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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「ブルータス」前編

そしてキアラは眠りに落ちた。その寝顔はどこか安らかそうなものだった。朝、なかなか起きないキアラを心配して、キアラの母は庭先の車の中で待機していたキアラの警護要員を呼んだ。それから無事に、キアラは施設のベッドに運ばれた。他の子は“目覚め”、ただ1人眠っているキアラを優しく見守っていた。

2人の魔獣を撃破すると、拠点はもう“留守”も同然だった。脅威的な戦闘要員はもう居ない。逆に言えば、魔獣はそれほどまでに信用されてるという事だ。しかしやはり制圧される事も想定していたといった具合に、建物にはすでに最低限の留守番しか居なかった。それから警察の応援が拠点に到着した頃、ルア達は研究施設の中に居た。ザ・デッドアイにとって重要な施設。そうノイルやストライク、ソクラ達は手当たり次第の書類、データを開いていく。

「ありませんねぇ、重役名簿」

「くそぉ、ただでさえ謎が多いってのに。どんだけ徹底してんだか」

ストライクの呟きに、ノイルが応える。脅威的なでかいマフィア組織、ザ・デッドアイ。今現在、警察はザ・デッドアイのトップを特定出来ていない。ましてや幹部ですら、そのメンバーの全員を突き止める事すら出来ていない。こんな重要な施設ですら、重要な情報が置いていないその様に、ノイルはそろそろ諦め気味であった。

「なんかこう、本を動かすと本棚が動いて扉が出てくるとか無いもんかな」

「ベタ過ぎますよ。そもそも書類って言ったって全部、報告書とか何かの受領書とかのファイルですよ。本なんて無いですからね」

2人が本棚を調べる傍ら、隣の部屋ではソクラとカーキがパソコンと睨み合う。

「ソクラ、それにしても、魔獣の製造だなんてよく考えるよな」

「いや、考えない方がおかしいんじゃないか?それが学者だろ」

「ああそうか。でも研究員も不幸だよな。マフィアに取り込まれちまって」

「いや、中には法律なんて考えずに好きな研究が出来るからって、自分からマフィアに入る奴もいるんだと。制圧した拠点に居た研究員から聞いたってよ」

「誰がよ」

「ノイルだろ」

「・・・お?何か言ったかあ?」

「別にー」

「・・・ん?何だこのファイル」

ソクラはパソコンの画面をタッチする。名前の付けられていないそのファイルが開かれると、そこにはまた2つのファイルが入っていた。1つのファイル名はプライベート、もう1つは仕事。ソクラは「仕事」にタッチした。

「メールか・・・」

ソクラは次に「プライベート」にタッチする。ふと疑問に思ったのは、何もプロテクトがかけられていないという事だった。パスワード1つ掛けない、ましてやファイル名はプライベートなのに。

「ノイル!ちょっと見ろよ!」



第10話「ブルータス」



メールの送信宛は「先生」。全てのメールは2、3行で、内容も一様に報告のようなもの。しかし最後の未送信メールに、4人は釘付けになった。

『狂者が死者を喰った』

「・・・何だよ」

ノイルが呟く。

「暗号か、それとも、メッセージか」

「メッセージ?」

ソクラの言葉に、ノイルが尋ねる。

「逃げる前にロックぐらい掛けられるだろ。ましてや名前がプライベートだ。これじゃまるで、俺らに見せる為に書き残したメモみたいだ」

「どういう意味なんだ?」

「さあな」

「狂った奴なんて、魔獣じゃないか?」

「死者は?」

口を開いたカーキにソクラがそう尋ねるが、カーキが首を捻るとソクラは口元を緩ませ、メッセージへと目線を戻した。3階にあるホールの前にはティネーラとアテナが居て、ホールのコントロールパネルを調べているティネーラを、アテナは傍で見守っていた。

