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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「失われた奇跡」前編

ゼーレ帝国、復興中の街アンゼルジにルアとヘルはやって来た。相変わらずゼリア・ノヴァはせっせと働いている。そんな姿をヘルは眺めていた。あれからに比べたら沢山の仮設住宅が建ち並び、少しずつ活気が甦っている。青空マーケットが開かれていたり、はしゃぐ子供達が見えたり。

「(ん、あれ)」

振り向くルア。ヘルの目線の先にあるのは大きめな円形ベンチの真ん中に立つ、3メートルのディンクルス・イコア像。

「(すごいな。本当に英雄になってるんだ)」

「そろそろ行こうよ」

それからルアとヘルが向かったのは、ゼーレ軍基地、新アンゼルジ支部。でもアポは取ってないので、急に来たルアとヘルに門前に立つ軍人は首を傾げた。

「急に来てすみません。イシュレ達に会いに来ました」

ガルゼルジャンに命を奪われた約160万人。その人達を魔法で蘇らせているエルフのイシュレ達。つまりゼーレ帝国は、独立自警団アルテミスにも多大な恩がある。それはもう顔パスどころではない。門前の軍人は直ぐ様門を開けて、ルアとヘルに深く頭を下げた。

「(イシュレーっ)」

仮設住宅だけど内装はとてもラグジュアリー。そんなエルフ達専用の場所で、イシュレは寛いでいた。ルアとヘルの姿を見ればイシュレは真顔の笑顔で頷いた。

「(休憩中にアレなんだけどさ、ちょっと頼みたい事があって)」

「うん」

「(ガルゼルジャンの力を消し去った人居たでしょ?あの人って今どうしてるか分かる?)」

「確か、サウサンが、居なくなったって言ってた」

「(やっぱそうなのか。昨日さ、異世界から来た蘇りし者と、この世界の蘇りし者が戦ってるところに行ったんだけど、その時に、ガルゼルジャンの力を消し去った人の臭いがしたんだ)」

「そこには居なかったの?」

「(それが、クラウンの臭いもして、しかもヤバイ力を持った蘇りし者も居て、のんびり捜す余裕は無くて。でもここに居たんじゃなかったっけと思って来てみたんだけど)」

「捜してるって事は、あの男の人の力が必要って事?」

「(そうそう。アミセルっていうのが、ヤバイ力を持った蘇りし者で、その人とクラウンは一緒に居るみたいでさ、その人を倒さないとクラウンも倒せないんだ)」

「どんな力なんだよ、そのアミセルって」

そう言って2階から降りて来たのはジェクス。

「(一瞬で人を殺したり、蘇らせたりって感じ。何か、命を操ってるような)」

「ふーん。まぁでも、蘇りし者の力を消すあいつが居れば問題は無さそうだな。あいつさえ居れば、この戦争は終わるはずだ」

「(でもどこに居るか)」

「サウサンが、あいつが居なくなったって言ってたのは3日くらい前だったな」



第80話「失われた奇跡」



「サウサンは特に何も頼んで来なかったが、捜してやってくれ」

「うん」

「ありがとう」

「(じゃあちょっとの間イシュレ借りるねー)」

「あぁ」

街に出て最初に向かったのはシルヴェルの家。

「(シルヴェルー、昨日転移させてくれた古い城、また送って欲しいんだけど)」

「戦うのか?」

「(ううん。人捜し。あの城にあった臭いで気になるのがあって。あとはまぁ、偵察も兼ねて)」

「そうか」

ソファーに座って世界の料理の本を読んでいたシルヴェル。イシュレはその本を何となく目に留めていた。それから向かったダーラ。でも頼んだのはアミセルが居る城ではなく、その近くの普通の街。イシュレの検索の力があれば、この距離で十分だから。とある丘の上、イシュレは目を閉じる。

