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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「美しき炎」後編

それは本能に直接働きかける“温もり”。その炎に当てられた者は、きっと“敵意を焼かれてしまう”のかも知れない。

「気が付いたら、変わっていた、か」

「え?」

ハクジュソウに振り返るファティマ。

「元々、そいつはただの大型犬だった。でも、恐らく連れ去られて、眠っている間にその姿に変えられたんだろう。それで怒りと恐怖のまま、ここで暴れた」

「そうなのね。怖かったのね。でももう大丈夫よ」

「本当に大丈夫なのか?」

ライフルは持っているが構えてはいない軍人の男性がファティマに歩み寄ってきた。“ほぼ”心が落ち着いた軍人男性が近付いても、ドラゴンはリラックスして、甘えるようにファティマの胸元に顔を埋める。

「この子は、ただの被害者なんじゃないかしら」

「被害者、か・・・まぁ、それは、そうなんだろう。結局は違法研究施設で作られた生物だ」

「ころさないで!」

振り返る軍人男性。声を上げたのはヒュンにしがみつく女の子だった。

「このこだって、うまれてきたらダメなんかじゃない」

軍人男性は冷静にドラゴンを見つめた。ライフルのグリップを握り締めながら。

「・・・ふう。分かったよ。ただ、これほどの危険生物を放って置くわけにはいかない」

「だったら、私がそばにいるわ」

「え?」

ふと軍人男性は、その檸檬色の瞳のファティマと目を合わせた。その瞬間に感じたのは、言い表せないほどの安心感だった。

「あなたは、一体」

「私はファティマ・フォーマルハウト。蘇りし者よ」

「そうなのか。その、じゃあ、このドラゴンを手懐けたのはその蘇りし者の力なのか」

「そうなのかしら。それは分からないけど」

「何にしても、蘇りし者なら、このドラゴンを預けても安心だろう」

白い霧のような光が集まって、大爆発した。その中心にいたのはウパーディセーサの男。その爆発で更に色んな機械が吹き飛んで、床に穴が空いた。だから爆風が消えても男の姿が見えず、ヘルと光剣獣は動かずに警戒した。その直後だった、床の穴から青白い炎の柱が上がったのは。

「テメエらあ!調子こいてんじゃねえぞおっ!」

穴からゆっくりと浮いてきて姿を現した男は、背中の6つのトゲから溢れていた青白い炎を収束させた。細く長く密集した危険極まりない“炎のトゲ”になったそれは、まるで巨大なバーナーが6本吹き出ているかのよう。そして両手からも腕のように太い青白い炎を吹き出す。それはまるでバーナーのような巨大な剣。ヘルは鞍のポーチから聖なる炎の濃縮魂子ボールを取り出し、名札に着けている濃縮魂子安定装置に嵌め込んだ。

「うおおおっ」

「(フェニックスブレス!)」

町外れとは言え、その戦闘の爆音は周囲に感知されていた。だからその時、工業地帯にはもう軍用車両が停まっていた。そして軍人達は皆、反射的に顔を背けて、身を屈めた。その時、大きな物流倉庫の半分が吹き飛んだ。何かの薬品が混ざり、とてつもない災害的爆発を引き起こした。誰もがそう思うくらいの、大爆発。

