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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「見守るという愛」中編2

何となくいつも思い出すのはお父様の背中ばっかり。遊んで貰うのはいつもお兄様とお姉様。でもそれはそれで楽しかった。ただお父様はいつもお忙しいなと思うだけ。少し寂しいとは思っても、嫌な思いは何一つ無かった。だけどあの時、生まれて初めてお父様に嫌悪を抱いた。それはお母様が亡くなった時。溜まっていた思いが溢れてしまったような感覚だった。お姉様も涙を流しているのに、お父様はお母様を病床から棺に移すのを周りに任せ、国民達に顔を見せる為にと追悼パレードに行ってしまった。でも同時にいつも思い出すのは、お父様からの命を受けていつも自分の傍に付いている使用人。使用人が傍に居ると、お父様の暖かさを感じた。

そんな事を思い出していたアルテミスは1人、エレベーターの前に立っていた。そこは地下室、つまりホールのある場所。しかしアポロンがアルテミスを地下室に連れてきた瞬間、アポロンは1人の男に話しかけられた。

「向こう側から魔虫のサンプルが届いてないんすよねー、まぁちょっと確認だけお願いしますよー、これ、伝票っす。こっちはもう空っぽっす。ほんとはここに置くものが昨日来てるはずなんすけどね。ないんで、あっち側でちょっと確認して貰っていいすか」

「分かった」

「おーいデルトラ、この荷物なんだあ?」

「へえ?ああ・・・」

「これじゃねぇのか?昨日来たサンプル、埋もれてたぞ?」

「うっわマジすか。ああアポロン王子、すんませんこっちの勘違いでしたー」

「そうか」

デルトラは伝票を持ち、“予め隠しておいた荷物を元の位置に戻していく”。

「受け取ったの誰すかねー、困った新人だ」

そしてようやく、アポロンは振り返った。しかしそこに、アルテミスの姿は無かった。アポロンは辺りを見回す、隠れられるような場所は無い。まさか、今になってエレベーターでまた逃げたのか。そう冷静にキョロキョロしているそんなアポロンを見ながら、デルトラは微笑んでいた。

ルアはヘルの背中をブラッシングしながら、実父とのハグを思い出していた。いつも見守る為に、武器を寄越し、ストライクを寄越し、そしてヘルに出会わせてくれた。ヘルの毛皮は当然暖かい。しかしその暖かさの中に、実父の暖かさも感じる。

「(ちょっと上、あーそこそこ)」

「凝ってますねぇ」

「(あらそう?)」

「急にオネエ?」

「(えっへへへ)」

「あはは」

「(またその内温泉行きたいなぁ)」

「そうだね」

「おーいルア、来たぞー」

「はーい」

こんな朝に家に来るのは当然あの2人。ノイル、そしてストライクだ。支度ならもう済ましてる。バタバタと階段を下りると、ランディがルアを呼び止めた。ランディのその表情に、ルアはふと実父を重ねた。

「気を付けてな」

「うん」

優しく頭に手を乗せ、胸元に抱き寄せる。父親という存在とその暖かさ。普段あまりそんな事はしないランディからの突然の抱擁に、ルアは当然照れ臭くなる。しかしその手は自然とランディの腰を掴み、ヘルはそんな姿に内心ほっこりしていた。

「ヘルも無理するなよ?」

「ワン」

「2人共、この前から危険な目に遭ってばかりだが、ごめんな何もしてやれなくて」

「もう何?急に。ランディらしくないよ?」

「そうか?まあ、うん。ルーナも居ないし、やっぱり寂しくてな」

「ルーナならきっと大丈夫だよ」

「そうだな、うん」

女の子から見ても何だかカッコイイ感じのバイクに跨がる2人の男。家の前に待機していたその男達は、ルアの姿を見るとルアがふと立ち止まるほどルアを凝視していた。

「え、何ですか」

「いや。とっとと行こう。TVMの人間からアルテミスの目撃情報が上がった」

「ホントですか!?」

「内偵してたザ・デッドアイの拠点に入ったそうだ」

「そうですか」

「さあて、行きますか。ザ・デッドアイ絡みじゃ放っとけないからねぇ」

エレベーターが開いた。中に居たのはザ・デッドアイの男達、それからか弱そうな1人の女の子。そう、アルテミスは突如口を塞がれ腕を固められ、エレベーターに拐われたのだった。2階のとある物置部屋に連れられたアルテミス。軽く突き飛ばされ、ガシャンと木箱の上に倒れ込む。

