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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「紅に落ちて」後編

ザリッと地面を踏みしめる音が妙に響く。お互いの眼差しは一直線に結ばれていて、その雰囲気に声をかける者などそこには居ない。剣の柄を両手で握りしめるアーサー。ゆっくりと剣を頭上に構え、短い尾状器官を背後に向ける。闘志を研ぎ澄ませる静寂。整える呼吸。そしてアーサーは怒りを込めた。短い尾状器官からの衝撃波を推進力にしながら、“ろくに構えもせず、余裕という態度でもって見下してくる”上官ギガスアーマーに。振り下ろされるアーサーの剣。

「くっ──」

表情を力ませたのはアーサーだった。そもそもギガスアーマーだから表情は分からないが、見た感じアーサーの剣は“受け止められた”。柄を握る手の力が強まっていく。ギュッという音が聞こえそうなほどに。するとその時だった。上官ギガスアーマーは高速で後退し、あえてアーサーに空を斬らせたのは。押し退けようと力を込めていたからこそ勢いよくつんのめるアーサー。

「(あっ)」

眺めている側だからこそ上官ギガスアーマーの動きが分かるヘルがそう声を漏らした時にはすでに、上官ギガスアーマーの剣は振り下ろされていた。眩く突き抜けていく鮮血色の光刃一爪。転がっていくアーサー。

「くそっ」

それでも尾状器官の手で地面を掴んだり短い尾状器官の推進力を使ったりと弾かれるように立ち上がると、アーサーは果敢に斬りかかっていく。それからアーサーが何度目かの転倒を見せた頃、そこにイエンはパッとやって来た。しかし“あのエルフ”がやって来ても誰も騒がず、周囲の目は光刃一爪の鮮やかさに奪われていた。だからすぐにやじ馬に馴染むイエン。

「アーサーっ」

たまらず飛び出すグラシア。アーサーは結構ボロボロで、すでに勝機は見えなかったから。大盾から放たれる白い光に、ガツンと打ち消される鮮血色の光。

「セコンドのタオルが投げられたという事でいいのかな」

「まだまだ全然行けるぞ俺は」

「翼人よ、デュープリケーターはそう言ってるが」

「あなた達の目的は、この世界の支配なの?強い力で周りを押し付けるだけじゃあなた達だって幸せになれないよ」

「幸せ?」

「いつかはギガスアーマーを越える力が生み出されるんじゃない?そうなったら立場が逆転するだけだよ」

「だからどうしたというのだ。それが人の常だろう」

「(やっぱり開き直った)」

「それに、我々はすでに極致を掴みつつある。単なる科学力では足元にも及ばない」

「極致・・・って、まさか、あなた達も、テムネルを」

「それは全くの見当違いだ。我々は紛れもなく人間だ。エルフのような忌々しい魔力など使わない。これは、この血の剣は紛れもなく人間の力。人間にも、人間の極致があるのだ!」

「人間の極致・・・」

「・・・口が滑ったな。ともかく、我々を越える力を持つ人間は、この世界には絶対に存在し得ないのだ。そして人間は、力によって管理されてるくらいが丁度良い」

「そんな、そんな事」

「外敵を気にして生きる事のない翼人には分かるまい。力が無ければ支配される、搾取される、虐げられる。だからこそ、人間は強くなっていくしかないのだ」

「やってみなくちゃ分からねえよ」

顔を向ける上官ギガスアーマーとグラシア。前に出たのはバルオだった。

「ギガスアーマーが世界最強?そういう奴に限って後で吠え面かくんだよな」

「確かに理解は出来ないだろう。地に伏せられてもない者に敗北を問うても無粋だった」

再び上官ギガスアーマーの全身から鮮血が吹き出し、剣に吸い寄せられる。レジスタンスギガスが数人、今にも飛び掛かろうとしている中、上官ギガスアーマーの剣は肥大した。最早その刃渡りは人を隠せるほどに巨大。バルオは息を飲み、レジスタンスギガス達は地面を踏みしめる。