「(や、や・・・やりすぎた。すいません)」

「ヘル・・・」

「(弁償かな)」

ボロボロと崩壊する物流倉庫。快晴の空が視界いっぱいに広がり、風が吹きこむ。

「(どこ行った?)」

目を凝らし、匂いを追うヘル。青カビの鱗たちが瓦礫を持ち上げると、ウパーディセーサの男は倒れていた。

「く・・・そ、熱で・・・負け、た」

「((ツェピー))」

それから軍人達が、魔法の鎖でぐるぐる巻きのウパーディセーサの男を包囲して、ヘル達も地面に降りていく。

「(アルテミスのヘルだよ。ビンナーの街を壊滅させたドラゴンを作った組織を制圧したんだ。半分無くなっちゃったけど)」

その隊の隊長の男が最初にヘルに聞かせたのは、溜め息だった。

「まったく、アルテミスが関わると国さえ滅び兼ねないな」

「(でも、解決でしょ?)」

「一応、礼は言っておく。ただ、今後、誰にも言わず単身で乗り込むのは控えた方が良い」

「(あー、うん。あのドラゴンは?)」

「つい先程、蘇りし者のファティマという者が引き取ったそうだ」

「(え、へー)」

「アルテミス・・・」

軍人達は警戒する。ウパーディセーサの男の声がもう力強さを取り戻していたから。

「オレが、世界を、必ず破滅させる。覚えてろ。この力は完璧なんだ」

「(言っとくけど、アルテミスには勝てないよ)」

「ハハッこんな鎖あと数分も──」

「((ソーン))」

「すれば・・・・・」

「(とりあえず眠らせたけど)」

「すぐに軍が生態制御薬を作る。ご苦労だった」

それから2日後の事だった、ビンナー壊滅の張本人、ウパーディセーサテロリスト、ガンニアー・アンルが逃亡したというニュースが世の中に駆け巡ったのは。ウパーディセーサの遺伝子を打ち消す生態制御薬。人間の姿に影響を及ぼす事なく、ウパーディセーサの遺伝子だけを消す為の薬を作るという作業は、1日や2日で出来るようなものではない。ましてや独自に改造されたウパーディセーサは、薬を作る度にどんなウパーディセーサなのかを解明する事から始まるから。魔法の鎖ですらすり抜けたガンニアーの強さは、サルバラン軍を緊迫させ、ビンナーだけじゃなくサルバラン全体をも緊張させた。

「(じゃあここから追いかけよう)」

またヘルとの関わりに、軍人達はある意味緊張していた。ガンニアーを投獄していた独房から、匂いの霊気検索を始めたヘル。

ビンナーのとある公園。そこは復興作業中の様子とは対照的と言えるほど、豊かな自然が戻っていた。それを成し遂げたのはボンたちだった。ボンたちはシーザリアン、つまりシーザーの力を借りれる。ボンたちが蔦を地面に突き刺し、公園全体にシーザーの力を注ぐ。膨大な量の果実を瞬時に実らせるほどのシーザーの力なら、1つの公園の緑を復活させるなど簡単。公園がキレイだと、それだけで人々の心が安らぐ。

「すごいな。コンクリートやレンガと同等の強度で、噴水が復活している」

そう驚愕したのは何となく公園にやって来た男性。その男性はビンナーの都知事の秘書。復興の優先度は重要な施設からというのは自然の感覚だから、公園の復興だけ先に終わったのはニュースになっていた。だから様子を見に来た男性秘書。あれだけウパーディセーサの労働力を重要施設に投じているのに、公園の復興が先に終わるなんてと。振り返る男性秘書。その眼差しの先には、ベンチに座るファティマ、ハクジュソウ、そしてドラゴンを含めたボンたち。ドラゴンもすっかりボンたちに仲間入りしている長閑な様子は置いといて、男性秘書はシーザリアンの3匹を遠く眺めた。

「すいません、ファティマさん、1つ伺っても良いですか?」

「はい」

「私はソリト都知事の秘書をしています、トレインと申します。単刀直入に伺います。この公園は、シーザリアンの力で甦らせたのですか?」

「そうなの?」

「ワン!」

「そうみたいね」

「ワンワン」

「あらそうなの。この子達は私の力も持ってるから、シーザーと私の力を使ったみたいね」

「あなたの指示ではないのですか?」

「違うわ?この子達の意思よ」

「そうなんですね。ではシーザーの意思でもないと。ところで、そのドラゴンですか。例の、この街を破壊したドラゴン」

「ギンよ」

「え」

「名前はギン」

そう言ってファティマがギンの首筋を撫でれば、ギンのその甘えるような穏やかな態度はまるで犬のようだった。小さく頷くトレイン。

「あの、折り入って、お願いがあるんですが」

翼を解放して街を飛ぶヘル。あれほど野心の強いテロリストだから、暴れようと思ったらすぐ暴れてるはず。でも街は穏やかだから、ガンニアーは隠れてるんだとヘルは直感した。

