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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「例のアイツと噂のカノジョ」前編

侮ってた俺も悪いっちゃ悪いが、ここまで手こずるなんて思っても見なかった。ああ、クソ、どうせなら名前くらい聞いときゃ良かった。あんな女が居るんじゃ、拠点はやられるだろうな。まあいいか、まだ拠点はあるし、“俺ら”が束になりゃ殺れない奴なんて居ねえ。

ラルガは思い出していた。こんなにも体が重たく、傷だらけなのはあの時以来だと。ザ・デッドアイに入りたての時の事だ。下っ端は何かと、しょっちゅうシゴかれる。そんなのは俺だけじゃない。そういうもんだからしょうがない。骨が折れない程度に生傷は絶えなかった。しかし今の俺はあの時とは違う。あの時はただ怒りと反骨精神しか沸かなかったが、今じゃ嬉しさと武者震いしか出てこない。――今度こそ、あの女をブチ殺してやる!。

「はぁ・・・」

ちょっと休むかと、ラルガは別の拠点に着いた途端に倒れ込んだ。大の字になって空を見上げていた。人間に戻ると生傷は更に痛みが浮き彫りになったが、ラルガは微笑んでいた。

「おうおう、何寝てんだラルガぁ」

「あ?・・・ハッ休憩だ」

同じ“反骨精神”を分かち合ってきた、言わば同期。そのデレントは屋上へとやって来て、ラルガを見下ろす。傷だらけの姿には特に慌てたりはせずに。

「拠点はどうした」

「まぁ、俺が居ないんじゃ、終わりだろうな」

「魔法使い、強えのか?」

「まあな。けどそれだけじゃねえ。もしかしたらもうニュースに出てるかも知れねえが、報告しねえと」

生傷には慣れてる。そうラルガは立ち上がり、表情を堅くした。生傷を負ったのは自分の責任。傷だらけだからって、笑っていられない。これから話すのはそういう相手だ。それからラルガはとある一室で、どでかい液晶の前に立った。通信が繋がれるとそこに居るのはルーファー。ボスの右腕であり、野郎共に直接指示を出すリーダー。

「すいませんルーファーさん。第一期実験体の乱入で、不覚を取りました」

「無駄死にも出来ないのか。実験体になったからって怠けてんじゃないだろうな」

「そんな事は、決して」

「お前と拠点、大事なのは考えなくても分かるだろ。俺がいつも言ってる事だ。駒とは何だ」

「取るか取られるか、駒に退場は無い、です」

「実験体なんていくらでも代わりは居るんだ。もっと気を引き締めろ、必死になれ」

「はい、すいませんでした」

「魔法使い共が次に来るであろう拠点に向かえ、そこで拠点を必死で、死守をしろ」

「はい」

「死んでも守る、それが死守。必ず死ぬまでやる、それが必死。分かったな?」

「はい」

「わざわざ見込みのない奴に大役なんか任せない。俺の見込みを、裏切るなよ?」

プツンと液晶が真っ黒になり、スーっと生気が体に戻っていく。今頃冷や汗が垂れ、軽い動悸が胸を叩く。そんな静寂をからかうように、ここの拠点を守る為に待機しているデレントは小さく口笛を上げた。

「恐えなあ、いつも。魔法使いの動向はこっちで探ってやるからさ、ちょっと休んでろ」

「ああ悪い。まあ、どうせ制圧拠点から1番近い拠点にって順番に攻めるんだろうけど」



第8話「例のアイツと噂のカノジョ」



まるで魚の鱗みたい。そうルーナは最早人間のものではない手で、まるで人間の面影のない自分の顔を触っていく。皮膚と皮膚なのに、カチカチとまるで爪と爪が触れ合っているような感覚。

「もういいよ」

ヘルは目をぱちくりさせ、ルーナに寄せていた顔を引っ込める。見た目はほとんど爬虫類のような肌質だが、それでもヘルは安心感を抱いていた。匂いはルーナそのもの。例え人間じゃなくても、ルーナはルーナ。しかしそれよりふと、ヘルは“大人しすぎる”ルーナの態度が気にかかっていた。

