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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「失われた奇跡」後編

シエネイラ、轍の街。それから戻ってきたイシュレとヘル。ヘルの頭上には50以上のカルベスの欠片があり、シエネイラ全体から周辺国まで広大な範囲にはもう欠片は無いとイシュレが告げると、ファウンデイルは頷いた。

「もしクラウンがまだ持っていたとしたら、あとはそれだけという事でしょうか」

「クラウンは意外と狡猾だからのう。隠している想定もしておくべきだろう」

「(でも、あっちの世界でも今のをやったら、クラウンをあっと言わせられるんじゃない?手持ちが無くなったら、保管場所に行くかも)」

「ほう、それは名案だ」

「ん?」

振り返るシルヴェル。何かを感じたのか、急に遠くを見つめたそんな様子をルアはふと気にかける。

「どうかしたんですか?」

「何か来るぞ」

その直後、シルヴェルの周囲にパッと光剣獣が3体出現し、シルヴェルと同じように空を見上げた。

「まさか・・・」

呟くファウンデイルの部下。そんな態度にふとヘルが気になった途端、空にヒビが入った。それはどこからか飛んでくる、そういうものではなかった。そしてバリンッと空間に穴が空くと、そこからモンスターが現れた。そんな一言で表せる生物。パンパンに膨れ上がった芋虫のようなものが、弾丸のように飛び出してきて、でもそうかと思ったら胴体から鞭のようにしなやかなものが4本飛び出してきて、数メートル先の地面や建物にベタベタとくっついた。胴体が瞬時に脚を伸ばして着地してそして、最後に1本の鞭のようにしなやかなものが出て来ると、その先端はパカッと開いて歯を生やし、眼球を覗かせた。

「(なんじゃありゃあーーーっ!)」

「知ってるんですか?」

ルアがそう聞けば、ファウンデイルは渋い顔をした。

「遭遇は2度目になる。初めはカンディアウスとムラクモが、トルム達と戦っている時にも現れた」

ふとイシュレは瞳を虹色に光らせた。胴体だけで大型トラックくらいはある巨大なモンスターは顔をグニャッと振り向かせて、シルヴェルを見つめた。飛び出していく光剣獣たち。

「だが、知ってるとは言えん。名前も分からん」

光剣獣の突撃に、モンスターはよろめかなかった。逆に鞭のような脚で蹴り飛ばし、その衝撃で光剣獣は粉々になった。

「(あっ)」

「所詮1番“軽い”やつだ」

直後に1体の光剣獣は一回り大きくなって、青カビ色の光を纏った。その光剣獣が突撃していくが、それでもモンスターの胴体は岩のように動かない。

「(あの脚、植物みたいに細いのに)」

「霊気の壁」

「(イシュレ、あれって何なの?)」

しかしその問いに、イシュレは首を傾げた。

「見たことない、感じたこともない。でも纏った霊気がとても分厚い」

「(霊気の壁かぁ)」

気がつくと空間の穴は無くなっていた。それが自然現象なのかすら分からないまま、ただヘルは粉砕される光剣獣を見上げていた。

「ならば」

シルヴェルが手を挙げれば、その先の上空にはドラゴンが出現した。ギョロっとドラゴンを見上げるモンスター。威嚇なのか、モンスターはガシンガシンと歯を鳴らした。すると直後にモンスターは脚と頭をシュッとしまい込んで胴体だけになって、推進力も何も無さそうなのにその場からロケット弾のように飛び出して、青カビのドラゴンに体当たりした。でもドラゴンに纏う白い霧のような光がモンスターを受け止め、更には光の爆発によって空高く跳ね返した。

「(その時もいきなり襲ってきたの?)」

「そうだ。だが、喧嘩を売った相手が悪かった」

それから青カビの鱗の雨がモンスターを襲うと、モンスターは胴体だけのままドカンッと地面に墜落した。その直後だった、シルヴェルが眉間を寄せたのは。爆発と鱗を直に食らっても無傷の胴体は、またニョキッと脚と顔を出した。

