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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「摩擦が引き寄せるもの」前編

「(記憶が、無いって・・・・・まじで。それで力が使えないんじゃ、どうしよう)」

「普通に戦って勝てばいいんじゃない?」

そう進言したのはファティマだった。でもファティマは味方としてではなく、悪魔の囁きのような悪戯っぽさもなく、至って冷静な表情だった。

「(そういえば、ガルゼルジャンの力、カンディアウスの力でも弱められたんだよね。それなら、蘇りし者の力なら、ある程度は戦えるのかなぁ。あ、あの、もし良かったら、一緒にアミセル倒してくれない?)」

「・・・それは、断るわ」

ピリッとした空気でもない、穏やかな暖かさ。ファティマは常にそんな雰囲気を醸し出す。だからヘルも、何となく落ち込まなかった。

「何でだよ、アミセルが破滅の炎に焼かれる事は望んでるんじゃないのかよ」

そう問いかけたのはカースベルク。

「望んでる訳じゃないわよ。私が望まなくてもそうなるけど」

「じゃあ、アミセルにとっての破滅の炎は、アルテミスって事か」

「それは分からないけど、そうかも知れないわね」

「でも、もしアルテミスがアミセルを倒そうとしても、邪魔しないんだよな?」

「そうね」

「てことは、アルテミスに協力したら、破滅の炎はアルテミスに向かう事になるのか」

「そうね」

「ほんと厄介だよなぁ」

「つまり、味方にしたいと思った者には敢えて近付かないのがお前の生き方か」

シルヴェルがそう言うと、ファティマは上品に微笑む。

「そんな単純なものではないわ。生きる事も、私も力も。私と関わったなら、あなた達にもいづれ不幸が訪れるわ」

「(えっ。じゃ、じゃあ、ボク達は、これで)」

禁界の合同キャンプ場。

「(とりあえずはさ、カルベスの欠片は回収したんだし、もうこれ以上世界が混乱する事はないよね?)」

「エッグモンスターは?」

「(あ、うん。それは、一先ず置いといてさ。問題はアミセルをどう倒すか)」

「真正面からは倒せないんだろ?なら今回は俺はパスだ」

そうアーサーは野菜スープを一口。

「それにカンディアウスとムラクモと戦ってた方が修業になるしな」

「(だったらアーサー、エッグモンスター何とかしてよ)」

「そうだな、俺はまだ見たことないけど。でも聞いたところじゃ大したことなさそうだ」

「アミセルってどんな人なの?」

問いかけたのはマスカット。

「(えっと、ボクが話したのは一瞬で、ほんとはよく分かんない。ただこれからアミセルは全ての蘇りし者を支配するって、アミセルの知り合いのファティマっていう蘇りし者の人が言ってたから、やっぱり戦わないといけない)」