「具合悪くない?」

「うん大丈夫」

ルアの問いに、ルーナは微笑んだ。人間じゃないのは見た目だけ。口角の上がり方、覗く歯、目尻の形、その全てはルーナそのもの。そうルアは内心で胸を撫で下ろす。

「(ルーナホントに大丈夫?我慢しないで泣いてもいいのに)」

「ううん。だって今更だし。それにあたし・・・決めたの。ザ・デッドアイと戦うって」

「え・・・そんなだめだよ」

「お姉ちゃん。あたしだって、ママを殺したザ・デッドアイが許せない。それにみんなともそう決めたの。特効薬が出来ても、このまま、この力を使ってザ・デッドアイと戦うって」

「ルーナ・・・。ランディはきっと反対するよ?」

「ふふ、そりゃあパパは絶対反対でしょ。でもあたし、決めたもん。お姉ちゃんもヘルも戦ってるのに、あたしだけじっとしてられない」

それから精密検査だとして、CTスキャンを受けているルーナをガラスの向こうから眺めるルアとヘル、ストライク、そしてキアラとセリーアン。キアラはまじまじと眺めていた。後に、自分もなるであろう“その姿”を。思わず生唾を飲んでしまうほどに、小さな恐怖が胸に差し込んだ。――私も、ああなるんだ。まだ寝ているチュクナとジュリも、セリーアンも、私も。

「いいなぁ」

セリーアンが呟いた。キアラはその言葉にふっとセリーアンの横顔を伺う。キアラは日に日に、小さくとも不安を募らせていた。みんなが居るとは言え、力があるからとは言え、“普通の生活”の方がやっぱりいい。――1度でいいから、家に帰りたい。

「あの、ザ・デッドアイと、戦ってるの?」

セリーアンがルア達に問いかける。

「うん」

「もしかして、魔法、使えるの?」

正に興味津々の子供のようなキラキラした眼差しのセリーアンに、ルアとヘルは顔を見合わせる。セリーアンは思い出していた。初めて戦った時、男の人が魔法を使ってた。それにニルヴァーナの“火柱”のニュースを。

「うん。私達はまだ初心者だけどね」

「どうやって使えるようになったの?」

「何か身に付けるものに、精霊を宿して貰ったの」

「私もやりたい」

「私達は出来ないの」

「なら、あなた達と一緒に行けば、やって貰える人に会える?」

「う、うん。それは会えるけど、勝手に出てっちゃだめなんでしょ?」

小さく頷くセリーアン。しかし彼女は正にワクワクする子供のようなキラキラした微笑みを浮かべていた。

「私も、魔法使いになってザ・デッドアイを全部倒したい」

「・・・そっか」

それからルーナの検査が終わるとエッサがやって来た。エッサは迷惑そうにルア達を見るが、特に何も言わずルーナ、キアラ、セリーアンの前に立った。

「特効薬が出来たわ」

「えっ!」

声を上げたのはルアだった。当然、驚きの表情は見せた。しかし当の3人は黙っていた。しかも顔を見合わせたルーナとセリーアンの表情に、エッサは勘づき、内心で首を傾げた。

「セリーアン、あなた、本当にマフィアと戦うつもり?」

「うん」

「それは許可出来ないわ。大人達は、あなた達を心配しているのよ?マフィアと戦うなんて、想像以上に辛いのよ?いっぱい傷付くし、本当に人を殺さなきゃいけないのよ?本当に分かってるの?」

「でも、私、悪い奴をやっつける為にこうなったって思いたい。こんな自分でも、不幸だなんて思いたくない」

「セリーアン・・・。だからって、きっと国は許さないと思うわ?」

「いいもん勝手に行くから。それにテレビでやってた。真っ直ぐな姿勢を貫けば、世論だってついてくるって」

「ふう・・・そこまで強い思いがあるなら仕方ないわね。でも、1人で行っては駄目よ?」

電話が掛かってきて、エッサを一瞥したストライクがその場を離れる。電話を掛けてきたのはノイル。電話を掛けてきた理由は分かっていた。というよりむしろ、待ちかねていた。