「随分と頑丈だな」

ギョロっとドラゴンを見上げるモンスター。その眼差しはまたギョロりとシルヴェルやルア達に向けられていく。

「(何か怖い。生き物なのかなぁ)」

「あの硬い殻、すごく霊気が・・・硬い」

「(硬いの?岩なのかなぁ)」

「あの殻は岩じゃないよ。霊気」

「(ん?霊気の、塊?そのまま?)」

「うん」

「(どういう事なんだろう)」

そんな時、カツンと歯を鳴らしたモンスターは口から砲身を出し、真っ白な光の球を吐き出した。一瞬だった。それはシルヴェルに向けられたものだと分かった時にはシルヴェルは爆発に巻き込まれていて、青カビのドラゴンがモンスターに掴みかかっていた。

「シルヴェルさん!」

白い光の球の、白いモヤみたいな、そしてただのモヤなのに何となく不安と恐怖を掻き立てるようなものがシルヴェルから消えていくと、シルヴェルの右手は岩のように固まっていた。

「これは」

「だ、大丈夫ですか?」

「どうなっている」

治癒玉(セレミヤ)

ルアの手から出現した治癒玉。しかし治癒玉はシルヴェルの右手の上で左右に揺れた。

「そんな、治せないの?」

「それは、霊気の塊」

そう言ってイシュレは手を伸ばし、シルヴェルの右手を覆う岩にしか見えないものにそっと触れた。イシュレの瞳がフワッと虹色に光ると、シルヴェルの右手に覆うものにヒビが入った。

「これは薄くて、簡単に壊せそう」

「(厄介な攻撃だなぁ)」

青カビのドラゴンに投げ飛ばされ、宙に舞い上がるモンスター。強い風圧でひらひらと脚と頭が靡いている最中、ドラゴンは白い霧のような光を集めてモンスターを包み込んだ。そしてその瞬間、モンスターはとてつもない大爆発に包まれた。やって来た風圧に、ファウンデイルとその部下は思わず顔を背ける。

「(やったかな)」

また真っ直ぐ墜落したモンスター。胴体だけがコロンと転がって、ポトポトとちぎれた脚と頭が落ちてきた。

「(やった)」

しかしその直後だった、胴体からニョキッと細い脚と首が飛び出たのは。そして5本目の鞭のようなものの先端がパカッと開いて歯を生やし、眼球を覗かせた。

「(げっ)」

そうかと思えばまたすぐに脚と頭をしまい込んで、胴体だけとなって宙に浮いて、何もない上空に飛び上がって“空を貫いた”。

「(逃げた)」

青カビのドラゴンが光となって消えて、それから轍の街に平穏が戻ると、モンスターに破壊された跡に野次馬が集まっていったり、あれは何なんだとファウンデイルに問いかける人が来たり。

「カンディアウスさん達は、モンスターを倒したんですか?」

「いや、逃げられた」

「(じゃあ、同じモンスターかな)」

「あのモンスターの事、カンディアウスさん達の他に、ロードスターの人達は知ってるんですか?」

「勿論、カンディアウスとムラクモは常にロードスターの管理下だからな」

「(じゃあテリッテ達も知ってそうじゃない?)」

「うん、でも、とりあえずカルベスの欠片の回収が先でしょ」

「(それはイシュレとやっとくからさ、ルアは禁界に行って来てよ)」

「え、うん」

ヘルが顔を向ければイシュレは真顔の笑顔で頷き、イシュレを乗せるとヘルはさっさとパッと消えていったので、ルアもファウンデイルに挨拶してから禁界の合同キャンプ場にやって来た。

「あ、ルア」

来て早々、ルアの存在に気がついて、呼びかけて手を振って来たのはアンシュカ。アンシュカはグズィールとマスカットと一緒に居た。笑顔で手を振るルアとペルーニ。それからすぐに近くで、他のエルフや翼人達と過ごしていたテリッテがやって来て、もう少しで禁界に自由に行けるようになる「山の道」が出来そうだと楽しそうに語り始めた。

