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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「色褪せたもの」前編

「続いてのニュースです。蘇りし者の1人である、シルヴェルが作った宝石、シルヴェニウムが宝石業界の間で話題になっています。2つの内1つは加工会社にて加工中だそうなので写真などの資料は無いのですが、もう1つのシルヴェニウムはがこちら、シルヴェニウム・ダイアモンドです。映像だけでもこんなに美しい輝きを放っていますね。こちらは成分分析したところ、紛れもなくダイアモンドの元素配列で精製されている物質だそうで、しかし人間の手では作れないほど複雑で、絶妙なカットが施されているという事で、すでに専門家の間では100億は下らないだろうと言われています。そしてそのシルヴェニウムですが、鉄としても精製出来るとの事で、シルヴェルは今後、自ら精製したシルヴェニウムを資材として提供し、壊滅したテーマパークの復興に尽力する発表しています」

4回目のチャリティーイベント当日。トリンテラン鳥獣保護自然公園にて。リュナークは保護動物ふれあい広場で楽しむ子供達を眺めていた。その背後に忍び寄るのは小さな男の子。

「リュナークも、動物なの?」

「え?うん、そうだね。でもオレは保護動物じゃないよ」

お母さんがやって来て、その男の子と共に広場に入っていけば、それからリュナークはのんびりとチャリティーイベントエリアに立ち寄る。軍人としては警備しない訳にはいかないが、正直警備の必要性は低い。何故なら独立自警団アルテミスに喧嘩を売るアホなんていないから。

「おお、何かすごい人」

相変わらずヘルの魔法治療の列は長い。でもそれよりも目立つのはマスコミ。シルヴェニウムのニュースが発信されたからか、その取材をしようとするテレビ局の人達が多い印象だった。

「リュナーク、通常の営業エリアは大丈夫だった?」

「うん。ユテス、ラフーナ食べた?美味しいよ」

「え、いいのかな」

「この前だって、別にアキレスも怒ってなかったし」

「そっか。じゃあ食べてみよっと。興味あったんだよね」

リュナークはユテスと一緒にラフーナを食べながら辺りを見渡した。今日はシザクは来ていないんだ。

「なぁユテス、シルヴェルのニュースすごくない?これでまた、神が増えたって話題になってるよ」

「神?」

「だってシーザーは植物を育てるでしょ?つまり食べ物を育てられる。でも資材として作れるのは木材だけ。シルヴェルは石とか鉄を作れる。それは人間社会にとってはさ、衣食住の住やインフラ整備の資材を作れるって事だからって、結構ネットの中じゃ神扱いみたいだよ」



第88話「色褪せたもの」



「そっか、“住”ならいいけど。鉄が作れるなら武器も作れるでしょ?」

「確かに。シルヴェルの人間性なら、大丈夫なんじゃない?」

「いや、その鉄を買った人が悪い人だったら」

「あぁそっか」

一方、シルヴェルの前にやって来た男は名刺を差し出した。

「私は建設会社の専務をしております。是非シルヴェル様と資材供給の件で契約させて頂きたくて」

「既に5人ほど、お前のような者がやって来た。資材を供給する事自体はいくらでもしよう。問題は価格だ。後日、名刺を持ってきた全ての人を集め、皆が同意する価格をつけようと思うのだが、どうだ」

「分かりました。是非ご連絡を」

建設会社の男が去っていくのを眺めながら、レッサーは満足げにシルヴェルに歩み寄る。

「ここまではさすがに考えてなかったな。宝石だけじゃなく鉄も作れるってなったら、そりゃあ建設会社は無限供給の物を安く買いたいよな。これならテーマパーク復興の人員も確保出来る。順調だな」

人知れず空を飛ぶ1体のウパーディセーサ。街を飛ぶその眼差しはやがて人集りを捕捉する。するとすぐに方向転換して森の中に着陸する。ウパーディセーサのまま森の中を駆け抜けてそして森を抜ければ颯爽と人間の姿に戻る。その男は真っ直ぐシルヴェルを睨み付けながら、ゆっくりと歩み寄っていく。

