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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「見守るという愛」中編

エッサは目をぱちくりさせていた。それは何となく母親になったような気持ちに似ていた。旺盛な食欲にこっちまで嬉しくなるようで、しかし科学者として、その行動は興味深い。平均年齢14歳の少女達は、1人あたり約800グラムほどの食べ物を1回の食事で摂取していた。少女達の背中から生える羽。その羽を高速振動させるには“それなり”のカロリーを一気に消耗する、というのが現在の見解である。

「ごちそうさま」

「ふー、食べた食べた」

「キアラまたおかわりしたでしょ?」

「半分だけね」

「30分後に索敵開始よ、それまでには歯磨きしなさい」

「はーい」

それから、ルーナ、キアラ、チュクナ、ジュリ、セリーアンは屋上に居た。夕食を終えた後では日もすっかり落ちている。明かりは建物の窓から洩れる光だけ。それはそれでキレイ、しかしその少女達には“見えていた”。人間には消して見えない、街の明かり、そして月明かりに打ち消されてしまった星のひとつひとつが。

「絶対に1人になっちゃ駄目よ?30分経ったら戻りなさい」

兵器研究施設第1棟から飛び出し、現在も“こちら側”の世界に散り散りになっていると思われる“巨大な虫”。それを完全掃討する為に少女達が飛び立った。しかし希望は五分五分といったところだ、エッサはそう考えながら、正に期待半分不安半分といった心持ちで少女達を見送る。何しろ“巨大な虫”の行動範囲が分からないからだ。襲来してから半日が過ぎた、もうすでに何百キロも飛んでいっているかも知れない。一方少女達は、覚えのある空気振動を感じていた。それはあの時を思い出させる、そう、正に巨大な虫が飛ぶ時に発生させる空気振動。つまり、近くに虫が居るのだ。そして少女達はそこに降り立った。振動を感じたとあるマンションの屋上だ。しかし少女達が目の前にしたのは――。

「こんばんは、魔獣の子達」

夜空の下では人間の目にはよく判別出来ないが、少女達にはその3人がスーツを着た男だという事がよく分かっていた。しかも赤い瞳を怪しく光らせ、見た目からしてワルそうな感じ。

「だ、誰?」

少し震えた声で、ルーナが尋ねる。

「君達の仲間さ。それを感じたから、ここに来たんだろ?」

「仲間?まさか・・・バケモノ」

「その言い方は変えた方がいい。それじゃ知性が無いみたいだ。いいか?我々は、魔獣だ。人類の上を行く、新しい地球の支配者」

「魔獣・・・」

「ザ・デッドアイの人でしょ?」

まるでそれがいつもの性格かのように、強気な声でキアラが尋ねる。すると真ん中の男は不気味に微笑んだ。

「我々と共に来なさい。君達はもう人間じゃないんだ、こっちに来るしかない」

「そんな事ない!特効薬作ってくれるもん」

「それはどうかな?信用など出来ない」

「マフィアに言われたくない!」

「そういう意味じゃない。君達を魔獣にしたのは誰だ、我々ザ・デッドアイだ。つまり、魔獣から人間に戻す事も我々なら簡単だ。魔獣を作った事もない政府が特効薬を作れるとは、到底思えない」

キアラが言葉に詰まる。それは他の少女達も同じ事だ。そしてそれを見越し、付け入るように、真ん中の男、ローゲンスは少女達に歩み寄った。

「人間に戻りたいなら戻してやる」

「え?・・・」

「最悪、その体のデータが手に入ればそれでいい。望むなら、データを取った後に人間に戻し、家に帰してやろう」

少女達は皆黙っていた。期待を感じていた。目の前に居るのはマフィア、しかしそのマフィアの言葉を否定出来ない。頭はフリーズしていたが、体は今にも歩き出そうとしていた。

