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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「美しき炎」前編

ホールズの中の国の1つ、サルバラン。その日、サルバランの首都ビンナーが壊滅した。それはたった1時間の惨劇だった。人々はほぼ避難したが、それでも犠牲者は少なくなく、街は絶望と悲しみに打ちひしがれた。ニュースとなって全世界に伝わったのはそれから数十分後の事。

「(ルア、これヤバイよ。正体不明の何かが街を壊滅させたって。ウパーディセーサなのかな。まさか新しい蘇りし者とか)」

「我は何も感じていないから、それはないだろう」

「様子見に行く?」

「(うん。先ずは治癒玉をばらまく)」

「人助けだけならお前だけでいい。我らは光剣獣を介して眺める」

「(えー。留守番はシルヴェルだけでいいじゃん)」

「王も王妃もここでいい。団長として目立てるんだからいいだろう」

そう言ってソファーに座っているシルヴェル。ヘルが寂しそうにルアを見るが、シルヴェルの隣に座るルアもちょっと困った「ごめんね」をテレパシーで送ってきたので、ヘルは仕方なく理解した。シルヴェルが勝手に決めたけど、ルアもいいよと言ったから、現在「独立自警団アルテミス」の団長は正式にヘル。ルアはすっかりシルヴェルに心を許しちゃってるし、普通に仲が良い。それはいい事なんだけど。そう少しだけヘルは寂しさを抱えていた。とはいえヘルが外に出れば、一緒に暮らしてるバッパードのテノンも一緒に来てくれて、ヘルの頭に乗っかった。

「パーッ」

「(うん、行こっか)」

シュナカラクも居るし、光剣獣も1匹付き添って、そしてヘルは転移していった。やって来た街、ビンナー。ヘルはただその惨劇に立ち尽くした。

「(酷いなぁ)」

「パーパー」

「(そうだね。とにかく先ずは、人を捜そう)」

霊気検索、エコーロケーションを同時にしながら鼻を利かせたヘル。色んな人の匂いと、焦げた匂いがした。どうやら街を破壊した知らない匂いは“獣臭”らしい。すぐに感じたのは、新しい機械の気配。──軍の人達か。

翼を解放して空を飛んだヘル。すると光剣獣も体にブースターを作って飛び出し、そしてヘル達はビルを飛び越えて、被害状況を確認している様子のサルバラン軍の人達の下に降り立った。

「(独立自警団アルテミスだよー!)」

1人の男性軍人がライフルの構えを解いてヘルに歩み寄る。

「まだ危険だぞ」

「(でも怪我人をみんな魔法で治しに来たんだ。それにまだ生存者が居るかも知れないし)」

「そうか・・・・・助かる」

「(治癒玉(セレミヤ))」

翼から砲撃するように、ヘルは治癒玉を10連射した。街に噴射されていく治癒玉たち。

「(追いかけたら生存者が居るからね)」

軍人達はただ戸惑っていた。彼らにとったらまだ緊迫が張り詰めた状態。でも突然やって来た“犬たち”が、強引に手助けしてきたから。



第84話「美しき炎」



「恐らくはウパーディセーサだろう。ただこの国で作られたのかは分からない。どこから来たのかも分からない。分かっているのは、とてつもなく強いという事」

治癒玉を追いかけながら、男性軍人ユグンはそうヘルに情報を共有する。やがて治療されている生存者を見つければ救助し、ユグンを始め軍人達はヘルに信頼の眼差しを向けていく。

「アルテミスと言えば、シルヴェルが居るんだよな?」

「(うん)」

「情けない話だが、軍じゃ、あれは倒せないからな。手を貸して欲しい」

「(勿論。その為に来たんだから)」

とても広い範囲を自由に飛び回っていく治癒玉たち。でもどこに行っても作り主のヘルには気配で分かるので、ヘルは順調に生存者を見つけていく。軍人が無線で、治癒玉の事を情報共有しているので、軍隊が護衛しているとある病院に治癒玉がやって来れば、医者や看護士、患者達は皆歓喜した。歓喜に包まれた治癒玉はビクッと驚きながらも重傷者から治していく。

