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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「例のアイツと噂のカノジョ」中編

「(うわあっ・・・ルアっ来たよルーナ)」

その朝、ホテルを出たルア達の下に1台の遊撃車がやってきた。主にTSAが使うその遊撃車を前に、ノイルは昨日の事を思い出す。

辞令が届いた後、1本の電話がかかってきた。相手は復帰したTVMの部隊長、ベクトラ。つまりはかつての上司。そしてまた今、部隊に戻ってきた。その電話に、何となく気恥ずかしさが漂った。

「はい、キャプテン」

「まあ、一言じゃ話せないだろうしな。何にせよ、俺ぁ戻ってきて良かったと思ってるぜ」

「・・・俺の復讐は済んだっちゃ済んだんで、これからまた、国の為に頑張りますよ」

「おう。お前はこれからTVM及び、ザ・デッドアイ拠点制圧特攻部隊隊長ってとこだ。んで通達だ。明日朝1番で、魔獣の少女がお前んとこに行く。その子らもお前の管轄だ」

「はい」

「他の奴らも、お前の復帰を聞いて喜んでる。さっさと終わらせて顔見せろよ?」

「へへ、分かってますよ」

遊撃車からは先ずTSAの隊員が出てきて、それから2人の少女が降りてきた。1人はセリーアン、そしてもう1人はルーナ。するとルアとヘルは何やら嬉しそうにルーナに駆け寄った。

「(ルーナ、人間に戻れるんだね!)」

「うん。だいぶコントロール出来るようになったよ」

人間に戻れる。そんな言葉に、ノイルは一瞬首を傾げた。しかしマフィアの奴らも最初は皆人間の姿だった事を思い出し、“変身した姿のルーナ”を知らないノイルは勝手に腑に落ちていた。

「特攻部隊、大層な名前だな」

カーキと共に、ソクラがそう言ってノイルに歩み寄る。その瞬間、ノイルはすでに悟っていた。2人は、万が一の時の“盾”なのだと。

「俺らにはアテナが居るんだ。2人だって、いざとなったら自分の命を守って貰っていいさ」

「悪いが、いくら隊長でも、その命令には従えないな」

そんな言葉を返し、強気な微笑みを浮かべるソクラに、ノイルは何も言わずに小さくため息を返した。いや、何も言えなかった。何故なら、自分も警察官だから。

「俺達が守るのは、いつだって“誰かの命”だ。それに、この任務を完璧に遂行する事が、ランドビーとユナへの弔いになるからな」

警察官としての誇り、仲間への思い、それが無ければ警察官など辞めている。そうノイルは2人に黙って頷いてみせた。しかし悩みの種は――。

「ノイル!どういう事!?

 (ノイル!どういう事!?)」

――そう、ルア達だ。大事な妹が、まさかザ・デッドアイ対策の正式な“戦闘員”だなんて。ノイルはルアとヘルの顔に、内心項垂れた。

「国が決めた事だ、仕方ないだろ?けど、このTSAの2人も、俺だって、警察官として自分の命よりもセリーアンとルーナを優先する。だから分かってくれ」

今までにないほど真面目な顔。そんなノイルにルアは言葉を失っていた。自分の命よりも優先する、その言葉に反論出来なかった。ただルーナを心配した自分が少し恥ずかしくさえ思った。しかしそんな時、真っ先に口を開いたのはセリーアンだった。

「大丈夫だよ私達強いもん。守って貰わなくてもいいよ」

すると“機動隊員のフル装備姿”のカーキが、“シンプルなワンピースコーデ姿”のセリーアンと対峙する。強気な微笑みの少女に、機動隊員の男は優しく微笑んでいた。

「お嬢ちゃん、剣の振り方を知ってるか?」

「え?」

「ピストルの撃ち方を知ってるか?」

「知らないけど」

「盾の使い方も、急所の殴り方も知らない。そんな奴がたった1人で、ポンとピストルだけ渡されて戦場に放り出されても戦えないだろ?戦いってのはね、力だけあっても意味はないんだ。例えすげえ筋肉ムキムキでも、殴り方を知らなきゃボクシングなんて出来ない、分かるだろ?」