「城の中に、蘇りし者が居る」

「(アミセルは女の人だよ)」

するとその瞬間、イシュレはハッとして口に手を当てた。それはまるで見てはいけないものを見てしまったかのような様子。

「(どうかした?)」

「アミセル・・・」

その言葉の続きは、ヘルが読み取った。アミセルが、キスしている、と。目をぱちくりさせてイシュレは真顔だけど、明らかに戸惑っていた。

「(相手って、まさか、クラウン、かな。と、とりあえずあの、他の人達は?)」

「んー、居ないけど」

「(あれっ。ファティマは居ないのか。んー、じゃあ、どうしよう。ファティマっていう女の人から、蘇りし者の力を消す男の臭いがあったんだけど)」

「蘇りし者の気配を捜すなら、またシルヴェルさんに頼めばいいんじゃない?」

「(うん、そうだね)」

ダーラのとある街。ファティマ達はレストランに居た。テラス席で、のんびりとした朝食。

「名前付けないのかよ」

寛ぐシザリハウンドたちを見ながら、カースベルクは問いかける。ふとファティマもサンドイッチを食べながら目を向ける。

「生きていた時には別に名前なんて付けてなかったけど」

元の姿に戻っても炎のシザリハウンドの体の花はほんのりと赤みがかっていて、岩のシザリハウンドも翼は少しだけ硬くなっていて、氷のシザリハウンドは小さな角を生やしていた。

「でも、お前らも名前欲しいよな?」

カースベルクを見れば、3匹は甘えるような眼差しをファティマに向ける。

「んー、そうねえ。じゃあ──」

ファティマが最初に指を差したのは、炎のシザリハウンド。

「あなたはボン」

次に指を差したのは岩のシザリハウンド。

「あなたはコン」

そして最後に氷のシザリハウンドに指を差す。

「あなたはヒュン」

カースベルクはモグモグしているものを飲み込んだ。そして思った、なんと安易な名前だと。顔を見合わせる3匹。そして揃って一瞬だけ空を見上げると、揃って頷いた。

「で、どうすんだよ。とりあえず、ざっとこの世界の事は説明したし、この世界の蘇りし者にも全員会った」

「そうね。気になるのは、エメリスとレグリム。あの2人はまた来るわ」

「まぁ、そうか」

カースベルクがふと目を向けたのは、ハクジュソウ。仕方なく行動を共にしているので、仕方なく食事を奢っているが。

「記憶は無くとも、蘇りし者から何か感じるんだよな」

「少し、記憶が見えるだけだ」

「それって、鏡で自分を見たらどうなるんだ?」

「・・・いや、どうにもならない」

「・・・そうか」

そして食後のコーヒーを飲んでいたそんな時だった、ファティマ達の前にパッとルア達が現れたのは。

「ん、あんたら、アルテミス」

「ワウワウ」

「(やあ、昨日はどうも。ん、いいよいいよ)」

まるでお礼でも言ってるかのようにボンたちがヘルにすり寄っていく傍ら、カースベルクはマガツエルフという者の姿をまじまじと見つめる。

「急にすみません。私達、ある人を捜してて。蘇りし者なんですけど」

「(その人)」

「ん?ハクジュソウの事知ってんのか?」

「(ハクジュソウっていうんだ。カースベルクは知ってる?ガルゼルジャンとの戦い)」

「そりゃあ、勿論」

「(その時、ハクジュソウも居たんだよ)」

「お!そうなのか」

「(で、ハクジュソウの力は、蘇りし者の力を消すんだよ)」

「マジか」

「(ハクジュソウの力が発動したから、ディンクルスはガルゼルジャンを倒せたんだ)」

「そうなのか」

「(でさ、ハクジュソウの力があればアミセルを倒せると思うんだ)」

「何故、そんなにアミセルを倒したいの?」

「(アミセルが居たら、クラウンを倒せないから。蘇りし者を生み出してるクラウンを止めないとさ、このまま世界はどんどん混乱していく)」

「まぁ、確かにそうかもな。けど、悪いことばかりじゃない。実際、悪と位置付けられているのはガルゼルジャンだけ、シルヴェルもシーザーも、こいつらも殺戮なんてしない。まぁ、アミセルはちょっとヤバイかもだが」

