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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「それでも循環する世界」前編

「・・・大丈夫そう、ですね」

復元されたビルのエントランスを見渡すトレイン。そこは首都ビンナーにおいて最も重要な施設。国会が開かれる議事堂。本来なら100年の歴史がある議事堂のそのエントランスには年季の入った様子はなく、まるで新築のよう。しかしそれとは対照的に、辛うじて残っているカーペットや石像などの“外装には直接繋がらない装飾品”はボロボロのままで、それは現実味のある喪失感を漂わせた。

「ワンワン、ワオーン」

ボンはお礼を言った。100体のシーザリアンたちも返事をすれば、そのまま“元通りになった花まみれの街”を自分達のテリトリーかのように解散していった。

「頑張ったわね」

ファティマがボンたち3匹を撫でれば、3匹は尻尾を振りながら鳴いて空腹を訴える。ウパーディセーサとは言え人力なら数ヶ月はかかったであろう復興を、シーザリアンたちはたった5時間ほどで終わらせた。シーザリアンの功績、シーザリアンの有益さが語られれば、延いてはそれがシーザリアンフルーツの消費量に繋がる。そんなニュースが世の中に広がっていく。

ビンナーが復興されていく一方で、ヘルはガンニアーを連れて禁界の合同キャンプ場にやって来た。平和そうに挨拶してくるエルフ達に挨拶するヘルを、ガンニアーは隣で観察していた。

「その人は?」

「(ガンニアーっていう人だよ)」

エルフ達は何となく察知していた。その男の、刺々しい雰囲気を。だからヘルの友達じゃなさそうだと。

「(あ、テリッテー!)」

遠くから手を振りながら笑顔で駆け寄って来たテリッテ。ガンニアーはそんな知らない人を一瞬だけ見て、禁界の壁山を遠く見上げていた。

「その人は?」

「(ガンニアーっていうの──)」

とある街が壊滅した事から、ガンニアーがそれをやった生物を作った張本人だという事、そして何故ガンニアーを連れてきたか、それを説明すればテリッテは冷静にアーサーを呼びに行った。そしてアーサーがやってくれば、ガンニアーは異世界に来て初めて気を引き締めた。

「(ガンニアー、この仲間はアーサーっていって、今からアーサーと力試しして欲しいんだ)」

「・・・オレが勝ったら?」

「は?お前が“オレら”に勝てる訳ないだろ」

「(とにかくガンニアー、どっち道戦いたいんでしょ?強い人と。絶対退屈しないからさ)」

小さく眉間を寄せたガンニアー。マフィアとは違うが刺々しい態度の知らない奴だからとアーサーは強気に接するが、でもガンニアーは反発する事なく、ヘルの言葉に納得した。



第85話「それでも循環する世界」



「本気でいくからな?」

ガンニアーが真顔でそう言えば、アーサーはそれを鼻で笑った。それからテリッテとアイコンタクトをすれば合体し、テリッテは冷静に深呼吸した。

「・・・それ、2体1なんじゃないのか?」

「(合体したんだから、違うだろ)」

ガンニアーは変身した。銀灰色のウパーディセーサという姿にアーサーは“カシャカシャと震えて”、それからガンニアーが青白い炎を全身に纏えば、テリッテは表情を引き締めた。

「ふう・・・」

テリッテの瞳が蒼白く輝いた瞬間、それは炎じゃないとガンニアーは直感した。同じように全身に纏う同じ青白さに、同じ炎、そう思ったのはほんの一瞬だけ。テリッテが纏ったのは、蒼白く輝く“炎のオーラ”。その異変はヘルも感じていた。

「(前より、魔法っぽくなってない?)」

「やっと見つけたの、2人で」

「(見つけた?)」

自分の手を見下ろすテリッテ。それは炎だけど炎じゃない。それは炎であり、鎧であり、魔力そのもの。例えば水には水圧があり、空気には気圧があるように、それは魔力の圧というべきもの。下がっていくヘル。これは手合わせ。そうテリッテが睨めば、そしてガンニアーは飛び出した。背中を光らせて、魔力でもって超速移動したパンチ。だけどテリッテは1ミリも退かずそれを掴んだ。その瞬間に尾状器官(アーサー)がガンニアーを殴り、ガンニアーは100メートル先の見えない壁に激突した。