「そうなんだ。ガルゼルジャンみたいな人なら、戦わないとだよね」



第81話「摩擦が引き寄せるもの」



「でも、よく分からないのに倒しちゃうのね」

アンシュカがそう言うと、マスカットは考え込むように表情を落ち着かせる。

「アミセルは今はどんな風に街を壊したりしてるの?」

「(あー、いや、破壊的な活動は全くしてないかな。でも、アミセルは自分で、誰も殺さず支配するって言ってた)」

「じゃあ良い人じゃん」

「(でも、逆らう者はすぐに殺しちゃうよ?)」

「そんなぁ。話し合えないのかな」

「(話し合っても、アミセルは一瞬で人を殺す魔法を使うから)」

「かなり危ないわね。その魔法」

「一瞬で殺して一瞬で生き返らせて、言うことを聞かせるっていうのが、アミセルかな」

「ガルゼルジャンみたいな奴ならむしろ簡単だろうけどな。そういう相手は、気付かれない内に倒すのが良いんじゃないか?」

「(お、じゃあ、遠くから、スナイパーみたいな?)」

「僕、会ってみたいな、アミセル。ちゃんと話してみないと」

「(え)」

「危ないわよ?」

「うん。でも、悪い人じゃないと、僕、あんまり戦いたくない」

「マスカットらしいね。私は賛成だよ?」

テリッテがそう言えばマスカットは笑顔で頷く。そういう展開になるのは分かってた。そうヘルも頷いて野菜を一口。

「じゃあ、話したいだけならファティマも一緒に居た方が逆にやられなくて済むかな」

「ちょっと待って。そこにはクラウンも居るんだよ?絶対怒ってるよ、ヘル達がカルベスの欠片持ってった事」

「(あ、だよね。アミセルのそばにはクラウンも居るんだ。だから、ボク達全員に怒ってるよ。話し合いなんか出来ないかも)」

「そんな」

「よし、それじゃあテリッテ、そろそろ行くぞ」

「うん。じゃあみんな、これから私とアーサーはカンディアウスさん達と修業してくるね」

「うん。行ってらっしゃい」

ダーラ、アミセルの居る古城。アミセルはふと王座から立ち上がった。何故なら退屈だから。

「クラウン」

「ん?」

クラウンはいつものように、ソファーに寝転びながら、スマホ片手に生返事。だから仕方なく、アミセルはソファーまで歩み寄る。

「魔石は、本当はどこかに隠していたりしてないのか?」

「ん、ああ、それがしてないんだよなぁ。まさかここまで来て盗られるとは思ってなかったからな。だからお前の手足はもう増えないぞ」

「盗られたなら奪い返せばいい」

「そんな簡単じゃない。ただでさえ血剣族には関わりたくないってのに。それに、もう蘇りし者の数は十分だろう。手足だったら、今居る蘇りし者を狙うしかない」

「ファティマを呼んできてくれ」

「はあ?めんどくせえ」

するとアミセルはスマホが持たれた手を押し退けて無理矢理クラウンの膝の上に座り、両手でがっしりとクラウンの頬を掴んで唇を重ねた。

「従うまで離れないぞ」

「本当は嬉しいんだろ?」

がっしりとクラウンの顔を掴んだまま、アミセルはクラウンを真っ直ぐ睨みつける。

「分かったよしょうがない。ていうか、お前も外に出て散歩くらいしたらどうだ。退屈じゃないのかよ」

「生きていた時も、外に出た事は数えるくらいしかない。だが、お前が居るなら」

蘇りし者達は皆、“支配”を背負っている。だからクラウンはとっくに分かっていた。アミセルの支配は“愛”だと。生きていた時にそれが手に入らなかったから、今ではそれに執着している。そうやって自分を支配していると。そしてクラウンはダーラの街にやって来た。まるで親に付いてくる子供のようにアミセルはクラウンの手を握っていた。

