「アキレス」後編
まだ実戦を経験していない頃、尾状器官の可能性を自覚した。熱を生み出し、それを衝撃波として放出する。伸縮させて打撃に使う。そして“形状を変化させる”。しかしそれにはDNAを新しくインストールする必要がある。
「どうだった?」
「大分理解出来た」
「ユテスは判断速度を改善すべき」
「そういうエテュオンだってさ、指示が分かりにくいんだよね」
「指示の簡潔さは重要でしょ」
「オレも分からなかったぞ。もっと具体的に言って欲しいな」
「ほらリュナークだって」
「・・・分かった」
「私は理解出来た。最後のは挟み撃ちを指示したんだろ?だから私は直進した」
「はははっ」
「何を笑う」
「分かってないじゃん。回り込む指示だって事」
「もういい。私の指示に具体性が欠けていた」
「ホーンに理解させるのって、多分1番ムズいよな?」
「だな」
最初に尾状器官を“カスタム”したのはリュナークだった。“人型”で編成された第1チームの中で、リュナークは1番身軽。それは性格もだ。だからそれを活かせるようにと、リュナークは“刃を飛ばす”ようにした。尾状器官から生成した“小さな鱗”は刃のように対象に突き刺さる。その鱗に熱を保たせる事によって、爆発性能も生み出した。
「色々調べてさ、決めたんだ。アキレスは?」
「俺も決めてはいるが、何かもう1つアイデアが欲しいと思っている」
「あ、エテュオン戻ってきた。調整は良い感じ?」
「演習場で試してくる」
「エテュオンって硬いよなー」
「性格が?」
「うん」
「隊には必要だ」
「まあな」
エテュオンは硬い。それは戦法もだ。戦場においてエテュオンの目的は的確に動く事。博士も、ユテスたちも、本人もそれを期待してる。だからエテュオンは“全身を硬くした”。それから初めての実戦。相手はテロ組織。
「リュナークとアキレスが正面から。ユテスとホーンがそれぞれ別方向から逃げ道を塞ぐ。私は後方から様子を見て空から」
「うん」
「実戦かぁ」
「事前のマップ把握と、想定訓練もしたから、問題無いでしょ」
「だよな。いけるよな」
ウパーディセーサ・ブラックが何人か居るテロ組織。でも生物的に我々の方が格上。現場に着いて、エテュオンの指示通りに向かって早々テロリストウパーディセーサを制圧したところで、想定外の事態が起こった。
「何だよあれ。ウパーディセーサ・ブラック、すごい改造してるじゃん」
「こちらアキレス。改造ウパーディセーサを確認。数は3」
「こちらエテュオン。私が行く。ホーンたちは引き続きテロリストの制圧と確保を」
改造ウパーディセーサは、とにかく筋肉量を増大させていて、尾状器官がまるで本物の戦艦の砲身かのようだった。それなのに尾状器官においてのブースターの役割は失くしていない。相手の砲撃は食らえばすぐには動けそうにない。だがその分、連射機能は無い。そこが隙だった。尾状器官から複数の鱗を発射し、それを爆発させていくリュナークの攻撃によって1人を制圧した後、俺は隙を突き、正確に相手の顔面に衝撃波を撃ち込んだ。それでも衝撃波だけではノックアウト出来ないのは分かっていた。
「後ろ!」
「何っ・・・」
相手の砲撃を食らってしまって、俺は凄まじく吹き飛んだ。思っていたよりも衝撃は重く、すぐには動けなかった。でもその直後だった、空からエテュオンが落ちてきたのは。猛スピードでそのまま相手の脳天に打撃を食らわせた。
「こちらエテュオン、テロリストは全て制圧した」
「アキレス、終わったよ」
「あぁ」
「自己再生出来るけど、さすがに重たい攻撃だったね」
「それでもミスはミスだ。油断した」
テロ組織は壊滅させた。その功績でアルタライザーの価値、必要性は証明出来た。それからも訓練と実践の積み重ねで、着実に第1チームは自信をつけていった。