「ワンワン」

「(え、まぁ、そうだよね。付き合い方が大事。それは分かるけどさ)」

「この前、クラウンは言っていた。チャンスをばら蒔いていると」

「(チャンス?)」

「世の中は理不尽だと。蘇りし者たちは、その理不尽に埋もれた思念だと」

「え、オレには、勿体ないからって言ってたな。元々、あの魔石はテムネルっていう魔力の塊だそうだ」

「(実はさ、蘇りし者の事とか、テムネルの石に関してはボク達の方が詳しいんだよ。何であの石が出来たかも知ってる)」

「そうなのか。じゃあ、危険な物ってのは本当なのか?」

「(うん、まあね。膨大な魔力の塊だし。だから回収して保管しといた方が良いんだけど、クラウンが使っちゃって)」

「クラウンの思惑は知らないけど、私がこうして今ここにいる事を、私は悪い事だと思いたくない。チャンスだと言うなら、私は、今度こそ大切なものを守りたい」

「確かに全部が悪いこととは思わないけど、もしガルゼルジャンのような蘇りし者がまた出てきたら大変だから、クラウンには蘇りし者を増やすのを止めて貰わないといけないと思う」

「まぁ自警団として戦うあんた達の気持ちは分かるけどなぁ。だからってじゃあ、蘇りし者を全員、殺すのかよ。クラウンの思惑はどうでもいいが、チャンスってのは案外真理だぞ」

「(それは・・・)」

「魔石が無ければ、蘇りし者はもう出て来ない」

そうイシュレが口を開くが、顔を合わせたルアはキョトンとする。

「(とにかく、クラウンよりも先にカルベスの欠片を集めちゃえって事?)」

イシュレが頷くと、ルアもなるほどと頷く。

「カルベスって、ロードスターの、というか異世界からの侵略者の?」

「(そうそう。簡潔に言うとさ、カルベスが作ったテムネルの欠片なんだよ魔石って。カルベスを倒した時に、大量に散らばって)」

「なるほど、事の全体が見えてきた。つまり蘇りし者の戦いは、ロードスターの戦いの延長なのか」

「(そう)」

「そりゃあアルテミスが深く関わってる訳だ」

「(イシュレの言う通り、今は蘇りし者との戦いより、魔石の回収が先じゃない?)」

「うん」

「(もしまたガルゼルジャンみたいな奴が出てきても、ファティマ達はちゃんと世の中を守ってくれるんだよね?)」

ヘルの質問に、ファティマは少し真剣な顔でカースベルクと見つめ合う。

「まぁ、オレ達も、そりゃあ殺戮には賛成しないからなぁ」

「(それなら安心。じゃあボク達はこれで)」

今のところ、特に蘇りし者による“破壊的な騒動”は起きていない。だからルア達は一先ずシルヴェルの家に戻った。これから異世界に出掛けるとルアが言えば、シルヴェルは付いていくと応えた。何故なら暇だからと。そしてルアとヘル、シルヴェルとイシュレは、シエネイラにやって来た。カルベスとの戦いの跡である“轍の街”にある血剣族とロードスター連合王国との共同基地に赴けば、やがて取り次いで貰ったファウンデイルがやって来る。

「(こんにちは)

 こんにちは」

「うむ」

報告と方針の相談。先ずクラウンの居場所が分かったと言えば、ファウンデイルは落ち着いた表情で頷いた。

「(──だからさボク達、先ずはカルベスの欠片を全部集めた方が良いんじゃないかと思って)」

「そちらの世界の蘇りし者は、良い者が多いのだな」

「こっちの世界の蘇りし者との関わり方はどうなんですか」

「ふむ。大層に良いとは言えないが、ロードスターの仲介によって、こちらにもカンディアウスとムラクモという駒はあるのでな、絶望的な劣勢ではない。確かに元を絶つというのは必要だ。だが、カルベスの欠片は、いくつどこにあるのかが定かではない」

