表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/275

「紅は牙を向き」後編

禁界の森。小動物など生きられない過酷な環境では、誰かがこそこそしても騒ぐ小鳥たちも居ない。だからその時、誰にも気付かれずに1人のギガスアーマーはパッと現れた。そこは禁界を囲む山々の中腹。それでも誰にも見られていないか、警戒心強く辺りを見渡す。それからそのギガスアーマーは森に降り立った。そこは“相変わらず”静かで、無警戒。こうやって異物が入り込んでも森も禁界も騒がない。魔力でもって周囲を観察し、静かに時間は流れていく。同時刻、ふとメアは遠くを見た。何故なら魔力を感じたから。あれからほぼナイトは禁界を囲む山々の洞窟に居て、メアの縄張りはナイトの洞窟の周囲一帯。そしてメアは自分の縄張りを飛び出した。何故なら役に立つからと教わった“霊気検索っぽい事が出来る魔法”をやり返したから。やって来たのはイビルの村のそばにあり、禁界のほぼ真ん中に位置するアーサーの縄張り。

「よお」

「お、メア。朝からどうかしたか?」

「俺初めて見るけど、多分ギガスアーマーってのが来てるぞ。山の麓に」

「お、来やがったな?暇潰しにやってやるか」

「グラシア達に報告してくる」

「あぁ」

まるで戦闘機でも飛んでったかのような爆音が騒がしい。そうホープは眠りから覚めた。目覚めたそこはイビルの村の家の中。何となく外に出て、あくびをしながら井戸の水を一口。

「オハヨ」

やって来たのは友達のイビル、ヌッカ。

「うん、おはよう」

微笑んで挨拶を返しながらもふとホープは遠くを見た。アーサーの魔力がふわふわと飛行機雲のように残っていて、アーサーが大体どこに向かっていったかが分かるから。

「チッ」

やって来たアーサーに舌打ちするギガスアーマー。すでにアーサーはリッショウを最大限まで発動していて、その迫力は最早言葉の通じない動物の殺気そのもの。そして言葉を交わす事なく、アーサーの尾状器官の拳は振り出された。ギガスアーマーも負けじと高速移動の勢いに乗って迎え撃ち、そこには強烈な衝突音という挨拶が交わされた。

「ぐっ・・・」

拳が突き合わされたのは一瞬だった。力負けして押し飛ばされたのはギガスアーマー。ギガスアーマーの力ではアーサーには敵わない。それはもう伝達されている。間髪入れずに拳は振り回されて、ギガスアーマーは山肌に叩きつけられる。

「ジャベリン!」

それでも手は止まず、気が付いた時にはもう青い光槍は腹を抉っていた。腹から滴る血。ギガスアーマーが青い光槍を握り締める最中にも、アーサーの尾状器官の手には青い光が集束していき、そしてお互いの眼差しは交わった。騒ぐ小鳥たちも居ない森。空に向かって飛び散ったのは青い光刃と鮮血だけ。力無く転がるギガスアーマー。

「ふんっそんなもんだよな。やっぱあの金色の奴じゃないと張り合いねえな・・・・・ん」

突如として山肌や地面に飛び散った大量の血液は宙に浮き始めた。アーサーの脳裏に甦る“この前の光景”。

「人間を・・・ぐ、嘗めるなよ?・・・」

青い光を集めてアーサーは剣を作った。ジャリッとギガスアーマーが地面を握り締めたから。そして直後、浮き漂う血液の一部が風を切った。まるで銃弾のように。肩を撃たれたアーサーはとっさに距離を取り、木に隠れる。少し顔を出そうとした瞬間に木は撃たれ、木片が顔を掠める。──あの魔法か。いいスリルだぜ・・・。

グトウ砂漠。人海戦術で何人ものギガスアーマーが現れては消えていく。お互いとその距離感、そして広大な砂漠を感知しながら。そんな危機が迫っている事は知らず、アルティアは長老の話に静かに驚く。