「“四足歩行型”の第2チームのアルタライザーたちも、ゲリラテロの鎮圧に成功したって」
「お、良かったじゃん。誰から聞いたの?」
「第2チームのリーダー。さっき会った」
それは世界情勢を調べている時だった。自分という存在の“ベース”がウパーディセーサと聞かされ、実際にそれがいつどこで生まれたか、記事を検索して閲覧していた。その延長にあったのが、デュープリケーター。
「リスベラ博士、これは」
「ウパーディセーサを応用して作られた生物よ。察しの通り、あなた達もね。でも別にデュープリケーターという名称は商標登録されてないし、デュープリケーターかと言われれば明確な定義は無いのよね。だからあなた達の正式名称はアルタライザー。デュープリケーターといえば──」
自分達を創造したリスベラ博士は話が長い。デュープリケーターは元々マフィアによって作られた“武器”だった。しかし心を入れ替えた事で自警団として活躍していき、そのニュースが広まり、それから世界中でウパーディセーサDNAの応用が為された。
「デュープリケーターって、定義無い、のか。へー」
「俺は、このアーサーというデュープリケーターをモデルにしたのか?」
「そう、とも言うし、厳密には違う。様々な動物のDNAを組み合わせて、結果的に似ているだけ」
「偶然に顔が似るものなのか?」
「まぁ、見た目というより、強さをモデルにしてるのは確かよ。それは世界中でそう。見た目を真似したら、モロじゃんってなるでしょ。アーサーのあの尾状器官の手は強いしカッコイイ。だからってそれをそのまま真似出来ないから、その機能を“集約”したものを作ったのよ。あなた達の尾状器官は可能性に溢れてる。例えば──」
「そろそろ訓練の時間」
「博士、後でまた聞かせてね」
「ん?ああ、沢山可能性を探ってみなさいな。尾状器官の」
我々は、俺は、オリジナルではなかった。いや、厳密には過去の様々なデータを参考にしたオリジナル。でもアーサーというデュープリケーターの姿を見た途端、自信が揺らいだ気がした。それはアーサーという存在に対してだけじゃなく、シューガーの戦いにおいての記録に対して、確かに嫉妬を抱いた。
「今回の訓練はアキレスとユテス、デリス達全員で、私達3人の相手」
「オレ達、テロリスト役?」
「そういう事」
「ぐへへ、テロリストだー、がおー」
「そういう事じゃない」
デリス達は第1チームの人間組。人間組のリーダー、デリスと、サンバル、カルバーニは中距離アタッカー。バリトル、ジグは後方支援、ヴェッジはメディック。基本的に前線アタッカーと、索敵をするポインターはアルタライザーが担当。
「デリス達、スタンピストルだよね」
「実弾はマズイが、スタンだけじゃエテュオンは止められない。オレ達は榴弾でいく。足止めだ。2人がそれで支援して、こっちが狙われたら、ネットを使う。ま、迂闊に人間に近付くような真似をする可能性は低そうだが」
「あぁ」
障害物のある演習場。先ず最初に向かってきたのはリュナークとエテュオンだった。先手必勝を狙われた。リュナークの鱗が足元にばら撒かれ、一瞬だけ分断された。でもその一瞬で、ユテスはエテュオンに吹き飛ばされた。エテュオンは硬い。尾状器官から作る熱で外皮を硬化させる。その上、硬化中は衝撃波の威力も増大する。それでも直後にデリス達が榴弾を撃ってエテュオンとリュナークを牽制した。それはリュナークの戦い方を真似たもの。
「え、ちょっ」
しかもその瞬間、出来ると判断したのか、ジグがネットを撃った。見事にリュナークがネットに絡まったので、俺は大きくした上段の尾状器官から“溜めた衝撃波”を放った。隙は一瞬だったが、それもリュナークに命中し、リュナークは吹き飛んだ。しかしそこにホーンが突撃してきて、“先端を槍状に変化させた尾状器官”を突き伸ばしてきた。尾状器官は伸縮性が高い。その特性を活かした槍。そしてその槍は4本。俺は間一髪でそれらをかわしたが、上空からエテュオンが殴りかかってきた。だから尾状器官から瞬間的に炎を吹かして跳んでかわし、衝撃波で応戦していった。
