のメールが届いた。

『エーバドルフに襲われた。お前も気を付けろ』

ユピテルは頭を巡らせていた。メールを送ってきたのはカルハン。心当たりが無い訳じゃない。エーバドルフだって、かつては同志だった男。しかしまさかここまでしてくるなんて、そう思いながら同時に、ユピテルは思い出を振り返っていた。俺達“5人”は、科学研究機関「ニルヴァーナ」の創設者。思えば、あの頃から対立していたと言えばそうかも知れない。けど当時、その“対立”は“競争心”だった。切磋琢磨する為の健全な対立。しかしそれが今じゃ――。ユピテルは引き出しを開け、フォトケースを取り出す。

データではなく、プリントアウトした写真をいつまでも飾りたい。そんな要望を叶えたフォトケース。商品名はその名も「エターナルメモリー」。「その写真を完璧に守る」がコンセプト。たった1枚しか収納出来ないが、6000度以上もの耐火性に優れ、真空包装によって写真の劣化を半永久的に防ぐ。

スライドして開けた蓋がそのまま脚になるそれを、ユピテルはデスクに立てた。それに入っているのは“同志だった5人”の写真だ。

バイクに乗るノイル、ストライク、そしてその2人以外を乗せた遊撃車がサザーリニの街に入る頃、マシエスタの街は“敗北”に染まっていた。隣国とは言え、魔虫という存在くらい耳に入る。だから軍隊を向かわせ、戦闘機を飛ばした。しかしまた1機、戦闘機は煙を吹いて墜落した。そしてそれはサザーリニも同じだった。特攻部隊が到着した時にはもう、そこは“残骸の海”だった。道のど真ん中に墜落した戦闘機の前でバイクと遊撃車は停まり、ノイル達はやじ馬すら居ない道を歩く。

「おい!」

デパートの入口で、ノイル達は声をかけられる。その隠れている軍隊のはぐれチームの1人は、デパートの向かいの街頭ビジョンを指差していて、ノイルはふと街頭ビジョンを見上げる。映っていたのは、ザ・デッドアイのロゴマークと「ザ・マッドアイ」という言葉だった。

「何だよあれ」

ノイルが軍人の1人に尋ねる。

「分からない。さっきからずっとああだ」

「ノイル、とりあえず突撃しちゃおうよ」

そう声をかけてきたアテナに、ノイルは苦笑を吹き出す。そこに、フライアの群れが顔を出す。

「あぁ。パーっとやってくれ」

待ってましたと言わんばかりにアテナは笑みを浮かべ、その胸に手を当てた。その手には、音を立てて電気が這い踊っていた。

雷火(グロージャ)放伝(リリーヴォ)

手に這う電気が瞬時にアテナの背中に伝うと、それは背中から生える棘のような形として定着した。アルテミスもティネーラも、そんな魔法は初めて見たと目を見張った。

「お姉様、それは何ですか」

「えっへーん、これはね、ノイル達が着てる、防弾ベストってのを真似たの」

「真似た、ですか」

ティネーラの驚き、アルテミスの絶句、アテナの得意顔も含め、そんな様子をノイルは半信半疑で見つめていた。昨夜、ホテルの部屋に訪ねてきてアテナは防弾ベストの事を聞いてきた。何故、魔虫の羽音を軽減出来るのかと。そして答えを聞くとアテナはなるほどと微笑み、“やってみよう”と言って部屋を出ていった。そして今日、いくら魔法使いとは言え、科学をそんな簡単に真似出来るのかと、ノイルは内心でそう思っていた。

〈ヴオオオオオン!〉

そこに、魔虫がやってくる。ルアとヘルは無論、アルテミスとティネーラも身を縮ませるが、アテナは腰に手を当て、胸を張って仁王立ちしていた。アテナの背中の棘からは、まるで震動を逃がしているかのように電気が舞い上がって消えていく。――まじかよ。ノイルは思わず笑みを吹き出していた。