「もしもし」

「とりあえず拠点は制圧した」

「そうですか。守りはどうでしたか?やっぱり魔獣が居なかったから守りも薄かったですか」

「あぁまあな、へへ。まったくいきなり来た嬢ちゃんの妹が倒れるわ、そのままあんたらが連れてくわ、まあそれはしょうがないが、アテナ達が居たから問題無かった。で、妹さんは?」

「さっき目覚めて、検査も終わって“元気”ですので、これから合流しに行きますよ」

「ん、分かった」

電話を切ったノイルは遺体にふと目を留めた。TSAの2人の遺体。ほんの一瞬でTSAの人間が死んだ。まるで虫でも軽く捻り潰すように殺された“かつての仲間”から、そしてその遺体を見下ろすソクラから、ノイルは何となく目を放せずにいた。それから拠点を調査する為に、マフィアを逮捕する為にと応援がやって来た。ゾロゾロと警察が拠点へと乗り込んでいく。その中で、ノイルはTSAの部隊長と顔を合わせていた。

「お前、TVMに復帰しろ」

「えっ・・・」

「そもそも今のお前ら、世間的には“一般人同士の争い”だぞ。ネットの掲示板じゃヒーローとか何とか言われてるが、上もそろそろお前らのマスコミ対策に煩わしく思ってる。だから正式にTVMの人間として魔法使いを連れて、堂々と拠点を潰せ。そうすれば、TSAは援護に回れるからな」

「援護って、どういう事すか」

「人間は駒じゃないからな。上はこれ以上のTSAの殉職を抑えたいんだ。だから今後、ザ・デッドアイの拠点制圧に協力するTSAは前線に立たない」

「そう・・・すか。まあ、そうですよね。いくらTSAでも、魔獣になんて敵いっこないっすもんね。てかそれって、もう辞令出てるんすか?」

「正式な“紙切れ”は今夜にでも届くだろう」

「・・・そうすか。分かりました」

「安心しろ、常にスナイパーに守られてるって事だ。それとお前、兵器研究施設の魔獣にされた少女達、どこまで知ってる?」

「いや、ほとんど知らないっすよ。連れの中に魔獣の少女の家族が居ますけど、あっちだってそんな情報の漏れ方なんて考えてない訳ないっすよね?」

「まあそりゃそうか。これはまだ検討段階だが、魔獣の少女を、政府は正式にザ・デッドアイの拠点制圧に使おうとしてる」

「まじすか!?それこそマスコミに叩かれませんかね」

「まあな。だが、俺らは言われた事をするしかないだろ。もしそうなったら、お前の所に来るんじゃないか、はは」

「まあ、そうなったら全力で守るだけっすよ」

1人の兵士が慌てた足取りで城門を通り過ぎた。他の兵士とは特に違和感の無い、一兵士といった風貌のその男は行き交う兵士達と同じように、廊下を進み、階段を上がる。出来れば誰にも話し掛けられない方がラクだ。話し掛けられても別にいいが、どこの誰だと詮索されると面倒臭い。かといって無駄に周りをキョロキョロするなどもっての外。それから大広間に入り、そのまま止まらず、キョロキョロもせず、王間への階段へと向かった。しかし階段に差し掛かろうとしたその時――。

「おい」

エンディは1歩だけ階段に足を掛けたまま、動きを止めた。そして横目でその男の顔と片側の肩に掛けられた小さなマントを見る。エンディは内心でため息を吐いた。よりによって隊長に声を掛けられてしまうとは。