「(どこに逃げたかも分からないの?)」

警戒して歩きながらヘルが聞けば、ユグンは残念そうに頷く。

「通信機器もやられたからな。その後の目撃情報も精査はしているが、追跡は出来てない」

「(なら、ボクが匂いで追いかけてみる)」

「分かった。救助は任せてくれ」

ふとビルの屋上にヘルが降り立つと、そこにシュナカラクがやって来る。

「(シュナカラク、匂いも魂子なんだよね?)」

「あぁ。匂いを魂子として霊気検索する事も出来る」

「パー」

「(すごいね魂子って)」

覚えた匂いを魂子と結びつけて、霊気検索で覚えた匂いを探していくヘル。元々鼻で覚えた匂い。そしてその探したい匂いを霊気によって可視化するように浮き彫りにしていく事で、その匂いがまるで川のように“視えた”。

「(これならいける)」

街を見渡すヘル。目には見えないが、その気配は色濃く、モヤのように道を作っている。あのビルを破壊した後は、きっとあの建物に狙いを定めて、そして次はそっち。どう行動したのかが、よく分かる。

「パーッ」

「(そうだね、あっちに向かってるみたい)」

ヘルの頭をがっしり掴んで、テノンは鳥なのに飛ばない。でも特にヘルは気にせずに街を飛び、やがて緑が生い茂った山脈にやって来た。

「パー」

「(うん、すごい広い山。普通に探したら絶対分かんないよね)」

それからとある大きな山の火口に向かっていた匂いの道。そこで道が途切れていたのでつまりそこに例の何かが居るという事。

「パー」

「(居たっ)」

今はその山は活動していないようで、火口でも何も熱い事はない。しかし地面に降り立つ直前、ヘルは首を傾げた。何故ならそこには誰も居ないから。

「(おかしいな)」

「パーパー」

「(あー、そうなのかな)」

まさか本当に地面を掘って、地中に隠れているのか。それを確かめようと更に近付くヘルたち。地面に降り立った瞬間に襲われたりしたら危険だからと、ヘルは着地はせずに不自然な地面の歪みを見下ろす。

「(怪しい。ホントに掘ったんだ。でも、どうしたら)」

「パーパー」

「(え!分かるの?)」

「パーパー、パー」

「(あそっか。シーザーって大地だもんね。じゃあお願い)」

地面を掘ったような歪みからは結構離れたところに着地したテノン。それから足から伸ばした蔦を地面に突き刺す。

「(シュナカラク)」

シュナカラクと合体し、リッショウもし、フェニックスソウルも纏ったヘル。どんな奴が出てくるのかと警戒してやがて、地面が揺れた。振動が音を引き連れて空気を震わす。それは正に“出てくる”という振動。そしてその直後、轟音と共に土や石や、岩石が周囲に飛び散った。

「(出たーーーっ!)」

テノンがやったのは刺激を与えるという事。つまり、釣り。土埃がすごいので、その瞬間まだヘルはその何かの全貌を知らない。

「ウゴオオオッ」

まるで地響きのような雄叫びだった。

「(フェニックスブレス!)」

翼から放たれる2連の燃える光弾。たった1時間で首都を壊滅させた生物だからと、ヘルは先制攻撃を仕掛けた。ドカンッと爆音と共に吹き飛ぶ生物。そして勢いよく地面に墜落したものの、その生物はすぐに立ち上がった。それは四足歩行で尻尾が長くて、背中に6つのトゲがある、体高2メートルくらいの銀灰色のドラゴンのような生物だった。

「ガフッ」

「(ウパーディセーサ、なのかな)」

直後にドラゴンは一瞬だけトゲを光らせながら、口から真っ赤な炎の球を吐き出した。

「(うおっ)」

間一髪でかわしたヘル。それからドラゴンは一瞬で飛び上がってヘルに向かって来た。

「(え・・・)」

翼でガードしたヘル。でもその突撃は驚きでしかなかった。炎そのものである炎の鎧に向かって体当たりなんてと。それから流れるような身のこなしでドラゴンは尻尾を振り回し、ヘルはまた翼でガードする。

