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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「月の羽」前編

「おじいちゃん」

子供達が比較的リラックスして過ごしてる間、長老も地下で独り穏やかに過ごしていて、だからアルティアは再び地下に下りた。

「飛燕の人達が、ギガスアーマーを1人やっつけた。転移してたから、飛燕の人達も月の羽の力を持ってるって事でしょ?」

「あぁ、そうだよ」

思ったよりあっさりした反応に、アルティアは言葉を詰まらせる。けど同時にふと思った。私の住んでるオアシスにはあんまり男手が多くない。──秘境だから単に人が居ないだけだと思ったけど、でもそうじゃなく、このオアシスの男手のほとんどは、飛燕だから?

「まさか、お父さんも?」

「はは、それは見て分かるだろう」

「そうだったんだ」

「おばさん達も大人だから戦うの?」

「あぁ、いざという時の為に戦い方は学んでいる。アルティアだって、ニーメルも20歳になれば教わる」

「ゼリュウもそうなの?」

「ん?」

「昨日、素人の武装集団がゼリュウを倒しに行ったけど、お父さんがゼリュウは倒されないって言ってた。長年飛燕でも倒せてないのは、ゼリュウも月の羽持ってるから?」

アルティアは見逃さなかった。長老の少し綻んだ口元を。お父さんも長老も大人しか知らない事を知ってて秘密にしてる。そうアルティアが微かに嫉妬したところで、長老は椅子から立ち上がった。

「その内分かる」

長老は1階に上がるとそのままトイレに入ったので、アルティアは再び鏡の前に座った。

「おじいちゃんと何話したの?」

さりげなく問いかけるニーメル。

「飛燕の事。魔法が使えるのはこのオアシス出身の人だけだから、飛燕の人達はこのオアシスの人だって」

「そうだったんだ。あ、そういえばゼリュウってどうなったのかな。素人のあの人達、追い返されたのかな」

「そうなんじゃない?お父さんも倒されないって言ってたし」

「あ、居たギガスアーマー」

鏡の視点を操作しているのはニーメルだが、ユウロウがそう言うと視点は留まった。そこはこのオアシスから8キロくらいの場所で、直後にアルティアは目を見張った。なんとそこでギガスアーマーと対峙していたのは飛燕の数人とバルサリクだったから。飛燕の人達は皆“飛燕の服”を着てるのにバルサリクは普通の服で、その違和感が妙に目を釘付けにさせる。しかしバルサリクは何もしなかった。飛燕の人達が転移でもってギガスアーマーを瞬殺したから。でもそれからバルサリクはまるでリーダーかのように飛燕の人達に指示を出し、そしてギガスアーマーの遺体は砂漠に埋められた。アルティアは“いつものように”呆れていた。私の父という人は大事な事はあまり話さない。何故ならいつも何かのリーダーだから。責任というものを背負っているから。──今だってそう、“オアシスのリーダー”は飛燕相手でも同じだったなんて。あんな所でも本当にいつもと同じように“強くて優しい”。



第45話「月の羽」



「んー」

「どうしたのニーメル」

「あの人、パパに似てる」

「え、どれ。みんな同じじゃん。みんな目以外隠れてるし」

「ほら今バルサリクおじさんと喋った。何か、物腰がパパに似てる気がする」

飛燕って何だろう。そうアルティアはついこの間の事を思い出した。それはオアシスの男達が集まり、砂嵐対策の為に家々に防塵シートを被せた作業の時の事。連絡網のリーダーは勿論私の父。その皆に指示を出して、“オアシスの危機管理”に勤しんでる姿と、今がふと重なった。──飛燕も、ただの“仕事”なのかな・・・。