「(ちょっとマズイな。匂いが薄い。まるで細い糸を手繰り寄せてるみたい)」

「パー」

「(うん、そうだね)」

例によってテノンはヘルの頭の上に乗っていて、ヘルの隣には光剣獣が居る。それからとあるビルの屋上に降り立ったヘル達。

「(この匂いの薄さ、きっと人間の姿で逃げてるんだ)」

刺激して街中で暴れられたらマズイからと、ヘルは“目を飛ばした”。匂いが入っていったビルの地下へと、まるで自分で入っていくかのように霊気検索した匂いを追いかける。

「(バーだ。お、居た、お酒飲んでる)」

「パーパー」

「(うん、転移させて捕まえよう)」

ガクッとした感覚。寝落ちでもしそうになったかと、ガンニアーは一瞬だけ思った。でも気が付けば目の前には大きな犬が居て、ここはどこか知らない場所で、自分は何やら光の鎖に縛られていた。

「・・・テメエ!飲んでる途中だろうが!」

「(え)」

「飲ませろや!酒くらい!」

「(・・・飲んだら自首するの?)」

「しねえよ!オレは酒飲んでる時が1番気楽で居られんだ!」

「(そんな事言ったって、世界を破滅させるのを見過ごせる訳ないじゃん)」

「こんな世界、破滅させた方がマシなんだよ」

「(世界が破滅したらお酒どうすんの)」

「うるせー!いいから飲ませろって」

人間だったらとっても変な顔をしていただろうヘル。光剣獣を見れば、ルアからも仕方ないという感情を感じたので。ヘルはパッとバーに戻った。

「(暴れたら即眠らせるから)」

返事などしないガンニアー。元々座ってたカウンター席で、また酒を飲み始めた。ヘルと光剣獣とテノンがすぐ背後で見張ってる状況に、バーテンダーは緊張していく。

「(何でウパーディセーサなんか作ったの?)」

「あ?そりゃあ、人生を変えたいからだ」

アルテミスのヘルじゃないか?というひそひそ話が聞こえてきたものの、ヘルは真っ直ぐガンニアーの背中を見つめる。

「犬に分かるかよ。人間の苦労が」

「(ボクだって結構苦労してるけどな)」

「ハッただ飯食って生きてんだろ」

「(ボクの家族がマフィアに襲われて、人間のママが殺されて、妹も誘拐されたんだ。そこから、ボクの戦いの日々が始まってさ。魔法を覚えたけど、最初は全然強くなくて、本当は今だって魔法がなきゃ戦えないしさ)」

背中で聞いているガンニアーは、グラスを傾けた。

「・・・で?」

「(マフィアとの戦いの次は、異世界のエルフとの戦いで、本物の魔法使いの魔法は本当に強くて、全然歯が立たなくて、精霊に助けて貰ってやっと乗り越えたって感じ)」

ヘルはふと、ガンニアーの背中からリラックスを感じた。目は合わせないバーテンダー。でも職業柄、ちゃんと小さく頷いていた。

「(次はロードスター連合王国と、ロードスターに潜んでた異世界の人達との戦い、これはもうすごいなんてもんじゃないくらいヤバかった。色んな仲間と精霊たちと、みんなで力を合わせてやっと勝てたんだ)」