「・・・う、うん」

「いくら魔獣の力を持っても、お嬢ちゃんみたいなただの女の子がマフィアになんか勝てない」

ふとセリーアンは思い出していた。そうだ、メイジーナが助けてくれなかったら、マフィアに連れていかれていたと。

「じゃあ、戦い方、教えてよ」

カーキは優しく、セリーアンの頭に手を乗せた。その少女は眼差しは真っ直ぐだ。しかし“少女が戦い方を請う”事自体、随分と困った状況だ。警察官になってから、こんな状況は初めてだ。

「私、戦いたいからここに来たの。女の子だからって、甘く見ないで」

すると真っ直ぐな眼差しは鋭さを増し、セリーアンはカーキを睨んだ。そんなセリーアンの一瞬の気迫に、カーキは言葉を失った。

ルアは電話をかけていた。相手はユピテルだ。ノイルの話は分かった。国が決めた事なら仕方ない。けど、やっぱりこのまますんなりとは納得出来ない。お父さんなら何とかしてくれるかも知れないと。それから少しだけ長い呼び出し音の後、ユピテルはようやく電話に出た。

「もしもしお父さん」

「ごめんなちょっと立て込んでてな。けどもう大丈夫だ。どうした?」

「ルーナがね、正式にザ・デッドアイと戦う一員になっちゃったの。戦う事はしょうがないけど、お父さんならルーナを守ってくれるかと思って」

「そうなのか、それは大変だね。それなら・・・そうだな、助っ人を寄越してあげよう。その人は武道の達人だから、きっと役に立つだろう」

「うん・・・ありがとうお父さん」

「あぁ。心配要らないよ、その人はいざという時の盾とかそんなんじゃない。本当に強い人だ、それに戦いなら人手は多い方が良いだろ?」

「うん、そうだね分かった!ありがとう!」

「あぁ」

助っ人、もしかしたら、また探偵とかそんな感じなのかな。けど相手はただのマフィアじゃない。少し不安が残るが、それでもユピテルの声が聞けただけでも、ルアの表情には安心感の方が強く残っていた。

「お姉ちゃん何だって?」

「お父さんがね、ルーナの為に助っ人を寄越してくれるの」

「へー、どんな人?」

「あ、聞かなかった」

「えぇ!まいっか。それにしてもお姉ちゃんのパパって、本当にただの学者なの?」

「それは・・・どうだろ」

それ言われればと、ルアはプリマベーラを過らせる。私を守る為に買って贈ってくれたにしたって、確かにちょっと・・・やり過ぎかも。

「よし皆、集まってくれ」

魔法使い組、アテナ、アルテミス、ティネーラ。ルア組、ルア、ヘル、ストライク、ノイル。そして魔獣組、ルーナ、セリーアン、ソクラ、カーキ。その面々に、ノイルはこれまでにないほどの安心感を抱いていた。同時にタブレット端末で、次に制圧する拠点を確認していく。

「これから行くのはロドニオスという街だ。情報では、そこにあるザ・デッドアイの拠点は大きな研究施設を所有している。それを叩けばザ・デッドアイへのダメージは大きい。幸い人手が多いから、今回は2チームに分かれる。拠点を叩くチームAはルア、ヘル、ストライク、アルテミス、ルーナ、ソクラ。隣接する研究施設を叩くチームBはアテナ、ティネーラ、セリーアン、カーキ、俺だ。チームAのリーダーはソクラ。これより各チームはチームリーダーに従ってくれ。とりあえずは以上だな」

それからノイルとソクラのリーダー会議も進められながら、一同が向かった先は機械部品製造の下請け会社だった。一見、何の変哲もない工場持ちの会社。黒い噂もなく、特にゴースト化している訳でもない、“完璧な隠れ蓑”。しかしホールの座標がその会社、及び工場に1つずつ記されている事は、これ以上ない証拠だ。

ラルガは微笑んでいた。でかい犬に少し個性的なバイク、クソ警察の遊撃車。それが今、“ここ”に向かって来ている。随分と目立つ奴らだ。ドローンのカメラ映像を介して魔法使い共の姿を確認してから、ラルガはその部屋を出た。それから、機械部品の製造工場として建っているザ・デッドアイの重要研究施設の屋上に出て、空を見上げた。ここはシャレにならないほどに、ザ・デッドアイの重要施設。いよいよ、マジで生きるか死ぬかだ。――あれ・・・いやそれなら、もっとこっちの戦力増やした方が良いんじゃねえかな。