「来い」

顔を見合わせ、一斉に飛び出していくレジスタンスギガス達。上官ギガスアーマーはゆっくりと剣を振りかぶる。普通に見れば、上から横からと一斉に飛び掛かっていくレジスタンスの方が有利。それから剣は空を斬った。最早風を切る音だなんて思えないくらいの爆音だった。眩くレジスタンスギガスを呑み込む鮮血色の光刃。その一振りで3人のレジスタンスギガスが呆気なく地に伏した。辛うじて被害を免れたバルオはその瞬間、一点を見つめる。巨大な剣を振り下ろした直後の姿勢の、上官ギガスアーマーのこめかみを。──今なら行ける!

尾状器官から弾ける衝撃波。炎と共に圧縮された衝撃波が砲弾のように空を突き抜ける。上官ギガスアーマーはまだこっちを見ていない。そうバルオは炎の衝撃波が着弾したその瞬間を見ていた。爆発が上官ギガスアーマーの顔、上半身を覆う。しかし巨大な剣は空を斬った。バルオの目に焼き付く鮮血色の光。一瞬だった。とっさに身を屈める事しか出来なかった。気が付けば体は地面を転がり、尾状器官も1本千切れていた。──何でだ、効かなかったっていうのか?

顔を上げれば、すでに飛び掛かっていった者達は全滅していた。鮮血色の光に斬り伏せられ、まるでチンピラが返り討ちに遭ったように倒れていた。立ち上がる事は出来る。また飛び掛かっていく事も出来る。しかしどうしようもない敗北感が体を締め付けていた。そんな時だった、バルオがアーサーに目に留めたのは。あれだけボロボロにされたのに、自己再生を待てばすぐにリベンジしていく。そんな姿に、自分への怒りが込み上げた。──くそっ。

「ジャベリン!」

放たれた青い光槍。バルオは目を見張った。近付く事さえ出来なかった上官ギガスアーマーが凄まじい青い光に圧されていた。更にその隙に飛び掛かり、デュープリケーターは尾状器官の拳で上官ギガスアーマーを殴り倒したのだ。それは力というより経験の差。そんな姿に、バルオはまた怒りを抱いていく。まだ尾状器官は再生途中だが、気が付けば衝動的に飛び出していた。デュープリケーターと剣を押し合っている上官ギガスアーマーの後頭部を見つめて。そして振り上げた拳に炎が灯った。

「調子に乗ってんじゃねえ!」

ガツンと鈍い音が響いた。それはまさに鈍器が叩きつけられたようなもの。上官ギガスアーマーは思いきり頭を揺さぶられて姿勢も崩れて、そこにアーサーが斬りかかる。再び倒れ込む上官ギガスアーマー。アーサーの剣には血が滴っていて、その雰囲気からは勝機が垣間見えた。しかしそれからだった、アーサーが目を見張ったのは。すでに上官ギガスアーマーは高速で距離を取り、体勢を整えていた。けどそんな事よりも目を奪うのは、アーサーの剣から滴る血が“勝手に宙に浮き出した”事。すると直後、漂う血は網状となりアーサーとバルオに絡み付いた。

「何だよっ」

「先の言葉、そっくり返してやる」

振り放たれた鮮血色の光刃一爪。それはとてつもなく大きなものだった。

「アーサーっ」

グラシアの下に転がってきたアーサー。その体はまたボロボロだった。たった一振りでこんなになるなんて。そうグラシアは無数の切り傷が付いたアーサーと地面をふと見下ろす。──沢山の刃が集まった、大きな刃?・・・。

「強え・・・けど、いいスリルだ。倒しがいがある」

「レジスタンスの諸君。これより選択肢を与える。街の穴の不法占拠を止めれば、これ以上の追及はしない」

「どういう事だ」

倒れているバルオを横目にリイドウが応える。

「レジスタンスを解散し、街の穴を出ていけば不問とすると言っている。諸君に勝ち目は無い。諦めた方がいいのではないかな」

「ギガスという力が国に奪われるのを黙って受け入れろと?」

「いや、街の穴を明け渡し、今後レジスタンス活動を一切しないのなら、人間に戻る薬を強制的に投与する事はない」

風通しよく緊迫感が通り過ぎていった。急にそんな事を言ってきた上官ギガスアーマーに、レジスタンスの人達はただ驚いていた。ふとルアは1歩前に出たレジスタンスギガスを見る。