「何ですか!あなた達は。こんな事、お兄様が許しません」

「ここはオレ達のテリトリーだ。王子だとか関係ねぇよ」

「で?どうすんだ?え?さっさと全部脱がしてヤっちまおうぜ」

「な・・・なんと愚劣な」

「ハッ、マフィアも知らないクソお姫さまが。黙って城に引き込もってりゃ良かったものを、ヒャッハハ」

埃っぽい部屋に、狂気にギラついた目つきの3人の男達。霊匣を持っていない事を痛感したアルテミスはその恐怖に、遂に表情を歪めた。

「お?泣くのか?え?泣いてる女を犯す方がむしろ気持ちいいぜ?あ?」

「まだ待て。デルトラさんが来てからだ」

2台のバイクが颯爽と街を駆ける。田舎では少し物珍しいインビジブルとミカヅキ。歩道を行く子供達は皆振り返る。そんな2人の臭いを追い、“カチカチ”と路肩を駆けるヘル。ヘルは“靴”を履いていた。靴といっても肉球を保護する為のものであり、踏み込む力を削がないように爪は剥き出しになっている。靴と爪が地面に当たる度カチカチと鳴らす犬を、バイク同様に通行人は眺めていた。

「誰かアルテミスを見てないか?」

「いやぁー見てないすねー」

アポロンに応えながら、デルトラはメールを見ていた。『女は2階の1番倉庫』と書かれているメールを。ニヤリと微笑み、デルトラはしれっとエレベーターに乗り込んだ。

「私も乗る」

アポロンとエレベーターで2人きり。デルトラは流石に少し顔が強張った。しかしその緊張はすぐに解かれた。アポロンは3階をタッチしたからだ。2階でエレベーターが開き、振り返らずにデルトラが出る。緊張の一瞬だ。声をかけられたりしないかと、内心ドキドキしていた。角を曲がり一旦立ち止まる。背後にはエレベーターが閉まる音。デルトラはゆっくり、角から顔を出した。

「ククッ・・・クックック。バカ王子」

1番倉庫に入ったデルトラに振り返る3人。3人の男達は一様に凶漢たる笑みを浮かべ、そんな状況に表情を歪めている女は面白いほど怯えた。

「あーデルトラさん」

「おぉ」

「デルトラ、もういいよな?え?もうヤるぜ?」

「まぁいいか。カドーナさんに一報入れとくから、とりあえず好きにやっといて」

「うっしゃあ」

「イヤっ!来ないで!」

「あぁもしもしカドーナさん?――」

躊躇なく歩み寄る男、バド。体を縮み込ませ、怯える女にむしろ下半身は疼いていく。女はドレスを着ている。何やら高価そうな装飾をジャラジャラ付けているが、脱がすのは簡単だ。しかし気丈そうな女はまず殴るのが定石。女の胸ぐらを掴み上げ、拳を上げて見せる。すると流石に女は目を瞑り、顔を背けた。そうだ、憔悴させてから、ゆっくり――。

――突然の眩い光。バドはドレスから手を放し、思わず顔を背けた。女の胸元の、縫い付けられているペンダントトップみたいなものが、いきなり眩い光を放ったのだった。3階の広間に居たアポロン。しかし眩い光など当然届かないそこで、彼は“感じ取った”。それは正に、“霊匣の霊波”だ。目を見開き、ギョロりと目線を流す。そして直後に彼は広間を飛び出した。