「(クウカクでドーム作っといて良かったぁ)」

「はああああ!」

背中のトゲからバーナーのような青白い炎を吹かすガンニアー。

「(もう本気?)」

体内から炎が溢れんばかりに全身が青白く光るガンニアー。するとその手には炎球が作られた。

「(ボクと戦った時は、まだ100パーセント力を出しきってなかったんだ)」

炎球まで超速球。見た目はバスケットボールくらいの炎球だが、その爆発はヘルが作った直径200メートルのクウカクのドームに充満した。

「(うー、見えない。どうなった?)」

クウカクのドームに網目を作って空気を逃がし、爆風の煙が薄れて視界が晴れていく。蒼白い輝きが見えてきた途端、衝撃音が鳴って、ヘルが気が付いた時にはガンニアーはまたクウカクドームに激突していた。

「(そんなもんかよ)」

「くそ・・・・・くそ!」

地面を思い切り殴るガンニアー。誰が見ても力の差は歴然。戦いを止めたのは賢い証拠。そうヘルはゆっくり立ち上がり、人間に戻ったガンニアーを見つめる。

「(言ってなかったけど、ボクはアルテミスの中じゃ最強じゃないからね)」

「そうみたいだな。これが、異世界、か」

「(ヘル、そもそも何でこんな奴連れて来たんだ)」

「(こっちの世界を破滅させるって言ってるからさ。上には上がいるって事を分かって欲しくて)」

「(ハッハッハ!弱いクセに何イキがってんだ)」

「チッ」

「ねえ、教えて?どうして世界を破滅させるなんて言うの?」

「あ?ムカつくからだ。どいつもこいつも、力が強けりゃ人をバカにして、支配した気になってる。世界の成り立ちがムカつくんだよ。だからオレが最強になって、世界をぶっ壊して、力でバカ共を黙らせるんだ」

「守りたいんだね、世界を」

ガンニアーは固まった。さっきまで闘志に満ちていた女が、とても穏やかで優しく微笑んでいたから。

「もし良かったら、私達アルテミスの仲間にならない?」

「・・・オレは、別に仲間なんか要らない」

「あなたは本当は優しい。私には分かったよ。それに仲間になれば、魔法を教えてあげるよ?今よりもすごく強くなれるよ?」

ふとテリッテは思い出した。それは初めてアーサーと会った時の事。この人はただ、優しさの使い方を知らないだけなんだと。

「(お前はほんとお人好しだな)」

「どうかな?」

ガンニアーは目を逸らした。その先はキャンプ場。何か楽しそうにやっている人達。ふとヘルを見れば殺気などなく穏やかだった。

「しばらく考える」

「うん」

「あいつは今どうしてる。友達になったんだろ?ドラゴン」

ビンナーの街が復興していく中の“第2フェーズ”の時に、ガンニアーはやって来た。シーザリアンたちが決めたエリアで、地面の舗装から全ての建物の復元まで完了するのは約1時間。シーザリアンたちが今正に頑張ってる最中に、ガンニアーはドラゴンに会いに来たのだった。勿論、先導したのはヘル。ヘルの大きな存在感と匂いにギンは振り返った。

「ガウガウ」

震え出したギンに、ファティマは優しく手を当てる。

「ヘル、どうしたの?」

「(ドラゴンに会いに来たんだ)」

ヘルは感じ取っていた。ギンの、ヘルに対しての友情と、ガンニアーに対しての恐怖を。

「ギン、大丈夫よ」

「(ギンっていうんだ)」

「お前、何でドラゴンを手懐けられてる」

「何でかしらね。この子が、私と居ると安心するっていうから。それより、あなたなのね、この子をこんな姿にしたの」

「何で分かる」

「今この子が伝えてきたからよ。ずっと怖かったって言ってるわ」

「そいつは元々野犬だった。それで人間に捕まって保健所に入れられてるところを、オレが盗んだ。その姿になってなかったら殺処分されてた。怖かったっていうはオレに対してじゃない。世界に対して、人間に対してだ。だからチャンスをやったんだ」