「この砂漠って、じゃあ私達の先祖は元は異世界の人間なの?」

「あぁそうだよ。それはもう200年ほど前の話だ」

「長老!」

そんな時にやって来たのはフウタス。でも見たところそこまで慌ててない。そうアルティアは見つめる。

「念の為、建物の中に」

静かに頷くと、長老はそれから子供達を連れて長老の家に入った。砂漠に建てられる家は木造だが、砂が入って来ないように作りは頑丈。手間はかかるが長老の家にはこのオアシス唯一の地下室がある。

「じいちゃん、湖の岩山とかに逃げた方がいいんじゃないの?」

「いや、ここの方が安全だ。ここは完全に霊気をシャットアウトしてる」

「れーきって?」

そうセージが何となくアルティアの顔を伺う。

「私達の使う魔法とかの、何ていうか、成分?」

「僕、魔法なんか知らなかったし。何でアル姉ちゃん知ってるの?」

「私は、お母さんから聞いたから、前から知ってた」

「おじいちゃん、何で私達だけなの?ママとパパは?」

「皆は大人だからな。大丈夫だろう、危なければここに逃げてくる」

「もしかして、戦うの?」

そんなアルティアの問いに、長老は真剣な表情で鼻息をゆっくり吐き下ろした。アルティアは父の姿を思い浮かべる。あのお父さんが戦いに負けて死んでしまうなんて、想像出来ない。だからきっと大丈夫。

「あ、鏡」

ニーメルが見つけた全身鏡に歩み寄り、鏡に向かって意識を集中させる。

「何で外見れないの?」

「言っただろ。この地下室は特別な加工をして霊気をシャットアウトしてると」

「えー。ねー、外見たい」

「・・・仕方ない、1階に上がって見なさい」

ニーメルが階段を上がっていくと、セージも2歳上のセージの兄ユウロウも階段に向かっていき、すると結局アルティア以外の子供達は皆流れる川のように階段を上がり始める。

「アルティア、いつから魔法を使ってる」

「お母さんが死んだ後、バレないように1人で練習してた。お父さんにも言ってないけど、もう何度も転移で外国に行ってる。ニーメルに千里望を教えたのも私」

「そうか。なら戦う為の使い方も知ってるのか?」

「ううん。月の羽の使い方だけは、お母さんも20歳になったらお父さんに教わりなさいって。ていうかおじいちゃん、大分話が途中だけど、月の羽って、何なの?」

「子供は飽きっぽくて仕方ないな。月の羽は、この世界で生まれた力だ。元は血の剣の力だったが、別の国の魔法と混ざって変化したんだよ」

「別の国の魔法?」

「この砂漠に逃げてきた吸血鬼の1人が外国の者と結婚し、その子孫は新しい力を発現させた。その力が月の羽だ」

「ふーん。今このオアシスを狙ってる人達って、普通の血の剣の人達って事?」

「あぁ」

「じゃあ私達の力の方が強いって事?」

「普通ならばな。しかし今や陽光の者共はギガスアーマーの力を持っている。ギガスアーマーはほぼ不死身。血の剣は文字通り血を捧げて形を成す。普通の人間ならば限界があるが、ギガスアーマーであれば際限なく血を使える」

「でも、何で、異世界まで追いかけて来るの?」

「それは分からん。単にしつこい奴らという事だ」

アルティアが1階に上がるとそこにはセージ達の母親、ニーメルの母親、13歳の女の子リルファの母親が居て、アルティアが気にかかったのは子供達が安心しているという事。

「ねー、おじいちゃん。飛燕の人達も守ってくれるんでしょ?」

「あぁそうだよ。それまで子供はここに居なさい」

「アルお姉ちゃん」

リラックスした表情でニーメルがそう呼ぶとその手には鏡が抱えられていて、それからアルティアとニーメルはソファーに座り、テーブルに置いた鏡を眺める。鏡に映っているのはバルサリクとフウタス。オアシスのすぐ外を歩いていて、まるでこれから来るかも知れない敵を待ち構えているかのよう。リモコンで操作するように意識すれば視点は動き、鏡は防犯カメラのように砂漠を映していく。

