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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「奇遇な日」後編

厳かな雰囲気。マスコミに囲まれていたさっきまでとは違い、扉が閉められればとても静かで、自然と背筋が伸びる。でもスーツの人達はそこまで怖い顔じゃない。少なくとも、グラシアに対しては。

「こちらで首相がお待ちです、どうぞ」

先ずはルアが入って、グラシアさんが続いて、アンシュカさんの後に、最後にボク。やっぱりさすがに政府の要所だから、超大型犬でも普通に入れる。

「わぁ、ふかふかそうなソファーね」

「(そうだね)」

ボクはボクで緊張しない性格だし、アンシュカさんもエルフだし“ただの付き添い”だから緊張してない。でもルアとグラシアさんはもうガチガチみたいだ。スーツの人がいっぱいだけど、首相が誰かは何となく分かる。何ていうか雰囲気が違う。40代くらいかな。

「この度は、急な面会を受け入れて下さって、ありがとうございます。独立自警団団長のルア・スコーレです」

「ようこそテッドランへ。首相のホーネルスです」

「三国から来ましたグラシア・テアトリアです」

「あたしアンシュカよ。こっちはスッチー」

「(ボクはヘルだよ)」

一瞬、タメ口?という眼差しをルアが見せてきたけど、アンシュカにつられちゃったからしょうがない。ソファーにエスコートされたから3人が座り、ボクはルアの隣に伏せた。スッチーは一先ず人間には見えなくしたみたい。

「概要は伺ってます。ロードスター軍が三国に攻撃を仕掛けた事について、話し合いがしたいと。確かに異世界の事で、この世界の法律は関係ないかも知れない。しかし戦争行為はどこでだって問題です。シューガーの独断とは言え、ロードスターの連合国として申し訳なく思います。あなた方の要望があれば伺います」

「望む事は勿論、停戦です。でもただ停戦するだけじゃ、いつかまた誰かが戦争を始めてしまうかも知れません。でも正式にロードスターと三国が協定を組んだりすれば、この先も安心かなと。でも連合国王の意思もあるので難しい事は分かってますけど、でも、もしロードスターと三国が仲良くなれるとしたら、どうしたらいいんでしょうか」

ホーネルス首相は静かな溜め息混じりにゆっくり頷いた。でもそれはしっかりと話を聞き入ったからこそ。その親しさはこの厳かな雰囲気の中では少なからず好印象。そうヘルは答えを待つグラシアの横顔をふと見る。

「これは、独立自警団からの正式な抗議ですか?それとも三国からの正式な抗議ですか?」

「えっと・・・どっちもです」

「そうですか。テッドランの首相としては、この場が設けられた事を真摯に受け止めます。しかしあなたの仰る通り、ロードスターの意思は連合国王の意思、ロードスターの首相は3人、首相から連合国王に意見を述べる時は、必ず3人の首相の合意が必要です。シューガーのカルベス首相は、恐らく連合国王への陳述に合意しないでしょう」

「ベンダンの首相がホーネルスさんに味方にすれば、多数決で決まるんじゃないかしら」

「いや、合意は多数決ではありません。1人が拒絶すれば、他の首相はその意思を尊重しなければなりません。テッドラン、ベンダン、シューガーは対等である事が原則ですから」

「じゃあ、決裂してる時はいつもどうしてるのよ」

「それは、3人が納得するまで徹底的に話し合います」

「あの、どうかホーネルスさんとベンダンの首相とで、カルベスさんを説得して貰えないでしょうか」

「他でもない翼人からのお願いとあらば、こちらとしても善処しますと言いたいところですが、中々政治というのは難しいもので。ただ出来る限りの事はします」

会談が終われば、そのニュースが広がるのはそう時間はかからない。何故なら独立自警団と首相の会談が終われば、そのまま議事聖堂の入口でぶら下がり会見があるから。しかも当然生放送で。

