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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「月の羽」後編

「ちょっと、バルサリクさん」

「ここは任せろ」

こうなったバルサリクは簡単には止まらない。でもその信念は“常に間違わない”。だから飛燕の人達は何も疑う事なく頷き合い、その場を後にしていく。すると知らないおじさんと2人きりになり、キョロキョロするダークエルフ、ディアズー。

「どこからでもかかってこい。自分の力に対して胸を張れないようじゃ男じゃない。そんなんじゃいざという時、戦う事も逃げる事も出来ない」

「僕のテムネル、強いよ?後悔するよ?」

「試してみろ」

そう言って組んだ腕を解き、バルサリクはただ立ってディアズーを見つめる。乾いた風が通り過ぎていく。ディアズーは自分の手を見つめるとそこにテムネルを集めた。球体に集束する漆黒の光。見ているだけで吸い込まれそうな、神秘と畏怖を併せ持ったその漆黒を、そしてディアズーは解き放った。ロケットのように飛んでいく漆黒の光弾。しかしバルサリクは1歩も動かなかった。鏡で見ているアルティアは息をするのも忘れていた。呆気なくバルサリクは漆黒の爆発に呑み込まれたから。乾いた風が通り抜けていき、ディアズーは砂漠を見下ろした。──やっぱり、テムネルには勝てないんだよ。

「その程度か」

「え」

乾いた風が漆黒の爆風を連れ去っていくと、見えたのは全くの無傷のバルサリクだった。

「そんなものは力とは呼ばん!!」

口が半開きになるディアズー。人間はやっぱり怖い。エルフはこんな風に大声で怒鳴ったりはしないと。

「い、今のは、本気じゃなかったんだよ」

再びテムネルを集束させるディアズー。今度は両手に。そしてその2つを寄せ合わせて共鳴させて、バチバチと漆黒を迸らせる。しかしバルサリクはただ立っているだけ。それから2つの漆黒の光弾は解き放たれた。ぐるぐると回りながら、バチバチと喚きながらそれはまた爆発し、バルサリクを呑み込んだ。

「違う!」

「え」

爆風も消える前から聞こえてきた声。すると直後に漆黒から紅の光が吹き出し、ディアズーは腹に拳を叩き込まれた。

「がふっ」

「拳で来い!それが力の本質だ」

「転移・・・」

しかしその一瞬で理解した。今の拳は、明らかに本気ではないと。だからすぐさま殴り返すディアズー。

「アルお姉ちゃん。まだ見てるの?あれ!おじさんじゃん。何これ」

「これが月の羽なんだって」

「か・・・・・」

固まったニーメルにアルティアは内心で首を傾げる。──か?・・・。

「カッコイイ。え、これ、翼人みたい・・・・・ママ!」

バタバタっと去っていくニーメル。ママもなれるの、パパもなれるの、そして私もなれるの、そんな質問攻めを横目にしてる時、アルティアはふと目を留めた。地下から上がってきた長老に。

禁界を囲む山。その頂上にアーサー達は居た。眼下に見えるのは山のようにバカでかい重機。すぐさま尾状器官に青光を集めるアーサー。

「ジャベリン!」

重機目掛けて撃ち放たれた青光の槍。しかしそれは弾かれた。重機の上に立っていたギガスアーマーによって。軌道をずらされて地面に落ちた青光の槍。そして案の定、アーサー達の前に立ちはだかってきた5人のギガスアーマー。

「もう手遅れだぞデュープリケーター。すでに7割は切り崩した。ここら一帯はすでに磁場は乱れてるはずだ」

「じゃあ、人間に戻ってみたら?」

そう聞いたのはグラシア。だからこそ鼻で笑い、そのギガスアーマーは人間に戻った。

「どうだ!これでお前達をまも・・・ぐああっがう、死ぬっ。・・・・・ふう、はぁ・・・はぁ」

ギガスアーマーに戻ると、その軍人は山肌を叩いた。それを見ていた他の4人は静かに落胆する。

「何でだ!いや、まだ7割だ、完全に山脈を分断させれば、完全に磁場は乱れる」

「だからそうさせるかっての」

「何でだよ!」

「は?俺達の森だぞ。侵略されてたまるかよ、バカか」

「山が崩れて道が出来たら、翼人だって便利に使えるだろうが」

「は?」

「オレは長年、いやロードスターは長年、翼人やこの磁場を研究してきたんだ。この磁場があるせいで翼人は孤立してるんだぞ。だからオレはこのプロジェクトをずっと待ってたんだ。山が崩れれば三国なりに周辺国とコンタクトが取れるようになる。貿易関係が生まれて、三国もより発展する。その方がいいだろ」