禁界の森。1本の木が音を立てて倒れた。その切り口は粗暴で、まるで銃撃で破壊されたよう。その大きな音は少し遠くのエニグマが少し警戒するほど。絶え間なく鮮血の光弾は風を切り、隠れていた木が倒れた事でアーサーは仕方なく光壁を作る。ガツンガツンと鮮血の光弾は砕け散り、アーサーは睨み付ける。やがて宙に浮き漂う血液はギガスアーマーの手に集まり、そして形成された剣を。もうギガスアーマーは回復していて、だからアーサーも剣を作った。細く息を整えるアーサー。それから一瞬の静寂の後、短い尾状器官はドカンと空気を震わせた。青い光沢を見せる剣と鮮血色の剣。その2つがガツンとぶつかれば空気は震え、殺気は鍔迫り合いの如くキリキリと睨み合う。剣は弾け合い、一瞬の間が生じればギガスアーマーはすぐに視界から消える。その素早さは脅威以外の何物でもない。相手より早く動けるならば、人は必ず死角を狙う。だから振り下ろされた鮮血の剣はアーサーのうなじを狙う。しかし剣先は止められた。何故ならそこには見えない壁があったから。

「くっ・・・」

「ハッその程度の剣かよ。おらあ!」

しかしアーサーの剣は空を斬った。アーサーが舌打ちを鳴らす間にもボボンッと小さくソニックブームのようなものが空気を押し出し、ギガスアーマーはアーサーの胸を突き刺さんとする。しかしやはりアーサーの体に傷が付けられない事を知るとギガスアーマーは素早く後退し、息を整えた。何だか妙な静寂が流れた。そうアーサーはもどかしく気を揉むように剣の柄を握る。──中途半端に血を流させてもあいつの力になるだけだ。けど今の俺に、あいつを瞬殺出来るのか。リッショウも最大限だし、後は・・・エクスカリバーにかけるしかねえ。

「アーサー」

「え、おおホープ。何しに来たんだよ」

「またシューガーの軍人が来たんでしょ?」

「あぁ。けど、あれだ、お前は手は出さなくていい。今いいスリルなんだ」

「別に・・・いいけど」

そんな時だった、ギガスアーマーの下に別の2人のギガスアーマーが現れたのは。思わず「あっ」と声が出るホープ。

「ハッいいねえ、3人まとめてかかってこい」

その直後だった、援軍のギガスアーマーの1人がホープに向けて変身銃を撃ったのは。

「いたっ」

リッショウもしてクウカクで体を覆っていたから、ホープはただ尻餅を着いただけ。

「おい!テメエ」

「何故お前の言う事に従う」

頬を膨らませるホープ。だからお返しにと、ホープは天に掲げたその手に青光を溜めた。

光弾(プルスーヴェ)五層(ピアーソ)!」

すでにギガスアーマー達はそこには居ない。でも青い光弾は放たれた。振り返るアーサー。ホープの手は上を向いているのに、高速移動で逃げたのに、そのギガスアーマーは吹き飛び、血飛沫を吹かしたのだ。

「何だと」

「何だその魔法」

「この前ペルーニに教えて貰ったの。魔法は意思から生まれるから、意思を持たせる事も出来るって。だから勝手に追いかけてくれるの」

「へー」

「えへへ、アーサーったら全然魔法勉強しないんだから」

「いや俺は、今はエクスカリバーの事しか考えてねえから」

「剣も層術(ソイスクス)したらいいんじゃないかな」

「あー、魔法を重ねるとかいうやつだよな・・・んー、そうか」

気が付けば鮮血は浮いていた。それを糧にして、援軍の2人もすでに鮮血の剣を作っていた。そこでアーサーはもう1本剣を作り、それを一旦青光に戻し、2つの青光を混ぜ込んだ。その最中、空気は震えた。ギガスアーマーの1人がアーサーに斬りかかったのだ。当然剣先はガツンと止まり、それを振り払おうとアーサーは新しく作った剣を振り上げた。

「あヤベ」

まるでスルッと手からすっぽ抜けたよう。そんな感覚で剣は青光となり、水飛沫のようにバシャアッとギガスアーマーを吹き飛ばした。舞い上がる鮮血でさえ呑み込み、一瞬だけ光刃となった青光はすぐに空に消えたが、勢いよく木にぶつかって倒れたギガスアーマーはぐったりした。

