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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「兵士の誇り」後編

ティネーラは再びコントロールパネルの前に戻っていた。コントロールパネルにはホールの情報が記録されている。ホールの個数は勿論、現在どのホール同士が繋がっているか、ホールはどの座標にあるか等。ホールの座標リストの幾つかは丁寧に色分けされている。赤で色分けされている座標はつまり、“この世界には無い”事を示すものだ。

「青色のリストはこの世界にある方のリストです。この5つの座標を地図に照らし合わせます」

ティネーラの指が軽快に動く。すると液晶に地図が出され、5つの印が浮き出る。そんな映像を、アテナ達は眺めていた。

「青色同士のホールは繋げなかったっけ?」

アテナが尋ねる。

「えぇ。あくまで異次元を繋ぐものなので」

「じゃあこのホールで別の拠点のホールにひとっ飛びは出来ないのかぁ。便利なんだか不便なんだか」

「1番近いのは・・・ノイル、何て読むんだ」

「ワセマールっつう街だな。いやぁしかし、随分と広範囲に配置されてんだなぁ。しかも1つは隣とは言え国外かよ」

「えーもうメンドクサイからさー、このホールで“あっち”に行けば良くない?」

「俺もそう思ったんですが・・・ザ・デッドアイも一筋縄ではいかないようです」

「どゆこと?」

「このホールで、“あちら”のホールに信号を繋ぐ事をブロックされてしまいました」

「どゆこと?」

「だから、恐らくここから逃げる時、ザ・デッドアイの奴らが別の拠点へ早急に連絡し、ここのホールを使えないように遠隔操作したんだと思います」

「え?でもセナタくん、あっちから来れたじゃん」

「あくまでこのホールを使えないようにしただけでしょう。・・・ほら」

アテナは首を傾げ、液晶を眺める。

「“あちら”のホールに信号を繋ごうとしたら、パスワードを要求されてます。こんな事今までありませんでした」

「あれま、逃げた奴らの仕業かぁ。じゃあしょうがないなぁ。じゃあとっとと行って別の拠点を制圧すれば良いのね?」

「姫、そこは慎重に。攻められた事を察知されたら、すぐにそこのホールも使えないようにされますよ?」

「んー、そしたら、全部の拠点を潰せばいいもん」

「えっ・・・“あちら”から、こちらのホールを全てブロックされて閉め出されたら終わりですよ?」

「じゃあ、誰か捕まえてパスワード解かせる?」

「そうですね。制圧と共にザ・デッドアイの人間を拘束する。それが大まかな作戦内容としましょう」

総司令官と一隊長がそんな話をしていた傍らで、ヘルは体調の回復を実感していた。緑色の柔らかい光球、通称「治癒玉」。アルテミスが作り出していた怪我を治す魔法だ。全身を這うように漂い、精霊の力でもって細胞を生まれ変わらせていく。光が消えると、もう傷はないという事。

「(すごいねぇ、全然痛くなくなったよー)」

尻尾を振り、ヘルはルアに顔を擦り寄せる。すると体全体で抱きしめるように、ルアは大きな頭を撫で回した。

「ヘル。あなたは私の守護獣なのですよ?」

「(あ、うん)」

少しだけ厳粛な空気が吹き込む。ルアとヘルはスッと気持ちを静め、アルテミスを見つめる。厳しい事でも言われちゃうのかなと、ヘルはそんな事を思ったが、アルテミスの表情にはどこか子供っぽさがあった。するとアルテミスは、ヘルに両手を差し出して見せた。

「私にも、スリスリするべきです」

「(えへっ)」

それからティネーラは皆に声を掛ける。作戦の内容を伝えると言って。アテナが隣に立ち、皆がティネーラを見る。最強の騎士アテナに、光輝を着たアルテミス。魔法初心者の守護獣と少しは戦える少女には不安が拭えないが、この中で唯一、新種の魔虫に対抗出来る2人の男。これなら戦力に文句は無い。