「さぁ来い魔虫共ぉー」

「カカカカッ」

走り出すアテナ、そこに横開きの口が震える。

雷火(グロージャ)反響(リベルチア)!」

直後に十数体のフライアの口から、衝撃波が一斉に放たれた。その全てが、アテナに向けられて。それは一瞬だった。信頼しているティネーラやアルテミスさえも不安を感じるほどの“歪み”。しかしアテナの足元から地響きが抜けていくと同時に、衝撃波は雷火を連れてアテナから跳ね返った。衝撃波の数も数なので、その迸る衝撃波は辺り一面のフライアは勿論、近くの街灯や車をも吹き飛ばしていた。そしてフライアの肉片や体液がベチャベチャと降りかかるその様を見せつけるように、振り返ったアテナは髪をサラッと払い、ポーズを取って見せた。

「どーよ」

カタンッというライフルが落ちる音が妙に響いた。誰よりも早くリアクションを取ったのは、あんぐりと口を開けたはぐれチームの軍人だった。

「・・・何だ、そりゃ」

そんな軍人に、ノイルは得意気に笑ってみせる。

「ウチのエースだ」

「ハハ・・・ハ、ハハ、まじかよ」

「さすがお姉様!」

「さぁどんどん行くよっ?」

それからジオスピオンを撃破し、フライアの特異型を薙ぎ払い、最早アテナの独壇場となりながらデパート街道を抜けてようやく自動車工場が見えてきた頃、アテナの前に立ちはだかったのは1人の魔獣だった。ラルガと同じ姿の魔獣、それでももう、アテナには微塵の不安もない。

「さぁさぁ!いっぺんにかかって来なさいよ!」

「悪いけど、その前に新型とウォーミングアップしない?」

そう口を開いた、妙にニヤついているギール。彼の背後にはジオスピオンとフライアの特異型が群れを成しているが、それでもアテナはちょうどよく“リラックス”し、腰に手を当ててみせる。

「新型?」

「魔法使いでも、退屈しないと思うよ?でもま、気を抜けば魔虫にも食われるだろうけどね」

「いいからいいから早くしてぇ?もうすでに退屈なんだからぁー」

片眉を上げるとギールは背を向け、歩いて去っていく。まったく無防備な姿だ。だがアテナを始めとして、誰もが遠くの自動車工場からやって来る“何か”を目に留めていた。

雷火(グロージャ)散弾(プルパーダ)・・・・・・連鎖(セーピア)!」

雑魚を薙ぎ払うように、アテナは雷光の球をばら撒き、そして雷火の花を打ち上げる。バラバラと、フライア類の肉片が舞い散るその中を、ジオスピオンは闊歩する。

「あれ、ユピテルさん、何仕度ですかそれ」

何やら整理整頓しているユピテルに歩み寄る、研究員のメルテ。彼女は諸々の書類をユピテルに届けに来ていた。ユピテルはそんなメルテに、いつものように脱力系の優しい笑みを見せた。

「ただの整頓だよ」

「そうですか。これどうぞ、請求書です」

「うんありがとう」

耐衝撃性に特化した“おもちゃ箱”に、色々詰め込むユピテル。その時の彼女の目には、そんな姿に何の“危機感”も映りようがなかった。

「やっと来た」

ジオスピオンの掃除が済んでからようやく、まるで待っていたかのように“それ”はやって来た。フライアの脚やジオスピオンの外皮などの要素を併せ持つ、まるで虫とは呼べないような殺気。そして危険だと本能を揺さぶるのは、背中から伸びる4本の“尾状器官”。その先端は3方向に開き、まるでジオスピオンのよう。しかしその滑らかにしなる様子は尾というより腕にようにも見える。

雷火槍(グロジャピオ)

アテナが飛び上がる。その直後、アテナは目を見張った。その想像もしてなかった素早さに。

「お姉様ぁ!」

殴り飛ばされたアテナ。その体はコンクリートの塀を砕いた。そしてその瓦礫の山の隙間からは、電気が洩れ、舞い散っていった。

ユピテルは睨み付けていた。窓の向こうにいる魔虫を。他の研究員も魔虫に気が付き、忙しなくやって来たメルテは短く悲鳴を上げる。

「逃げろ!」

〈ヴオオオオオン!〉

「グガラララッ」

窓ガラスは砕け散り、衝撃波によってデスクや観葉植物、機器系統が舞い上がった。

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