ふとグラシアに顔を向けるアーサー。どうやらこの軍人は翼人に対して好意的らしい。しかしそれでもアーサーはあえて発言をグラシアに委ねる。

「でも、今はもうこの世界でも周りの国の人達とコンタクトが取れるし、あなた達とだって今までも沢山コンタクト取ってきたし。その、全然孤立してるなんて思った事ないよ?」

「それにな、どうせお前ら人間は森を伐りまくるんだろ?森が無くなってエニグマが居なくなったら、食う肉が無くなるだろ」

「浅はかだなデュープリケーター」

口を挟んできたのは翼人に好意的な人とは別のギガスアーマー。軍人らしい刺々しさに、アーサーも「あ?」と返す。

「肉が無いなら他の国から買えばいい、それが貿易だ。ロードスターに限らず、人類は翼人を研究してきた。そして出した1つの答えは、翼人も、我らと同じ人間という事だ」

「どういう事?」

「お前達翼人も知っているだろう。この禁界にも、人間が住んでいる事を。ついこの前、ギガスアーマーとして禁界を探索していた時、そいつらを見つけた。そいつらは三国とは関わりを持っておらず、独自に集落を築いている」

「あ、うん。知ってるよ?死んだのにこの世界で生きてるっていう人達で、下の世界で生きてた時の記憶があるって」

「その通りだ。その者達は正に、我らの世界で生きていた人間。なのにどういう訳か、人間のまま禁界に飛ばされ、普通に生きている」

「死んだ人間が禁界に来るのは当たり前だよ?ずっとそうだし。三国だって、たまに死んだ人間を下の世界に送り返してるから」

アーサーはふとそのギガスアーマーを見つめた。少し目線を泳がし、一瞬、変な沈黙が流れたから。

「・・・なるほど、やはりそうか。やはり翼人、お前達は人間だ」

「え、どういう事?」

「ここは、禁界という領域は正に、死んだ者が流れてくる場所。そして流れてきた者の中には時折、魂が消えずにいる者がいる。あの集落の者達のように。お前達翼人とは、何千年前のそういった者達の子孫だ。だから本質的にはお前達も我らと同じ」

「そっか。そうかも知れない。うん、ありがとう。私達だけじゃ分からなかった」

「いや・・・」

アーサーはふと目を留める、こんな時にスッキリしたような笑顔を浮かべたグラシアを。そしてそんなグラシアを前に戸惑うようにまた目線を泳がせたギガスアーマーを。

「スティンフィーっていうエルフがね、翼の力は、磁場から自分の体を守る為に魂が作り出したものだって言ってたんだって。あなたの話と合わせたら、私達がどうしてここで生きてるかの答えが分かるよ。本当にありがとう」

「磁場から守る・・・なるほど。しかしだ、翼人でも人間でも周辺国との貿易は人の営みそのものだ。やはり山は崩すべきだ」

「おい、グラシア達だけの問題じゃねえぞ、エニグマだって、イビルだって俺達だってここで住んでんだよ。だから人間は勝手だ、バカバカしい」

「何だと。強いものが支配するのが道理だろ」

「ハッ・・・アッハッハッハ」

「何がおかしい」

「だよなぁ!強い方が支配出来るんだよなぁ!だったら今すぐお前らぶっ殺してやるよ!」

「アーサー!ちょっと待って」

「あ?」

「私達、大丈夫だよ?」

翼人に好意的なギガスアーマー、軍人らしいギガスアーマー、その他も一様にグラシアを見つめる。その笑みは正に優しい天使のようだった。

「今のままでも孤立してないし、それにアーサーの言う通り、ここには私達以外の生き物がいるから、私達だけの考えで勝手に決められない」

「分かってるよ──」

翼人に好意的なギガスアーマーが口を挟む。

「翼人ならそう言うと思ってた。でも、シューガーは、ロードスターは必ず山を崩すし、必ず三国に侵略する。でもその前にロードスターと貿易関係が築ければ、ロードスターだって三国を敵だと思わないだろ?」

