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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「太陽は目覚める」前編

「・・・ウパ、ウパ」

「分かる訳ないよね。あたしが作った言葉だし。まぁ何でもいいけど、追いかけてきたのは強いテムネルを感じたから。何で持ってるの?この世界の人間なら、来たの?ザ・デッドアイのとこ」

流される目線と、沈黙。でも考えてるのは見て分かるからイエンはリアクションを待った。するとその人は黙って小さく頷いた。

「でも君、今でも半分呑まれてるよね。でもエルフじゃないからマガツにはならないし、そもそもギガスだから死んでギガスになるって事にはならないし、どうなるのかな」

「ギガスじゃない新しい何かになるんじゃない?」

急に話しかけてきた虹色の瞳の女性が顔を向けたのは、羊だった。自分が何者か分からない事より、そっちの方が気になってしまった。そう何となく女性と羊を見ていると、少しだけ頭の中が落ち着いてきた。だからこそ、森の中に居る事が余計に気になってきた。

「・・・ここ、は・・・」

「サクリアの森の中だよ」

応えたのは羊だった。サクリアという言葉は知っていた。国の名前だ。シューガーの隣のベンダンの隣。でも逃げてきた事は分かっていたから、驚きはない。むしろ安心した。遠いところに来れたと。──何だ、意識が・・・。

「・・・ウウッ」

「あー、呑まれちゃうみたい、どうする?」

「とりあえず暴れないようにした方がいいんじゃない?」

懐かしい漆黒のテムネルを纏い、そのギガスは動物のようにピタッと目線を合わせてくる。今にも飛び掛かってくるかのような殺気。しかしイエンの眼差しは涼やかだ。それはまるで小型犬でも見ているかのような優越感。新しいギガスだろうと、所詮はダークエルフのテムネルだから。そして直後、そのギガスは飛び出した。深い森の中、動物の首を掴んで地面に叩き落とす轟音など誰にも聞こえない。ジタバタするギガス。その瞬間、イエンの手からプレゼントのリボンのようにフワッと光が弾けて、シュルッとギガスを縛り付ける。

「えーい」

フルーピスの緊張感の無い声が響いた。一見何もしてないように立っているだけだが、するとギガスは眠るように動かなくなる。

「羊だから眠らせたの?」

「そういう訳じゃないよ」

「そっか。どうするの?起きたら意識あるかな」

「分からないよ。でもここで眠らせておくのも本人の為にならないよ」

「うん・・・」



第42話「太陽は目覚める」



ベクルスは迷惑そうに溜め息を吐き、グラスを傾ける。厄介事を持ち込んできたイエンに。とは言ってもウパーディセーサの薬をやったのは事実だ。まさかイエンが気になるから様子を見てくると言って、持ち帰ってくるとは。

「誰なんだよ、そいつ」

「分からない。シューガーに居たから、シューガーの人間かな」

「つーか、オレらがやったウパーディセーサだけじゃないよな?何が混ざってんだ?」

リビングに寝かされてるそのギガスをジロジロと見下ろし、バノが口を開く。

「白いって事はまさかザ・マッドアイのか?こいつイカしてるな。ザ・デッドアイとザ・マッドアイ、両方のウパーディセーサを混ぜやがったのか、はは」

寝てる事をいい事に、ブラッダーはグラスを片手にそのギガスを足でツンツンする。

「ここで寝てたってどうにもならないだろ。さっさと持ってけよ、特攻部隊のとこに。あいつらテムネル消せんだろ?」

態度は悪い。それはマフィアらしい。しかしイエンは内心で微笑んだ。すぐに解決策を言ってくれる、ベクルスの優しさに。

パッと現れたイエン、フルーピス、眠るギガス。そこはとある街の中。サクリアである事は間違いないが、何だか不穏な雰囲気を感じる。何故ならそこは警察車両が幾つか停まっていて、今正に“制圧が完了した状況”だったから。ルアとヘルはキョトンとした。いきなりあの時のマガツエルフが現れたから。しかしすぐに戦闘にならないのは、イエンからは殺気も闘志も感じなく、むしろ何となく困っているような表情だったから。