シューガー、街の穴。レジスタンスはもう無いが、だからこそもう隠れなくていい。そんな言い分で建てられた事務所。それは保安事務所。とは言え元レジスタンスが私設保安官に変わっただけの事。そこにやって来たのはジャーナリストのデヴェイル。

「リイドウさん、たった今シューガー中のマスコミにある情報がリークされた。ロードスターが異世界の翼人の国へ攻撃を仕掛けたって」

「何だと、あの基地は、爆破されたはずだ」

「いや、基地建設は凍結されたままだ。なのに攻撃が行われた。異世界の事だからバレないとでも思ったんだろう」

「誰からのリークだ」

「さあな、けど異世界の奴なのは確かだろう。じゃなきゃ知り得ない」

「マスコミがそんな情報を易々と信じるのか」

「素性は分からないが、翼人とギガスが仲間に居る異世界の密偵だって言ってたそうだ」

「ハハッ・・・・・お前も、信じるってのか?」

「だが、基地建設凍結や、クージへの不法入国問題の事も知ってる。情報は確かだろう」

「・・・・・そうか」

そんな時だった、バラエティーが放送されているテレビの画面上部に速報が流れたのは。同時にデヴェイルのスマホが鳴り出す。リイドウは少し離れるデヴェイルより速報を見ていた。その内容は、ロードスター軍が翼人の国への攻撃を行った事が判明された、というもの。

「何だって!?詳しく聞かせてくれ。・・・あぁ・・・あぁ」

そこにやって来たバルオとユウソル。何だか真剣な表情で電話しているデヴェイルを横目に、内心で“やっぱりそういう事か”と頷く。

「リイドウさん、独立自警団がテッドラン首相と面会したらしいです。翼人の国を攻撃した事への正式な抗議として」

「・・・そうか。本当だったんだな」

「え?」

「デヴェイルがな、今、シューガーのマスコミに情報がリークされたと言ってきた。内容は正にその事だ。そのリークしてきた奴はギガスと翼人ともコネがあるそうだ。恐らく独立自警団には属さない奴だろう」

「ギガスアーマーの世界配備、また1歩遠退いたよな?」

「だな。テッドランは独立自警団に友好的だし、テッドラン首相も連合国王への陳述へ動き出したし」

「・・・どうやらそう簡単にはいかないみたいだぞ」

バルオとユウソルの会話に口を挟んできたデヴェイル。そのジャーナリストらしい鋭い目つきにバルオは妙に目を留める。

「テッドラン首相と独立自警団が面会中、ギガスアーマー部隊がトメイクロワに向かったらしい」

「どこだっけ」

「中東だ。過激テロ組織デルモル国がのさばってる場所だろ。ここ10年ずっと紛争地帯になってる」

「あぁ、そうか。まさか、セカレンの会議で決まってないのに、出撃したってのか?いいのかよそんな事して」

「良いわけねえよ。でも連合国王の命令ならば、ロードスターとしては何も問題ない。いよいよ、ロードスターも強引になってきたって事だ」

そう言うとデヴェイルは大きく溜め息を吐く。ジャーナリストならそういった情報はメシの種だ。しかしその溜め息は人としての純粋な落胆。

「ていうか何でそんなに早く動けたんだよ」

「は?テッドラン政府の番記者だからってテッドラン人とは限らないだろ」

半笑いでユウソルが応え、リイドウでさえバルオの惚けた顔に表情を緩めると、バルオは恥ずかしさを隠すように空返事で誤魔化し、頭を掻く。

「つまり、ギガスアーマーで世界平和の役に立ったという既成事実を作る気だろう。ところで、私設保安官なんてよく思いついたな。政府からは何も言われないのか?」

「警告は受けた。けど街の穴の住民、そしてカケベルの住民の署名を募って嘆願書を作った。それが効いてるんだろ」

トロフィー公園では現在、ストリートミュージシャンが歌を歌っていた。それなりに人が居て、流れる時間はとても平和なもの。そんな人だかりを遠くから眺めているのはイエン。歌という概念は気になるけど、人間にジロジロ見られるのは何だか居心地が悪い。だからあえて物陰から歌を聴いていたイエン。しかしそこでイエンは振り返った。そこにやって来たのはミルクとチーズとケイシンとレイトだった。