「・・・だめ!!」

しかしそこで声を上げたのは、ルーナだった。体がビクッとするほど、少女達は力が抜けていたのだ。

「マフィアについていくぐらいなら、少しくらい人間に戻るのが長引いてもいい」

「ハァ・・・仕方ない。それなら力ずくで連れてくしかないか」

「こっちは5人だよ?」

「こっちだって3人じゃない」

ローゲンス達の背後にある、非常口階段の扉が開いた。出てきたのは黒いワンピースを着た1人の少女だった。ルーナ達と、同年代の少女。すると直後、セリーアンが声を上げた。

「メイジーナ?」

「・・・セリーアン」

ザ・デッドアイに連れ去られた時の記憶は無い。ずっと眠らされていたから。しかしその前から、セリーアンとメイジーナは顔見知りだった。何故なら家が近所だから。拐われ、ヒトではないものになり、警官達に助けられ、家に帰された。そこで、2人はお互いの事を知った。そんな記憶を、セリーアンは走馬灯のように振り返っていた。そしてずっと考えていた。何故、兵器研究施設に連れてこられたのが5人だけなのだろうと。メイジーナは別の施設にでも連れていかれたのだろうかと。でも、違った。

「俺達を殺す事は出来るかも知れないが、さすがにこいつは殺せないだろ」

セリーアンだけではない、キアラも、無論ルーナも、自分と同じ境遇の少女を目の前に、戦意など持てるはずもない。ルーナはただ、怒りを込み上げていた。

「卑怯者っ!」

「クハッハッハ、卑怯じゃないマフィアがどこに居る。言っとくが、こっちのは君達とは“もう”違う。見せてみろ」

メイジーナは俯いた。しかしバキ、バキ、ミシミシと音を鳴らして、その体は変化を遂げた。ルーナ達と同じような羽がある。しかしルーナ達には無い2本の角、1本の筋が浮き出るように角張った肘、そして小さな蛇腹の尻尾。自分と少し違う、しかしその少しがルーナ達にはより異様に見えた。

「メイジーナもこっちに来て一緒に居ようよ。特効薬出来るまでのお泊まりみたいで、悪い事しなくて済むし、ね?」

「ほう、どうする?俺達から離れるのか?」

沈黙の後、メイジーナが首を横に振る。何も分からなくても、そこに恐怖があるという事だけはルーナ達には理解出来た。そしてその空気は更にルーナの怒りを逆撫でした。

「セリーアン、メイジーナの事は気にしないで、マフィアだけやっつけちゃおう」

「は?」

「あ、うん、そうだね」

「ふざけんなよ?」

ローゲンスはジャケットに手を入れ、素早くピストルを取り出す。その黒光りするものに少女達は萎縮する。まるで自分達が“魔獣”である事を忘れたように。しかしルーナだけはその掌を、ローゲンスに向けた。

「下手な真似はするなよ?ハッ」

「ルーナだめ!」

ローゲンスはメイジーナに隠れ、彼女の側頭部に銃口を当てていた。しかしセリーアンの声と同時に、空気の歪みが駆け抜けた。稲妻の如く緊張が走る。幸いその歪みはローゲンスの背後にある非常階段への入口の角に当たった。衝撃音と、コンクリートの破片がガシャガシャと崩れ落ちる轟音。それはローゲンスの背後の2人の男達も思わず身を屈めるほどだった。

「俺達と共に来い。じゃないと友達が死ぬぞ。目の前で死ぬところが見たいのか?」

「やめて!やめてよ、お願いだから」

その一瞬、空に向けられて銃声が轟く。

「撃てないと思うか?」

「私行く」

「セリーアン!」

ルーナの呼び掛けも虚しくすぐにセリーアンが歩き出す。

「誰が1人だと言った?全員に言ったんだよ。さっさと来い!」

啜り泣き出したチュクナ。彼女はそのまま膝を落とす。

「来ないならこの場で殺すだけだ!立てよオラ!」

ジュリが歩き出す。その姿を見ると、キアラもとぼとぼと踏み出していった。ルーナはただ震えていた。歩き出したくなんかない、しかし握り締めるしかない拳がどうしようもなく震えて、踏み出そうにも足が動かなかった。