「もしもしナザレイ?」

「あどしたラルガ。てか今見てんのか?ちゃんと、魔法使い」

「俺もう屋上だぜ?」

「あ早えな。あじゃあオレもスタンバるか」

「なあ、もっと魔虫のスタンバイ増やさないか?どうせなら」

「魔虫は、あまあ新型出すしなあ。あそれより、一応取って置きのモン寄越させる手筈だから、大丈夫だと思うけど」

「取って置きって・・・」

受注から収支、あらゆるものが巧妙な偽造であるそんな会社の敷地に、いよいよ特効部隊が足を踏み入れる。警備員も居ない、閑散としたロータリー。しかしやはり“目”は開いているようで、“招かれざる客”が来た途端、ドスン、ドスンと地響きが鳴り出した。それから羽音がブンッと立ち、1体の魔獣が特効部隊に突っ込んだ。

しかし特効部隊全体が被害を受けた訳ではなく。誰もが、ピンポイントで狙われてバイクから“拐われた”アテナを見ていた。それでも直後にアテナはラルガを投げ飛ばし、同時にチームAは拠点へと急いだ。

「いきなりあたしを拐うなんて、そんなにあたしが好きなのかな?」

「お前、名は何だ」

「え?・・・アテナ」

「ハッ神話みてえな胡散臭え名前だな」

「な!?そんな事言われたの初めてなんだけど。あたしを怒らせると、あんた一瞬で消えるよ?」

「ククッ・・・魔法を封じられた魔法使いが、調子に乗るな」

「言っとくけど、あたしは1人じゃないよ?」

「あ?言っとくが――」

〈ヴオオン!〉

くっ!・・・今のはこいつじゃない。そうアテナは後ろを振り返る。1番繁殖力が高く、1番よく見る飛行型魔虫「フライア」をベースにした特異型、そして“見たことのない”ジオスピオン。

「――俺も1人じゃねえなあ、ハッ!」

「アテナ姫、姫はそいつだけに集中して下さい」

ティネーラはノイルと目を合わせ、それからノイルはカーキとセリーアンを見た。セリーアンは小さく頷き、そして羽を生やした。

ラルガと同じく第二期実験体のナザレイ。彼は待ち兼ねたようにルア達を出迎えた。新型と呼ばれる魔虫たちを従えて。

「はいストーップ。こっから先は、あんたらに命は無い」

前の拠点に居た、TSAの2人を軽く捻り殺した魔獣と同じ姿のナザレイに、ルア達は緊張していた。それに加えてあの動物っぽい魔虫、それから赤錆色に黄色を加え、反り返った尾の先がまるで1本の刀のように変化したジオスピオン。そこで、ルーナは変身する。するとルーナを見たナザレイの表情が一変した。それはまるで真剣に驚愕するものだった。

「何だ、その姿」

「何って、マフィアがやったくせに!」

ルーナが声を上げるも、ナザレイは“すべての雑音”に対して聞く耳を閉じたように考え込む。

「回収した第一期の誰も、そんなのにはなってないってのに。まあいいか」

しかしそうかと思えばナザレイは手を上げ、“合図”を見せた。直後に魔虫たちが動き出す。ジオスピオンが軽快に跳び上がり、その太い手足をルア達に降り下ろした。ルアを乗せたヘルは素早くそこを離れたが、ヘルはその場に留まり、ジオスピオンを迎え撃とうとしているルーナを見た。

「(ルーナ!)」

するとその瞬間、そこにアルテミスが飛び込み、太い手足は地面を鳴らした。

「(だめだよ無理しちゃ)」

「いけると思ったんだもん」

「(あ、マフィア逃げた)」

〈ヴオオオオン!!〉

ルア達がその場で身を縮ませる状況に、ストライクはソクラの手榴弾を半ばぶんどるように手に取った。そしてバイクに乗り、セパレート・ハンドルを回した。それから息つく暇もなくジオスピオンの足に向けて、バイクはヘッドライトの真ん中からレーザーポインターを当てた。ドンッという砲撃音に、ジオスピオンは体勢を崩す。“そこ”に、ストライクはバイクを走らせた。エンジン音を轟かせ、バイクはジオスピオンに乗り上げ、そして勢いよく飛び上がった。そう、新型魔虫に向けて。