「その人は?」

「シルヴェルさんだよ。私達、夫婦になったの」

「・・・・・えぇええ!ほんとに?おめでとう!」

ダーラにて。上空を飛びながら、イシュレはヘルの背中の上で目を閉じる。広大に伸びていく意識。普通の人々にはそんな魔力など感知出来ないが、そんな時にふっと空を見上げたのはファティマ達と、アミセル達。

「何だろう」

カフェで過ごしていたファティマ達。でもファティマはすぐに理解した。とてつもない範囲の霊気はともかく、この感じは先程ルア達と共に居たあの変わった女性の霊気だと。姿は見えないが空に居るのは分かるので、カースベルクも何だ何だ?と立ち上がる。

「移動、してる、のか?」

霊気の発現地点までは分からないものの、カースベルクにはまるで雲のように大きな霊気が動いているのが分かった。

アミセルは古城のバルコニーに出た。それはただの見物人のよう。一方クラウンは読んでいた雑誌を閉じた。それは何となくの胸騒ぎだった。──独立自警団には顔が割れてる。エルフがカルベスの欠片を探知してきても不思議はない。けど何でダーラだと分かった?単なる偶然か。いや、蘇りし者を味方にしてるならむしろバレるのは時間の問題だったか。

何となくポケットに手を入れるクラウン。その瞬間、違和感に気が付いた。ここにあったはずのカルベスの欠片が無くなっていた。

「何でだよくそ。まさか・・・あのエルフが」

パッと移動したクラウン。向かったのは地下の倉庫。そこにはカルベスの欠片を保管してある箱がある。

「やりやがった」

保管してあるカルベスの欠片を、奪われた。そう怒りで箱を閉じ、振り返って地下室から空を睨んだその時、地下室からでも分かる広大な霊気はスッと消えた。

「ふう、まあ良い。今更カルベスの欠片を盗ったところで、この世界の流れは止まらない」

クラウンが王間に戻ると、王座にはアミセルが座っていた。

「何かあったのだろう」

「大したことじゃない。1つ出し抜かれただけだ」

「何だ」

「・・・魔石が全部奪われた。それだけだ」

「先程の者達か」

「多分な」

それからシエネイラに戻ってきたヘルとイシュレ。ファウンデイルの下に戻っていって、10個のカルベスの欠片を渡すと、ファウンデイルの部下は頷いた。

「想定よりかは少ないですね」

「(クラウンが居る場所の周りも調べたし、やっぱりどこかに保管してるのかなぁ)」

「とにかく、少しでも不安要素は取り除かれた。2人共感謝するぞ」

「(うん)」

禁界の合同キャンプ場。野菜スープを飲みながら、例のモンスターに会ったとルアが言えば、テリッテ達は驚いた。

「あれって一体何なんだろうね」

「名前付けたらいいんじゃないかしら?」

アンシュカがそう言えばテリッテは考え込み、そこにはふとした沈黙が流れる。そんな時、パッとヘルとイシュレがやって来る。

「あ、ヘル達、いらっしゃい」

「(うん)」

「今ね、ヘル達が会ったっていう丸い生き物の名前を考えてたのよ」

「(名前・・・た、確かにあった方が良いよね。でも勝手に付けていいのかな)」

「ただのモンスターだけじゃ、情報の共有もしづらいと思うし」

「(んー。そうだね、じゃあ、何か卵みたいだし、エッグモンスターは?)」

「あら、何か可愛くないわね」

「(ペットにする訳じゃないんだからさ。え、まさかペットに名前付ける感覚で言ってたの?)」

「え、そ、そんな事ないわよ。そうよね、仲良くなる為の名前じゃないわよね」

「(それよりさ、カルベスの欠片、回収したよ?)」

「うん」

ルアが頷けば、先程その話を聞いていたテリッテも安心した表情を浮かべる。

「じゃあ、もう蘇りし者は増えないんだね」

「(多分ね。クラウンがどこかに隠してなければだけど。それからクラウンの事なんだけど──)」

──少し前。シエネイラにて。

「(そういえばさ、クラウンの事どうするの?捕まえるの?)」

「その事だがな、やはり一度、話を聞く必要がある」

「しかし、問題はクラウンの強さですね」

「あぁ、更にはクラウンのそばには蘇りし者がおるそうだからな。一筋縄ではいかないだろう」

「(ボクは出来れば、戦いたくないな。一度やられたからって事じゃなくて、蘇りし者達、みんなが悪い人達じゃなくてさ、クラウンのした事が悪い事かどうか、考える必要があるっていうか)」