「シルヴェル」

振り返るレッサーとシルヴェル、ルア。一瞬で表情を引き締めるレッサー。その男は紛れもなく、この前のチャリティーイベントでシルヴェルに突撃してきた男だった。

「お前っ」

でも人間の姿だからレッサーも驚いただけで、シルヴェルもゆっくり立ち上がっただけ。

「ニュース見たぞ。まさか本当に動くとは思わなかった」

「謝罪の意を受け取って貰えるならそれでいい」

「受け取るかよ。謝るくらいならそもそもやるなよ」

「まだ何か用なのか?」

問いかけたのはレッサー。

「金もあって、資材も出来て、まさかテーマパークの運営会社に何の連絡もなく勝手に元通りにするつもりじゃないよな?」

「あー、それな。ちゃんと連絡するって。ちゃんと全部整ってからの方がいいと思って」

「なら、オレが役員を集める」

「え、いいのか」

「その方が早いだろ」

「おう、助かる」

さっさと去っていく男。協力的ではあったが、終始その表情には怒りがこびりついていた。だからレッサーも妙に落ち着いた眼差しで男を見ていた。それから後日、ジュピター・コーポレーション、会議室。そこに集まったのは建設会社の社長達。そして約束の時間になれば、そこにシルヴェルとルアが入っていった。

「皆、集まって貰って感謝する。早速始めよう」

最終的に集まった会社は7社。垂れ幕に映像を映し出すパソコンの操作をしているのはレッサー。ルアはみんなと同じように椅子に座って見てるだけ。会合の内容は至ってシンプル。シルヴェニウム資材の価格設定。大体、鉄筋の相場は1トンで7万ほど。それをシルヴェル側は1トン1万で提示した。鉄筋の価格は流通の少ないサイズや規格ほど割高になる。しかしシルヴェルはそういう細かいことは抜きにして、シルヴェニウム資材を単に1トン1万で売ると言った。建設会社の人達は静かに歓喜していた。誰も異議を唱える者はいなかった。そして後日、シルヴェニウム資材が1トン1万というニュースが世の中に広まってすぐ、ジュピター・コーポレーションにクレームが入った。

シルヴェルの家にて。

「まぁこれは仕方ない事だ。あんまり気にしなくていい。どの業界でも、他に安く売られたら不安や怒りを感じて当然だ。あれだ、アミセルだって、レストラン業界からは相当敵視されてるらしいからな。恐らくホールズ中の鉄工所が、今シルヴェルを恨んでるだろうよ、へへっ」

「(事業参入って、難しいんだね。でも、この方が良いんだよね、力を使うってこういう事だよね)」

レッサーはルアに入れて貰ったコーヒーを一口。

「ま、これが蘇りし者との共存って事だな。んで、テーマパークの件だが、運営会社との会合が決まった。あっちもとにかく早くって事で、明後日になった」

「分かった」

世の中はバランスだ。それはいつの時代も変わらない。我は、我のやった事を罪だとは思わない。ただ、王としては“王という津波”が庶民を脅かすのだとしたら、黙って見ているのは心地が悪い。その夜、ベッドの中でシルヴェルは真っ直ぐ天井を見上げていた。我は、何も知らない。生まれ変わって、この世界の“流れ”をまだ何も知らない。これではいけないはずだ。だが、どうすれば。ベッドに入ってきたルア。

「もっと、世の事を知る為にはどうしたらいい」

「毎日テレビやネットでニュース見てるのに、もっとって事?」

「あぁ。我はまだ、世の流れについていけていない。建設会社の者達の会合を取り仕切ったのはレッサーだ。値を決めたのも。我は、ただ許しただけ。それは確かに王らしい。父もそういうものだと言っていた。だから王は側近を信頼すればいいのだと。だが我は、何か、腑に落ちない。本当にこれでいいんだろうかと」