「それは・・・」

「おい待て」

そんな時だった、また別のギガスアーマーが野太い声で口を挟んだのは。

「お前、翼人に味方する気か?いや、まさかそのつもりでここに来たのか?」

「・・・あぁそうだよ、何が悪いんだよ」

「は?つまりそれは、連合国王の意志に叛くって事だ」

「違う」

「は?」

「オレはテッドラン人だ。お前達みたいに、バカみたいに復讐で生きてる訳じゃない」

「貴様」

「それに、みんな分かってる。連合国王はシューガーの出身。だからシューガーに甘く、シューガーの言いなりだって。連合国王の意志?そういうのを悪知恵って言うんだろ」

グラシアは目を見張った。一瞬で、バカにされたギガスアーマーが、テッドラン人のギガスアーマーをぶん殴ったから。しかし力の差は無いのでそのテッドラン人は吹き飛ぶ事はなく、直後に殴り返した。

「ちょっと──」

言いかけて一瞬、再びグラシアは驚き、思わず「えっ」と漏らす。何故ならアーサーがシューガー人のギガスアーマーをぶん殴ったから。すると吹き飛んでそのまま山から落ちていくシューガー人。

「アーサー!?」

「ロードスターにも三国に味方する奴は居るんだよな?」

「えっあぁ、それは勿論。オレ・・・子供の頃、翼人に助けて貰った事あって」

「シューガーの奴らなら思う存分ぶん殴れるって事だよな。でも見分けがつかない」

「テッドラン人、悪いが、作戦は作戦だ、このままデュープリケーターを排除する」

「・・・分かってる」

しかしアーサーは笑った。それは軍人らしいギガスアーマーに対しての返事かのように。

グトウ砂漠。ディアズーは意識を失った。倒れたダークエルフを確認して集まってくる飛燕の人達。

「バルサリクさん」

「さすがにキツかったな。途中から自我が消えて、動きが変わった。だが自我を失うようじゃまだまだだな。悪い、少しオアシスに戻る」

「はい」

「おじいちゃんっ、外出ていい?お父さんが戻ってきた」

「なら外に出ていいかどうかバルサリクが伝えにきたんだろう」

長老が応えて数分、しかしバルサリクは長老の家にはやって来ない。アルティアはせめて窓をあけて顔を出す。──来ないじゃん。何で?

それから長老宅の玄関扉が開けられたのは1時間後の事だった。やって来たのはニーメルの父親。その姿にすぐに抱きつくニーメル。

「長老、バルサリクさんがもう安心だろうと。フウタスがギガスアーマーの動画をクージ政府に送って、ようやくレーヴァテイン部隊が砂漠に展開したからな。クージ政府に見つかる事自体を避けたいだろうから、ギガスアーマーは一旦砂漠から撤退するはずだ」

「うお!レーヴァテイン!砂漠に来るのか!見たい!」

テンションを上げるユウロウ。しかしアルティアはもう外に出ていた。向かったのは勿論自宅。

「お父さん?」

玄関扉を開けてそこで声をかけたアルティア。するとリビングから話し声が聞こえ、アルティアは逆に口を閉じる。それから静かに、でも急いでリビングにやって来たアルティア。

「えっ」

やって来たアルティアに顔を向けたのは当然バルサリクだが、同時に顔を向けてきたのはディアズーだった。

禁界を囲む山。アーサーに殴り飛ばされたシューガー人のギガスアーマーが戻ってきてそれから、そこには鮮血が宙を漂う。鮮血からは剣が作られたり、または光の弾となったり、しかし戦闘によって山肌が砕かれ飛び散る中、グラシアは独り敵意を抑えた。その眼差しはテッドラン人のギガスアーマー。