「2人は処分だな、仕方ない」

「いやあああ〈ヴオオオオォォ!!〉――」

「ぐあぁあっ」

叫び声、しかし瞬時にその叫び声さえ掻き消えた。3人の男が苦し悶えて耳を塞ぐ。しかし少女達には分かっていた、そして聞こえていた、セリーアンの叫びが。羽の生えていない男達は、重低音に耐えられない。その瞬間、それに気が付いた少女達は顔を見合せ、直後に一斉に男達に掌を向けた。戦闘経験がある少女達だからこそ出来る迅速な判断。空気の歪みがぶつかり合い、その上砕けたコンクリートの粉塵がその場に吹き荒れる。その中で、誰かが銃声を聞いた。

「うっ・・・」

直後に倒れたのは、メイジーナだった。

「メイジーナ!」

セリーアンが駆け寄り、倒れたメイジーナの肩を支える。セリーアンはふと手に生暖かく、ヌルッとした感触をメイジーナの背中に感じた。思わず自分の手を見るセリーアン。暗くて色は分からない。しかし彼女は分からないけど絶対そうだろうと確信していた。それは“血”だと。

「メイジーナ!」

「セリー・・・アン。だい、じょうぶ?」

「喋らないで。撃たれたみたい、すぐ連れてくからね」

「良かった・・・無事で」

「メイジーナ・・・起きて、ねぇ!メイジーナ!」

孤独だった。ザ・デッドアイに拐われるまでは。けど事件という騒ぎが起きて、バケモノになったけど、友達が出来た。その娘もバケモノになったけど、近所だと分かって、寂しくはなかった。短い間だったけど、記憶を振り返りながら、セリーアンは台に乗せられたメイジーナの遺体を見下ろす。

「ザ・デッドアイは更に別形態の魔獣とやらを作り出しているようね。あなた達はもう部屋に戻りなさい。これからこの娘を調べるから」

5人はルーナとキアラの部屋に集まっていた。セリーアンが話をしようと誘ったからだ。

「私、ザ・デッドアイが許せない。・・・私、もし特効薬が出来ても、このまま、ザ・デッドアイと戦いたい。ねぇ、みんなもそう思わない?」

目を覚ますと、目の前にはテーブルと一皿の料理があった。気が付くと自分は椅子に座っていた。向かいの椅子には、アポロンが座っていた。

「目が覚めたなら、一先ず食事しなさい」

記憶がフラッシュバックする。そう、私はお兄様に気絶させられた。お兄様が私を傷付ける事はないと確信しているが、確かに体は無事なようだ。

「ルア達にも、何もしてませんよね?」

「時間稼ぎ程度には少々傷を負わせた。死ぬ事はまずない」

「そうですか。お兄様、何故そこまでアイギスを求めるのですか」

「言っただろう」

「いえお兄様、お兄様は自分の為ではなく、ザ・デッドアイからプライトリアを守る為に、アイギスを手中に収めようとしているのではありませんか」

「違う。お前には関係の無い話だ」

「関係はあります。私もプライトリアの人間ですから。それなら私も、共に戦います」

「駄目だ。アニ・ソーサとアイギス、その2つを持って最強となった私自身が王となる。それだけだ」

「でも、お姉様が大人しくしているとは思えません」

「最強の騎士も、アイギスが無ければただの女だ。食事が済んだらあちらの部屋で眠れ。明日になったら、アテナの下に連れていってやる」

「お兄様、ナプキンがないです」

「あぁ」

アポロンは素早く立ち上がる。そしてキョロキョロとその部屋を見渡したが、その時になってようやく気が付いたのだ。ここは、そういう高貴な場所ではないと。いつものテーブルにはキャンドルがあり花があり、召し使いが当たり前のようにナプキンを膝にかけてくれる。

