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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「到達点」前編

ケルタニア、軍本部。アルタライザーチーム・モニタールーム。巨大なモニターに映されたのは、軍本部の地下にある、最重要の危険物を保管する為に作られたシェルターに捕獲されている異形のドラゴン。モニターの前に立つアキレス。

「ドラゴンの呼び名はイーターとする。現状はまだ眠っているが警戒は怠ってはならない。遺伝子解析を待つと同時に、先ずはイーターを作ったテロリストを捜す」

「(モンスターを兵器としたら、テロだもんね)」

「なら先ずは防犯カメラを洗うか」

デリスが呟く。

「本当に人間ベースのウパーディセーサじゃないのかなぁ」

「戻らないところを見るとそうなんじゃない?」

「でも戦闘においての知能は人間っぽかったよね?」

ベリクロの言葉にエテュオンとヘルは相槌を打つ。

「ウパーディセーサテロリストの思想にありがちなのは、人間を捨てるというもの。もしイーターがテロリスト本人だったとしても、あえて戻らないように自分を作り替えた場合もある」

「そうだね」

「ただテロリスト本人でない場合、イーターは量産される可能性がある。だからすぐにでもテロリストを見つけなければならない」

「(難しそう。逃げたモンスターを追うならボクにはすぐ出来るけど)」

「ウパーディセーサテロリストを追う為の捜査モデルがある。本来は一般の者には口外出来ないが、本事件は危険度が高く、時間も無いので協力してもらう為に共有する事とする」

ふとヘルは思った。アキレスって、本物の軍人なんだなぁ、と。

「ウパーディセーサテロリストに対して行う捜査は基本、警察による防犯カメラでの捜索、裏社会のウパーディセーサデータ販売ルートでの捜査だ。我々軍の役割は、テロリストの制圧、それのみ」

「(待ってるだけ?)」

「今のはただの基本の説明だ。我々は警察が捜査している間、並行してパトロールを徹底する。パトロールの概要は、主に暴徒に詳しい世界の者への聞き込み、暴れ出す前に暴徒の即時制圧」

「簡単に言うとね、警察と同じように足を使うのよ。人手は多い方が良いし、それにアルタライザーがうろうろしてた方が一般人は安心するし」

「(オッケー)」

イーターが現れた街を中心に、アルタライザーたちとヘルはそれぞれ街を歩く。魔法の無い捜査として結局はこれが1番だし、これしかない。



第91話「到達点」



あいつは良い仕事をした。“ああいう”人間なんていくらでも見つかる。あいつは決してゴールではないが、失敗でもない。通過点だ。そして、これが・・・。

「・・・よし、よし、オッケー問題無い。よし!・・・よし!出来たぞ!」

1人で喜んでいる男、ザクオア。研究施設のように色々な機材が並ぶとある倉庫。そんな男を冷ややかに、でも微笑んで眺めるのは、アンブリスと名乗る男。

「じゃあ、オレはこれで」

「ん?ああ、助かったよ」

アンブリスは満足げに倉庫を出ていった。アンブリスなどもう忘れたかのように興奮の収まらないザクオアは、それから大がかりな機械の中にセットされている注射器を手に取った。それはウパーディセーサデータがぎっしりと詰まったもの。つまりウパーディセーサになる為のもの。ザクオアは1、2、3とナンバリングされた3本の注射器を握り締める。

「今度こそ、神になる。オレが、絶対神だ」

今までにないウパーディセーサ。それをザクオアはずっと目指していた。それはたまたまロードスターでギガスになった時に出会った目標だった。まるで全てが味方になったような気分だった。様々なウパーディセーサテロリストのニュースを見て研究し、裏社会で情報を集めた。そして出会ったのがアンブリス。彼は正体不明の最強ハッカー。そう裏社会で有名だった。オリジナルのウパーディセーサを作りたい“グレた”者は、みんなアンブリスを頼る。アンブリスは、全世界のウパーディセーサテロリストにとっての最高のスポンサー。