「いつまでここに居るの?」

最初にそんな声を上げたのはセージだった。実際このオアシスには何の魔の手も迫ってない。10歳ならそろそろ退屈を感じてもおかしくない。

「飛燕がもう安全だって言うまでかなぁ」

「ふーん」

セージ達の母親が優しくそう言ってもセージの顔色はむしろ退屈を伺わせる。

禁界の森。メアは走っていた。普通なら尾状器官を使って飛んでいくが、後ろにはグラシアとテリッテが居るので全力を出す訳にはいかない。翼の解放はしているが2人を置いてきぼりにしないようにメアは森を駆けるというその最中、テリッテは振り返った。グラシアに声をかけようかと迷ってキョロキョロするテリッテ。何故なら3人の事を1体のエニグマが追いかけていたから。それはエニグマの中で1番すばしっこい種類。でも殺気は感じず、まるで追いかけるという遊びをしているかのよう。それから今はほぼ使われていない休憩の為の拠点に差し掛かった時だった。メアが思わず足を止めたのは。禁界を囲む山まであと数キロ。そんな距離でも地面を這う地響きが足に伝わってきた事にメアはふと山を見つめる。

「どうしたの?」

問いかけたグラシアに振り返るメア。しかしその眼差しはそのままエニグマに流れた。

「うお。追いかけて来やがった」

振り返るグラシアとテリッテ。そのエニグマは鼻をヒクつかせ、すでに3人の事よりも森の真ん中にポツンと整備された広場に興味を向けていた。

「まあいいや。今揺れたよな?ってあんたら飛んでるから分からねえか」

「揺れたのは分からなかったけど、森が揺れた音は少し聞こえたよ?相当派手に戦ってるのかな」

「かもな。走るの飽きたからスピード上げるぞ」

「うん」

テリッテは振り返る。追いかける事には飽きたのか、自分達が再び動き出してもそのエニグマはキョロキョロしていた。メアも空を飛び、それから3人は森を眼下にして風を切っていく。しかしその最中、テリッテは次第に表情を曇らせていく。何故なら自分だけ、少しずつ遅れ始めてるから。デュープリケーターは元々強い魔力を持ってるし、グラシアはリッショウを最大限まで高められる。だけど私はまだ“2段階目”。元々強い魔力を持ってる上で更にリッショウを使えば、もうメアは遠く、小さい。

「テリッテ」

「先に行って下さい」

頷いたグラシアも暫くしたら見えなくなった。テリッテはふと思い出した。それはマガツエルフとの戦いから戻ってきたグラシアの逞しい笑顔。マガツエルフの一件では私と新兵の4人は留守番だった。リッショウも翼の力だってまだまだだから仕方ないのは分かってる。だからあれから人一倍訓練に勤しんでいた。でも今、私はまだまだだと思い知った。──このままじゃ、グラシアさんが結婚しても私達の事で心配させちゃうよね。

「ようやく、大人しく・・・なったか」

ボロボロのギガスアーマーは息荒くそう呟く。直後にふっと気が抜ければ膝は地面に落ち、そのまま倒れ込んだ。もう1人のギガスアーマーも限りなくボロボロで、もう1人のギガスアーマーは微かに息をしているだけで倒れて動かない。

「くそっ」

アーサーは必死にもがいていた。体には鮮血の光がこれでもかと絡みついていて、手も尾状器官も動かせない。それはホープも同じだが、遠距離魔法攻撃を行うホープは更に氷漬けにされていた。傷付ければ付けるほど流れる血で攻撃してくる相手に、アーサーは遂に捕まってしまった。1本の木に縛り付けられてしまったという形で。しかしそれまでにギガスアーマー達も満身創痍で、その戦場はふと静寂に見舞われた。

「はぁ・・・はぁ、回復が、追いつかない。でも・・・我々の、勝ちだぞ・・・デュープリケーター」

「そんな訳ねえだろ。そろそろ他の仲間が来るし、グラシアだって来る。俺だってな、こんな魔法、もう少ししたらぶっ壊してやる」

再びの地響きが森を騒がせる。首は動くので山を見上げるアーサー。するとギガスアーマーは力無く笑った。

「黙って、山が崩れるのを、見物してろ」

そう言うとギガスアーマーは倒れた。目の前の敵はすべて倒れた。しかし魔法は解けず、アーサーは必死にもがく。山が崩れたからってどうなるかは分からない。けど今、山の向こうにはまだシューガーの奴らが居る、それは確かだ。