「(フェニックスブレード!)」

それは光刃一爪のフェニックスバージョン。負けじとヘルは前足を振り下ろして燃える一閃を繰り出すが、ドラゴンはそれに直撃して吹き飛んでも、空中ですぐに体勢を立て直して炎球で反撃してきた。

「(おっと、こりゃあ手強いぞ)」

ふと見下ろすと、光剣獣は地面にお座りしていて、テノンはその頭の上に居た。

「(シルヴェル、手伝ってくれないんだ。全然良いけど。(ツェピー)!)」

ヘルの翼から放たれる、2本の光の鎖。突撃してきた途端に逃げ始めたドラゴン。しかし光の鎖は生きてるかのようにドラゴンを追いかけ、やがて両前足を捕まえた。空中なのに、2本の光の鎖は双方から引っ張り合い、ドラゴンは動きを止められる。

「ウウゥ・・・ガアアアッ」

「(めっちゃ怒ってる。けど、大人しくしてよ)」

ドラゴンの背中の6つのトゲが強く光を帯びる。同時にドラゴンは球ではなく、まるで間欠泉のように炎を吐き出した。素早く逃げるヘル。しかも直後にはその真っ赤な火炎放射は集束し、超高熱の青白いレーザービームとなって、一瞬で地面を切り裂いた。

「(あっぶないっ。だったら・・・(ソーン)!)」

ヘルの意識が、暴れるドラゴンの頭の中に直撃する。するとふわっと体を波打つと火炎放射を止め、ドラゴンはガクッと脱力した。

「(出来た・・・ふー)」

地面に寝かされ、スヤスヤと眠るドラゴン。それでもどうしたらいいかは分からないので、ヘルはただ何となくドラゴンを眺める。

サルバラン、首都ビンナー。その時そこに、ファティマとボンたち3匹がやって来た。軍隊が行き交い、マスコミもちらほらと見える。

「酷い有り様ね」

「ワン」

「これじゃ何も分からないわよ」

そう独り言を呟きながら、ファティマは慣れない操作でスマホを触り、電話をかける。

「・・・分かったか?」

「分からないわよ。酷い有り様なんだから」

「でも地図で確認しながら目の前に転移したはずだから、目の前にあるはずだぞ。あるだろ大きなビル」

「うん、上半分が無いビルなら」

「マジか・・・・・」

「その、会社の支部?無くなっちゃったって事?」

「あぁ・・・上半分って事は、16階の支部は消えたな。まぁ支部長も役員も、全員無事だから良いんだけど。まぁしょうがないか、戻っていいぞ」

「誰がこんな事したのかしら」

「確かに気にはなるが、その内分かるだろ」

「ちょっと調べてみる」

「どうやって。まだスマホも全然使えないのに」

「何か、実際に来たら、居ても立ってもいられなくて」

「分かった。気を付けてな」

「うん」

炎の中で死んだ私。だからなのか、ファティマはただ歩き出していた。カースベルクの会社の支部が心配。そうカースベルクに様子見を頼まれて、仕方なく来てみただけ。でもファティマは何でもいいから、何かを成し遂げたいという変な衝動に突き動かされたのだった。

「ん?何か飛んでる」

ふわふわと飛んでいる緑色の光の球を、ファティマは追いかけた。何だか元気が無さそうな光の球。それからやがてゆっくり下がってきて、ふとファティマと同じ目線まで来た時、光の球はピタッと止まった。

「どうしたのかしら」

ファティマが両手の皿を作ると、光の球はふわふわとそこに降り立った。

「これ、何かの魔法かしら」

弱々しいけど、温もりを感じる光の球。だからファティマはその光に、自分の力を注いだ。ただ元気になって欲しい。それだけだった。その直後、光の球は2倍の大きさになって、檸檬色になった。キュッと浮き上がった檸檬色の治癒玉。そして上下にシュシュッと揺れて見せる。