ヘルは言葉だけじゃなくてイメージも一緒に添えてテレパシーを送っていた。だからなのかバーテンダーも、周りの客達も皆静まり返っていた。

「(でもその強い魔力から蘇りし者達が生まれて、ずっと戦ってる)」

ガンニアーのグラスの中の氷がカランと鳴った。だからガンニアーはバーテンダーにおかわりを促した。

「・・・お前は強いんだな」

そう言ってガンニアーはグラスをゆっくり傾けた。

「そりゃ、この世界の英雄だからなぁ」

ほろ酔いのおじさんがやって来て、ガンニアーの肩をポンと叩く。

「ヘル、何か飲めよ。奢ってやるよぉ」

「(ほんとに?わーい。じゃあジュエルジュース)」

「サワーじゃなくていいのかぁ?」

「(ボク、お酒飲まないし)」

それからだった、ようやく体を振り向かせてカウンターに寄りかかり、ガンニアーがヘルに顔を見せたのは。

「次の敵は何だ」

「(んー、今は、異世界の蘇りし者達と、エッグモンスターっていう変な奴、かな)」

「なら異世界に連れてけ」

「(何で?)」

「退屈しのぎだ。世界を破滅させるより面白い事、オレに見せろ」

「(まぁ、そういうなら。そういえばあっちはどうなってんだろうなー)」

固唾を飲んで見守るトレイン。その眼差しの先にはボンたち。ボンたちはそれぞれ全身から蔦を伸ばし、優しく地面に触れていた。3匹が檸檬色の光を纏うと、直後に周囲の地面が蠢き、隆起し、建物の崩壊した部分を修復した。驚きが混じった、人々の低い歓声が広がっていく。ウパーディセーサが300人集まって急ピッチでやっている作業を、たった3匹のシーザリアンがより早く終わらせたという状況に、人々はどよめいていた。

「これが、シーザーの力・・・。あの、どうか、その力で、街を直して貰えないしょうか」

「ボンたち、やってくれるかしら」

「ワン!」

「いいって」

「おい、オレらは必要無いってのか。せっかくボランティアで来てやってんのに」

男性が1人、トレインに詰め寄ってくると、トレインは申し訳なさそうな態度を伺わせる。

「おいおい、そうは言っても街全体が壊滅だぞ。ウパーディセーサだろうと人力じゃ復興が遅すぎる。ましてやここは首都だし、早い方がいい」

また別の男性がやって来てそう言って、それからボランティアの7割は去っていった。3割のボランティアは元々ビンナー在住の人達で、見物人として何となく残っただけ。

「ワンワン」

「ワン」

「オウオウ」

「そうなのね?良いんじゃないかしら」

すると何やらボンが雄叫びを上げた。それはどこか仲間を呼んでそうな雰囲気。

「彼らは何と」

「仲間を増やせばもっと早いからって呼んでるのよ」

そう言ってファティマはヒュンの頭を撫でる。トレインは少し不思議に思っていた。ファティマという者の命令どころか指示もなく、ましてやシーザーの指示でもなく、シーザリアンたちは完全に自主的に動いているから。

「ガウガウ」

「あら、ギンもやりたいのね。でもあなたはシーザリアンじゃないから見守るしかないわ」

サルバランはホールズ加盟国の1つなので、この国にも沢山のシーザリアンが住み着いている。しかし街の襲撃と共に街は燃え、街中に絡み付いている草花も燃えた為に逃げていたが、ボンの呼びかけによってボルテクスやベランデア、バッパードやシザリハウンドたち、100体のシーザリアンが集まってきた。

「ワンワン、ワン、ワンワン」

ボンが語りかければ、集まったシーザリアンたちは皆揃って返事をした。その100体の返事にトレインは思わずビクッとする。それからシーザリアンたちは四方八方に散開していき、ボンと同じように全身から生やした蔦を地面に刺していく。やがてボンが一声鳴けば、辺り一面の地面が蠢き出した。先程とは比べ物にならないほど大規模な振動で、トレインは体勢を低くした。ビンナーは首都なので、高層ビルが幾つもそびえ立っている。しばらくして大規模な振動が止めば、トレインは周囲を見渡した。60階建てくらい高層ビルがたった3分ほどで幾つも元通りになっていた。

「すごい!」

「ガウガウ」

ギンの問いかけに振り返るコン。

「ワンワン」

「そう。なら大丈夫そうね」

「もう全て元通りになったのですか?」

「今ので、全体の2割が元通りになったみたいね。これから皆で移動してから、また同じように建物を作っていくそうよ」

「2割。いや、人力よりも遥かに早い。ファティマさん、本当にありがとうございます。あなたの心は本当に美しい」

「私は何もしてないけど」

「ところで、シーザリアンたちはどうして建物の内部構造を再現出来るのでしょうか」

「それは、私には分からないわ」

トレインは急に不安になった。今復元されたこの街。まさかその中身は以前と全く別物になってしまっているのではないかと。

読んで頂きありがとうございました。

この話のメインはヘルとファティマですが、果たしてファティマは生き甲斐を見つけられたのでしょうか。多分、この話の事件がヒントくらいにはなってるはず。

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