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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「美しき炎」中編

「ヘルだー!」

「わー、おっきい」

「いえーいっ」

子供達からスターのように扱われているヘル。だからヘルはゆっくり伏せて、なるべく子供の目線に顔を近付けた。

「ドラゴン倒したの?」

「(今は眠らせてるんだよ)」

「えっ倒してないの?」

「(結構手強くてね)」

「起きたらどうすんの?」

「(そりゃあまたすぐ行かなきゃ)」

「倒さないと、オレ達ずっと病院に居なきゃいけないんだよ。せっかく病気治ったのにさ。さっさと倒してよ」

「(そっかぁ。確かに、街をこんなにしちゃったし、本当なら殺さなきゃいけないのかな)」

「ころすの!?」

「(え、そうして欲しいんでしょ?)」

「そ、そう、だよね。そうだ」

すると1人の小さな女の子がナルクレイ院長の顔を伺う。

「いんちょうさん、ドラゴンは、うまれてきたらだめだったの?」

「・・・・・きっと、ドラゴンも生きていたら、これから楽しい思い出が作れるかも知れないわね」

するとその6歳くらいの小さな女の子は、10代前半くらいの男の子の袖をギュッと掴んだ。

「いんちょうさん、いつもいってるじゃん」

「分かってるよ。どんな動物も、生まれてきたらいけないなんて事ないって。でも・・・でもドラゴンは、あんなに暴れたんだぞ」

「(話せるか、試してみるよ)」

「え?」

「(どうして暴れたか聞いてあげられたらさ、もう暴れないんじゃない?)」

「そうなのかな」

「シーザリアンみたいに、なかよくできる?」

「(仲良くしたいの?)」

「んー、わかんない。こわそう」

「(ファティマは何でここに?)」

「カースベルクの会社の支部がこの街にあって、被害状況を確認しに来たの」

「(へー。治癒玉も作れたの?)」

「これはあなたのよ。街でふらふらしてて、消えそうだったから私の力を分けたの」

「(そうなんだ。でももうファティマのだね)」

ベルセルク自社ビル。最上階に戻ってきたファティマはそのまま冷蔵庫に向かって、フルーツジュースをコップに注いだ。そんな様子に振り返るカースベルク。

「何だそれ」

何やらボンたちが頭でバレーボールしている。檸檬色の光球がボヨンボヨンと、3匹にヘディングされて宙を舞うのがカースベルクには何となく不憫に見えた。

「それは治癒玉っていう魔法よ」

「治癒玉って確か・・・アルテミスの?」

「知ってるの?」

「記事になってる」

そういってカースベルクは液晶画面に、治癒玉の事が書かれているネット記事を映し出す。

「あ、そうそう分かったわよ。街を壊滅させたの、ドラゴンだって。ヘルが捕まえたって」

「ドラゴン?・・・多分どこかの違法研究施設が作ったんだろう」

「それを軍の人達も探してるって」

「そうか。これからそういう事件は増えていくんだろうな」

「そうなの?」

「恐らく、ウパーディセーサ開発におけるシンギュラリティポイントでも見つけたのか」

「何それ」

「簡単に言うと、新しい段階って事だ。人間の技術だけではウパーディセーサの応用には限界がある。けど最近になって蘇りし者の力そのものの動物から取られたDNAが結構出回って、それでまた今までとは違う強さのウパーディセーサが作られるようになったって事だ」

「それって、悪い事?」

「それは、分からない。ウパーディセーサをどこまで進化させられるか。そこに善悪は無いんだろうな」

それから2日後。バントバーク山、火口。ヘルの(スーヴェ)は小さな石の上に乗ってずっとドラゴンを監視していたが、その時は突然訪れた。スヤスヤと眠っていたドラゴンの目がゆっくりと開いたのだった。同じタイミングで、シュッと浮き上がる(スーヴェ)。そして光の速さでその場から去っていく。そんな(スーヴェ)の事など知る由もなくドラゴンは立ち上がり、腰を反って前足を伸ばし、それから後ろ足を伸ばした。ふと周囲の空気の匂いを嗅ぐドラゴン。そしてゆっくり、歩いて下山していった。