「そうだったのね。誰に対してじゃなく、怖かったから暴れちゃったのね」

「ガウ・・・」

「でも、お前がそばに居るならもういいだろう。お前は運が良い」

ビンナーの街が完全に復興してその夜、ガンニアーはふらっとバーに立ち寄った。“やり方”に正解なんかあるか。そんなものがあったら、世界はこんなにめちゃくちゃにはなってないはずだ。生態系確立法。そんなものがどこかの国で出来てから、この世界はおかしくなった。全ての動物が実験台になったようなもんだ。ヒトの遺伝子は除外されてたにも拘わらず、ウパーディセーサなんてバケモノが出来て、人間さえも実験台になった。けどどんな世界になっても、変わらないものがある。支配するものとされるもの。その構図だけはいつだってシンプルだ。だからオレだって、支配する側になるしかなかった。

深夜になってから、ガンニアーはウパーディセーサ製造拠点に向かった。そこはヘルに半分破壊された物流倉庫とは違う、データを保管する用の小さなシェルター倉庫。物流倉庫から離れた場所にあるそこは、軍にもマークされていない。保管されているのは勿論自分のウパーディセーサDNAのデータ。データさえあれば、どこでも製造出来る。これはオレの財産。実は、ウパーディセーサの改造はそれほど難しくない。

例えば、皮膚に鉄の元素を取り込みたいとしたら、遺伝子配列のどこに鉄の元素を入れれば、元の生態を壊さずに皮膚を鉄化させられるか、その計算が瞬時に出来るソフトがある。因みにそのソフトは3Dで立体的に変身した姿の完成予想図も描き出してくれる。

性質、形や色を思い通りに実現した遺伝子配列を弾き出せば、要はそれが“製造データ”であり、その人のアイデアという名の財産となる。オリジナルのウパーディセーサのDNAデータと、その遺伝子配列計算ソフトウェアを世の中にばらまいているのは他でもない、ウパーディセーサを最初に作った、ザ・マッドアイというマフィア。そのマフィアは今はもう壊滅しているが、1度ばらまかれたものは収拾なんてつく訳がない。

小さなシェルター倉庫で、いつも通りガンニアーは朝を迎えた。ミサイルで攻撃されても壊れないシェルター倉庫。寝床にもなっているそこから、ガンニアーは街に向かった。

「あ、いたいた!」

どこかレストランに入ろうとしていたガンニアーは振り返った。そこにいたのはヘルとその背中に乗ったテリッテだった。

「まだ朝だぞ」

明日答えを聞きにいく。そう言われてはいた。でもまだ朝7時半過ぎ。ガンニアーの言葉に、ヘルを降りたテリッテは微笑む。

「もう朝ご飯食べた?」

「いや」

「じゃあ一緒に食べよう?」

禁界の合同キャンプ場にて、ガンニアーは切り株の上に座った。朝ご飯は色んな種類のパンの食べ放題と、野菜とチキンのスープ。

「(チキンうまーい)」

「ヘル、チキン好きだもんね」

「(1番好きぃー)」

パンをかじるガンニアー。ふと気になったのはテリッテとヘル以外の、朝っぱらからキャンプ客かのようにほのぼの過ごしている耳の少し長い人達。

「人間じゃないのか?」

「そうだよ。僕らはエルフだよ」

「そうか」

まぁ異世界だからな。そうガンニアーはスープを一口。そこでふととあるキーワードを思い出す。

「お前って、翼人なのか?」

「そうだよ?」

笑顔で応えるテリッテ。でも別にガンニアーはそのキーワードにときめいたりはしない。

「お前も、アルテミスとしてこいつと一緒にずっと戦ってきたのか?」

「うん」

「何で」

「んー。私は元々兵士だし、最初はヘル達が困ってるから手伝うって感じだったかな」

「兵士って、軍人?」

「人間の世界で言えばそうだね。でも私達の生きてる森は特殊なところみたいで、戦争としてじゃなくて、国の周りに居るエニグマっていう大きな生き物から自分達を守る為に必要な仕事だから」