「くそぉ・・・全然壊せねえ・・・くっ・・・」

重機が崩れた岩石、土砂を掬っていく。重機の種類はホイールローダー。工業国であるシャンバート製で、その中でも1番大きなもの。それこそ、まるで動く山。エンジンが動いているだけで轟音が響き、巨大なタイヤが回るだけでも恐怖だが、好きな人が見れば逆に感動さえ覚えてしまう。そんな超巨大ホイールローダーは土砂などを豪快に掬うと、適当に山沿いに捨てにいく。それからギガスアーマー達は変身銃で岩肌を撃った。ブスンッと穴が空けば、そこに強力なダイナマイトを挿し込みながら。

「・・・・・発破!」

アーサーは振り返る。それは向こう側から山がまた少し崩れたという切迫感。もがいているアーサー。そんな時だった、氷漬けにされていたホープの頭の辺りの氷が溶け、湯気が出たのは。

「おい、ホープ」

内側から溶けていく氷。やがてホープの頭が見えてくると全身からも湯気が出てきて、そしてようやくホープは氷から解放された。しかしアーサーと同じように鮮血の光にぐるぐるに縛られていて立ち上がる事は出来ない。

「大丈夫かよ」

声をかけたアーサーの方向に顔を向けるように転がるホープ。

「死ぬかと思った。これ、他の魔法と違うのかな、全然ちぎれない」

「あぁ。でもさっさと壊して山の向こうに行くぞ。向こうに別の奴らがいる」

「うん。ギガスアーマーは?」

「あー、全員、死んだっぽいぞ、全然動かない」

「そっか」

「おいアーサー、ホープ」

「おおメア、遅かったな、ギガスアーマーはもう俺がとっくにぶっ殺したぜ」

「じゃあ、誰に捕まってんだ」

「それが、ギガスアーマーは殺ったのに壊せないんだよ」

「お前でもか」

「メア、ちぎってくれない?」

「あぁ」

ホープの体を縛る鮮血の光を掴み、力強く引っ張るメア。しかし光はちぎれずただホープが持ち上げられただけ。だから仕方なくホープを立たせるメア。

「力じゃ無理そうだぞ」

「山の向こうにも奴らが居んだよ」

「そうなのか」

魔力を込めて力任せにやれば、ホープが傷付いてしまうかも知れない。そうメアが迷っていたそんな時、そこにグラシアがやって来た。

「アーサー、ホープ、大丈夫?」

「あぁ、もう傷は再生したけど、動けねえんだよ」

「何か、音がする。山って鳴くんだっけ」

呟くホープ。ホープの眼差しを何となく追いかける3人。

「いやだから向こう側の奴らだって。山を爆破して崩すんだとよ」

「え・・・」

「で何か、そうすりゃ禁界の磁場が無くなって、普通に入って来れるようになるとか」

「おいまじかよ、ヤバイじゃねえか」

「別に、来たってぶっ殺せばいいだけだろ」

「それはそうだけど。じゃあ早く何とかしないと、メア、もっと引っ張ってよ」

「お前が痛いだけだ。何かこう、別のやり方の方がいい。これ魔法なんだよな?」

「うん・・・・・あ、じゃあ、もしかしたら・・・分離(ラズデーレ)

ほんのりとホープの全身が光ると、その光は鮮血の光に染み込んだ。しかしそれだけ。メアもアーサーもグラシアも、それから?とただ見つめる。それからホープは力んだ。

「んんーーっ」

「次の魔法しな──」

ピキッという微かな音。言いかけてメアは目を見張った。鮮血の光に、ヒビが入ったのだ。

「お?」

「──んんーーっ」

広がっていくヒビ。やがてそれは亀裂となる。山の向こうでは超巨大ホイールローダーが土砂に向かってバケットを差し込んだ。アームが上がり、掬われていく土砂。同時に滝のように溢れていく土砂。その中からゴロンと転がる大きな岩石。すると気晴らし半分で、ギガスアーマーはそれに向かって変身銃を撃ち放った。

「おお!」

バリンッと音を立て、ホープを縛る鮮血の光が砕けた。

乾いた風が砂を巻き下げる。そこにギガスアーマーは居ない。居るのは遺体の処理を終えた飛燕の人達、そしてバルサリクだけ。まだまだ警戒は解けない。しかしカルベス首相でなければおよそ飛燕の陣形は崩せない。だからバルサリクは司令官の如く、“前線部隊”から歩いて離れていく。そんな状況を鏡で見ているのは今やアルティアだけ。完璧な瞬殺続きにニーメルでさえ飽き、他の子供達は各々で遊んだりする。