ベリカニア、シルヴェルの居る家。それは朝ご飯を食べて2時間ほど経った頃だった。ヘルが振り返ると、窓の向こうに(スーヴェ)が浮いていた。

「(ルア、行ってくる)」

「うん、行ってらっしゃい」

光剣獣とテノンも一緒に、またヘルは転移した。でも火口にドラゴンは居らず、ヘルはまた匂いを霊気検索した。そしてドラゴンを見つけると、そこは木々を生い茂る山の中腹だった。振り返るドラゴン。

「(えっ・・・食べてる)」

ドラゴンは大きなイノシシを補食していた。噛みちぎった生肉をくわえていたところで、ヘルと鉢合わせたドラゴン。ふとした静寂と血の匂い。ゴクッと生肉を飲み込むドラゴン。ヘルはドラゴンの思考、感情を解析(アンリズ)した。ドラゴンから伝わってきたのは、この肉は自分のものだという感情。

「(大丈夫。ボクは今はお腹空いてないから)」

ヘルがテレパシーを送れば、ドラゴンは少しだけ警戒を解き、食事を再開させた。

「(お話したいんだけど、いいかな?)」

〈なに〉

「(この前はどうして暴れたの?)」

〈怒り。どうしたらいいか分からなかった〉

「(そっか。どこから来たの?)」

〈分からない。人間が多かった。飛び出した〉

「(その研究所は、壊してないの?)」

〈分からない。少し暴れた〉

「(じゃあまだあるんだ。まずいな。またドラゴンが作られたら。君が居た場所に連れてって欲しいんだよね)」

〈お礼〉

「(え?)」

〈お礼・・・する。眠った、ら、すっきり、した〉

「(お?もう文法を覚えてきた。すごいな。じゃあそのお肉、もっと美味しくなっちゃう方法を教えちゃう)」

生肉を一切れ貰って、ヘルは魔法で“プレート状の炎”を作った。それは鉄板のように直火ではない熱の塊。そこに一切れの肉を置いて、ゆっくり火を入れた。直後から良い匂いが辺りに漂い始める。次第に肉の色が良い具合に白くなって、そして焼き目がついた。よだれを垂らすドラゴンと、ヘル。

「(やべー。うまそう。はい、食べて)」

ヘルが魔法の手で、直接ドラゴンに食べさせる。

「(メイラード反応っていって、ちょうど良い火加減でお肉を焼くと美味しくなるんだ)」

〈メイラード。美味い〉

壊滅した首都ビンナー。あれから2日、街は復興作業に追われていた。作業員は軍人と300人超の一般人ウパーディセーサ達。そこにいたのはファティマとボンたち、そしてハクジュソウ。世界中からの支援金、寄付金、そしてボランティアで来てくれた一般人ウパーディセーサで街の復興は順調。ちなみに支援金の内、5000万は株式会社ベルセルク。

「ワンワン」

「そうね」

ファティマはサンドイッチを一口。それはボランティアで来てくれた一般人の作業員には無料で配られるもの。半分くらい焼失してしまった公園のベンチで軽食を取っていたファティマ達。ふと子供達を目に留めると、それはあの病院の子供達だった。

「あ、お姉さん」

ファティマを見つければ駆け寄ってきたのは10歳前後の男の子と女の子。

「今日も来たんだね」

「うん。外楽しい?」

「うん!わたし、昨日生まれて初めて外に出たし、走ったから、今日もかけっこするの」

「そう。怪我してもすぐにこの子が治すから、思い切り楽しんでね」

「うん!」

「オレ、ボンたちと遊びたい、いい?」

「良いわよ」

サンドイッチを食べながら、ファティマは子供達を眺める。私はウパーディセーサほど働けないけど、それでもここに居たい。何となく、寄り添いたい。

食事を終えたドラゴンは辺りの匂いを嗅いだ。その様子は本当に動物のようで、ヘルは冷静に観察する。

〈あっち〉

そう思考を伝えてくれば、ドラゴンは背中にある6つのトゲのような大きな突起部分を光らせて宙に浮き出した。翼が無いのに空を飛ぶドラゴン。ヘルはやっぱり“作られた魔法生物”なんだと理解する。ドラゴンが先導し、大きな犬、光剣獣、バッパードというそんな一行が街を飛べば、ふとそれを見上げた人々はキョトンとする。それからドラゴンが降り立ったのは町外れの工業地帯。でもそこに来た途端、ドラゴンは空中で止まった。隣に並んで横顔を伺えば、ヘルはドラゴンから不安と恐怖を感じた。

