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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「太陽は目覚める」後編

舞い上がる砂。それはたまたま風に乗って渦を巻き、ちょっとしたつむじ風になる。常にゆらゆらと陽炎が眼差しを誘う。そこは広大な砂漠、グトウ砂漠。当然街のような人通りはない。すれ違うのは渇いた風と、時々サソリ。1歩1歩着実に踏み出される足。息づかいはそこまで荒くない。ちゃんと水を飲んでるし、今日は別に猛暑って訳じゃない。それからちょっとした山の天辺に登ると、ミキーナは深呼吸した。

「いいなぁ、シャークは浮いてて」

「さっきも聞いたぞ」

「ていうか、どうしよう、結構前から道に迷ってる気がするんだけど」

「砂漠だし、道なんて無いんじゃない?」

笑顔のニュウニュウ。その手にはさっき捕まえたトカゲが握られている。

「あたし達、普段から沢山歩いてるし、体力的には問題無いよ。きっとすぐ見つかるって」

「そうだよね。“見えないだけ”だもんね」

「精霊ってそんなに万能じゃないんだね」

「人間が隠れてるだけだよー」

テルビオはペットボトルのキャップを開けて、水を飲む。シークフィンも浮けるタイプだから、全然元気。ギガスだからスタミナは問題無いが、砂漠に足を取られるのは地味に疲れる。──例え猛暑になっても魔法で何とかなるし、まいっか。

──少し前。

「あれー、おかしいなー」

「どうかした?」

「分かんなくなっちゃったー。禁界でもないのに検索出来なくなるなんてー」

「どこら辺で途切れたの?」

問いかけるミキーナ。

「クージっていう国のー、砂漠だよー」

「グトウ砂漠か。あれ、転移して居なくなったのに、こっちの世界なんだ。てことは、あっちの世界の魔法使いがこっちの世界の砂漠に隠れてるのか。精霊から隠れるって簡単なの?」

「科学的な何かをすれば、出来るんじゃない?」

そう言ってニュウニュウを見るミキーナ。するとニュウニュウは冷静に頷き、何となく落ち込んだような表情を伺わせる。

「ドルタスという知り合いのエルフも、人工的に禁界を作って霊気検索を逃れていた事がある。しかし少なくとも、隠れているのは精霊の存在を知っているあっちの世界の者だろう」

「そうだねー」

「砂漠に潜伏か、何か、いかにもって感じだね。じゃあ、行こっか、砂漠」

「結構危ないよ?」

「えーいいの?どんな人か気にならないの?」

もうすでに楽しそうなミキーナの笑顔に、テルビオはむしろ安心した。きっと偵察のベテランだからこその余裕があるんだろうと。

「・・・気になる」

見えてきたオアシスに向かっていく一行。砂漠までは転移でひとっ飛びだが、やっぱり歩いている中で見つけるオアシスはそれだけで心が穏やかになる。そうテルビオはふと目を向ける。手を繋いで砂地を下っていくミキーナとニュウニュウの楽しそうな笑顔を。

「ちょっと隠れてて」

シューガー、街の穴。1人歩き出したイエン。トロフィーの下、そんな背中を、フルーピスとギガスアーマーは眺める。

「何しに来た!ダークエルフ!」

怒鳴ったのは1人のギガスアーマー。

「罪滅ぼしに、レジスタンスを潰しに来たのか?」

そのギガスアーマーがそんな事を言えば、レジスタンスの雰囲気はイエンに向かって少し尖っていく。

「お姉さん、軍人の仲間だったの?」

問いかけるケイシン。

「そんな訳ないでしょ」

「おい、罪滅ぼしっていうなら、レジスタンスに味方してくれよ。ギガスの力は平等に与えられたもんだ。なのに政府はそれを独占してる」

「レジスタンスに味方すれば即刻処刑だぞ!」

レジスタンスと軍人達を交互に見ると、イエンは後ろを振り返った。その先はフルーピスと、あのギガスアーマー。──そう言えば、デルスクスは、テムネルを広めるって言ってた。デルスクスなら、どうするんだろう。

