表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/275

「紅に落ちて」前編

テルビオは溜め息を漏らした。残りのお金はあと1000クローラ。小腹が空いたので美味しそうなサンドイッチとか、井戸から汲み上げた水とか、そういうのは2、300クローラくらいでそれらしいお手頃な値段。でも情報料は本当に高い。ここは最初のオアシスとは比べものにならないほど大きなオアシスの街。聞けば政府の管理下に置かれていて、もう普通に“砂漠らしい”都会だ。ここに来て分かった事がある。“通行料”なんてものは無いという事だ。賑やかな商店街を歩きながら、テルビオはふと思い出す。管理下のオアシスに着き、通行料はいくらかと聞けば、鼻で笑われた事を。

「商店街はここで終わりかぁ。楽しかったねぇ」

「うん、サンドイッチ美味しかったなぁ」

相変わらずミキーナとニュウニュウは楽しそうだ。テルビオはふとステカの事を考えた。──デートで来ても楽しそうなところだ。

「そういえばシークフィン、何で霊気検索出来ないかは分からないの?」

「分からないよー?何かねー、乱反射していってフワーって消えちゃう感じでー、どうしてそうなってるかは分からないんだよ」

「ふーん。じゃあ禁界みたいにその土地特有の効果とかじゃないんだ」

「多分ねー。でもそうかも知れないかもねー。ここは精霊が来ない世界だから、精霊でもまだよく分からないんだよ」

「何故来ないんだ」

「精霊が入っていいかどうかは霊王が決めるんだけど、その世界の支配主の状況で判断するんだー」

「支配主って?」

「1番“強い群れ”だよー、つまり人間だね。歴史を観察して、戦争ばっかりで危険な世界だと行っちゃだめかなーって感じ」

「そうか」

「魔法が戦争に利用されちゃうから?」

「そうだねー」

「でもプライトリアだって戦争してるんでしょ?」

そうテルビオがミキーナに顔を向けるが、ふと目に留まったのは別に悲しそうな表情をしてないニュウニュウの顔。

「まあね。でも精霊と一緒だから貧困なんてないし。例え戦争孤児だって食べ物が無いなんて事ないし、悩んでたら精霊が話し相手になってくれるし、精霊が居たら断然心は豊かだよ」

「そっか」

テルビオはオアシスで買ったコンパスを見下ろした。情報では魔法使いの人達が居るのは今居る「ローボウレン」という管理下オアシスから北西に向かった先の無法オアシス。それから一行はローボウレンを後にした。幸い、何キロか先には違うオアシスが見える。そうテルビオは鼻息を吹かした。──よし、行こう。



第43話「紅に落ちて」



ルアは溜め息を漏らした。それは明らかに緊張している様子。その目線は壁掛け時計に向けられていて、それからルアはリラックスの為にココアを一口飲み込んだ。出発まであと30分。そんなちょっと話しかけづらい雰囲気のルアを横目にすると、ルーナは庭を見た。ヘルは“魔法の手”でママと一緒に採った野菜を洗っていた。そんな時だった、ルアの携帯電話が鳴ったのは。

「はい」

「様子を見に来た。結構軍が警戒しているようだな」

「そうですか」

「順調だな。じゃあ時間通りに」

画面に表示されている名前はヘリオス。電話を切るとルアはココアを飲み干した。

「お姉ちゃん、大丈夫なの?そんなに緊張して」

「そんなに緊張してないし」

「ふーん」

ルーナは一緒にソファーに座っているリヒカと顔を見合わせる。大丈夫そうには見えないけど、何かこっちまで変に緊張してしまう。でもルアのそばにはペルーニが居るし、ペルーニの表情からはそこまで緊張は伝わって来ない。

「(今日の晩ご飯はタンドリーチキンだよ)」

「ヘルは全然緊張してないんだ」

「(だって強いから。仲間も居るし、全部平気)」

ルーナは微笑んだ。何故ならヘルが本当に強気な笑みを見せてきたから。やがて時間になると、ルアとヘルは静かに立ち上がった。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