──何ヵ月か前。人気の少ない公園。深夜1時。

「あんたが、アンブリス?」

「あぁ。アンブリスは、活動名なんだ。カッコいいだろ?」

「お、おう。あの、本当に、たった10万でいいのか?」

「オレはそもそもお金持ちなんだ。ハッカーとして死ぬほど稼いでる。だからオレにとっての報酬は、依頼人が“なりたい自分になって貰う事”だ」

「変わってるな」

「ランウェイっていうウパーディセーサデザイナー、聞いたことない?」

「あぁ。ある。安くて、しかもウパーディセーサヒーロー専門って」

「あれもオレなんだ」

「え、マジかよ」

「だからとにかく色んなウパーディセーサのデータを持ってる。民間人だけじゃない。ジュピターズとかアルタライザーのデータもハックしてる。それを売るとかしないけど、とにかくオレはまぁ、データコレクターなんだよね」

「ふーん」

「だから、あんたの願望も、きっと再現出来る。データ上はね」

「肝心な遺伝子採取はどうしてる」

「うん。それはまぁ、大体のものは手に入るよ。世の中には色んなルートがあるからね。FO細胞っていう万能細胞があって、シーザリアンの遺伝子を取り込んだものや、シルヴェルのモンスターの遺伝子を取り込んだものが培養されて裏ルートで世界中を回ってる。お金はかかるけど、そこはオレの仕事ってことで」

「確かに最高のスポンサーだな」

「とりあえずはさ、コーヒーでも飲みながら、聞かせてよ。あんたの願望」

それからとある倉庫。そこはアンブリスが依頼人の為に借りている倉庫の1つ。

「・・・すごいな。今まで聞いたことないアイデアだ。ただこれは誰にでも言う事だけど、オレは完璧なデータを作るけど、クスリを打ったあとの責任は取らないからね」

「分かってる」

とは言え、良いアイデアとスポンサーが居ても実験は必要だった。だからオレは、何でも良いから強くなりたいとかいってウパーディセーサテロリストになりたい奴を利用させて貰った。そして数ヶ月して、やっと完成したんだ。

「絶対に最強のウパーディセーサ。アルタライザーだって、ヘルだって手こずってたんだ」

ナンバリングされた注射器を順番に腕に打っていくザクオア。それから眠って1時間後に起きてから、街に出た。誰もいない適当な空き地で、ザクオアは変身した。鏡は無い。見た目なんて気にしてないから。ふと思い出したのは。初めてギガスになった時の恐怖感だった。人間ではなくなった恐怖。力の使い方を間違えれば、警察に人間に戻される恐怖。人間を超えたのに、無力だった。オレはただ、人間を本当に超えたいんだ。誰にも負けない、「力」という神になりたい。それからザクオアは深呼吸した。

「(んー、この匂いは、ごま油だ。ホタテが入ったな。作ってるのは、ホタテのチャーハンかな)」

空中に敷いたクウカクの床に立ち、ヘルは“霊気検索で匂いを嗅ぐ”。今までだったらただ一生懸命鼻を利かせて匂いを嗅ぎ分けていた。それでもヘル自身の身体能力で1キロの範囲内の匂いは詳細に嗅ぎ分けられるが、魔法を使えば匂いを認識出来る距離は30キロにまで及ぶ。

「キュン(何かあっちで霊気を感じるよ)」

「パー(ほんとだ、シルヴェルとシーザーの霊気が混ざったやつだ)」

「(うん、不審者ウパーディセーサだね。でもここはチームプレーだから、先ずは報告だね)」

一方、アキレスは街を歩いていた。いつも警察と軍がマークしている半グレ組織がアジトにしている山小屋の付近。だが今回はどうやら半グレ組織は関係ないようだ。そう辺りを警戒していた時。