「やはり硬いな・・・」
エテュオンとホーンから逃げていく中、ふとデリスと目が合ったので、デリス達の方に2人を誘導して2人に榴弾の牽制を浴びせた。その隙にホーンに溜めた衝撃波を撃ち込み、ホーンを吹き飛ばした。それでもエテュオンは身軽に動いてきて、俺は鞭のようにしなやかに、岩のように硬い尾状器官に叩かれた。
「・・・くそ」
「ふう、良い訓練だった」
「結局テロリスト組の勝ちだったかー」
「デリス達、榴弾を選んだのは良かった。でも私はスタンの方を使うべきだったと思う」
「そうか?」
「少なくとも私以外は捕獲出来た」
「ああそうか。いや、迷ったんだがな」
積み重ねた訓練と実績。それらは確実な自信だった。だから偉人の復活という事態がこの国に降りかかっても、問題無いと思った。しかし現実はそんなに甘くなかった。最初に確認された巨大な蜘蛛。単体では戦闘力は高くないが、群れとなれば一気に形勢が逆転した。
「・・・さっき見つけた蜘蛛の巣は処理出来たけど、あれがそこら中にあるんだよな」
「地道にやってくしかないだろ。幸い人間でも榴弾があれば問題無い。軍隊だって群れだ」
「そうだよな。デリスの言う通りだよな」
ユテスは性格は明るいが、どこか子供っぽい。だがユテスがあっけらかんとそう言えば、その場の空気も和らぐ。ユテスにはそんな不思議な力がある。
「おい皆!良い報告があるぞ」
「あ、ジグ達帰ってきた。どうかした?」
「蜘蛛の巣を探して国立保全樹海に入ったんだが、その中の洞窟から蜘蛛が出てくるのを確認して、そのまま追跡してみた。そしたら居たんだよ。シーザーが」
「おお!すごいじゃん!」
「これから3班に分けてた第1チームを合流させて、樹海に向かう」
シーザーは生きている。つまり、敵が来れば意思をもって対抗する。それがあの岩獣。エテュオンでさえ弾かれ、リュナークでさえ動きを止められない。ゼーレ帝国の事は常に頭にある。“抵抗に際限は無い”。岩獣だって、ただの通過点に過ぎないはずだ。
「私テリッテ。よろしくね?こっちがアーサー」
「私はエテュオン」
独立自警団アルテミス。その戦闘力は、我々を遥かに越えている。ゼーレ帝国だって、この自警団が居なければ壊滅していただろう。それだけではなく、ガルゼルジャンの力は全世界に及んでいただろう。魔法を教えて貰い、アルタライザーもケルタニアも、この者達に頼るしかないのか。
「こっちがアキレス」
アーサーの目は、ずっと洞窟を向いていた。我々を見てもない。
「ヘル、こん中に居るんだろ?シーザーって奴」
「(うん)」
「ガルゼルジャンみたいになる前にやるしかない」
「(うん、だよね。でもアルタライザーたちに魔法を教えないと)」
「待ってられるか」
アーサーの声色からは焦りが伺えた。それは俺達に期待してないからとかではなく、単純に怯えているように見えた。すると直後にアーサーは青い炎を纏い、洞窟に消えていった。
「(あー。テリッテ、ボクがついてくから)」
「うん」
ゼーレ帝国の惨状を経験してない俺には、分からないだけなのだろう。何故アーサーが、それでは守れないと、怒りをぶつけたのか。
「今から教えるのはリッショウっていう魔法だよ」
ヘルはキュッと止まった。何故なら光が照らすアーサーは壁の前で立ち止まっていたから。
「行き止まりじゃねえか」
「(そんな訳ないよ、さっきまで道があったのに)」
「どうなってんだ」
「(もしかしたら、地形を操るのかな。さっき魔法で見たシーザー、人間じゃなかった。本当の岩みたいになってた)」