「うるさい所だな、城下町とは」

「そうか?ここは静かな方だけどな。ほらそこだ」

クラウンが指を差したのはドッグラン。

「ファティマ」

振り返るファティマとカースベルクとハクジュソウ。

「あら、あなたも遊びに来たのね」

「遊び、か。生きていた頃は遊びなどなかったな」

「何か用なのか?」

「呑気な事を。ファティマ、お前はあたしの手足として、蘇りし者達を支配する為に動いているはずだが」

「だから会ってきたわよ?他の蘇りし者達」

「どうだった」

「どうって、まぁそうね、シルヴェルは支配出来そうにないわね。だってもうお相手が居るそうだし。だから先ずはシーザーと話してみたらどうかしら?」

「話す。あたしが?」

「言っておくけど、あなたの“存在”で相手を支配したいのなら、それはあなたにしか出来ないわ。ここからはあなたが自分で動く事ね」

「そら、そうだよな」

クラウンは握られる手がぎゅっとなる感触に、アミセルからの怒りを感じた。しかし表情に出さないのは、否応なしに納得したのだろうと。

「所詮、手足など、無いのも同然かも知れない」

そうハクジュソウが呟けば、アミセルはハクジュソウを見た。その瞬間、ハクジュソウが見たのは、周りに沢山の人が居るのに、アミセルには誰も話しかけない、という記憶。

「求めているんだな、人を」

「・・・何を見た」

「お前の目の前で、人々が踊る。だがお前は踊れないし、誘われもしない」

「あら、友達が居なかったの?」

「違う!・・・いや、違わない。あたしは王だ。どんな舞踏会でも、あたしは踊らなかった」

「ワンワン」

「舞踏会っていうのは、そうね、人が集まって踊るのよ」

走っているボンと、木から飛び降りて低空飛行して遊んでいるコン。そしてヒュンはファティマの隣で寛ぐ。そんな長閑な時間さえ、アミセルには遠い世界だった。だからどうすればいいか分からず、クラウンを見た。

「シーザーの下へ行くぞ」

「そうか」

パッと消えたクラウンとアミセル。やって来たのはケルタニアの国立保全樹海、大地の大樹。2人がパッとその地に立った瞬間から大地が蠢き、刺々しく逆立ち、2人を囲んで道を塞いだ。

「何の用だ」

姿も無いのに声がした。辺りを見渡すクラウンとアミセル。

「お前がシーザーか」

「あぁ」

アミセルは何となく理解した。応えたのは“木々のざわめき”だと。──そうか、ここは、“全てがシーザー”。瞳を覗く事が出来ないとは、とても厄介な相手だ。

「ファティマが言ってたな。お前は全ての蘇りし者を支配すると」

「あぁそうだ。お前を支配する為に、わざわざ会いに来てやった」

「お前との戦いに興味は無いが、来るなら来るが良い」

「生憎、あたしも戦いには興味が無い。あたしは戦わず、殺さずに支配する」

「オレを支配したかったら、俺が満足する果物でも持ってくるんだな」

「そんな事で良いのかよ」

「なるほど、お前は大地。ならば果実はお前にとっては命なのだな」

「だが半端なものではオレは満足しない」

「いいだろう。この前の借りもある。必ず借りは返す」

「あー、あの桃な、あれは美味かった」

「戻るぞ」

パッと消えたクラウンとアミセル。そんな2人を遠くから見ていたシーザーは、ゆっくりと桃をかじった。ダーラの街に戻って来たクラウン達。それからやって来たのは大型スーパーマーケット。

「ほう。これが市場か。一先ず、全部持っていくか」

「え?」

「1度に全て転移させるくらい容易いだろ」

「いやちょっと待て。そういう事じゃない」

「何だと」

「量じゃなくて質だ」

「質?ではこの中で1番良い物を持っていくのか」

「そうだな。って言っても分からないが。大した違いなんかないだろうしな」

とりあえず生鮮食品売場を歩く2人。見れば見るほど、どれが1番美味いものか分からなくなってくる。そんな時にアミセルはふと立ち止まった。目に留めたのは、1番大きくて刺々しい果物だった。

「これは?」

「パイナップルだ。試食があるぞ。食ってみようぜ」

試食コーナーにあるカットされたものを1つ取って食べてみる。それは程よく酸っぱく、甘くて果汁が溢れるものだった。

「美味い」

「確かにな。だが、平凡だ」

「平凡じゃなさそうだぞ」

「ん?」

「値段が高いし、こういう陳列のし方は、目玉商品って事だからな」

「目玉・・・誰の目玉だ」

「いや、あの、そうだった、お前は世間知らずだった。とにかくこのパイナップルは、この店が良い物だって言ってるって事だ」

「そうなのか。なら持っていこう」

「一応、金払った方が」

「王が物を買う事などしない」

「ったく、お前が生きてた時だってな、本当は側近やら世話役が買ってたんだぞ。ちょっと待ってな」

立派なパイナップルを1つ抱えて、クラウン達はまた大地の大樹に戻って来た。まるで護衛が列を成して客人に威厳を示すかのように、大地は逆立って道を作り、そして双方から槍を傾けてクロスさせるように小さな木々が道を塞ぎ、客人を立ち止まらせる。