それから三国の地に立ったルア達。グラシアを迎えに宿舎に行くと、ルアはふと目に留めた。待ち合い席みたいなところのそばに立っていたグラシアは見たこともない笑顔だった。でも一瞬で分かった。グラシアが笑顔を向けているのは、グラシアにとって大切な人なんだと。

「あ、ルア達、もう時間なんだね」

「はい」

「そういえばまだ紹介してなかったよね。幼馴染みのブレンスト」

「あ、初めまして。ルアです」

「あぁ、グラシアから聞いてるよ。俺はずっと農業に専念してるんだ。でもグラシアからこれまでの事は色々聞いてる。これからシューガーに行くんだよな」

「はい」

するとその一瞬、ブレンストとグラシアのアイコンタクトにルアは小さな不穏を感じ取った。

「その、まぁ、実は俺、グラシアにプロポーズしたんだ」

「(付き合ってたんだ)」

「いや、そういう訳でも、なかったんだけどね。本当はもっと早く言いたかったんだけど、まぁ兵士やキューピッドの仕事が落ち着いたらでいいかなって思ってたんだ。でもこれからは独立自警団の事もあって、その、ちょっと頑張りすぎかなって」

「(え、まさか、寿退社?)」

「あ、いや、すっぱり止めさせたい訳じゃないんだ。でもそろそろ年齢的にもさ、グラシアと結婚したいんだ」

「(元々副団長だし、そしたら司令官みたいな感じになるのかな)」

「うんまぁ。急で悪いんだけどさ」

顔を見合わせるルアとヘル。本当に急な話だが、だめだなんて事は言える訳ないし、言いたくもない。その瞬間頭を過ったのは、戸惑えば戸惑うほど、変な空気になっちゃうという変な焦り。

「あ、はい。分かりました」

それからアーサーを迎えに来た森の中で、ルアは落ち着いた申し訳なさを微笑みに乗せてきたグラシアを見る。

「テリッテにも言われた事あるんだよね。頑張りすぎないでって。でも私自身は普通だったけど、やっぱりそうだったのかな」

「(もしかしたらブレンストさん、アルテミスの活動もしたら婚期を逃しちゃうかもって焦ったのかな。でも頑張り屋って、基本自分じゃ気付かないもんじゃない?)」

「おー、ルア達、待ちくたびれたぜ。早く行こうぜ」

「うん。グラシアさん、大丈夫です。みんな強いですから」

「そうだね」

最初からいきなりフルメンバーで行ったら余計に敵意を抱かせてしまうし、それにダイヤテレビのオーリスが、ルアとヘルとグラシア、そして誰か1人デュープリケーターが居れば十分“画になる”と言っていた。だからそんな感じでいよいよやって来たルア達。パッと現れたトロフィー公園。間もなく集まってくるマスコミ。

「(わあすごい、もう街の穴もこんなに賑やかなんだ。テレビで見るのと全然違うや。あ、軍人来たよ)」

妙にテンションが高いヘルに構う余裕はなく、ルアは足を踏み出していく。すでに軍人とルアがお互いを捉えて歩み寄り始めているので、道を開け、ただレンズを向けていくマスコミ。

「マスコミまで集めて、一体どういうつもりなんだ?」

「ギガスを殺してしまう薬の事で、話があります」

「情報元はレジスタンスか?」

「・・・いえ違います」

「ギガスを殺す薬なんてものは存在しない。そんなものは副作用への逆恨みでしかない」

「副作用で死ぬかも知れないって分かってて使う事自体おかしいです。それに、証拠はあります」

「何だと?」

「わざわざ私達からマスコミの人達に声をかけたんです。ただ話しに来た訳ないですから」

その軍人男性の表情が疑念で歪んだその時だった。カメラマンの数人がササッと目線を変えたのは。その目線を追う軍人達。そこに居たのはヘリオスだった。ヘリオスは周りに見せつけるようにUSBメモリを持ち上げた。