「あの、お願い──」

ちょうどメアに殴り飛ばされたところで声をかけられ、テッドラン人もメアも何事だとグラシアを見る。

「ロードスターと三国が仲良く出来るように協力してくれない?」

「オレは、ただの軍人だから、そんな権限はない」

「権限なんて関係ないよ、同じ考えの人を集めれば、それが力になるんじゃない?」

「そんな力、結局は連合国王の前では反乱分子でしかない。まぁ、翼人の方からテッドラン政府に直訴するくらいの事があれば、何か変わるかも知れない」

「そっか、うん、そうしてみる」

「おらあ!」

両手で作る青光の剣は解き放たれた。例の如く水飛沫のように一瞬で消えながら。吹き飛んだギガスアーマーは隆起した山肌にぶつかり、また岩石がバラバラと音を掻き鳴らす。

「ぐ・・・ふう・・・」

「グラシアさん」

振り返るグラシア。そこに居たのはパッと現れてきていたルアとヘル、そしてテリッテだった。

「ルア達、どうして」

「今さっき三国に来たら、山にシューガーが攻めてきたって話が広まってて、それでちょうど山に向かってる気配を追いかけたらテリッテだったので、それで話を聞いて来ました」

「そっか、あ、ちょうど良かった。独立自警団に新しい仕事が出来たよ」

「(のんびり話してる場合じゃないと思うけど)」

「そう、だよね。先ずはシューガーの人達を追い返さないと」

グトウ砂漠。アルティアは両手いっぱいに掬った水にゆっくりと顔を埋めた。普通にしてたら砂漠では絶対に味わえない、顔いっぱいの水分。それからゆっくりとタオルに顔を埋めると、いつもの青空を見上げる。いつものように物資を台車に乗せ、“商人風”にやって来たフウタス。

「おはようアルちゃん」

「うん。おはよう、朝刊頂戴」

「はいよ」

ここは政府からも世の中からも隠れる為の秘境オアシス。だからここでは商売は必要ない。だからフウタスはあくまで商売風。でも余った物資は管理下オアシスで売ってるらしいから、無駄にはならない。

「ねえフウタス」

「ん?」

大人達が各々必要な物を持っていく中、アルティアは重そうな台車、そして息ひとつ上がってないフウタスを呆れたように見つめる。

「どうせ、転移して来てるんでしょ?」

子供の頃は本当に台車を牽いて来てるのかと思ってた。でも今朝から、何だか見ている世界が変わったかのよう。ここの大人達はみんな魔法使い。そして大人の男手は基本、砂漠を守る自警団をしている逞しい人達。

「あははは、当たり前でしょー。“砂漠なんて歩かないよ普通”」

「フウタスも飛燕なんだよね?」

「そうだよ?」

「飛燕ってお金持ちなの?さすがに物資は普通に仕入れてるんだよね?」

「まあね、でも飛燕は政府にも認められてるから、物資のほとんどは政府からの支援だよ。だからそんなに高くつかないんだ」

「そうだったんだ・・・・・え!?」

新聞の1枚目、アルティアが見たのは大きな見出し。「シューガー政府、ギガスアーマーの流出を認める」。記事を読んでみれば、昨日砂漠に来たギガスアーマーはロードスター連合王国とは関係ない者達で、よってシューガーによる不法入国及び侵略行為には当たらないという事。

「でもさアルちゃん、それはシューガーの作戦なんだよ」

「え、どういう事」

「ギガスアーマーの動画をクージ政府に見せたら、レーヴァテインが砂漠に配備されたでしょ?それで同時にクージ政府がロードスターに抗議したんだけど、ロードスターは時間も空けずにそういう反応を返してきた。つまり、例えギガスアーマーがクージ政府に見つかったとしても、ロードスターは最初からそう反論するって決めてたって事だよ」

「じゃあ、やっぱりシューガーのギガスアーマーって事?」

「あぁ。シューガー政府は世界連合の会議には影響は無いって言ってるって書いてあるけど、どうだかね」

それから自宅に戻っていくアルティア。するとアルティアが玄関扉を開ける前にちょうど扉は開いた。出てきたのはディアズーだった。

読んで頂きありがとうございました。

アルティアとディアズーの距離感にも注目ですね。

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