宙を飛ぶ数秒間。放物線に乗る最中、ストライクはピンを抜き、新型魔虫の羽の付け根に向けて手榴弾を投げ落とした。そしてタイヤが地面を擦ったその瞬間、新型魔虫の羽は爆発に呑まれた。ブレーキを踏み、ストライクは後輪をスライドさせる。羽音は止んだ、新型魔虫は俺を見ている。しかし同時に、バイクのヘッドライトも魔虫を捉えていた。再びドンッという砲撃音。一瞬の閃光に、新型魔虫は倒れ込んだ。

「ルアちゃん!」

ヘルが飛び上がる。ルアはすでにプリマベーラを構えていたが、そこにジオスピオンの尾刀が襲い掛かる。

光壁(スティスーヴェ)!」

「アルテミスさん!」

「トドメを!」

アルテミスが跳び上がり、光壁で尾刀を止めた事に何かを言ってる暇はない。皆、それを分かっていた。放物線に乗る最中、ルアはトリガーを引き、その横開きの口の中に爆薬付きの矢を撃ち込んだ。

ヘルが地面に降り立つ頃、アルテミスはジオスピオンの尾を掴み、力比べしていた。光輝(ブレス)をもってしても、持ち上げられない、そうアルテミスは顔をしかめる。しかもそれどころか――。思い切り振られた尾にアルテミスの体は浮き上がり、そして遂にはそのまま尾ごと壁に激突させられてしまった。気が付けば手は離れ、アルテミスはコンクリート片と共に転がった。

「アルテミスさん!」

ドンッという砲撃音。ストライクのバイクからの閃光に、ジオスピオンは“体勢を崩す”。ゼロダメージではなさそうだが、外皮には傷さえ付かない。そうストライクは顔をしかめる。そんな時、ジオスピオンは突っ立っていたルーナにふと目を留めた。そして直後、尾刀がルーナに向けて振り下ろされた。傍に居たソクラが尾刀を見上げる。その眼差しに、覚悟を宿して。身を挺してルーナを庇う、その前に、ソクラは押し倒された。そこにザクッと尾刀が突き刺さる。目と鼻の先に突き刺さった尾刀に生唾を飲むソクラ。気が付けば、ルーナはジオスピオンの腹下に潜り込んでいた。――おい!。しかしソクラが声を上げる間もなく――。

「やーっ」

巨体はひっくり返された。バタバタと手足を遊ばせるジオスピオン。皆、呆然としていた。そう、ちょうど戻ってきたナザレイも。

常に、微かな重低音。全く動けなくなるほどではないが、魔法の集中を()ぐには十分なものだ。そんな状況になのか、ラルガは事あるごとに挑発的に微笑んでくる。――先程までは。魔法が使えなくとも、やはりアテナは最強の騎士。ケンカが強いだけのマフィアに、最強の騎士が劣るものはない。

「ふう・・・クソ・・・クソッ」

「ウフフッ・・・もうバテたのかな?」

「だったら・・・〈ヴオオオオン!!〉

そしてラルガは掌をアテナに向け、躊躇なく衝撃波を撃ち放った。動けないアテナに衝撃波は直撃し、ようやくラルガの口角はニヤつきを取り戻す。しかし直後、“固定砲台”のラルガに“迸る衝撃波”が直撃した。成す術なく、焦げて痺れて動けないラルガにアテナは歩み寄る。

雷火(グロージャ)反響(リベルチア)は、攻撃を跳ね返す魔法なの。つまり、あんたは“最初から”負けてたのね」

「お嬢ちゃん!」

カーキがセリーアンを抱き上げる。昨日、ルーナが陥った症状と同じ、突然の昏倒。

「カーキ、どっか隠れてろ」

ノイルに頷き、眠ったセリーアンを抱え、カーキは新型魔虫とジオスピオンから離れていく。そして、ノイル、ティネーラ、アテナの3人が2体の魔虫と対峙するその状況を、彼とカノジョは見下ろしていた。

「お兄ちゃん、ちゃちゃっと助けちゃお?」

「あぁ・・・行くぞ」

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