「騙されんぞ。お前1人にそんな事を言える権限がある訳ないだろう」

それからだった、レジスタンス、シューガーのマスコミ達がどよめいたのは。その驚きは“シューガーの人間じゃなければ分からない”。だからルア達は人間に戻った上官ギガスアーマーではなく、その人を見た周りの反応に驚いた。

「首相・・・。か、カルベス首相・・・まさか」

「主君の補佐を務めるこの私の言葉では不満か」

「・・・いや、本当に、レジスタンスを解散すれば、勝手に人間に戻される事はないのか?」

「これはあくまで恩赦ではない。ギガスアーマーは、ギガスを押さえつける為の単なる力ではないのだよ。本来の目的である世界の統治の為、小さな勢力にいちいち時間を割く事を止める。これはお互いの為でもある」

「街の穴を明け渡せなんておかしいだろ。そんな事に何の意味がある。ここはオレ達の家だぞ」

「ここに居たらレジスタンスの血の気が騒ぐであろう。その血の気を捨て去る事も大事ではないか?」

「街の穴は、自由の象徴だ。オレは離れない」

レジスタンスの1人が他のレジスタンスにも聞かせるようにそう主張する。そんな言葉は匂い立つように伝染し、その静寂はむしろ同意を纏ったよう。

「首相に直接物が言える機会はそうないからな。この際言わせて貰う。ここは、街の穴はギガスの街でもある。レジスタンスを解散しろってんならそうしてやる。ただし、街の穴は渡さない。それが条件だ」

「街の穴など、いつか無くなるぞ」

「あ?」

「街というのは常に発展し、災害か何かで破壊されても、必ず復興する。それが人の営みだ。そんなものにすがっても未来は見えないのではないか?」

「街の穴は街の穴でもう出来上がってる。公園とか屋台通りとか、それが消える事はないだろ」

ロードスター連合王国では1人の連合国王の下、3ヶ国それぞれの首相が国王の補佐についている。その実質国のナンバーワンが自らやって来た事に“話が弾む”中、ふとルアはアーサーを見た。もう傷はほぼ治っていて、また飛び掛かっていってしまうのではと変に焦りを抱いて。

「(すごくない?首相がギガスアーマーって。何かもうギガスアーマーの国みたい)」

「うん」

「おい」

「ちょ、アーサー」

振り返るカルベス首相。ルアはすぐさまアーサーに歩み寄る。

「もう終わりか?」

「話は終わった。諸君の言い分は国によるギガスの力の奪取は不当だという事であろう。それはレジスタンス次第という事だ。サクリアでもいづれギガスアーマーによる治安活動が行われる。ギガスアーマーがどれだけ世界の為になるものか理解出来るだろう」

「(世界連合(セカレン)の会議で決まったらの話じゃん)」

「決まる。ギガスアーマーは望まれるべくして生まれたものだ」

それからカルベス首相と軍隊が去っていって、ルアはふとアーサーを見た。アーサーは何故か満足げだった。同じように満足げなのはマスコミ。首相がギガスアーマーという事、ギガスアーマーが世界中に配備されるかも知れないという事、近年希に見る大ニュースだ。

「独立自警団として、サクリアの人間として、ギガスアーマーが配備されるかも知れないという事をどう思いますか?」

「えっと、確かにギガスアーマーくらい強い力がちゃんと正義の為に使われる事は良いことだと思いますけど、ウパーディセーサの力と衝突してしまうかもと考えたら不安、です──」