「クソ女が!!」

話には聞いていた。向こう側の人間は、魔法を使うと。そんな記憶を脳裏に過らせ、バドはすかさず怒鳴り付ける。眩い光は消えていた。しかしドレスを着ていたはずの女は、金色の“輝く”鎧を装着していた。その場の男達全員が、その姿に固まっていた。更に固まっていたのは男達だけではなかった。ドレスの装飾から、いきなり霊匣が出てきたと、その状況にアルテミスでさえ戸惑っていた。だがこんな事を出来るのは“たった1人”だけだと、同時に頭を巡らせていた。

「あ?何だよ、驚かせやがって、鎧だけか?え?」

バドは再び手を伸ばした。鎧のせいで脱がすのは無理そうだ。だがスカートはスカート、何も“ドレス”を脱がす必要はない。バドの手はアルテミスの首を掴んだ、再び拳を見せつけながら。しかし直後、アルテミスはバドの腕を掴んだ。その瞬間、腕の中から“砕ける”音がした。

「あぁああぁああ!!!」

凶漢の太い腕が、少女の握力で“潰れた”。それからアルテミスはバドの腹を蹴り飛ばした。比較的大柄な人間が、天井と壁の間にまで打ち上げられたのだ。肉体が波打つ音、骨が砕ける音、そして“ただの人体がガシャンと落ちる音”。デルトラ達は素早くピストルをアルテミスに向け、躊躇なく発砲していく。“威嚇”や“足を狙う”などの考えはない。狙うのは額だけ。しかし少女は倒れない。明らかに、“弾が潰れて落ちていた”。

「チェッ行くよ?」

デルトラが背後に手を伸ばし、センサーに感知させて自動扉を開ける。

「どぅわっ」

しかし振り返ると目の前にはアポロンが居た。2人はぶつかりそうになり、一瞬時間が止まる。

「おえっあ、アポロン、さん」

「お兄様!」

「何を、している?」

ギョロりと目線が流れる。その目はデルトラの持つピストルに留まり、それから金色の輝く鎧に留まった。

「助けてお兄様、私、体を汚されるところでした。やはりザ・デッドアイなど信用出来ません」

「何だと?貴様ら」

「デルトラさん、どどどうします」

「仕方ない。言い訳なんてどうにでもなる、2人共殺っちゃおう」

デルトラがピストルを向けると同時に、アポロンがデルトラの首を掴む。

火柱(ストグニア)!」

「・・・・・・お兄様、やはり、お兄様は間違ってます」

2人には分かっていた。アルテミスが着ているそれが、“父の鎧”だと。ゼウスが所有している内の1つ、「光輝(ブレス)」だという事を。その輝きはアポロンを静かに混乱させた。ゼウスはクーデターが起きるとすぐに身を隠したはず。大事な2人の娘に目も振らず。しかし、それは勘違いだった?・・・。

〈――聞こえるか〉

そこに突然、声がした。その現象は間違いなく2人を戸惑わせ、混乱させた。その声は紛れもなく、ゼウスのものだからだ。

「お、お父、様・・・」

「どう、なってる」

〈アルテミスのドレスに仕込んだ光輝(ブレス)が稼働した時、光輝で通信も繋げるように加工しておいたのだよ〉

「お父様、ご無事なんですか」

〈あぁアリー、声が聞けて嬉しいよ。しかし、こうなったという事は、アリーに危険が迫ったという事だからな。アリーこそ大丈夫か?〉

「お、うっ・・・お父、様・・・ううっ」

〈アッパー、妹が泣いてるぞ?〉

「その呼び方は止めてくれと何度言えば気が済むんだ」

〈うむ、お前は元気だな。アティはどうしてる〉

「牢だ」

〈本当にそうかな?私の、ゼウスの娘だぞ?〉

「取引をした。私がアイギスとアニ・ソーサを持ち・・・・・・ザ・デッドアイを、打ち倒すと」

アルテミスは目を見開く。するとアポロンは少し目を泳がせ、そんな妹から目を逸らした。

「それでアテナはアイギスを封印して牢に入った。アニ・ソーサは私が持っている。これから、アイギスの封印を解きに行く」

〈確かに、アイギスは絶対無二の鎧。しかしアティが最強と呼ばれる理由はアイギスだけではあるまい〉

「それはそうだが、アテナは未だに信じてる。私がザ・デッドアイの心臓を掴むまで、捕まったフリをするという作戦を。だが、私はそんな事はしない。私はザ・デッドアイを支配し、プライトリアを治める」