「ティネーラって、独身?」

「え、まあ」

「恋人は?」

「いませんよ。何で、そんなことを?」

「んー、ほら、もしあっちに残してるなら、心配だなぁって」

「新兵になってから少し経った頃、別れました。やっぱり兵士を恋人に持つと大変らしいですよ?」

「ふーん。じゃあ、付き合うなら、同じ兵士がいいの?」

「俺は、どうですかね。やっぱり恋人が任務に行くとなると、当然心配ですからねぇ」

「じゃあ、死なない兵士なら安心だね」

「フッそんなの、姫くらいですよ」

ホールがある部屋の隣にある広間で、ルアとヘル、ルーナ、アルテミスは待機していた。というより、寛いでいた。情報の家捜しなら男達、ホールの事ならティネーラ、それなら、私達に出来る事は何もない。

「ヘル、変な忍者は?」

「(警察の目に触れたくないって、隠れてるよ)」

「やっぱり忍者なんだぁ。あれ、あたしの護衛なんじゃなかったっけ」

「(いざって時に来るんじゃない?)」

「ふーん。良かったねヘル、犬友だち出来て」

「(えへっまぁでも、フレンドリーっぽいから、仲良く出来るかも)」

「ていうかさぁ、お姉ちゃん達ずるいよ魔法使えるなんて、あたしもやりたいっ」

するとルアとヘルが助けを求めるようにアルテミスを見る。

「あら、いいですよ」

「ほんと!?やったあ!」

プライトリアにて。城を出たアポロンは密偵であるエンディの先導の下、渓谷を下っていく。プライトリアとアマバラの中間を通るその渓谷の一部には「デーモンズ・キャニオン」がある。そのとても深い谷には、いかなる精霊も立ち入らない。つまり、そこでは精霊の力を借りた魔法は使えない。プライトリアの領土を過ぎれば、そこはいよいよデーモンズ・キャニオン。そして1歩足を踏み入れた瞬間、アポロンでさえも“霊匣が眠りにつく感覚”を噛み締める。

「王子、少し寒いですね」

「あぁ、風も無いのに悪寒が走る。実に気味が悪い。だが、身を隠すには最適だ」

「はい。でも大丈夫でしょうか、いくら身を隠すとは言え、デーモンズですよ?」

「身を守る自信くらいあるんだろう。でなければ自分からここには来ないさ」

「です・・・よ、ね。あれ?王子!」

アポロンは振り返る。“すぐ近くに居る”エンディが、突如錯乱し始めた。エンディの体は、どこからともなく沸き出した黒煙にうっすらと覆われていた。

「エンディ!」

「ふぅ・・・寒い、王子どこですか!く、体が・・・かじかむ、王子!」

デーモンズ・キャニオンに精霊は立ち入らない。何故なら、悪霊が居るから。悪霊は人に幻覚を見せ、時には操る。しかし身を守る術ならある。それは――。

「・・・こ、これは」

するとエンディは天に手を掲げた。そしてそのまま固まった。その表情は今の今まで伺えていた恐怖をまったく感じさせないものだ。すると静寂が訪れて数秒後、エンディに纏う黒煙は足元からゆっくりと晴れていった。

「ふぅ、あ、王子」

「あぁ」

満足げな笑みを浮かべたエンディに、アポロンもよくやったと言わんばかりに頷き返す。エンディを信じていた。でなければ連れてきたりはしない。悪霊を消す術、それは幻覚を自覚し、恐怖を消し、悪霊に諦めさせること。目を瞑ったり、天に手を掲げたり、身構えたり、悪霊に対する威嚇の形は人それぞれ。

「そろそろ、谷底ですね」

「あぁ、まだ気は抜くなよ?」

「はい」

悪霊など居なければ、とても心地よい静寂であろうその谷底。岩壁はおよそ4、50メートルほどで、所々に草花も生える。それから2人はとある洞窟を前にして立ち止まった。一見すれば“ただの横穴”。しかしアポロンが手を伸ばすと、その手は静かに“見えない何か”に阻まれた。

「結界だな」

「え、でも、ここ魔法使えませんよ?」

「・・・禁忌魔法だ」

「初耳ですけど」

「魔法は何も、精霊から力を借りるだけじゃない。悪霊だって、霊匣を媒介にして人に力を貸すんだ。精霊の心は清らかだ。精霊は誰にだって力を貸す、頼まれれば悪人でもな。対して悪霊は、その人を試し、そしてその人の力を認めなければ力を貸さない。しかしその分、悪霊の力を借りた魔法は遥かに強力。だから禁忌となった」