「(アキレス、不審者見つけたよ。知らないウパーディセーサ。ちょっとイーターっぽいけど、普通の大きさのウパーディセーサ)」

「場所は」

「(空き地かなぁ。すごい広いところ。1人で立ってる)」

「分かった。すぐ案内してくれ」

「(アキレスだけ?)」

「不審者の確認なら十分だ」

「(そっか。じゃあ光の魔法についてきて)」

アキレスの前にやってきたのはヘルが作った(スーヴェ)(スーヴェ)を追いかけてアキレスが飛んでいけばやがてヘルに合流し、それからヘル達は工場地帯の空き地の前にやって来た。向こうにこちらの動きがバレないように遠くで待機しながら、ヘルはまた“目を飛ばす”。

「動かないのは、誘ってるからか」

「(そうなのかな。ただ考え事してるようにふらふら歩いてる)」

「そいつがイーターと関係あるかは分からないが、何かに危害を加えそうなら制圧する」

「(分かった。あれは?職務質問は?)」

「ウパーディセーサでもヒーロー活動している者もいる。ウパーディセーサという存在だけでは職質はかけない。見るべきポイントは不審さだ」

「(んー、そしたらまだ微妙だね)」

「ただ不審者には変わりない。ここで1人で、変身した姿で居るとなると、例えばこれから仲間と合流して何かをするかも知れない」

「(なるほど。最近のウパーディセーサってさ、みんなシルヴェルのモンスターとシーザリアンを取り入れてるの?)」

「あぁ。シルヴェルのドラゴンと巨大な鳥、シーザリアンの遺伝子が闇ルートで出回ってるからな」

「そうなんだ」

それから大体30分くらいは経った。相変わらず不審者に目立った動きはない。他のアルタライザー達からも報告はない。アキレスが不審者を観察しているというので、やがてティヒムが合流してきた。

「人間が居ないじゃない。ていうかその犬と鳥は、戦うのかしら」

「(一応シルヴェルの力とシーザリアンだし)」

「そう。まぁ制圧の邪魔にならないならいいわよ」

それからもう30分した頃、ヘル達の存在に全然気付かないでふらふらしていたザクオアは、深呼吸した。もうそろそろいいだろう。自分の中のギガスの魔力。それに集中しながら“変身”した。ウパーディセーサの状態からまたウパーディセーサへ。それがザクオアが考えた最強への道だった。

「(あっ!イーターだ!不審者、イーターになった!)」

「何だと」

「(ウパーディセーサから、また変身するなんて)」

「イーターもそうだった。エテュオンが拘束した直後、進化した。とにかく行くぞ、制圧する!」

実験台だった奴はきっともう自我や理性は無い。普通の人間には耐えられない“遺伝子の急激変化”。オレが耐えられたのはギガスだからで、魔力があるからだと思う。

「うん、いい調子だ。ん?」

「おい、街にモンスターを解き放ったのはお前だな?」

「アルタライザー・・・まさか、さっきから待ち伏せされてたのか?さすがヘルだな。あぁ、そうだよ」

「ならお前はテロリストだ。制圧する」

「ふははは!やってみろよ!」

直後、ザクオアは飛び立った。猛烈な爆発音と共に砲身の尾状器官から炎を吹かせて。

「逃げた!追いかけるぞ!」

戦闘機のような速さで逃げていくザクオアを、アキレスも同じように爆速で追いかけていく中、ヘルは霊気検索でザクオアの位置を追いかけていく。ヘルの意識の中で、2つの存在が縦横無尽に飛んでいく。

「(フェニックスーヴェ!)」

それは昼間に見上げる太陽のように淡く白く燃える、小さな光。

「(足止め、頼んだよ)」

元気に上下にシュシュッと揺れた淡く白い(スーヴェ)。そしてブンッと光の速さで飛んでいくと、ヘルはそれを霊気検索で把握していく。アキレスが放った3色の衝撃波が空に消えていく。アキレスは、炎と冷気と電気の3元素を操り、そして“力を溜める”という戦闘スタイル。ザクオアを追いかけながら、アキレスは2本の尾状器官にエネルギーを溜めていく。そして尾状器官の手首を合わせて、強力なレーザービームを放てばその反動でアキレスは空中で止まった。代わりに3元素のエネルギーが詰まったレーザービームがザクオアを追いかけていく。