「これに入っているのはギガスを人間に戻す為の薬の計画書と製造データだ。第三者の研究機関で調べれば、簡単に分かる」

「何だと?どうやってそれを」

「どうやって?俺は忍者だ。それ以外に説明は要るのか?」

「・・・ハッつまりは不法侵入か。そんな違法捜査は何も証拠にならない」

「証拠にする必要は無い」

「は?」

「裁判を起こす訳じゃない。薬のデータを紐解いて世間に見せるだけだ」

「お前らの事など誰が信用するんだ!お前らが元凶だろ?お前らが・・・サクリアがウパーディセーサを作り、デュープリケーターを作り、異世界から魔法使いだのエルフだの呼び込んだんだ!」

「(そういうの責任転嫁って言うんだよ。そっちだってギガスアーマーを作ったし、それにサクリアはウパーディセーサを独り占めしてないよ。問題はそもそも何で一般人のギガスを殺してるかって事だよ)」

「それは言ったはずだ。ギガスの犯罪者を減らす為だ。それ以外に他意は無い」

「でも、犯罪者でもないギガスまで殺してますよね?それに関しても証言があります。殺された本人から」

「・・・・・精霊か」

「認めますよね?罪の無い人々の命を奪った事を」

急に黙った軍人男性。その表情に色はない。カメラのレンズたちは真っ直ぐその泳ぐ眼差しを捉える。その時だった、どこからか拍手が聞こえたのは。それはたった1人の拍手で、その音には敬意と嘲笑が伺えた。やって来たのは1人のマント付きギガスアーマー。更にそのボディーはシルバーグレーだけじゃなくゴールドやレッドの差し色がある。するとレジスタンスの人達も警戒しながら少しだけ集まる。明らかに豪華で、“上官らしい”と。

「上出来ではないか、正義の味方ごっこにしては。今や君達は無国籍自警団。独善的に国の重要施設に忍び込むなど、蛮族という他あるまい」

「(うえ、何か変なの来た)」

「ただ・・・だから何だというのだ」

「え?」

「ギガスという言わばギフトを国が管理する。ただそれだけの事ではないか。その為に誰かが犠牲になったとて、それは人間の営みにおいて自然の事。死んでしまった者達を悼むというのなら、無国籍自警団である君達が精霊と共に救っていけばいい。『捨てるも拾うも人の沙汰』とも言うだろう。それもまた人間の営みにおいて自然の事だ」

「(開き直った)」

「それとも何か?君達無国籍自警団は、国の批判はすれど人々の命を拾う義理は無いとでも言うのかな?」

「そ、そんな事ありません。望まれれば生き返らせてあげられるようにします」

「望まずとも大義を為すのに犠牲は生まれてしまうものだ。捨てる者を批判するだけしか能が無ければ、それこそ蛮族に過ぎない。・・・レジスタンスの諸君!今ここに失われた命を拾う者が居る。君達にも人々の命を拾う義理があるのなら、国に噛み付いてる暇はない」

「・・・・・ふざけるなぁ!」

ササッと目線を変えていくカメラマン達。レジスタンスの1人がそう怒鳴ると、ギガスに変身した。

「どんだけ開き直ってんだよ!犠牲なんかじゃない。ただの計画殺人だろ!誰かが命を拾うんならな、だったらこっちは安心して噛み付いていけんだよ!」

「・・・愚かだな」

飛び出したギガス。他のレジスタンスもギガスに変身する中。上官ギガスアーマーは体をゆっくりと向け、まるで子供を相手にするかのように殴りかかったギガスを叩き落とす。ふとルアはキョロキョロした。戦わないように出来ればその方が良いけど、こうなったらこうなったで、マスコミの人達を避難させなければと。

「皆さん離れて下さい。巻き込まれちゃいます」

「(あ、アーサー)」

ルアが振り返った時にはもう、アーサーは飛び出していた。向かった先には上官ギガスアーマーの背中があるが、そこに2人のギガスアーマーが迎え撃っていく。

「うおらぁ!」

尾状器官の手から溢れる青い光。それは爪となり空を掻き、ギガスアーマー達を豪快に薙ぎ倒す。カランカランと転がるギガスアーマーの変身銃。それでも負けじと立ち上がり、高速移動でもって2人がかりでアーサーを制止する。そんな状況に、上官ギガスアーマーはゆっくりと顔を向ける。