「(生きる為に戦わなきゃいけないのは、誰だってそうなんじゃない?)」

そうヘルがスープを飲めば、ガンニアーはパンをかじった。

「戦って勝つという事は、支配する側に回るって事だろ。それはどの世界だって変わらない。オレだって、ウパーディセーサになったのもドラゴンを作ったのも、支配される側になりたくないからだ。正義も悪もない」

「うん。分かるよ。生きるって、そういう事だよね」

「あのドラゴンは運が良い。オレが盗まなかった犬は殺処分だ。犬のままじゃ、生きたくても生きられない。あの世界はそういう世界だろ」

「(そうだよね)」

「オレは力を手に入れたんだ。だから戦って生きる。オレは戦いたいんだ。とにかく力を試したい」

「でも1人じゃ、寂しいよね?」

「別に、ずっと1人だった」

「ガンニアーはね、最初に会った頃のアーサーに似てるの」

「アーサー。あいつか」

「アーサーも寂しそうで1人で戦ってたから、放っておけなくて」

「放っておけないって、それだけか?」

何故かテリッテは照れ笑いを見せたので、逆にガンニアーは渋い顔をする。そんな時だった、そこにアーサーがやって来たのは。

「ん?何だもう仲間になったのかよ」

「そうと決めた訳じゃない。でも──」

スープを見下ろしながらガンニアーは走馬灯のように思い出した。この世界が循環する上で、シンプルな事がもう1つある。それは、結局は“群れ”は強いという事。

「お節介も悪くない」

そんなガンニアーをアーサーは鼻で笑った。だからガンニアーはスープを一口。それからガンニアーは早速群れを面倒だと思った。テリッテが呼んだ仲間達。ぞろぞろとやって来た翼人達とデュープリケーターたち。こんなにいるのかと驚きもした。ルアとシルヴェルには後で会いに行くとして、それからガンニアーは変身して草原に立った。

「背中に輪っかをイメージして、魔力を循環させるんだよ」

大勢に見られながらだと少々集中しづらいが、ガンニアーはリッショウを覚えた。自分の中に巡るエネルギー。それをただがむしゃらに使うだけじゃダメなんだと。それは頭を殴られるくらい衝撃的な快感だった。たったそれだけで生まれ変わったような気さえした。走り出した快感を止めたくない。そんな衝動が感覚を突き動かし、ガンニアーはとにかく背中の輪っかに向かってエネルギーを爆発させた。

「あ、ちょっと待って」

テリッテの声はガンニアーには届かなかった。何故ならすでにガンニアーは青白い炎に覆い尽くされ、背中から空高くまで炎を噴き上げていたから。

「うおおおお!」

「そうじゃないだろ。リッショウは魔力の源を操るんだ。それじゃ自分の力をリッショウにぶつけてるだけだ」

それからガンニアーの全身に纏う青白い炎の全てがスッと消えた瞬間、“見えない爆発”が起こってその背中に青白い炎の輪っかが浮かび上がった。

「何だ」

「はあ、はあ、ふう」

全身を纏う炎は消えた。でもガンニアーは自分の手を見下ろした。目には見えない魔力というものがとてつもなく循環しているのが分かる。

「これが、リッショウか、すげえな」

「いや、それは・・・」

「この気迫の強さ。まさかこいつ、初めてやってたった一瞬で、3段階目になったのか」

皆が騒然としてる様子にやっと気が付いたガンニアーに、すぐさま歩み寄るアーサー。

「いや、この気迫は3段階目のリッショウ以上だ。面白れぇ。試してやる」

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