「私もレッサーみたいに頭良くないから、気持ち分かるよ。今の時代、検索したら答えは沢山出てくるけど、シルヴェルさんの場合は、実際に見て回った方が良いと思う。大丈夫、私も一緒に行くから」

翌朝、朝食を終えれば、シルヴェルはルアとサファと共に、最寄りの鉄工所にやって来た。営業開始時間に訪ねたので、まだ静かだった。シルヴェルの姿を見た途端、事務所の人は驚いて立ち尽くした。

「突然すいません。鉄工所の事を聞きたくて。もし出来たら、責任者の方を呼んで貰えませんか」

「えっと・・・」

少しして、シルヴェル達は事務所の中の応接間に案内された。やって来たのは冷静に緊張し、混乱した様子のスーツの男性。

「シルヴェルさん、よく存じてます。あの、ここの代表取締のセキタスといいます」

恐る恐る名刺を差し出したセキタスはそして戸惑いながらもシルヴェル達の向かいに座る。

「どのようなご用件でしょうか」

「我のニュースは知っているか。シルヴェニウムを売る事にした」

「ああ、えぇ。知ってます。この界隈の人達は、絶望してます」

「その事について聞きたくて来た。それは何故だ」

「何故って、あなたが資材を完成させた状態で生み出して、それを常識はずれの破格で売り出したら、私達の仕事が無くなります。私達は、あなたが魔法で簡単にやる事を毎日毎日、何十年もやってきて、それで飯食って生きてるんです。本当は、そんな事、やめて頂きたい」

「・・・そうか。我は、世の中の事を何も知らない。テーマパークを復興する為に、建設会社に資材を売り渡せばいいと思った。それは、間違いだったのか」

ルアは男の表情をずっと見ていた。最初は何故シルヴェルが来たのかも分からずに怯えていたのに、今は怒りを“正当に”ぶつけている。

「えぇ、間違ってます。建設会社と鉄工所は、お互いに仕事相手なんです。それを壊されては困ります」

「それについては謝罪する。ではどうしたらいい」

「それは・・・資材を売るのは建設会社ではなく鉄工所にするべきです。我々が鉄を加工して、建設会社に納品する。そうして建造物が街に建ち並ぶ。それが正しい道筋です」

「なるほど。それならばそうしよう。お前にシルヴェニウムを売れば、テーマパークを復興する為の資材を作ってくれるのか?」

「えぇ勿論、それが仕事ですから」

それから家に帰ったルアは電話をかけた。相手は勿論レッサー。

「おう、どうした」

「さっき、家の近くの鉄工所に行ってきて、ちょっと話を聞いてきたの。そしたら建設会社に直接資材を売るのは間違ってるって言われて、それで私達」

「あーだよな。うん。実はオレも思ってた。あんたに言った事なのに、オレも楽をしようとしてた。やっぱりそうだよな。まぁジュピター・コーポレーションにも苦情が来ててな。何か、もやもやしてたんだ。とりあえず、すぐ建設会社に連絡するわ」

それから午後になって、シルヴェルとルア達はケルタニアのとある建設会社にやって来た。それはシルヴェルと資材の売買について会合していた会社の1社。レッサーと合流し、建設会社の応接室。そしてやって来たのは建設会社の社長の男。

「いやあ、実は、私も、本当にこれでいいのかって思ってたんです。ニュースの後、取引先の鉄工所から痛く叱られまして。裏切り者だって。まぁですので、シルヴェルさんの心変わりには何の異議もないですよ。他の6社同様、鉄工所を差し置いてシルヴェニウムを求めた勇み足には反省してますし、これは建設会社7社の総意ですので安心して下さい。価格はさておき、鉄材の無限供給の時点で、我々は満足ですから」