「(誰それ)」

「テムネルで、意識が呑まれた人。君達テムネル消せるんでしょ?やってあげてよ」

「(知り合いなの?)」

「全然知らないけど」

「(え?どういう事?)」

「シューガーでテムネルを感じたからって気になって行ってみたの。そしたら呑まれちゃってるから、とりあえず捕まえて、どうしようって思ってたら、ベクルスが特攻部隊のとこに持っていけばいいって、だから来たの」

淡々と分かりやすく説明したフルーピス。普通の羊なのにいきなり喋ったからと、ルアとヘルは目を丸くする。

「(普通の羊じゃなかったんだ)」

「普通の羊だよ。私、フルーピス」

「(ボクはヘルだよ。こっちがルアで、そっちがペルーニ、あそこに居るのがシュナカラク。でも、その人の事助けて欲しいから連れてきたんだよね?)」

「うん」

ルアに顔を向けるヘル。あれからマガツエルフとなったイエン達とは会ってない。それはまるで“戦う事に興味が無くなった”かのよう。それから久し振りに会ってみれば何だか困ってる様子。あれだけ殺し合った間柄だけど、また何かあれば精霊たちが集まってくれるだろうしと、色々考えながら。それからルア達はやって来た。勿論、テムネルを消す魔法が使えるルフガンを訪ねて。

「(そういう訳だから、頼んでいいかな?)」

「あぁ、分離(ラズデーレ)浄化(オーチス)

ブクブクと空に消えていくテムネル。そしてもう大丈夫だと、ルフガンは光の鎖をほどく。するとそのギガスはゆっくりと人間に戻った。

「子供じゃないのよ」

思わず口走ったパウロニ。普通に眠りから覚めたかのように起き上がった少年。理解したのはここが知らない場所だという事。周りに居るのは知らない人達という事。だからただ固まるしかない。そこでパウロニは屈み、目線を合わせて微笑んだ。