「いいのよ。元気になって良かったわね。で、あなたは何の魔法なのかしら」

治癒玉から伝わってきた、言葉ではないテレパシー。それはまるで、自分の使命を思考で伝えるものだった。

「へー。すごいわね。何でも治せるのね。あの大きな犬の魔法かぁ。それで、さっきは力尽きる寸前だったのね。でもここにはもう怪我人は居ないのかしら。そう、仲間がいっぱいいるのね。それでこの街の生存者を」

ファティマは治癒玉が居たという病院にやって来た。病院だというのに賑やかだった。怪我人らしい怪我人が居らず誰もが元気だった。

「あ!光の球!」

子供がそう指を差せば、周囲の眼差しがファティマに向けられる。するとすぐに集まってくる子供達。入院患者の服を着ているはずなのにとても元気。

「お姉さんが作ったの?」

「違うわよ」

「じゃあそれは?」

「たまたま街で会って、消えそうだったから私の魔力を注いであげたの。そしたら元気になって」

「シーザリアンだ!」

ボンたちは驚きはしたが、押し寄せる子供達にビビりはしなかった。

「でもこの前見た時とは色が違う」

「そうか?シーザリアンはそれぞれ色んな花が生えてるから、これも“普通”なんじゃない?バラもあったり、チューリップのシーザリアンもいるし」

「そうかぁ」

「お姉さんの友達?」

「そうよ」

「撫でていい?」

「良いわよ」

子供達がボン達に夢中になっている時、白衣を着た老女がふらっとファティマに近付いてくる。

「あなたもアルテミスの一員、ではなさそうね」

「うん。仲間ではないわ。ただ、誰がこんな事したのか知りたくて」

「ドラゴン!」

応えたのは男の子だった。

「窓から見えたんだ。銀色っぽいドラゴン。あいつが街を燃やしたんだ」

「そうなのね。ドラゴンは誰が倒したの?」

「分かんない」

「軍の方から聞いた限りですと、討伐はされてないそうですよ」

白衣の老女が冷静に応えれば、ファティマはふと子供達から不安そうな空気を感じた。

「そう」

「また来るのかな。次来たら、オレ達死んじゃうのかな」

「ねー院長さん。いつお外出れるの?」

「んー。そうねぇ。軍の人が出ていいよって言ってくれるまでかなぁ」

「せっかく元気なのに」

そんな時だった。病院のエントランスで待機している軍人の無線に通信が入ったのは。直後に軍人が驚いた声を上げ、それはファティマも院長の老女も子供達もみんな振り返るほどだった。

「・・・了解しました」

戸惑いながらもその軍人男性はゆっくりと院長の女性に歩み寄る。

「ナルクレイ院長。今、アルテミスのヘルが、ドラゴンを捕獲したと」

「本当ですか!」

「事実確認と安全確認が取れるまでは、引き続きこのままで」

「すげー。ヘル、ドラゴン倒したんだ!」

「やったーっ。外出れるぞ」

「みんな落ち着きなさい」

パッとヘルが戻ってきたのは街中にある、コンビニに作った軍の臨時駐屯所。話したのはそこの隊長で、それから隊長のマウェイと数人を連れて、再びヘルはドラゴンが眠る火口にやって来たのだった。GPSを通して、軍人男性が居場所を確認する。ここはバントバーク山の火口。

「あぁ、こいつで間違いない」

マウェイとヘルは、スヤスヤと眠るドラゴンを眺める。

「起きたらまた対処しなきゃいけないけど」

「今、届け出の無い違法研究施設をざっと調べているところだ。こちらも早急に突き止める」

「じゃあ、制圧する時に戦力が必要なら手伝うよ」

「あぁ。悪いな」

ヘルは(スーヴェ)を作った。それは見張り。それから街に戻ったヘル達。まだ緊張は解けない。街だってこれから復旧を始めなきゃいけない。そんな気の遠くなるような感覚の中、ヘルはふらっと大きな大学病院に向かった。治癒玉たちが向かった病院の1つ。病院に入ればその直後、子供達は歓喜した。子供達が駆け寄ってくる中、ふとヘルはファティマを見つけ、檸檬色の治癒玉に目を留めた。

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