「アルちゃん、飽きないね」

話しかけてきたのはニーメルの母親。

「月の羽が見たいの。どうやって戦うのか見てみたい」

「でも、ギガスアーマーが相手じゃ見れなそうだよ?」

「うん。ねぇ飛燕って、砂漠じゃなくて、本当はこのオアシスを守る為にあるんじゃないの?」

「でもほら、砂漠全体を守った方がオアシスを守ってるって事も隠せるでしょ?」

「そっか。ルニおばさんも、ゼリュウがどんな人か知ってるんでしょ?」

ルニベールは微笑んだ。その微笑みに、アルティアはまた1つ確信する。

「実は、ゼリュウの事は喋っちゃいけないっていう決まりがあるの」

「え、そんな急にファンタジーの設定みたいな事、嘘でしょ」

「あは、ほんとほんと。だからバルサリクさんに聞いてよ。そしたら分かるから」

「・・・うん」

アルティアでさえ鏡を見ていないそんな時、砂漠では飛燕の人達の目の前に新しい“刺客”が現れた。それは秘境のオアシスで暮らしている者でも、ちゃんと情報収集している大人なら知っている。バルサリクは振り返った。千里望の術で周囲一帯の動きは分かる。だから“敵を誘き寄せる為にわざと霊気を立ち込めさせているポイント”に動きがあったから、またギガスアーマーかと振り返ったのだ。しかし飛燕の人達同様、バルサリクは目を見張った。何故ならそこに“誘き寄せられてきた”のはギガスアーマーではなく、ダークエルフだったから。

「うお、待ち伏せ?まさか、この霊気、罠だったの」

「何故ダークエルフが。シューガーはあの一件でダークエルフとの関わりを絶ったはずじゃ」

「あのマガツの奴らがシューガーから出てった時に、その隠れ場所を貰ったんだよ。隠れてる代わりに働くくらいは別にいいけど、お前達は一体なんだよ。感じた事のない霊気だ。この世界には精霊が来ないのに」

「俺達が何者かなんてお前には関係ない」

「まあね。まあいいか。でもこっちも仕事だ。そっちがその気なら・・・・・あれ?仕事って何だっけ、ちゃんと聞いとけば良かった。どうしよう」

「・・・用が無いからシューガーに帰れ」

「それは出来ないよ。一応こっちは居場所を貰ってる身だし、あれ?でもいいのかな、言うこと聞かなくても」

飛燕の誰かが小さく溜め息を吐いた。ダークエルフという存在、その脅威はニュースでよく知っている。しかし目の前のそいつには緊張感がなく、調子が狂う。

「お前は何故この世界に居る」

そこにそう問いかけながらやって来たのはバルサリク。

「それは逃げる為だよ。でも結局治安管理部はこの世界に来たし、本当は逃げ場なんかないのかも知れないけど」

「何で逃げる必要がある」

「だって、治安管理部はテムネルを取っちゃうから。僕は力が無いと、生きていけないから」

「バカヤロウ。もっとシャキッとしろ!」

口が半開きになるダークエルフ。思わず振り返るアルティア。それからバルサリクは腕を組んだ。それは“いつものあの態度”。それはナヨナヨしている者が嫌いなバルサリクなりの癇癪で、ここで?と飛燕の人達もさすがに呆れてしまう。

「人生に逃げ場なんかない。結局お前は自分の力を信用してないだけだろ。もっと力を信用しろ」

「信用・・・力なんて大きければいいんじゃないの?それにテムネルなんて、誰も信用しないよ」

「分かってないな。信念を持て。力の色など問題じゃない」

「信念・・・どういう事?」

「翼解放」

腕を組んだままのバルサリクから溢れる紅色の光。それは一瞬だった。一瞬の光が消えた後にはバルサリクの背中には紅色の翼が生えていて、首から下は見るからに滑らかな質感のウエットスーツっぽいもので覆われていた。アルティアはただ食い入るように父の姿を見つめていた。──あれが・・・。

「お前の力をぶつけてこい!」

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