「(場所が分かれば、あとはボク達だけで行くから、離れてていいよ)」

〈分かった〉

ドラゴンの匂いを基に霊気検索すれば、その組織の場所はすぐに分かった。シュナカラクと合体し、フェニックスソウルを纏って、リッショウをする。そしていよいよドラゴンが作られたとある大きな倉庫に侵入したヘル達。そこは何百台ものトラックが入りそうな、物流業の企業が使うような大きな倉庫。一見すると普通の物流倉庫。もしかしたら、普通の企業の営業をカモフラージュするマフィアのように、危険な生物を作ってるのかな。そうヘルは警戒心マックスで目についたドアを開ける。

「(うお、広い・・・でも車とか製造してるっていうより、薬品の匂いがすごい)」

途端に目付きの悪い男と目が合い、男は敵意をぶつけてくる。

「何だ?テメエは」

「(ビンナーを壊滅させたドラゴンを作ったのは、お前達なんでしょ?)」

するとヘルの放つ存在感と本物の熱に気が付き、どんどん男達が集まってきて、その内の1人がウパーディセーサに変身する。やがてヘルの熱で、ドアの接合部が熔けて外れた。ガタンッと倒れるドア。まるで存在自体が火事そのもので、火災報知器が鳴った。

「こいつ、まさかアルテミスのヘル!」

「何だと?」

「くそ、もう嗅ぎ付けやがった。ていうか早く殺せ!燃えちまう」

光剣獣の見てる景色をそのまま映す鏡を、家で見ているルアとシルヴェル。戦闘が始まったその状況にルアが緊張してシルヴェルの顔を伺えば、シルヴェルは真剣ででも落ち着いた表情でルアの頭を撫でた。

「(フェニックスブレード!)」

その一閃だけでウパーディセーサの男達は数人吹き飛び、何かの大きな機械が切り裂かれた。

「チッ何なんだよ!あいつがいれば犬なんか」

「(悪いけどあのドラゴンは、もうボクと友達だから)」

「は?」

「(そもそもここはあのドラゴンに教えて貰ったんだ)」

「失敗作が。だから言ったんだ──」

ヘルは唯一、その男を警戒していた。何故ならその男だけ、まるであのドラゴンのような見た目のウパーディセーサだから。実際、フェニックスブレードも受け流していた。

「ベースは人間じゃないとコントロール出来ないって」

「(あのドラゴンの、ベースって)」

「犬だ。と言っても、もう戻れないがな」

「(そっか)」

背中のトゲを光らせた男は超速移動した。瞬時にパンチしてきて、同時に青白い爆発を起こした。太陽のように鮮やかな炎と、青白い炎がぶつかって辺り一面が高温になる。しかし先に蹴りを出したのは男の方だった。

「パー?」

テノンは辺りを見渡した。気が付けばそこは家で、ルアの膝の上だった。

「植物には限界だろう」

「パー」

「問題無い」

ヘルは吹き飛んだ。ヘルは燃えているから、近付いてくる者は居ない。でも、相手も燃えていればその限りではない。ヘルは理解した、あのドラゴンやこの男の原動力は、とてつもない熱だと。

「(フェニックスブレス!)」

吹き飛んだ男。でも倒れる事はなく、立ったまま踏ん張った。男は全身に熱を帯び、青白い炎を纏っていた。一方、ドラゴンは何となく空を飛んでいた。目的は無い。だから知らずに自分が破壊した街の上空にいる事にも気が付かなかった。そんな時だった、ドラゴンがふとその匂いに気が付いたのは。辺りを見渡すドラゴン。