「そうだな、何にしても、どうすればクラウンと対話出来るか考えなくては」

「(じゃあ先ずルア達に相談してくる)」

ヘルのそんな話を聞けば、ルアもテリッテも真剣な表情を浮かべていく。

「話を聞いたらどうするのかしら」

「(それは、どうするんだろう。さすがに逮捕したり牢屋に入れたりはしないんじゃない?してもウパーディセーサの力でどうにかしちゃうと思うし)」

「肝心な事聞いてないじゃん」

「(え、あ、うん、つい)」

「じゃあ先ずはファウンデイルさんとちゃんと話そう」

テリッテがそう言えばみんなも同意して、早速テリッテとルアとヘルとイシュレ、シルヴェルがまたシエネイラにやって来る。すると人数が多いからと、ファウンデイルはルア達を草鉄本部の中に案内する。

「ファウンデイルさん、クラウンをどうするんですか?」

テリッテが問いかける。

「血剣族が罪を犯した場合、罪が大きければ所属している族からの追放、あるいは極刑となる。しかしクラウンの所業は今までにない事だからのう。罪の大きさを測るのは難しい」

「(さすがに極刑は無さそう?)」

「蘇りし者は、それぞれに意思があり、普通の人間と変わらないからのう。それを生み出したとて、罪というほどの事ではないと思う。ただこれは草鉄族長の意思、クラウンの処遇は改めて族長会議を開かねばならん」

「でも先ずは捕まえるのが先、ですね」

「そうだな、クラウンとその近しい蘇りし者の無力化、それが急務だろう」

「(それなら良い方法がある)」

ヘルがそう言うとルアも頷き、テリッテは驚きの笑みを溢す。

「どんな方法?」

「(ほら、ガルゼルジャンと戦ってた時、急にガルゼルジャンの力が消えたでしょ?)」

「確か、名前の知らない男の人がやったって」

「(そう、その蘇りし者の力を消す力を持った蘇りし者の人、見つかったんだよ)」

「じゃあ、その人に協力して貰えばいいね」

「(うん)」

「ならばこちらとしては、早急にクラウンの処遇を族長会議にかけよう」

それから再びルア達はダーラにやって来た。どんな人か見てみたいというテリッテも一緒にやって来たとあるカフェ。しかしそこにはもうファティマ達の姿は無く、シルヴェルが気配を追いかけるとファティマ達はドッグランに居た。ルアの姿に振り返るカースベルク。──またかよ。ていうか1人増えてる。

「(おーい)」

駆け回るボンたちを眺めながらベンチに座るファティマ達に駆け寄るヘル。

「あら、あなたも遊びに来たの?」

「(えっと、遊びたいけど、今はちょっとハクジュソウにお願いがあって)」

「初めまして、私テリッテです」

「知ってるよ。翼人は有名だからな。オレはカースベルク、そっちがファティマ」

「お願いって、何かしら」

そもそもクラウンとは何者なのか、クラウンのした事が血剣族という人達の中でどれほど問題視されているか、先ずそれを説明していくルア。

「そこで、私達はクラウンを血剣族の人達に会わせないといけなくて、でもクラウンには強い力があって、近くにはアミセルも居るし、だから先ず、アミセルの力を無力化する為に、ハクジュソウさんの力を借りたいんです」

「なるほど、事情はよく分かった。クラウンは別に仲間じゃないし、あんた達に協力したいとは思うが、ハクジュソウの力は貸せない」

「(何でよ)」

「だってこいつ、記憶を無くして、力の使い方も何も分からないんだ」

「(・・・・・・えぇええーー!)」

読んで頂きありがとうございました。

また新しく出てきたエッグモンスターとやら、どこから来たのか、そして“どうするべき”か、ですね


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