背後からの轟音にアーサーとヘルは振り返る。その瞬間からもう岩が突き上がっていて、一瞬で帰り道も無くなった。
「(あちゃ)」
「チッ。転移していくぞ」
ヘルとアーサーはパッと転移していき、目の前にシーザーを確認する。しかしその瞬間からその広い空間で岩が蠢き、壁が出来て、岩獣が2体精製された。
「(そうだ。ボクね、フェニックスソウルをパワーアップさせたんだよ。イエンに教えて貰ったんだ。イエンもリッショウをパワーアップさせたみたいで)」
「え、どんな風に」
オージャソウルのアーサーとフェニックスソウルのヘルを前に岩獣は簡単に撃退される中、そこでは常に岩が蠢き、轟音が響く。
「(何かすごかったよ。リッショウに魔法を融合させたんだよ。ボク達のクウカクみたいに。それで魔──を融──せる──ツを教えて貰ったん──)」
「チッうるせえ」
気が付けば、岩獣が何十体も精製され始めていた。壁のそこら中に顔があって何だか気色悪い。
「(ヤバくない?)」
「やっぱり、こうなるのか」
そして直後、何十の顔がビームのように超高水圧の水を吐き出した。パッと洞窟を出たヘルとアーサー。
「(みんな!岩の奴が何十体も出てくるよ!)」
「・・・何だと」
呟くデリス。するとまたすぐにアーサーが洞窟に入っていく。
「俺が全部ぶっ壊す!テリッテ、そっちは任せる」
「分かった!みんな、先ずは魔法を。次はクウカクっていう魔法を教えるね?」
洞窟を進んでいくアーサー。目の前にはさっきの壁があったが、それはまるで自動ドアのように壁に消えていった。ドカドカと凄まじい足音が響いてくる。だからアーサーは一先ずクウカクで壁を作った。
「魔力を網目のように想像して、その網目を小さくしていくんだよ。そうすると魔力が硬くなって壁になるの」
ユテスもリュナークもそわそわしているのが見て分かる。あの岩のモンスターが、押し寄せてくる。魔法を覚えたとしても、俺達はどれほど戦えるんだろうか。
「(うわあああ!)」
犬の叫び声に驚いたが、気が付けば周囲の地面の岩肌が岩獣になり始めた。それも数え切れないほど。
「くっ・・・」
油断していた。そもそも巨大な蜘蛛は“木から生まれた”。岩獣だって、こうなっても不思議じゃない。
「デリス達、退避!」
「いや車がねえ」
「とにかく走って!」
「くそ!」
「大丈夫だよ。クウカクで壁を作って、そこに避難すれば」
一先ずテリッテが作ったドーム状のクウカクにデリス達が避難すると、デリスを守るようにアキレス達は周囲を警戒した。先程覚えたばかりのリッショウのお陰か、衝撃波の威力が増したが、それでも岩獣の群れは脅威的。
「カーミソウル!」
ロックエルとメアの魔法の鎧は岩の鎧。でもただの岩というより、キレイな宝石のようなカッコイイもの。それからロックエルの、岩の鎧に覆われた大きな右腕から黒い光が洩れていく。それは悪魔の力。黒い光が込められた大きな拳が叩き込まれれば、岩獣はバラバラになった。
「強いな」
ボソッと呟いたのはリュナーク。あんな合体、俺達には無理だ。ヘルという犬だって、まるで不死鳥のように鮮やかな変身を遂げれば、一撃で岩獣を粉砕するし、あんなものを見せられたら、無力を感じざるを得ない。だがそんな事は言ってられない。
「なるべく連携を取っていくぞ」
「あぁ」
幸い、強く目立つ者に岩獣は注目している。だから俺達はデリス達を守る為に、生存第一で戦う。
「うわ、蜘蛛も来てる」
ユテスは尾状器官の先端に鉤爪を着けた。それは物を掴みやすくする為。尾状器官で対象を掴めば、そのまま真っ直ぐ対象に突っ込んでいって、打撃を与えたり、掴んだ尾状器官からゼロ距離で衝撃波を放ったり。その俊敏な格闘を、俺は後方支援していく。我々には、我々の戦い方がある。
読んで頂きありがとうございました。
ここからはケルタニアを中心としたストーリーとなっていきます。