「見ない顔だな、ちょっ」

早足で階段を上り出したエンディに素早く手を伸ばす、ルーカス第1隊長。ルーカスの手がすぐにエンディの背中の服を掴んだが、「あっ」と声が漏れるとエンディはそのまま後ろへ倒れ込んでしまい、無意識に挙げられたエンディの手はペチンと音を立ててルーカスの顔を叩いた。そして「うおっ」と声が漏れると、道連れになるような形で2人は共にキレイに後ろに倒れた。ガタンと床が響き、4本の脚がキレイに揃って上げられた。そこにアポロンがやって来て、脚を上げて寝ている2人を見て少し顔をしかめた。

「・・・何やってるんだ」

「あ、アポロン王子、不審者です」

「いや悪い。そいつは私の密偵だ」

「すいませんルーカス隊長。ちょっと動揺して、思わず走ってしまいました」

「え・・・」

すんなりと頭を下げた怪しかった男を前に、ルーカスは若干青ざめ、アポロンに素早く頭を下げた。

「失礼しました」

「いやいいんだ。ルーカス第1隊長、スパイの事は他言無用で頼む」

「勿論です」

アポロンはエンディと目を合わせ、無言で小さく頷く。それは待っていたと言わんばかりのリーダーたる表情だ。そしてアポロンはエンディを先導するように王間への階段を上っていった。

「ご報告申し上げます。ザ・デッドアイ内でクーデターが起きたようです。アマバラを支配しているのは依然ザ・デッドアイですが、ザ・デッドアイ内での派閥争いの末にトップが代わり、今のところ今後の動きに予測が出来ません」

「そうか。ではアマバラの様子は」

「朗報かと。アマテラス姫が、亡命したようです」

「ほう。なら今なら接触するチャンスだな。アマテラス姫を捜し出すのだ」

「はっ!」

TVMへの復帰辞令。その紙を見つめ、ノイルは“TVMへの転属辞令”の紙を思い出していた。それを病院に持っていき妹に見せると、妹はすごいねと笑みを見せた。しかし俺がTVMに入ったから妹は死んだ。もし制服警官のままで居たら、妹は死ななかったかも知れない。

「(警察手帳見たいなぁ)」

「あ?へへ。小学生かよ、ほらよ」

「(おー。ねえ、やっぱり警察官に戻れて、嬉しい?)」

「・・・・・・あぁ。そうだな、妹は、俺が警察官なのをヒーローだって嬉しがってたからな。そういや、お前にも兄弟くらい居るだろ?犬だもんな」

「(そういえば聞いた事なかったよ。ボクは産まれてすぐルアの所に来たし。でも、ボクなんて珍しい犬種だから、きっと兄弟くらい居るかもね)」

そう言って、ヘルはチキンを飲み込んだ。そしてノイルは復帰辞令を封筒にしまうとカップを持ち、コーヒーを飲み込む。そんな時にルアとアルテミスが料理を盛りつけた皿を持ってテーブルに戻ってくる。そうここはとあるホテルのレストラン。ノイルはふと夜空を見上げ、妹の顔を思い浮かべた。――必ず、ザ・デッドアイを潰してやるからな。

エッサは現在、魔獣の少女の総務担当。つまりは世話役。そんなエッサは所長のブラカウン、2人の見知らぬ役人と対峙していた。

「TSAの前線配備を取り止める代わりに、魔獣の少女を正式に対ザ・デッドアイの人員として配備する事となった」

「・・・そう」

「どうした、私は反対するかと思っていたが」

「セリーアンがね、もう既にやる気なのよ。だから国までそう言うなら、もう止められないもの」

「そうか」

「その前に1つ、自分から戦うと決めた子だけにやらせて。そしていい?役人さん。あの子達はただの女の子よ。絶対に守るって約束して」

「分かってますよ。TSAの任務はただの援護じゃない。魔獣の少女の“死守”ですから」

エッサは静かに扉を開け、眠っているセリーアンの傍にゆっくりと腰掛けた。そして優しく、セリーアンの頬を擦った。最初は世話役なんて面倒だとは思った。けど、見れば魔獣なんかじゃなく、ただの女の子だった。そういえば、さっきこの子達ペット飼いたいとか言ってたっけ。どうせなら、あのケルベロス種のような守ってくれるような動物が良いわね。

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