「さっさと決めろ!ダークエルフ!」

「だからあたしはもうダークエルフなんかじゃないんだってば。それにあたし・・・あんた達と手を組むつもりないから」

「それがお前の答えだな?もう後戻りは出来ないぞ。レジスタンス共々処刑する」

1人のギガスアーマーが空気を押し退け、ボンッと詰め寄る。気が付いた時にはすでにイエンは頬をビンタされていた。──速い。しかし舌打ちをしたのは軍人だった。普通の人間だったら首の骨が折れるどころか、頭部全体の骨が砕けるのに。イエンはただ、“普通にビンタされたように”目線を弾き、そして反射的に睨み返す。すぐさま手を伸ばすイエン。しかしその手は空を掴み、そしてすでに、イエンは左胸を撃たれた。

「うっ・・・」

「くそ」

光は弾けた。それはまるで光の弾の方が負けて砕け散ったかのような現象。でもイエンの表情は歪んでいた。同時に数歩後ずさって。それはまるで“ちょっと痛いものをぶつけられたかのよう”。それから軍人はイエンの側面に回り込み、銃口に光を集束させる。

「逃げろ!」

イエンが目を向けると、すでに引き金は引かれていた。瞬間的に膨張した光弾がイエンを呑み込み、空気を引き込むような轟音が目を奪う。そうケイシンはただ見つめていた。名前も知らないお姉さんが、収束する光に消えていくのを。それから光弾は弾け散った。軍人は無意識に銃口を下ろす。──これでもダメなのか。被っていたフードは燃え尽き、パラパラと舞い落ちる。舞い落ちたのはそれだけだった。他にも服がボロボロになったが、イエンは無傷。再び放たれる光の弾。軍人は目を見張った。真剣な顔のイエンは痛がる事すらしなくなったのだ。投げつける小石でさえ受け付けなくなった神々しい態度。軍人はふと、脳裏に甦らせた。街の穴が出来た直後に佇むイエン、それを囲む特攻部隊や、木の葉のように舞い上がるシューガー軍の軍隊の中に居る自分という、あの時の憎しみと恐怖を。

「うおおお!」

だから軍人は、全速力でイエンを殴った。今持つ全ての力で、憎しみを込めて。しかし吹き飛んだのは、軍人だった。どよめくレジスタンス。ギガスアーマーが、人間のように吹き飛んだと。さすがにイエンに対して軍は何も敵わないと悟ったのか、それから軍は自分達から戦いを挑んだのに呆気なく去っていった。レジスタンスの男達が歓喜の声を上げる。

「ありがとう、あなたが居てくれて助かった」

人間に戻ったミレナがイエンの手を握り、笑顔を向ける。イエンは静かに頷いた。戸惑っていた。人間の笑顔なんて、久し振りだから。

「お礼させて。服が欲しいならすぐあげるから」

「う、うん」

直後に男達が肩をバンバン叩いてきた。お礼を言ってきたり、褒めてきたり、男達はテンションが上がっていて、あたしの戸惑いなんて見えてないみたい。安心したように歩いてきたフルーピスを見るとあたしも安心した。名前を聞かれたから応えれば、男達はあたしの名前をリズムに乗せて一斉に連呼した。

「ねえ、お姉さん、何で来たの?」

「君がどうなってるか、見に来ただけ。テムネルは使いすぎると危ないから」

「テムネルってこれ?」

イエンは目を丸くする。そのギガスは、手から黒いテムネルを揺らめかせたから。

「自由に出せるようになった。でもこれのせいで自分がおかしくなったのも少し覚えてる。お姉さん、レジスタンスに入るんだ」

「そう、なっちゃった」

「そっか」

それから人間に戻らないままトロフィー公園の公衆トイレの中に転移したケイシン。キョロキョロしながらトイレを出ると、レジスタンスが居る場所からは離れた場所のベンチに座った。

クージ、グトウ砂漠。グトウ砂漠の名前の由来は、愚か者が踏み入れる場所という意味から来ている。砂漠をただ歩くのは単純に自殺行為、そして死ななかった愚か者達が自分達の縄張りにしていつしか暮らすようになったから。ならず者達が暮らす場所として、歴史が長い。テロが盛んなのもそのせい。だからなのかと、テルビオは思った。