1トン1万、その価格設定はそのままに、シルヴェルは建設会社相手の取引を取り止め、希望する鉄工所に対してシルヴェニウムを売ると正式に発表した。それがニュースになれば、幾つかの鉄工所からのクレームは止んだ。その代わり、今度は取引の依頼が殺到した。

シルヴェルの家にて。

「ただまぁ、人力でやるんじゃ建築の為の資材の供給までには時間はかかるだろうな」

そうレッサーはコーヒーを一口。

「いや、それでいい。民に動いて貰うという事はこういう事だろう」

「だよな。まぁ明日のテーマパーク運営会社との会合までに調整出来て良かったよ。そうだ、ダイアモンドの件なんだが、こっちも加工会社の為に原石を売る事は続けた方がいいだろう。でも宝石はアートでもあるからな、シルヴェルが作るダイアモンドもあっていい」

翌日、テーマパークの運営会社ナギラウンドの本社ビル5階、会議室。向かったのはレッサーとオーエン、シルヴェルとルア。会議室の空気は静寂と緊張で張り詰めていた。ナギラウンドの人達は全員スーツで、ルアはカジュアルな普段着で来た事に後悔した。

「此度は集まって貰った事に感謝すると共に、我の王としての道の礎になって貰った事に深く敬意を表する」

「敬意だと!?」

「黙れグラット」

チャリティーイベントでシルヴェルに突撃してきた男グラットが立ち上がった瞬間、ナギラウンド社長の男パーグナーはそう一喝する。

「まったくすぐに頭に血が上る。ケンカしたいなら出ていけ」

偉そうなスーツの年配男性達。その中で1番若いグラットは周りを見渡し、険しい顔をしながらも大人しく椅子に腰を落とした。それでもルアが見ているのは、グラットを冷静に一喝した男性でさえ、決して笑顔ではないということ。

「礎か。随分と身勝手な言い分だ。だが、我が社としては一先ずテーマパークの復興が最優先。昨日までのニュースを見た限りでは、あなたには資金も資材も潤沢だと分かる。闇雲に謝罪しか出来ないような、器も力も小さな者でもない事も分かる。ただ、遅かったな、この日が来るのが」

「それについては謝罪する」

「テーマパークだけじゃないだろう、あなたが破壊したものは。仕事を失った我々よりも、家や生活を失った者達は今、災害難民という立場だ。それについてはどう再生させる」

「すぐに手を差し伸べていく」

「色褪せたものは戻ってこない。あなたに限った事じゃない。人間の生活とは、常に色褪せたものの上に積み重なっていくものだ。突然の災害やらで家を失って、仮に家を建て直したとしよう。だが今まで繰り返してきた生活そのものは元には戻らない。あなたのモンスターはある意味災害だった。あなたが建物を全て元通りにしたとして、人々は生活が破壊され絶望したという事実を忘れる事は決してない。あなたはその事を忘れてはならない」

「心に刻む・・・・・そして心から謝罪する」

ルアは理解した。それは感服した瞬間だった。王として決して“征服”されてはならないと、気丈に振る舞おうとシルヴェルはずっと気を張っていた。けど今、シルヴェルは王として反省し、民を前に心を曲げた。

「分かってくれたならそれでいい」

それからナギラウンドとシルヴェル達の会合は無事に終わった。シルヴェル側の提案は、テーマパークの復興を担当する建設会社へ資材を納品する鉄工所への鉄の供給、それを全てシルヴェニウムで賄うという事。安く仕入れられるシルヴェニウムを使う以外に結局選択肢は無いからと、ナギラウンドはシルヴェル側の提案を受け入れた。

シルヴェルの家にて。家に帰った途端、シルヴェルは静かにソファーに座り、ふうっと息を吐き下ろした。そんな大人しさをルアは初めて見た。だからルアはシルヴェルの隣に座り、唇を重ねた。そしてルアが優しく微笑めば、シルヴェルは小さく頷いて笑みを溢した。

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