「難しいな、出来たと思ったのに、すぐに光になっちまった。でも、いいか、確かに威力は上がった」

「わっいたたっ」

アーサーが振り返った時にはギガスアーマーがホープを襲っていて、直ちに致命傷は負わないものの、“ちょっと痛いもの”で殴られて身を屈ませるようなホープを前にすぐさまアーサーは飛び出し、尾状器官の手でギガスアーマーの頭を鷲掴みする。

「お前は少し休んでいろ」

そう告げるとそのギガスアーマーはぐったりした1人から勢いよく鮮血を巻き上げた。肥大する血の剣。それを横目にアーサーは鼻で笑う。そして掴んでいるギガスアーマーを投げ飛ばし、両手に青光を溜めた。

「来いよ」

そう言ってアーサーは大きな血の剣を睨み、両手の青光を混ぜ込む。息を整え、そのギガスアーマーは大きな血の剣を両手で構える。張り詰める静かな森。

グトウ砂漠。鏡を見ていたニーメルは「あっ」と指を差した。鏡に映ったのは正にギガスアーマーだった。位置的にはこのオアシスから10キロ以上の場所で、マントを靡かせながらギガスアーマーはゆっくりと歩いていた。

「カッコイイけど、敵キャラなんだよなぁ」

ボソッと呟いたのはユウロウ。振り返り、鏡を見ていたユウロウと目が合っても何も言う事はなくニーメルはまた鏡を見つめる。それから鏡に映ったのは砂漠の男達だった。5人の男達はどこからともなく颯爽と現れ、ギガスアーマーを取り囲んだ。

「お前達が、飛燕か」

何も応えず、男達は短剣を抜く。気密性と動きやすさを両立した砂漠の戦闘服。統率されたその風貌だけで、誰が見てもその男達を手練れだと思う、それはそんな服。だからギガスアーマーは変身銃の銃口を向けた。息を飲むアルティア。直後に銃弾は放たれた。光の弾といっても速度は普通の銃弾と同等。でも光の弾は砂漠に消えた。同時に狙われた男も消えた。それは一瞬だった。男はギガスアーマーの背後に転移して、すでに短剣をギガスアーマーの背中に刺していた。

「くっ転移だと?」

高速移動で距離を取るギガスアーマー。しかし男達がするのは高速移動ではなく、瞬間移動。正に瞬く間にギガスアーマーは刺されていき、そして倒れ込んだ。

「え、もうやられたの?ギガスアーマー」

それは正に瞬殺劇だった。ニーメルはそう言って鏡に釘付け。ユウロウも飛燕がカッコイイとかボソッと呟く中、アルティアはふと思い出した。さっきの長老の話を。──魔法を使えるのは、このオアシスの人間だけ・・・。

その時、禁界の森を、地響きが襲った。それは大きな血の剣ごとギガスアーマーを吹き飛ばし、アーサーがギガスアーマーを嘲笑った直後の事だった。ざわめく小鳥たちなど存在しないが、何体かのエニグマは“その方向”を遠目に眺めた。禁界は広大だが、敏感な動物は遠くに居ても思わず気にかける。それはそんな地響きだった。

「何だ、今の」

呟くアーサー。ホープと共に、その眼差しは山脈へと向けられる。すると直後、勝負に負けて血だらけのギガスアーマーは笑い声を上げた。

「あ?」

「もう、禁界は終わりだ」

「は?」

「“外界の者を拒絶する磁場”は山脈の形が原因だ。言い換えれば霊気だの磁場だのの逃げ場が無い。だったら、山など爆破してしまえばいい」

「爆破だと?」

「山のどこかが切り崩されれば磁場の流れも乱れる。すでに作戦は終盤。間もなく禁界は、“拒絶する力”を失う」

よくは分からない。しかし良くない事だという事は分かる。そうアーサーは妙な事を言い捨てたギガスアーマーを睨む。

読んで頂きありがとうございました。

ギガスアーマーも転移は出来ますが、やはり戦闘時となると人の感覚的には高速移動の方がいいんでしょう。ましてやギガスアーマーが力で劣るだなんて思わないでしょうから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