「見ない顔だな。でも誰かはどうだっていい。名乗る前に先ず金を出せ、砂漠の外から来たなら持ってるはずだ」

「通行料って事?」

ミキーナは問いかける。

「あぁ。それが砂漠だ」

「私はこっちのお金なんて持ってないし」

「あ、あの、いくら、ですか。シューガーのお金しか無いですけど」

「有り金の7割」

「え!?それは、ぼ、ぼったくりじゃ」

「あ?」

すると“オアシスに着いた途端取り囲んできた人達”の1人がテルビオに歩み寄り、武器を持っているくせにテルビオは表情を強張らせる。

「選択肢は2つだ。お前らが払うか、オレ達が奪うかだ」

「・・・・・悪いがそれは無理だ」

「あ?」

威嚇が染み付いた眼差しをシャークに向ける男。その男達も各々ナイフや拳銃を携行しているが、それでもシャークはそんな男を冷静に見下ろす。

「あんたらじゃオレ達には敵わない。オレ達は別に戦う為に来たんじゃない、人を捜してるだけだ」

「だったら情報料だ。砂漠ってのは全て貿易で成り立ってるんだ。何も対価を渡さない奴はここに来る権利はねえ」

「・・・情報料というのはいくらだ」

「前金で3万、シューガーの金なら今のレートだと、10分の1だ」

「3000クローラなら、あるけど」

「何かを買うってんなら通行料は5万でいい」

「えっと、そしたら、8000クローラ・・・。今、1万6000クローラしかない」

「止めるなら帰れ」

結局有り金の半分。何だか口車に上手く乗せられたような気がする。でも7割よりかは半分の方がいいし。ふとテルビオはシャークを見上げた。その眼差しはまるで払うのを待っているかのよう。

「お金じゃなきゃだめなの?」

そんな時に口を開いたのはニュウニュウ。精霊という存在にも、男は染み付いた睨み顔を向ける。

「いや、金目な物でもいい。物によっては単なる紙幣や硬貨よりも価値があるからな。だが見たところ・・・それは何だ」

舐めるように見てきた男が指を差したのはミキーナが携えている短剣。

「これはさすがにだめ。大事な武器なんだから」

「じゃあデュープリケーター。今だったらお前の肉はかなり金になる」

「オレを食う気か?その前にあんたらの命がなくなるぞ」

テルビオは妙にキョロキョロする。シャークの言葉はまるでマフィアだと。お金を払ってそれで済むなら、全然その方が良さそうだと。

「あの、払います。8000クローラ」

「そうか。物分かりの良い奴は嫌いじゃねえ」

渡される紙幣。男は渋い顔で紙幣をポケットに突っ込み、テルビオは少し苦々しい顔で財布をポケットに戻す。

「で、捜してるってのは?」

「えっと魔法使い、かな──」

テルビオは脳裏に過らせる。顔は分からなかったが体のライン的にはきっと女性。そして印象的なブーツ。

「あと赤いブーツ履いてた」

「・・・情報料は10万だな」

「な、そんな」

「まさかあんた、わざとか?」

「あ?」

「払えないと分かってる料金を提示してるんじゃないのか?」

「どうとでも言えよ。砂漠の人間は金だけには誠実だ。何なら他のオアシスに行って聞いてみろよ。情報料は高くないって分かる」

どうしようという顔をミキーナに訴えるテルビオ。いざとなったら異世界の何か珍しい宝石とか持っていったらどうかとテルビオが口にしようとした時。

「・・・たった8000ぽっちでも客は客だ。1つ教えてやる。その情報は忘れた方がいい」

「何で?」

問いかけるミキーナ。お金を払ったからなのか、もうすでにテルビオ達を取り囲んでいた男達は程よく散っていて、すると男は威嚇が染み付いた顔に面倒臭さを伺わせた。

「情報料払ってくれるのか?」

「それにも?荒稼ぎじゃない?」

「ははっ、それは誉め言葉だな」

グトウ砂漠のとあるオアシス。たまにタチの悪い者達が法外な値段で物を売って来たり、逆にいちゃもんをつけてはタダ同然で物を売らせたりするが、普通に暮らす分にはそこまで悪いところじゃない。大きなオアシスは基本的にクージ政府の管理下に置かれていて、貿易ルートが確立され、ちゃんと警察署とかもある。つまり、逆に言えば小さなオアシスではほとんどが無法地帯。テロ組織のアジトだったり、半グレ集団の溜まり場だったり、けどそれだけじゃない。