「お姉さんも来てたんだ」

「たまたまだよ」

エルフだから動物の気持ちが分かる。ミルクとチーズは好奇心でもって知らない人の臭いを嗅いできて、遊んで欲しいと顔を見上げてくる。しかもその眼差しはフルーピスにも向けられる。

「羊がペットなの?」

子供の眼差しでそう問いかけるレイト。

「ペットじゃないよ」

「喋った!何で?」

「精霊だからだよ」

途端にニヤけたレイトはまるで好奇心のままに近付いてくる犬たちみたいにフルーピスに顔を近付け、恐る恐る手を伸ばして体毛を撫でる。そんな傍ら、イエンはふとトロフィーを見上げ、簡単な霊気検索で街の穴を物理的に俯瞰した。──確かにあたしが作った街の穴だけど、もうあたしとか関係なく生活が築かれてる。だからこそ、何となく気になっちゃうのかな。

シューガー、サルマン山脈の山上基地。ダークエルフの一室をノックもなく開ける軍人の男。その表情は焦りと苛立ちに歪んでいた。

「何故戻って来ない!ディアズーは一体何をやってるんだ」

「オレに聞くな。興味ねえよ」

身に染みた悪態を見せるのはダークエルフの男ガグナ。

「仲間なんじゃないのか?」

「オレ達はお前らみたいに群れないんだよ。たまたま同じグループになっただけだ」

「捜してこい」

「あ?」

「連絡の取り方ぐらいあるんだろ?連れ戻してこい」

怒りで歪んだ顔が妙に面白いのか、ガグナはただ鼻で笑い、ダークエルフの男ミスカエルを見た。色の無い表情でガグナと視線を交わした後、ゆっくりと立ち上がるミスカエル。身長2メートルで筋肉もよく付いている、そんな巨漢であるミスカエルの無表情でも軍人の男は怯む事はない。敵意も殺気もないが、その静けさはいつ噴火するか分からない山の如く。そして無言でパッと消えたミスカエル。鼻息を吹かして去る軍人の男。独りになると、ガグナは両手を頭に乗せて簡易ベッドに横たわった。確かにディアズーがどうなったかは気になる。でもあの“砂漠全体が魔法にかかってる場所”では霊気検索が出来ない。実際に捜しに行ったとしても、そこにはダークエルフの力を押さえつけるほどの力を持った何かが居る。──行きたくても行けねえんだよ。ったく、ギガスアーマー部隊が失敗したからってオレ達に擦り付けやがって。

グトウ砂漠。特にやることのない時間。人間の子供達は勉強していて、大人の男達はパトロール、女は家事の合間で暇だが、各々何かをしている。それはアルティアも同じで、一通りの家事が済んで今は本を読んでいる。

「街には行かないの?」

ディアズーは問いかける。

「行くよ?私は転移出来るし」

そう言って本に目線を戻した矢先、アルティアは再びディアズーを見る。見て分かる、それは退屈な顔だった。

「散歩したいなら、いいとこ連れてってあげようか?」

「えっうん」

そしてやって来たのは岩肌の地にある湖。釣竿は無いので、そこでもアルティアは岩に座り本を読む。

「何で、あの人は、強いのかな」

「・・・お父さんの事?」

「うん」

「やっぱり、信念かな」

「そっか。僕、何でここに居るのか分からないんだよね」

「だってお父さんに強くなって欲しいって思われたんでしょ?」

「だからって・・・でも僕、シューガーに戻りたいとは思ってない。ここの方がむしろ逃げ場としていいし」

「・・・逃げてるって?」

「エルフ狩り・・・っていうのが、こことは違う世界であって、でも戦ってるエルフもいるけど、僕は出来なくて。テムネルを持ったら結局治安管理部も来ちゃうし」

よくは分からないけど、確かにこういう男にはお父さんだったら“首を突っ込む”だろう。逃げる場所を探してる。それは月の羽を持つ私達と奇遇にも似たような境遇。だからアルティアはゆっくりと本を閉じた。