「これより向かうのは、ワセマールという街にあるザ・デッドアイの拠点だ。先導はノイルとストライクに任せる。最大の目的は拠点の制圧だ。魔虫が出ればこれを撃退し、ザ・デッドアイの人間が魔獣となればこれを撃退し、少しでも組織の壊滅に尽力する」

そうして、ゴーストビルを後にする6人と1匹。ティネーラの脳裏に、アポロン王子の姿が甦る。そしてその胸中には闘志が燃えていた。助けてくれたグラビス、逃がしてくれたアポロン王子に、一兵士として恩を返す。それに何より、プライトリアの兵士として、ザ・デッドアイを打ち倒す。――アポロン王子、必ず助けに行きます。そうティネーラはバイクにまたがった。

重低音が鳴り響く。それでもアポロンは闘志を持ちこたえ、何とか火柱を立ち上らせる。歪んだ火柱が魔虫を襲い、重低音が鳴り止んだ。しかしそこに黒い炎が吹き上がり、アポロンを襲った。アイギスを着ているとは言え、状況はかなり悪い。まともに出せない魔法では、魔虫を殺すこともままならない。それでいて、目の前にはギガス。

黒い炎を振り払い、アポロンはギガスの平手打ちを更にかわす。そして素早い反撃。それは正にボクシングのような拳捌きだ。更には拳が叩き付けられる度、打点から小さく爆炎が沸き出す。しかしそこに、重低音が鳴り響く。その中で何とか火柱を立ち上らせるが、すでにそこに魔虫は居ない。――ザ・デッドアイは、本当に、この私を殺す気なのか?。

――数ヵ月前。

「俺らはこの世界の人間じゃないから、お前らの誇りとか地位とか知らないし、どうでもいい」

得体の知れない男達、アマバラから来たと言っていたのに、それはどうやら嘘だったようだ。密室の応接間で、そいつらは一変した。アポロンは1枚の写真を見せられていた。隠し撮りされたアルテミスの写真だ。

「毎朝7時から、中庭の花畑で1人。昼は週に3度、侍女と2人だけで街を出歩く」

「何が、言いたい。まさか脅してるのか?」

「俺らが欲しいのは武器だ。お前らの命なんて俺らには何の価値もない。だが、無下にされたら・・・やらなくていい事、やっちゃうかもな。それから、考えてる時間は無いと思うぞ?アマバラは、プライトリアへの進撃を開始した」

「何だと!」

「だが、俺らと取引してくれればその進撃も止めさせる。だから今俺らを殺したら・・・まぁそれは言わなくても分かるだろ」

「・・・何が、欲しいんだ。軍隊が使っている武器か?」

「とびっきりのがあんだろ?・・・アニ・ソーサだよ」

アポロンは黙り込む。うっすらと青ざめるそんな王子を、3人の男達は冷徹に見つめていた。

ギガスの呻き声が響き、その手に黒炎が灯る。アポロンは壁際に追い詰められ、重低音に苦しめられていた。

火柱(ストグニア)・・・」

赤い炎と黒い炎とがぶつかり合い、混ざり合って消えてゆく。しかしその瞬間、2色の炎を突き抜け、その手はアポロンを強く壁に押さえつけた。アポロンはただ、振り上げられたギガスの拳を見つめた。――こんな所で・・・。

その時、銃声が響いた。ギガスが後退り、よろめく。ギガスの腹には小さな穴が空いた。アポロンはただ目を見張っていた。更に銃声が響き、ギガスの角が音を立て砕け散る。すると途端にギガスは力が抜けるように倒れ、動かなくなった。壁際に立っていたアポロンの“背後”から轟いた銃声。アポロンはとっさに振り返る。壁には何も無い。しかし、アポロンの影から、何かが出ているのを、アポロンはただ目に留めた。その時、“その黒いもの”から銃声が響いた。直後に魔虫から鮮血が飛び散り、羽音が止んだ。そしてドサッと、魔虫が落ちた。

「うむ、こんなものかな」

アポロンは言葉を失っていた。“自分の影から、ゼウスが出てきた”のだ。しかもその手には見たこともない武器を携えて。

「・・・父上」

「これはな、ザ・デッドアイの連中からくすねた・・・何と言ったかな、スナイパー・・・ライフルと言ったかな。それを少し改造させて貰った。よっこらしょっと・・・私も歳かな」