「何だお前らは。ロクな装備じゃないってこたぁただのガキ共か」

「だとオラァ!ジジイが息巻いてんじゃねえ。このオアシスはオレらが頂く。ここはゼリュウの野郎の根城に近いからな」

「お前らガキ共が本物のテロ組織に勝てる訳ないだろうが、止めときな。死ぬだけだ」

「砂漠ってのはただの陣取り合戦じゃねえ。1時間で引っ越しの準備をしろ!のろまな奴は奴隷にしてやる」

汲んだ水を両手いっぱいに掬い、そこに顔を埋める。ゆっくり顔をすすぐと、タオルをゆっくり押し当て、静かに水分を拭う。アルティアは深呼吸しながら空を見上げた。いつものように快晴。

「アル」

日陰で涼んでいる男がただ指を差す。その表情は半笑い。だからアルティアは何だと足を運んだ。少し先には人が転がっていた。少し坂になっているから倒れてそのまま転がってきたのだろう。でも助けようとは思わない。苦しそうにもがいている人に向かって、のんびりと歩く。

「1分だ。1分でここから出ていけ。のろまな奴は警察に引き渡す」

「悪かった、か、勘弁・・・してくれ」

少しの坂を登ったアルティアは溜め息を漏らした。“ボコられていた”10人のならず者にではなく、半グレ集団をボコった“父親”に。

「手加減してあげたら?」

「バカヤロウ。男にはこれくらいがちょうどいいんだよ。砂漠の男ってのは──」

「強くなけりゃ生きていけない」

アルティアの父バルサリクは手を放した。胸ぐらを掴まれていた男はドサッと尻餅を着く。

「ゼリュウに・・・オレらのアジトを奪われそうなんだよ。見せしめに、仲間が、1人・・・。早くしないと、だからオウギルのグループと手を組んで、奇襲を」

「オウギルも素人集団だろ?多勢に無勢だな。諦めた方がいい」

「仲間を見捨てろってのか?」

「自分の弱さに後悔しろ」

「うるせえ。オレらは行く。勝ち目はある。協力するのはオウギルだけじゃない。ゼリュウの組織の中にも居る。これはクーデターなんだ。オレらは奇襲組なんだ。だからどうしても、失敗出来ない」

「仲間の為に命賭けてんのか」

「ちょっとお父さん?」

「当たり前だ」

「俺以外には関わらないって約束しろ」

ちょっと朝寝坊してみれば、何だか面倒臭い事になってしまった。そうアルティアはオアシスの外れでたむろするならず者達を眺める。すでにボコられた後だけど、大丈夫なのだろうか。私は女だからそこまで厳しくないけど、お父さんは本当に“男に優しい”。

「ゼリュウって奴がやられたら、砂漠は平和になるの?」

洗濯物を干しているアルティアに尋ねたのは隣の家の女の子。

「平和にはならないかな」

「何で?」

「ボスが居なくなったって新しいボスが出来るだけ。それにゼリュウはまだマシな方らしいよ」

「何で?」

「言うことを聞かない悪い奴をボコってるから。自分が認める悪い事以外の悪い事はさせないんだって」

「よく分かんない」

「んー、うん、私も。男って分かんない」

カラカラと回る車輪。台車には果物などの食料や、日用品なんかも積み上げられている。砂漠に2本の線が続いていく中、そして台車は停まった。オアシスに着いたのだ。その商人の男は携帯している水を一口飲み込んだ。政府の管理下にあるオアシスから来たから商品は豊富で、すぐに顔馴染みの客がやって来る。

「やあアルちゃん」

「外国の新聞ある?」

「あるよー?ちゃんと揃えてますよー?ロードスター3ヶ国、こっちはサクリア」

大人達が食料や日用品を補充する傍ら、それからアルティアは新聞を広げた。商人と大人達の話に耳を傾けながら。

「今砂漠に、珍しい客が来てるらしいっすよ?なんとあのデュープリケーター。しかも、あっちの世界の魔法使いと精霊も一緒に。どうやら人を捜してるらしいっすね」

「その情報はどこから」

「あ、バルサリクさん、どうも。“管理下”からっす。関係、ありますかね?“オレら”と」

アルティアはふと見つめた。一点を見つめる父の横顔を。

読んで頂きありがとうございました。

ようやくルアがアルテミスの看板を背負う時が来ました。同時に血の剣の物語が始まっていきます。

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