「アルティアも戦うと強いの?」

「ううん、私はまだ戦い方教わってないから。エルフって、みんな精霊を連れてる訳じゃないの?」

「そりゃそうだよ。普通に人間の街で暮らしてるエルフだっているし」

「ふーん」

「きゃあああっ」

突然現れたニーメルが、そのまま湖に落ちていった。言葉も出ないアルティアはただ立ち上がり、本を置いて湖を覗く。

「ニーメル!大丈夫?」

「ぷはっ。うん全然平気。でも初めて転移出来た」

普通に上がって来たニーメル。当然の如くびしょびしょで、でも笑顔。そんな子供にディアズーはただ立ち尽くす。

「やったー!転移出来たーっあははっでも寒い」

「早く戻って着替えないとね」

オアシスに戻り、ニーメルの家にニーメルとアルティアが居る間、ディアズーはふと空を見上げていた。何となくバルサルクの言葉を思い出していた。物事は考えようだと。逃げてると思うのか、守っていると思うのか。ただ逃げてると思うより、それが守る為の行動だとすれば、それは強さだと。──今頃、ガグナ達はどうしてるかな。

「あれ、外で待ってたの?中で待ってても良かったのに」

「大丈夫」

「ねえ、あの、エルフって、どんな魔法が使えるの?」

恐る恐る伺うような態度のニーメル。しかしディアズーはディアズーで緊張し、そこには変に静かな空気が流れる。

「何でも出来るよ。僕はテムネルがあるから、普通のエルフよりも自由に」

「そうなんだ」

ディアズーは振り返った。何故なら気配を感じたから。この砂漠は霊気が分散されてるが、それでもまるでモヤの中で微かに見えるみたいに、微かにテムネルを感じたから。──もしかして、シューガーの人に、連れ戻してこいとか言われて?

「ていうかテムネルって?」

「テムネルって・・・感情から生まれる、強い魔力かな」

「ふーん」

「アルティア達なら、魔法で砂漠を自由に見渡せるの?」

「うん。見れるよ」

「ちょっと見てくれない?多分今砂漠に別のダークエルフが来たみたいだし」

「そうなの?何で?」

「多分、シューガーの命令かな」

「え、またギガスアーマーが来たって事?」

「分からないけど」

「おじいちゃんに言わなきゃ」

「多分大丈夫じゃない?だってお父さん達がパトロールしてるし。でも報告はした方がいいと思う」

長老の家にやって来た3人。当然そこにはセージとユウロウが居て、2人はダークエルフの姿に釘付けとなる。

「おじいちゃん」

「どうかしたのか?」

「ディアズーが、別のダークエルフの気配感じるって。また来たんじゃない?シューガーの軍人」

「まだ報告は受けてないが、飛燕が居れば問題ない。オアシスに居なさい」

「うん」

それからアルティアの家。3人は鏡を前に座り込む。鏡に砂漠が映れば視点は優雅に滑空していき、それは毎度まるで鳥になったような気分。しかしグトウ砂漠はあまりにも広大。簡単に見つかる訳もなく、それから少し時間が流れ、ニーメルも本を読んでいるというそんな時──。

「あっ」

「え」

「居た」

寝転んでいたニーメルは飛び上がるように起き、本を置き去りにする。やがて鏡に映ったのは大男と飛燕。でも真っ先に分かるのは今そこでは戦闘が行われてないという事。

「ミスカエルかぁ。1人で来たのかな・・・えっ」

その直後だった、どんな会話か聞く前に、ミスカエルも飛燕もみんなパッと消えたのだ。そしてディアズーは家を出た、何故なら気配を感じたから。そこにはミスカエルと飛燕の姿。

「・・・ミスカエルも、来たんだ」

読んで頂きありがとうございました。

ダークエルフは基本的に自由ですからね。

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