「どう・・・して」

「お前も青臭いな。まんまとザ・デッドアイに騙されおって。危うく消される所だったではないか」

「・・・ずっと、いやいつから、まさか最初から?」

「泳がせる為だ。ザ・デッドアイの目的を探る為にな」

「何故、もっと早く出て来なかったんだ。アニ・ソーサがザ・デッドアイに渡るのを阻止出来たはずだ」

「武器は所詮武器だ。より強いものを新しく作られれば価値など無くなる。さて、今早急にやるべきなのは、城の死守だ。アニ・ソーサは奴らに渡った。ここで抵抗すれば、プライトリアを落とす事まで執着はしないだろう」

「その為に、アニ・ソーサを」

「アポロン、お前だって、プライトリアを守る為にアニ・ソーサを渡したんだろ?」

「・・・だが・・・」

「ザ・デッドアイの本質までは見抜けなかった、だな」

「・・・あぁ」

父上は、決して、逃げたのではなかった。ましてや娘達を見捨てた訳でもなかった。娘達には自分の鎧を着させ、私には“傍にいる”という事を。だが、それでも、母上の事とは話が違う。

「・・・聞かないのか?」

スナイパーライフルとやらに目線を置きながら、呟くようにゼウスが尋ねる。アポロンはふと内心で首を傾げるが、母上の事かと頭を巡らせた。

「今更、母上を見捨てた理由を聞いてもどうなる事でもない」

「・・・この際だから言わせてくれ。これからは親子の連携なくして敵は倒せないからな。それに、私もいつまでも逃げていては前に進めない、今なら、心の整理もつきそうだ」

「とても落ち着いてないようには見えないが」

「あの時は、わざと忙しくしてたのだ。・・・怖かったのだ。レトの・・・顔を見るのが。1度でも見たら、体中の力が抜けてしまうのではないかと、だから・・・」

「あの時何故そう言わなかった。言っていれば、アテナもアルテミスも、不安がらずに済んだものを」

「・・・弱い、父の姿を、見せたくなかった。お前達に」

「・・・まったく」

「・・・すまなかったな。だが、そのお陰でお前が王になると逞しくなったのは幸いかな」

「私は・・・最初から逞しいさ」

「はは・・・」

アポロンはふと、父の微笑みを見た。伏し目がちの苦笑いだ。普段通りの、不器用な歪んだ笑み。それでもアポロンは緩んでしまいそうになった気持ちを抑えるように、遠くに目を逸らした。

「さっさと行こう」

「うむ。ああそうそう大事な事を忘れる所だった」

一方、ヘルはチキンを頬張っていた。これからマフィアの拠点を襲撃しに行くとは言え、時間は例外なく昼時を回っていた。しかしこれから戦いがあるからこそ、ヘルはしっかり食べておきたいとそれらしい理由を述べたのだった。ここはとある公園。ヘルがチキンを食べてる時、人間達は一休み中。しかしそんな時――。

〈――聞こえるか〉

アテナとアルテミスの鎧から、突如聞こえてきた声。それはまるで、電話でのスピーカー通話かのようだ。2人には当然覚えがあり、その現象だって慣れたものだ。しかし2人以外の全員は当然の如く何事かと顔を向け、ヘルは思わずルアに投げ込まれたチキンを口から溢した。