「学校じゃ習いませんでしたけど」

「禁忌魔法に関する本は城の倉庫にしかないからな」

「そうだったんですか。じゃあ、どうやってアマテラス姫を出てこさせますか、あれ?」

すると洞窟の奥からアマテラスがやってきて、結界を隔てて、2人の目の前で立ち止まった。豪華な髪飾りを着け、ドレスを着たアマテラスは何を言う前に先ず、上品にお辞儀をして見せた。

「お初にお目にかかりますわ。妾はアマテラスと申します」

とても透き通るような声。しかし悪霊を従わせられるその事実は、華奢な体という印象からむしろ底知れぬ実力と威圧を黙認させられた。

「私はアポロン、こちらは密偵のエンディだ」

「密偵。ではそちらがここをお突き止めになられた」

「はい」

「来た理由は分かってますわ。むしろ妾もそなたらが来るのをお待ちしてました。しかし、妾がプライトリアと協力するに当たって、1つ条件があります」

「条件とは」

「妾は、アマバラを取り返す為に悪霊とご契約を交わしたのです。ですから、アポロン様、そなたも悪霊とのご契約を」

エンディはアポロンの横顔を伺う。精霊との契約と違い、悪霊との契約は一体、何をするのか。果たして、安全なのか。

「承知した」

「まぁでも、王子なら簡単ですよね?」

「分からない」

「えっ」

「何しろやった事はないからな」

「あー、いやでも、大丈夫ですよ、王子なら」

「くれぐれもお気を付けを。悪霊に負けてしまえば魂は喰われ、お体は永遠に悪霊のものに、そして魂をお失いになったお体は、ギガスへと成り果てますわ」

「何だと!?・・・ギガスは、そういうもの、だったのか」

「すなわちギガスは、愚か者の成れの果てという訳です」

「つまり、悪霊を従えるという事はギガスの魔力を手に入れるという事か?」

「それは間違いですわ。ギガスは言わば、魂の無い抜け殻。しかしその魔力を人間がお扱いになれば、そのお力はギガスのものとは比較にならないものとなります」

「なるほど。では手筈を教えてくれ」

エンディは思わず、生唾を飲んだ。精霊との契約と同じく、精神を鎮めて心の中で対話する。そうアマテラスに教わったアポロンはそれから目を瞑った。

「アマテラス姫、お聞きしていいですか」

「えぇ」

「アマバラはギガスを兵として使っています。それは、ギガスとなっても意思は死なないという事でしょうか」

「いえ、ギガスはそもそも骸ですわ。ギガスのお体をお使いしているのは他でもない悪霊」

「では、ギガスを、悪霊をどうやって従わせているのですか」

「あら、お分かりにならない?」

「ギガスに宿る悪霊と契約すれば、つまりギガスを使役出来るという事ですか」

「如何にも。しかし、使役出来るギガスは“悪霊の宿と化した骸であるギガス”だけです」

「それは、どういう」

「ギガスには、2種類あるのですわ」

――目を開けると、そこはアルテミスの部屋だった。温かさを感じ、それからアポロンはだらりと自分にもたれ掛かるアルテミスを認識した。

「アルテミス・・・」

その直後、まるで脱力したアルテミスはそのまま後ろに倒れ込む。アポロンは、自分の手に握られている血に濡れたナイフを認識した。生暖かい血が手に滴る。それから無意識にアルテミスを見下ろす。アルテミスの胸は、真っ赤に染まっていた。――私が殺した。そうアポロンは膝を落とした。

「アリー・・・」

アポロンは怒りを感じていた。それから目を瞑り、幻覚を認識した。目を開けるとそこはアルテミスの部屋ではなかった。生暖かい感触も、血の臭いももう感じない。そこはデーモンズ・キャニオンだった。