「(そうだよね。全部回収したっていう確証。イシュレ、どうにか出来る?)」

「出来るよ。欠片の気配を検索する」

「ほう。やはり魔力の扱いでは、我々人間はエルフに遠く及ばない。簡潔に、その方法でやってはいるが限界を感じていたところだ。では欠片を1つ持って来よう」

ファウンデイルの部下がカルベスの欠片を1つ持ってきて、それをイシュレに手渡すと、イシュレは欠片をまじまじと見つめてすぐに返した。

「覚えた」

「いいのか?」

ファウンデイルの部下が戸惑いながらも欠片を受け取るとすぐにイシュレは外に出た。

「リッショウボールも」

「(うん。場所は分かったら、転移させてパッと集めれば良いんだよね?)」

「うん」

リッショウボールで高めた霊気で超広範囲に検索をかけたイシュレ。その晴れ渡る空のように、果ての見えない透き通った強力な霊気を前に、ファウンデイルは爽やかな風に吹かれたかのように唸って顎を擦る。

「これはすごい」

そしてその直後だった、目を瞑って立ち尽くすイシュレの足下にカランカランとカルベスの欠片が落ちてきたのは。

「おお!なんと。この一瞬で、20個以上もの欠片が」

まるで金貨でも堀当てたかのように、ファウンデイルの部下がカルベスの欠片を拾っていく。

「(ファウンデイルさんの金庫にあるやつ・・・じゃないよね)」

するとイシュレは目を開け、ヘルを見た。ヘルは初めて見たのだった。イシュレのちょっと怒ったような“真顔”を。

「(えへへ、そんな訳ないよね。ちょっと思っただけじゃーん。ごめんって)」

「もっと早く頼れば良かったのう」

「そうですね」

「これが、我の源か。これを使えば、我はもっと力を増すのか」

「何の為の力じゃ」

すかさずファウンデイルが問いかける。

「蘇りし者達は、力が拮抗している。蘇りし者達との戦争を鎮める為には、より強い力が必要だ」

「理はあるな。して、シルヴェルと言ったな。お主からは極めて強い魔力を感じるが、何者だ」

「我は、蘇りし者だ」

「すみません、驚かせないように隠してて」

「そうなのか。それが夫とな。しかし人間である事は変わりない。なるほど、蘇りし者になら、これは扱えるのやもしれん」

「この辺りにはもう無い」

「(そっか。そんなに遠くに飛んでないとは思うけど、もうちょっと広く視てみる?)」

「うん、でも」

「(ボクに乗ったら楽だよ?)」

「いいの?」

「(うん)」

ヘルがイシュレを乗せて飛んでいって、ファウンデイルの部下が金庫にカルベスの欠片を入れていく。

テンベカ、海沿いの街ショーカ。その大きな砂丘に建つ城に、エメリスとレグリムは戻ってきた。エントランスにパッと現れた途端、エメリスはグラッとして膝を落とす。

「何でもないわ。お腹空いただけ」

エメリスに肩を貸しながら、レグリムはトボトボと歩いて階段を上がっていく。そんな時に2階からやって来たのは、アルカナ。

「単に数で負けただけだ、気に病む事はない」

「思ったよりも全然手がかかったじゃないのよ。あんたの見込みが甘かったようね」

「だが面白かっただろ?」

「それはまあね。それよりお腹空いた」

「部屋に戻れ。すぐに運ばせる」

エメリスとレグリムは自分の部屋に戻った。半獣から人間の姿に戻り、レグリムがドカッとソファーに座って少しすると扉は開かれた。やって来たのは普通の人間である“アルカナ軍”の男。その両手に持っていたのはパンが入ったバスケットとフルーツが入ったバスケット。直後にはもう1人の男も入って来て、洗面所から戻ってきたエメリスとレグリムのボロボロ具合を笑った。

「どうしたよ2人共」

「数で負けただけだ。次はトルムも来るか?」

「良いねえ。けど、カンディアウスとムラクモが手強くてな。余裕は無いんだよなぁ」

「そうか」

パンをかじるレグリム。

「けど、確かに異世界に行く組とこの世界の蘇りし者を倒す組、合わせた方が良いだろうなぁ」

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