「いや、用意してない」

「お兄様ぁ、あれが無いとお食事など出来ません」

「ちょっと待ってろ」

アポロンが冷静になったのは、その部屋を出てからだった。アルテミスが子供の頃からずっとそうだった。可愛い妹、何かを頼まれると、体が勝手に動いてしまう。“こんな時”でも、妹の事が無視出来ないと、アポロンは内心で肩を落としたのだった。手頃な布を持っていってやり、満足げに食事を始める妹を、アポロンは少しばかり不安げに見つめていた。フォークとナイフは用意して置いて良かった。それが無いと妹は到底食事など出来ない。

「お兄様、このステーキ、脂身がありますね」

「私だって同じものを食べたんだ、我慢しなさい」

「お兄様、お水下さい」

「あぁ」

アポロンは素早く立ち上がる。それから水をグラスに注ぎ始めた時になって、ようやく気が付いた。まるで、自分は召し使いのようだと。

「ありがとうございます。あの、お兄様、朝まで付き添って貰えますよね?」

「・・・え?」

「だって、こんな所で、1人でなんて怖くて寝られません」

「そ、そうか。・・・分かったよ、仕方ないな」

ベッドが硬いなどと文句を言っていたが、結局眠りについた妹を残し、アポロンは1人、隣の広間のダイニングチェアに座っていた。

「アポロン王子、どうしたんですか」

「あぁティネーラか、大した事じゃない、アルテミスがな、朝まで居て欲しいというものだから」

「そうですか。いやぁほんとに、アルテミス姫は才女ですよねぇ。アポロン王子の目的、察しがついてらっしゃる」

「あぁ、まったくだ。しかしアテナの傍に行かせてやれば大人しくしてくれるだろう」

「そうですね。ところで、ザ・デッドアイの幹部の人間がここに向かっていると聞きました」

「そうか。私の事で来るのか?」

「いえ、まぁいつもの見回りだそうです」

夢を見ていた。何だか寂しくなる夢。いつも少し遠くに見えるお父様が、もっと遠くに行ってしまうような、そんな感じ。アルテミスは不意に目を開けた。やはりこんなベッドではよく眠れない。しかしベッドの下には兄が寝ていて、見知らぬ世界の狭い部屋でもふとした不安が消え去った。しかしそんな時、アルテミスは兄の腰に着いたアニ・ソーサを見る。そこに居る兄はまったくの無防備で、アルテミスはゆっくり手を伸ばした。届きそうで届かない距離、もうちょっと、もうちょっと――。

「あっ」

「・・・うっ・・・何だ?・・・アルテミスか、何してる」

「ごめんなさい。落ちてしまいました」

「まったく・・・ん、もう朝か」

「お兄様、おトイレはどこですか」

「廊下を右に・・・まさか連れていって欲しいとでも言うのか?」

「うふふ、だって知らない所には行けません」

「それは・・・そうだな。まあ私も行きたかったところだ」

アルテミスは常に隙を伺っていた。自分が居なくなれば、お兄様は捜してくれる。アニ・ソーサを持ち出す事は敵わなくても、他に何か、ザ・デッドアイの事を何とか出来る方法を考えなくてはと。

「問題は」

「まったく正常です」

ザ・デッドアイの幹部、カドーナはホールの前に立っていた。しかしその表情はどこか気怠そうだ。“見回り”と言っても、特にする事はない。何故なら機械の操作も人がやる、問題があったとしても人がやる。自分は何もしないからだ。強いて必要な理由を言うなら、幹部が来れば現場がピリッとするくらいだ。

「カドーナさん聞きましたか?今ここに、すげぇ美人の女が居るんすよ。あの例の、“向こう側”の姫らしいっすよ?多分処女っすよ、ククッ」

「姫?・・・あぁ。じゃあとりあえず捕まえろ。何かに使えるかも知れん」

「へいへい、とりあえずっすね。とりあえず犯して、とりあえず薬でも打ちますか、ククッ」

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