そんなインタビューがサクリアで放送されている中、ルアは電話を取った。ノイルからの電話だと少しびっくりしながら。

「はい」

「どうだった、デビューは」

「何か、上手く利用されちゃった感じです」

「なるほど。まぁ首相だもんな。独立自警団とかいうグループが軍とマスコミを集めたってなると、相手も構えるよな。世界連合への提案はサクリアでもニュースになってる」

「サクリアでも、ギガスアーマーが配備されるんでしょうか」

「どうかな。さすがに拒否権はあるからな。ただ何十ヶ国が賛同してギガスアーマーがより世界平和のシンボルになったら、拒否する国は冷めた目で見られるようになっちまう。んでまぁ、ちょっと忠告っつうか」

「忠告?」

「警察内部でも意見が分かれてる。独立自警団が勇み足でシューガーに乗り込んだからカルベス首相もあんな進言をしたと思う奴もいる。それは世間でもそうだ。けどいちいち反対派に気負うなよ?」

「はい」

「じゃあな、正義を貫くってのは大変だが、期待してるぞ」

「はい」

電話を切るとルアはふと先程の事を振り返る。じゃあ三国に戻ろうかと言ったヘルに相槌を打ちながら。

──少し前。

「何でサクリアの人間が、シューガーの事に首突っ込んでんだよ」

マスコミもばらついていく中、そんな声をかけたのはバルオ。その無駄にでかい声に他のレジスタンス達もルアを見る。

「1人のギガスの子供がサクリアに逃げてきたんです。それで軍に家族を殺されたって話を聞いて、私達も、何かしたいって思って」

「たったそれだけで警察から独立したって?」

「え、はい」

「ふーん。すげえ度胸だな。なあリイドウさん。いっそ、レジスタンスもそういうの作れば、街の穴も守れたりすんじゃねえかな」

「お前、ちゃんと首相の話理解してんのか?レジスタンスは解散だ。それが街の穴を守る条件だ」

「いや、だから、代わりに違う組織を立ち上げるって事だよな?」

そう口を挟んだのはユウソル。それからレジスタンスの人達はルアを忘れて話し込み始めた。だからルアはゆっくり歩いた。

三国に戻ってきたルア達を真っ先に出迎えたのはテリッテ。まるで心配していたような顔色に、グラシアは落ち着いた笑みを返す。

「(レジスタンスの人達も自警団作るのかな)」

「どうだろうね。レジスタンスじゃなくても、また新しい組織作ったら首相に睨まれちゃうかも」

「(でも、これで良かったよね?)」

「うん」

クージ、グトウ砂漠。とあるオアシス。テルビオは生唾を飲む。何故ならこれまた柄の悪い人達に囲まれてしまったから。否応なしに先ず取り囲んできた男達のピリピリした雰囲気に、ミキーナでさえ真剣な横顔を伺わせる。

「余所者だな。しかも観光客じゃない」

「何で分かるの?」

そう問いかけるニュウニュウ。

「剣を持った観光客なんか居るかよ」

「そっか、確かに」

「ここに来たってこたぁそれ相応の用事があるって事だよな?」

「ううん。ここには用事はないの」

「は?」

「あたし達は人を捜してるだけだから。魔法使いって呼ばれてる人達」

こういう場合、相手を警戒させない為に精霊であるニュウニュウが受け答えをしてきた。ニュウニュウの落ち着きとか可愛い笑顔とか、それらは少なからず効果があるから。しかし直後、男達は表情を引き締め、各々短剣を抜いた。思わずたじろぐテルビオ。

「オレ達が言う事は1つだ。そいつらには関わるな。反論は聞かない」

「・・・2つじゃん」

ボソッと呟くミキーナ。しかし男の表情は変わらない。

「もしかして、その人達の事守ってるの?」

少しでも空気を和ませようと笑みを見せて問いかけるニュウニュウ。しかし男達は警戒だけを返してくる。

「今のは反論じゃなくて質問だよ?」

「・・・・・オレ達は、この砂漠を守っている」

読んで頂きありがとうございました。

ギガスアーマーの配備、そういう知的侵略な感じです。

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