「ヘルぅ」

「(うわーん)」

「お父様」

〈うむ、アリー。アティも居るかな?〉

「居るよー。お父様、その様子だと、急いではなさそうだね」

〈あぁ〉

「どこに居るの?」

〈アッパーと共に居る〉

「ホントに!?アポロン無事なんだ」

〈まったく、父上は私達の事も騙してたんだ。どこに居たと思う、ずっと私の影の中に居たんだ〉

〈騙してたとは人聞きの悪い。作戦を練ってたんだ〉

〈団結しよう言ってた本人が隠れていてはな〉

〈ひねくれてる場合ではないぞ?〉

〈何だと!?また子供扱いするような言い方だな〉

アルテミスとアテナは笑い出した。まるで家族の暖かさを感じているように。そんな風に笑うのを見るのは初めてだと、ルアとヘルは顔を見合わせ、微笑ましさを分かち合った。

「良かった、いつもの2人に戻って。それでアポロン、城のホールはどうかしたの?」

〈あぁ、ギガスにやられた。復旧には数日かかるだろう〉

「やっぱりそっか。でもセナタくんを寄越してくれて助かったよ」

〈あぁ〉

「アポロン王子、グラビスは!」

〈・・・助けられなかった〉

「そう、ですか」

〈では皆の者、今までの事、そしてこれからの事を整理しよう。何故、アポロンはザ・デッドアイ側についたのか。今なら、話せるだろう〉

「お兄様・・・」

〈ふぅ・・・お前だ、アルテミス。協力し、アニ・ソーサを渡さないとお前を襲うと脅された。あいつらはお前の行動パターンを把握していて、更にその時にはアマバラの部隊がプライトリアに進撃していた。考える余地はなかった〉

〈しかし今、ザ・デッドアイはアニ・ソーサを手に入れるとアポロンの下にギガスと魔虫を向かわせ、アポロンとの繋がりを切り捨てた〉

「何よそれぇ!ザ・デッドアイ、どこまで卑劣なのよー」

〈私とアポロンはこれより、城の防衛に専念する〉

「お父様!私達もすぐに向かいます!」

〈いやアリー、お前達には頼みがある。ザ・デッドアイの本拠地を調べて欲しいのだ〉

「本拠地、ですか?」

〈ザ・デッドアイの人間はそもそも“そちら側”の者。本拠地があるとしたら、そちらにある可能性が高い。もし本拠地を確認出来た場合、準備をした後、制圧する〉

「はいお父様」

〈だが、例えその本拠地を制圧出来たとしても、ザ・デッドアイは壊滅しないと思う〉

「それは、何故ですか」

〈あくまで私の調べだが、ザ・デッドアイは最早、アマバラをも手中に収めている〉

〈確かにそうかも知れない。そうでなければアマバラの使者と偽って私に会いに来る事も、アマバラの部隊を出撃させる事も出来なかっただろう〉

〈それならそれでだ。“そちら側”にあるザ・デッドアイの拠点を全て制圧し、“こちら側”にザ・デッドアイの全ての人間を追い込む。同時にアマバラを救い、味方にし、そしてザ・デッドアイを壊滅させる。これが、我々の作戦だ〉

「はいお父様」

〈さて、ようやく家族で一致団結出来た事だ、いよいよ反撃開始と行こうではないか〉

静けさを取り戻した公園。その時にはすでに、アルテミスとアテナの顔つきは一変していた。不安が拭われ、本来の勢いを取り戻した闘志。その家族の絆という名の鎧は見えない輝きを放っていた。そんな2人を見て同じく闘志を奮い立たせていたのはそう、ティネーラだ。――一兵士として、この家族を誇りに思う。

静けさを取り戻した大広間。そのふとした沈黙の中、親子は見つめ合わない。不器用な父、頑固な息子は共に、大広間の出入口を見ていた。気持ちを分かち合う事などしない、すでに心は1つだからだ。同じ方へ顔を向け、そして2人は歩き出した。

「こ、国王!・・・」

クーデター派のプライトリア兵達の内の“動ける”1人が声を上げる。廊下に出た途端、ゼウスとアポロンが見たのは、負傷している大勢の兵士達だった。

「王子、ギガスは」

「父上がやった。死んだ者は居るか」

「いえ、我々は目もくれずに蹴散らされただけなので、何とか助かりました」

ゼウスが放った治癒玉が消え、その場の全ての兵士達がゼウスとアポロンの前にひざまづく。

「クーデターは終わりだ。ザ・デッドアイは本性を現した。直ちに兵を戻し、総力をもって城を死守するのだ!」

「はっ!」

読んで頂きありがとうございました。ようやく目的が決まったってとこでしょうかね。しかし、道のりはまだ遠そうです。

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