「どういうつもりだ」

「俺は戦う方が性に合ってんだよ。命を拾うだのは俺の係りじゃねえんでな。邪魔すんな!」

再び転がるギガスアーマー達。そんな状況ごと上官ギガスアーマーは鼻で笑う。直後にアーサーは飛び出した。尾状器官の手に青光を纏わせて。そして青光を纏う拳は振るわれた。ドンと空気が震える。短い距離ではあるが高速移動の勢いを付け、上官ギガスアーマーが尾状器官の拳を拳で受け止めたのだ。余裕しか伺えない拳と眼差し。しかしそこにレジスタンスギガスが飛び掛かり、上官ギガスアーマーは背後から軽く殴り飛ばされる。そうやって始まった乱闘にルアはキョロキョロし、グラシアと顔を見合わせる。

「アーサーっ」

「え?」

振り向きながらギガスアーマーを薙ぎ倒すアーサー。その表情はどこか生き生きしていて、ルアは自分で声をかけたのに戸惑ってしまう。

「ちょっと待って、話が出来なくなっちゃう」

ふと見つめ合うルアとアーサー。すると直後、アーサーは小さく笑った。そしてアーサーはギガスアーマーを殴り飛ばし、青い衝撃熱波で追撃していく。溜め息を漏らすルアとヘル。

「(アーサー、楽しそう)」

「もう、アーサーったら」

「無国籍自警団の諸君、レジスタンスの諸君、各々自分達を守るだけの武器を持っているんだろう。しかし自惚れるな。我々は対話でも戦闘でも、決して君達に劣るつもりはない。マスコミも居るいい機会だ。・・・ロードスター連合王国は今ここに宣言する!──」

「(何だろ急に)」

「ロードスター連合王国はこれより、ギガスアーマーを全世界に配備する!その目的は我がロードスターが世界の秩序を担う為である。世界最強の兵器ギガスアーマーが世界の治安を守れば、世界の平穏は約束されるであろう。手始めに、ロードスターは連合王国は『世界連合治安保障理事会』に、我が連合王国が世界の警察としての役割を果たす旨を提案する」

ふとルアは振り返る。当然だが、そんな宣言にマスコミの人達は上官ギガスアーマーに釘付けだ。でも何となく思ったのは“たかが軍人の1人”がそんな事言ったって果たして本当にそうなるのかなという事。

「(ギガスアーマーって、そんなに強いのかな。さすがに厳しいんじゃないかな)」

「真っ当な意見だな自警団の者よ。しかし言ったはずだ、自惚れるなと。ここで証明してやろう。“シューガーの”ギガスアーマーが世界最強だという事をな」

小さく首を傾げるヘル。何やら上官ギガスアーマーは右手を水平に上げたから。恐らく魔法で何か武器でも作るんだろう。それはそんな“よくある”雰囲気だ。すると上官ギガスアーマーの全身から鮮やかな赤い液体のようなものが吹き出し、吹き出すと同時に右手に吸い寄せられた。それからそれは瞬時に剣となった。マスコミの人達はざわめくが、ヘルは驚く事なくただ見つめていた。

「ハッ何だそれ、ただの魔法だろ」

そう言って飛び出したのはレジスタンスのユウソル。尾状器官から炎を吹き出して推進力を増し、更に魔法でもって体組織を変化させて拳自体を肥大させる。それから、鮮血は吹き上がった。

「──ガハッ」

「ユウソル!」

その一瞬は違和感だった。血にしては吹き上がり過ぎだと。代わりに別のレジスタンスギガスが飛び掛かっていってルアとヘルはようやく理解した。あの鮮血はギガスからじゃなく、剣からだと。そしてそれは鮮血ではなく、鮮血色の“光刃一爪”だと。動けずにもがくレジスタンスギガス達。その出血は酷く、ダメージは見るからに大きい。

「(レジスタンスのギガスが、簡単にやられちゃった)」

「剣なら俺だって出せるぞ」

ゆっくりと振り返る上官ギガスアーマー。アーサーの両手には剣が握られていて、手ぶらである尾状器官の両手には爪を形作ったように青光が揺らめく。そんな闘志を上官ギガスアーマーは鼻で笑う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