「随分と手荒い歓迎だな」

きっとこの風景も幻覚だろう。ここは私の心の中だ。アポロンの目の前に立っているのは、捻れた角を生やした、紫色の髪の、毛皮を着た青年だった。悪霊は見下すような笑みを浮かべ、組んだ手を頭に乗せていた。

「さっすが王子だなぁー、つまんないのー」

「その姿は、お前の姿なのか?」

「ああ?クキキッそれともこっちの方が――」

ポンッと沸き立つ一瞬の黒煙。悪霊が覆われたと思った瞬間、その姿はアルテミスとなった。

「いいかな?」

その声も紛れもないアルテミス。しかし組んだ手を頭に乗せて、見下すような笑みを浮かべるその悪態は、確実にアルテミスではない。

「やめろ」

「あはは!いいねぇ、その顔」

腹立たしいのは、アルテミスの口調や仕草などは一切真似ず、アルテミスの姿で悪態をつくという事。アポロンは拳を握り、悪霊を睨み付ける。すると悪霊はその手に火柱・覇王剣を出現させた。

「さあ、お兄様よぉ。私を叩きのめしてみろ。さっきみたいにな!」

「・・・フフッ」

「わ!?笑いやがった?何で?」

「その覇王剣は、幻覚だ」

「はあ?・・・は、ばば、バッキャロー。あ?いいんだな?このままオレに喰われていいんだな?ハッとんだお惚け王子かよ!」

悪霊は覇王剣を大きく振りかぶった。爆炎の如く燃え盛る剣から際限なく吹き上がる炎は、悪霊の姿は勿論、谷底から見上げる空でさえも覆い隠していく。

「お前を喰ったら、お前の体使ってアルテミスに子供産ませてやるからなぁ!・・・おぉらっ」

アポロンは目を瞑った。激烈な熱風が体を覆い尽くす。息さえ出来ないその熱さの中で、アポロンは静かに目を開けた。覇王剣を持っている悪霊は元の姿に戻っていて、その表情には驚きと諦めを伺わせていた。悪霊に歩み寄るアポロン。直後、アポロンは悪霊の顔を殴った。

「うおぇっ!」

「次また私の妹で“遊んだ”ら、容赦しないからな」

ひっくり返った悪霊はゆっくり立ち上がると、ふて腐れた顔で小石を蹴り飛ばした。

「・・・チェッ」

「力を貸してくれ、頼む」

「ええ!?な・・・えー!?頼むだ?屈服させるって聞いたんだろ?」

「精霊使いは、精霊に力を借りて魔力を得る。決して服従関係ではない。貸し借りの間にあるものは、信頼だ」

「は?」

「悪人も善人も、等しく人間だ。精霊だって、精霊も悪霊も等しく精霊。お前だって、個性的な、1人の気高い精霊だろ」

「どぅわ!わーわー、やめろ!聞きたくねえ!あ~くそぉ~」

何故か独りでに慌て出す悪霊。すると悪霊は覇王剣をポンッと投げ捨て、膝を掻き始めた。

「・・・何してる」

「気高いとかやめろよぉ。そういう事言われると、膝の裏が痒くなんだよぉ」

「そうか・・・。私が悪霊なら、ただ屈服しに来る者を信頼などしない。お前だって、そうだろ?」

「あーもう、つまんねえー100点満点過ぎて超つまんねえ」

「人間は、手に負えない力をただ恐れる。だから、お前だって、本当は“悪”ではないはずだが」

ふと見ると、悪霊はアテナになっていた。アテナの姿を真似ながら、悪霊はアポロンを見つめる。

「・・・何だ」

しかしそうかと思えば悪霊は元に戻り、老け込んだ表情でホッとため息を洩らした。

「何も思い付かなかった」

「お前の名前は何だ」

「え?」

「強すぎる魔力のせいで悪などと呼ぶのは、おかしいだろ」

「1つ聞かせてくれ」

「何だ」

「何故、力を求める」

「それは勿論、国を、人を、愛する者を守る為だ」

「だーよねぇ。もういいよ分かった分かった。契約してやるよしょうがない」

「感謝する」

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