「お名前は?」

しかし少年は応えない。知らない人達を警戒してとか、そういうんじゃなく、明らかに分からないといった挙動。

「テムネルに呑まれちゃったから混乱しているのね。しばらくすれば分かるんじゃないかしら」

「そうだな。しかし連れてきた張本人のイエンでさえ身元を知らないとなると、仕方ないな、ノコズ、頼んでいいかな」

「うん」

ルフガンが精霊の権限に頼る傍ら、パウロニは少年にドライフルーツを食べさせる。

「イエンは他に何か言ってたのか?どんな風に過ごしてるとか」

「(え?特には。気になるなら会いに行けば?)」

「戦いになってしまうのは避けたいからな」

「(大丈夫じゃないかな。何か全然刺々しくなかったよ?)」

「そうか」

「・・・ここは?」

少年が喋るとパウロニはまたニコッとしてみせる。

「エルフヘイムよ。エルフの国」

「何でここに」

「テムネルに意識を呑まれちゃったから連れてきたのよ。でももう大丈夫よ。テムネルは消したから。何か思い出した事はあるかしら」

「マフィアのとこに行って、薬、貰った」

「マフィア?」

「(ザ・デッドアイとザ・マッドアイだよ。多分両方行ったんじゃないかな、黒と白だし。灰色はギガスだから、3つの力が合わさってるんだよ)」

「どうしてマフィアのとこに行ったの?」

「・・・最初は、連れてって貰った──」

思い出したのはクロキスの顔だった。レジスタンスの人達の言うことは断った後、歩いていると先生を見つけたから。

「・・・先生」

「ケイシン、もう大丈夫そうだな。良かったな、2人が生き返って」

「でも、オレ、ギガスに戻る」

「何で。まさかレジスタンスに入るのか?」

首を横に振るケイシン。しかし思い詰めたような顔に、クロキスは困ったように表情をしかめる。

「軍人が、言ってた。1人、生き残ってしまったって」

「何だそれ。どういう事だ。まさか、3人共殺すつもりだったってのか?さすがにそんな事したって、どんなメリットがあるっていうんだ」

勝手に熱くなったクロキス。ふとケイシンを見れば、そんな事聞かれても分からないといった顔でただ大人しい。

「それで、何でギガスに戻るんだ?それでも戦いたいからって事なんじゃないのか?」

「うん。だって本当は2人死んでた。生き返ったけど、オレ・・・」

「思い詰めるな。そんな事したら、また軍に追われる事になるだろ?せっかく人間に戻れたんだ。2人だって生き返った。これから普通に暮らせばいい」

「でも、そんなの、負けたみたいだ。ただ殺されかけて、ただ助けられて、このまま何もしないなんて。原因は全部軍なのに!」

「だからって、ギガスに戻る方法なんか分からないだろ」

「レジスタンスなら知ってるみたいだった、さっき言ってた」

「レジスタンスに入らないんじゃないのか」

「入らないけど、やっぱり、聞いてくる」

「ケイシン」

歩き出したケイシンの腕を掴むクロキス。そんな2人を寂しそうに見つめるミルクとチーズ。

「そんな事したって、一体何が変わるっていうんだ」

「・・・じゃあ、何で先生は人間に戻らないの?」

「え」

「先生だって、戦いたいんでしょ?」

「戦いたいんじゃない、守りたいんだ」

「何を?」

「子供達とか。世の中物騒だからな、何かあった時の為に取っとこうと思って。オレは、大人だからいいんだよ」

「そんなのずるい」

「レジスタンスだって全員大人だろ?戦うのは大人の仕事なんだよ」

「でも。・・・誰も、やり返してくれない」

「え?」

「先生だって、軍と戦ってくれないでしょ?レジスタンスだって軍を全員やっつけてくれない」

「やっつけるって。そんな事無理だ。国を相手になんかしたらここで生きていけなくなる。それこそ『ヴレスター』みたいな奴が居てくれたら」

「正体を隠した秘密のヒーロー・・・。ギガスってそういうもんじゃないの」

「そうとも言えるかもな。けど、ギガスアーマーに敵うギガスなんて居ないんだから。ギガスになったら、また軍に追いかけられるぞ」

「秘密にすればいいし」

いよいよ溜め息を吐くクロキス。子供の、単純にやり返したいという気持ちは厄介だ。そんな時に妙にチーズが何かを訴えてきて、クロキスがそれを見ているとミルクも「フンフン」言ってくる。

「どうしたんだよ。まさかケイシンに賛成だっていうのか?」

頷く2匹。やれやれとクロキスは再びの溜め息。その瞬間にふと頭に過らせたのは抜け殻のようになってしまったケイシンの姿。戦いたいとかやり返したいとか、そういう気持ちが芽生えてしまうのは仕方がないのかも知れない。だけどレジスタンスにも入らずに、ただそんな事を言ったって何にもならない。

「家族にも秘密に出来るか?」

「え」

「それくらいの覚悟でなきゃダメだ。ただ暴れたいだけなら──」

「そんなんじゃない。ヒーローになればいいんでしょ?」

「そんな簡単じゃないぞ?」

「じゃあ、どうすればいいの?」

クロキスは言葉を失った。簡単なようで、答えは出なかった。見つめ合うケイシンとクロキス。一瞬でも迷ったような眼差しを見せたクロキスに対して、ケイシンは更に意固地な態度を返す。そんな2人の顔を真っ直ぐ見つめる2匹。