「(フェニックスダイブ!)」

「ぐっ・・・うおおおっ」

ヘルの突撃を、男は真正面から受け止めた。お互いの力は互角だった。2色の炎がぶつかり、広がり、辺りの床は燃え、機械は熔けていく。

「(おりゃあああっ)」

「うおおおっ」

「(フェニックスエクスプロージョン!)」

爆発したヘル。その爆風は倉庫のほとんどに行き渡り、その何らかの研究施設のそのフロアはもうほぼ壊滅状態だった。目一杯に力を使ってふらふらと後ずさるヘル。男は立っていた。目を細めるヘル。

「ふーっ。キツいな。だがな、このウパーディセーサ自体は、完成してるんだ」

体の所々から青白い炎を漏らしていた男。でもその直後、背中の6つのトゲに青白い火が灯った。それはまるで抑えきれない膨大なエネルギーを逃がしているようにも見えた。

「エンジン全開だ」

「(ちょっと、マズイかも)」

「問題無い」

「(え?)」

ヘルの隣に並んだ光剣獣。するとその全身は青カビ色の鱗に覆われ、白い霧のような光を生み出した。

「(シルヴェル)」

「ヘル」

「(ルア!)」

「ほら来るよ」

超速移動の男がガツンッと動きを鈍らせる。障害物となったのは青カビ色の鱗が集合した盾だった。更に盾は白い霧のような光を纏っていて、瞬時に爆発を生み出した。“盾の爆発カウンター”に吹き飛んだ男だが、ターゲットを光剣獣に切り替えると手から青白い衝撃波を放つ。

人々がざわついていた。そして軍やら、マスコミやらが“その場所”を目指して動き出した。そこは公園。突然降りてきた生物をふと見上げたのは子供達とボンたち、ハクジュソウ、そしてファティマ。

「何かしら」

サンドイッチは食べ終え、子供達を見守っていたファティマ。

「あーーっ!ドラゴン!」

男の子が叫んでも、ドラゴンは気にも留めずにゆっくりと地面に降り立った。何故ならドラゴンが見ていたのは子供達ではなくファティマだったから。ベンチに座ったファティマから数メートル離れた所に降り立ったドラゴンは、ヘルと話した時のように思考を伝えた。でもファティマからは何も返ってこず、ドラゴンは戸惑った。

「お姉さーーん!逃げて!そいつだよ!街を破壊したの」

ドラゴンに向かって歩き出したボンたち。でも途端にボンたちは子供達に捕まった。

「危ないから、離れて」

「ワウワウ」

「ほら」

子供達に強引に連れていかれるボンたち。ベンチに座ったままドラゴンと見つめ合うファティマ。でもドラゴンは落ち込んだ。だから歩き出した。

「待って」

振り返るドラゴン。

「大丈夫よ。あなた、一人ぼっちなのね」

そう言って立ち上がると、ファティマはドラゴンに歩み寄り、その首筋を優しく撫でた。ベンチに座っていたハクジュソウは、ただドラゴンを見つめる。

「離れろ!」

振り返るファティマとドラゴン。あらゆる方向から軍人が銃口を向けていた。

「そいつは危険生物だ」

「そうね。確かに強大な力を持った生物よね」

ドラゴンはお座りしていて、ファティマの手の温もりに身を委ねていた。最初から、ドラゴンは分かっていた。その匂いの“炎のような優しい温もり”に。だから思わず引き寄せられてしまった。理屈では分からない。というか理屈で考えようとも思わない。ただ分かっているのは、その人は“温かい”。

「離れろ!」

「“もう”大丈夫よ、この子は」

「何言ってんだ!」

その時、ファティマの瞳に檸檬色の光が灯った。誰にも見えないその温もりがそよ風のように広がっていく。それはやがてボンたちにしがみついている子供達、公園を取り囲んでいる軍人、マスコミ達にも広がっていく。目には見えない。実際には風ではない。でもその辺りにいる人達は皆、その温もりを感じていた。軍人達が無意識に銃器を下ろしていく。そしてマスコミの1人が小さく呟いた。

「何だ、あの・・・美しい光景は」

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