「どうだ、いいパイナップルじゃないか?」

するとクラウン達の目の前でクロスしている木々が開き、そこにシーザーが現れた。シーザーはパイナップルを黙って受け取るとまじまじと見つめ、それから葉っぱの部分を引っこ抜き、いつの間にか手に持っていたナイフでトゲの部分を削ぎ落とし、ゆっくりと果肉にかぶりついた。モグモグしているシーザーを黙って見つめるクラウン達。

「美味いな」

「だろ?」

「だが平凡だ」

「え?」

「やはりな」

「いやいや、大人気って書いてあったぞ?」

「ダーラで栽培されているものか」

「それは、多分そうだな」

「これは、最も平凡で流通量の多い品種だ。これ以上に味も良く香りも良いパイナップルがある」

「何だと、そうなのか」

「お前の舌は所詮平凡な味覚だという事だ」

「はあ?お前が高級なもんしか食って来なかっただけだろ。美味いんだからいいだろうよ」

「半端なものでは満足しないと言ったはずだ」

そう言うと再び木々が両側からザザッと傾けられ、シーザーの姿は覆い隠された。

「何なんだよ。おいシーザー、そのパイナップルはどこにあるんだ」

「自分で探せ」

「行くぞクラウン」

溜め息を吐きながら転移していくクラウン。その先はただのカフェ。とりあえずコーヒーを飲みながら、クラウンはスマホと睨み合う。

「これか、高級パイナップル、ダイアモンドパイン」

「こうして歩かされてる時点で、あたし達はあいつに転がされている」

「じゃあ、どうすんだ、シーザーを諦めるのか?」

「全く、考え方も平凡だな」

「何だおい」

「このままその高級パイナップルだけを渡しても、この前の借りを返したに過ぎない。パイナップルともう1つ、シーザーを唸らせるものを持っていく」

「そうだな」

すると何やら腕を組んで、アミセルは真剣な表情を見せた。思い出していたのはファティマの言葉。あなたの存在で支配したいのなら、それはあなたにしか出来ない。

「仕方ない、あたしも動いてやろう」

「何すんだ」

「それはお前がパイナップルを持って来てからだ」

“パイナップルの定義”からは逸脱しないようにではあるが、遺伝子編集によってマンゴーとリンゴの旨味が取り入れられた、ダイアモンドパイン。糖度が高いのにさっぱりとした味で、一般のものよりも肉厚。しかし収穫までは、品種改良によって育てやすくなった一般的なものより倍の5年かかるので生産量の少なさ故に最高級と言われている。そんなダイアモンドパインが売られている場所をネットで検索したクラウン。

「よし、行くぞ」

頷いたアミセル。それからダーラの首都、サランクにある高級スーパーに、2人はやって来た。生鮮食品売場に置いてあったダイアモンドパイン。

「・・・高すぎんだろ。しょうがねえのか。にしても、ここはすごいな。ダイアモンドパインだけじゃない、遺伝子編集によって作られた高級フルーツがこんなに。これなんかいいんじゃないか?」

クラウンが指を差したのはドラゴンフルーツ。品種名はツインヘッド。遺伝子編集で取り入れられたものはメロン、アロエ。アロエの保湿性によって、噛めば爽やかな甘い果汁がとてつもなく溢れ出すようになったドラゴンフルーツ。

「これも高いが買ってやろう。これならシーザーも満足するだろう」

「買ったら城に戻るぞ」

「え、何でだよ」

「シーザーが、絶対にしない事をする」

「え?」

言われるがままクラウンは転移した。するとアミセルの古城で、アミセルはキッチンに向かった。そして掌をひっくり返せば、そこにはシェフの女が現れた。

「お呼びですかアミセル様」

「この2つのフルーツで、とびきりに美味いものを作ってくれ」

「かしこまりました」

キッチンに入った時から分かっていた。なるほど、シーザーが絶対しない事、それは料理。これは必ず満足させられる。そうクラウンは期待した。ただ不思議に思ったのは、幽霊が現代のフルーツの扱い方を知ってるのかという事。

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