「ワン」

そう言うとチーズは頭でクロキスの脚を押した。

「何だよ」

これじゃまるで、多数決で負けたかのよう。そうクロキスは内心で無力感を抱いた。どうすればいい、そんな風に悩む子供に、適切な答えを見せてやれない自分に。

「クウン」

「まさか、手伝えって?」

すると2匹は頷く。

「いやいやいや。そんな事言ったって・・・」

「オレ、決めたんだ、戦うって。やっぱりレジスタンスに聞いてくる」

「いやダメだ」

振り返るケイシン、その眼差しは「もういいよ」と大人を諦めたもの。しかしそれは一瞬だけだった。何故なら、クロキスの表情は優しかったから。

「レジスタンスにも、ケイシンがヒーローだって事はバレない方がいい」

「でも、ギガスに戻る方法、分からない」

「オレが調べる」

「え・・・」

「レジスタンスのギガスには白い色が入ってるんだ。それがサクリアのウパーディセーサだって事くらいは分かる。ギガスに戻る方法だって、サクリアにならあるって事なんじゃないか?」

「サクリア。行った事ない」

「調べれば分かる」

クロキスがファブレットと睨み合っている傍ら、ケイシンはその場に座り、2匹を撫でる。ウパーディセーサでネット検索すればサクリアのマフィアの事など一瞬で分かる。それからクロキスはケイシンを連れて転移した。入国手続きはしてないからシューガー人だとバレてはならないが、大人しくしてれば問題ない。それにサザーリニのザ・マッドアイの拠点に入ってしまえば、サクリアの警察はむしろ寄り付かない。

「──それで、2つのマフィアから、1つずつ薬貰って、どっちにするって言うから、両方使った」

「(ニルヴァーナがシューガーのギガスのデータを手に入れた後、そのデータをザ・デッドアイも手に入れたみたいだし、それを知って、シューガーのギガスのデータが入った薬を貰いに行ったの?)」

「うん。先生が調べてくれた」

喋っていく内に思い出してペラペラと喋ってはくれたが、聞いてるだけで胸が締め付けられるような話に、パウロニを始めルフガンでさえ神妙な顔をしていた。

「あ、先生、どこだろ、帰らなきゃ」

「帰りたいなら帰してあげるわ」

パウロニがルフガンを見上げるとルフガンはノコズを見る。するとノコズは頷いた。もうすでに少年の身元は分かっているから。大勢で行くと騒ぎになってしまうからと、それからパッと消えたのはパウロニとノコズ、そしてケイシン。

「(シューガーのギガスアーマーのニュースは知ってるけど、街の穴って、想像以上に色々あるんだね。でも、ボク達に何も出来そうにないよね。シューガーに行く事すら出来ないし)」

ヘルはふと見つめる。顔を見れば分かる。何かしてあげたいけどどうしようも出来ない、そんなもどかしさを払拭する決意を、ルアは今抱いた。でも本当は、そう思わせるようにあえて口に出したんだけど。

「(やっぱり、ノイルに言った方が良くない?)」

ルアは普段は前のめりに行動する方じゃないけど、きっかけがあれば決意を固めるのは速い。ママが殺されてルーナがザ・デッドアイに拐われた時とか、デュープリケーターたちの時とか。あれからちょくちょくギガスが侵略してくるし、ずっと悩んでたし、プランだって考えてた。後はきっかけだけ。

「うん、そうだね」

ノイルは簡単に頷いた。話をし始めた時から、何かもう全部信頼してくれてるみたい。ノイルを訪ねてきた警察署。そうルアは胸の中に芽生えた決意を噛み締める。

「独立自警団か。確かにそれがあったら、シューガーの街の穴は出来てなかった。もうそういうのが必要な時期なんだろうな。リーダーは?」

「(ルアだよ。リーダーじゃなくて団長)」

「おほ。そうか。グラシアやデュープリケーターたちも誘うんだろ?」

「はい」

「それなら看板のイメージは強いままだな。それならクージのテロ組織も牽制出来る」

「(砂漠のテロ組織。何かあったの?)」

「まだ内偵段階だが、かなりヤバイ事になってるらしい。クージ政府のレーヴァテインで本当に抑えられるのかっていうな。まぁそれでも砂漠には元々『飛燕』っつう自警団があって、何とかなりそうな雰囲気ではある」

「(飛燕ってツバメだよね。カッコイイな。でも僕達のもカッコイイよ)」

「ほう。もう名前も決めてるのか」

「(うん。独立自警団アルテミスっていうの)」

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