〈だ、そうだ、アティ〉

「な――」

〈ぬあぁにぃ!?アポロン、あんた謀ったんかいっ!〉

「お姉様!」

「何故だ、どうなってる!」

〈ドレスに鎧を仕込んでいたのがアリーだけだと、言ったかな?〉

「く、要らぬ芝居を・・・」

〈アティのドレスには「恐怖(ストラ)」を仕込んであった。さてとだ、これを機に、家族で団結しようではないか、なあアポロン〉

「は、は?団結、だと?」

〈今ザ・デッドアイからプライトリアを守れるのは私達だけだ。ここで私達が団結すれば――〉

「あんたが言うな!1番・・・1番家族を蔑ろにしてきたあんたが、そんな事言える立場じゃない!確かにザ・デッドアイは脅威だ。だが私がザ・デッドアイを打ち倒し、支配し、プライトリアの王になる」

〈ちょっとアポロン落ち着きなってぇー〉

「うるさい。アニ・ソーサとアイギスさえあれば、私は無敵だ、得体の知れないザ・デッドアイだろうが敵ではない。私が、プライトリアの王になる。父上、私を説得したいのなら、先ずザ・デッドアイ共々、私を負かしてみるがいい」

「お兄様」

〈あれまぁアポロン。悪いけど、あたしはお父様につくからね?〉

「好きにしろ。アニ・ソーサとアイギスを持つ私が負ける訳がない」

〈・・・分かった。分かったよアポロン、お前の本気が。王子であるお前が、父であり王である私を越えるなら、それは私にとっても本望だ〉

「フンッ」

アポロンがその部屋を出ていった。その背中を、アルテミスは寂しげに見つめていた。今何を言っても、きっと兄は引き下がらない。それに、兄の言い分や気持ちが理解出来る中で、何と言ってあげればいいかも分からない。

〈さてとだ、アティはアリーについてやってくれ〉

〈はいお父様。それでお父様は今どこに?〉

〈それは、まだ言わない方がいいだろう。色々と準備があるのでな〉

〈アリーは今どこに居るの?〉

「あちら側です。来てくれればきっとすぐ分かります」

〈はいよー、じゃすぐ行くねー〉

〈通信を切る前に、2人に伝えておく。アティ、アリー、2人共、お前達の事は父として王として、いつでも見守っている。いや、見守る事しか出来なかった不器用な父で、すまないな〉

「いえ・・・」

〈こういう状況になって、アッパーへの教育方針を少し考えた。日頃から溜まったものがあり、今のあいつは少し冷静さを欠いているんだろう。2人共、アッパーの事もどうか気にかけてやってくれ〉

「はいお父様」

〈それではな〉

不器用な父。確かにそれはそうなのだろう。だけど決して、3人の子を愛してない訳じゃない。それはこの光輝(ブレス)が物語っている。いつでも見守っている。その言葉を胸に抱きながら、アルテミスは丸焦げの男達を後にした。

城の王間にあるホールが赤い光の膜を張る。そこから出てきたのはアポロンだ。そしてアポロンの目の前に居たのは、アテナだった。腰に手を当て、待ち兼ねたように立つアテナ。明らかにやっと来たと言わんばかりの態度。それに加え、その表情はまるで困った人を呆れたように見るようなものだった。

「そんなにアイギス欲しかったのかぁ、貸して欲しいならそう言えば良かったのに」

「貸して欲しいとかじゃない。王が持つべきもの、それだけだ」

「それは違うじゃん。お父様はあたしにアイギスくれたし」

「王が変われば習慣も変わる」

アポロンはコントロールパネルをタッチし、黙ってホールの膜の色を変えた。アテナは内心でため息を吐き下ろす。困った“親子”だと。不器用な父に、頑固な息子。

「さあ、アルテミスの下に行くんだろ?」

「はあーあ。まあ、せいぜい頑張りなよ」

「・・・妹を、頼んだ」

「・・・うん」

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