「くっ」

レーザービームはザクオアの翼に直撃した。その衝撃でザクオアはバランスを崩して思わず空中で止まった。その時だった、光の速さで、何かがザクオアの顎に激突したのは。

「ぐっ・・・」

強烈なアッパーによってザクオアは空中で1回転する。アキレスがふと空を飛ぶ淡い白い光に目を留めたところで、ティヒムが突撃した。

「やあ!」

ティヒムの尾状器官の先端は直径1センチの針。そして針の温度は約3000度。普通、尾状器官はどんなに伸ばしても2メートルがいいところ。でもティヒムの尾状器官はアルタライザーの中で1番長く伸びる。その距離は100メートル。更に尾状器官が伸びる速度は秒速340メートル。つまりマッハ1。根元からのエネルギー噴射と共に、ティヒムの尾状器官は一瞬でザクオアの脇腹に突き刺さる。ザクオアが反応したのは、3回目に刺された時だった。

「くそっ!」

更にザクオアはスピードを上げて逃げていく。

「あーもう!」

リッショウをしているアキレスとティヒムにとって、ザクオアを追いかける事は何も難しくない。すぐに追いつく。しかもザクオアは戦うことよりも逃げることに集中しているようで、その様子はアキレス達をイライラさせていく。そこでティヒムは尾状器官の先端を針から手に変えた。それから一瞬で、ティヒムはザクオアの右翼と首を掴んだ。動きが鈍ったザクオアの顎に、再び淡く白い光が激突する。

「ぐっ・・・あああ!」

ザクオアは爆発した。それは深紫の熱線光。アキレスもティヒムも顔を背けたが、ティヒムは踏ん張ってザクオアを放さない。

「・・・うっ」

しかしアキレスとティヒムはすでに吹き飛んでいた。それからだった、とある痛みに気が付いたのは。

「そんな・・・」

ティヒムは右前足を失っていて、アキレスは左腕を失っていた。ふとアキレスは目を留めた。ザクオアの腰から伸びた2本の漆黒の口が、それぞれアキレスの腕とティヒムの前足を咥えていたことに。

「リッショウしてるのに」

それでもビュンッと、淡く白い光はザクオアの顔に激突する。

「ぐはっ」

「あっ」

ティヒムはその一瞬に恐怖した。漆黒の口が、アルタライザーの体の一部をムシャムシャと飲み込んでいく。

「気色悪い」

「((ツェピー)!)」

ティヒムの背後から飛んでいく光の鎖。それは一直線にザクオアの岩のような尾状器官を捕まえる。しかしその直後だった。漆黒の口が光の鎖に噛みついて、バリンッと噛み砕いた。

「(そんな・・・)」

そしてまた、戦闘機のようにザクオアが逃げていく。

「こちらアキレス。イーターと交戦中。全アルタライザーに応援を要請する」

このままじゃ勝てない。そうザクオアは逃げていく。まだ時間が必要だ。“今は”逃げるしかない。それにしても何なんだこの白い光は。ウザすぎるんだが。ビュンッと襲ってくる淡く白い光を、ザクオアは岩のような尾状器官で叩き返した。いいぞ、感覚が高まってる。自律尾状器官も目を覚ましたようだ。ようやく戦える。けど、このままじゃヘルには勝てない。・・・ん?強い気迫が増えてきた。アルタライザーが、まさか全員オレに向かってくるのか。面白い。やってやる。

何かが飛んでくる感覚を肌で感じた。だから尾状器官でガードする。しかしその鱗みたいな何かは電気を帯びていて、尾状器官に刺さった直後に凄まじく爆発した。

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