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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「歪んだコロナ」前編

「どこ行ってたんだよ」

パッと本拠地のバルコニーに戻ってきたバルオとユウソルに声をかけたのは仲間の男、グリュウ。グリュウはバルオが持っている怪しげなアタッシェケースを見つめていた。

「とりあえず臨時会議だな」

そんな答えを返してきたユウソル。しかしその表情は期待に溢れ、むしろもっと怪しいとグリュウは眉をしかめる。会議室とかそんな豪勢なものは無いので、それから静かにアタッシェケースはリイドウのデスクに置かれ、開かれた。入っていたのは3つの注射器。と言ってもその形は“痛くない針”の最先端注射器。しかしアタッシェケースの割りには3つだけかと、グリュウは静かに注射器を取り出す。

「これはウパーディセーサの薬だ。オレとバルオはもう使った」

「ウパーディセーサ・・・」

静かに呟くグリュウ。でもその傍らでリイドウは腕を組み、驚きではなく冷静な落胆をシワに乗せる。

「まぁ、ギガスの力だけじゃどうしようもねえのは分かるが、ギガスはウパーディセーサを簡単に殺せるぞ」

「これは改良型だ。実際、ザ・デッドアイの奴にオレら2人がかりでも敵わなかった」

リイドウがようやく驚きに顔色を変えるとグリュウや他の仲間達はすでに笑みを浮かべていた。それは正に期待を噛み締めるもの。

「あんたらとあと3つで5人か、まぁ悪くない。オレが使わせて貰う」

「あちょっと待て」

すぐに袖を捲り、ウパーディセーサの薬を使おうとしたグリュウにユウソルが声をかける。

「寝てやった方がいい。すぐに眠気に襲われる。寝てる間に体に薬が行き渡るんだと」

「そうなのか」

仮眠室として使われてる訳じゃないが、横になれる部屋はそっちなのでグリュウがさっさと歩き出す中、次に薬を手に取ったのは22歳の女子大生、ミレナ。ふとバルオが目に留めたのは、その思い詰めた表情。

「大丈夫かよ」

だから思わず声をかけた。するとミレナは我に返ったかのように更に怒りを伺わせる。

「ギガスアーマーに、お姉ちゃんが殺されたんだよ」

「まさか、リネレットか?」

「うん。穴のところでお姉ちゃんが一人暮らししてて、たまたま泊まってた時にああなって。ギガスなってから、お姉ちゃん、鬱っぽくなって。軍が一般人のギガスは人間に戻すって発表したら、嬉しそうだったのに──」

声が掠れ、ミレナは鼻を啜り、静かに涙を拭った。バルオは何も言えなかったし、背中を擦る事すら出来なかった。そう思った時にはすでに、ミレナは歩き出していたから。そして最後の1つを手に取ったのはクラモルだが、まるで買おうかどうしようか迷いながらも手に取るような手つきに、バルオは小さな不安を抱く。

「おっさん、無理すんなよ」

「大丈夫だ、ギガスになってから腰痛だって治ったんだ。それにオレは女房も死んで子供も独立して独り身だからな。失うもんはない」

「なあ」

クラモルが歩き出した直後、クラモルも含めてバルオ達は振り返った。声をかけてきたのはバルオやユウソルと同世代の男、ハヤジョウ。若さで言えば薬を使うのはハヤジョウの方が良いかも知れないが、クラモルはすでに隣の部屋に入っていったのでもう品切れだと、バルオは少し力の抜けた眼差しを向ける。

「僕もザ・デッドアイに行けば貰えるよね?薬」

「そら、そうだろ。自分で貰って来るか?」

「うん」



第41話「歪んだコロナ」



トロフィー公園。ケイシンはベンチに座り、地面を見つめていた。しかし地面を認識している訳じゃない。ただ眼差しがそこに向いてるだけ。自分が今、どこに居るかも分からない。それは心の話だ。まるで心まで消えていったかのよう。雑音なんか耳に入れる気力も無い。ミルクとチーズがだらんと力が抜けているケイシンの手を舐めたり、鼻でつついたりしてもケイシンはぴくりともしない。顔を見合わせ、ミルクとチーズはどうしようと不安を募らせる。その時だった、2匹が振り返ったのは。それから2匹は駆け寄った。それは学校の先生だったクロキス。クロキスはそわそわしながら自分とケイシンを交互に見てくる2匹に何となく不安を感じ取り、そしてケイシンの隣に座った。

「どうしたんだ」

明らかにおかしい雰囲気。悩みを抱えた生徒がカウンセリングルームに行くような雰囲気とは違った異様なものだ。全く応えないケイシン。そこでクロキスはようやく、ケイシンがおかしいと理解した。それは呼吸以外の全てが止まっているかのよう。

「大丈夫か?・・・・・いつも一緒に居る弟は?・・・またワシニワにいじめられたのか?でもワシニワはもう人間に戻されたし、ギガスのお前達には手は出さないと思うけど・・・・・黙ってたって分からないだろ?学校はもう無いけど、悩みがあるなら頼ってこい・・・・・ケイシン」

クロキスはケイシンの肩に優しく手を置いた。その一瞬、クロキスは見た。ケイシンの眼差しが動いたのを。だからクロキスはケイシンの背中を擦った。

「大丈夫だ、世の中、大抵の事は何とかなる。街に穴が空いたって、こうやって何とか生きてるし──」

「──ロナ」

「・・・ん?」

「・・・・・ハロナ」

「ハロナが、どうかしたのか?」

しかしケイシンはまた反応せず、クロキスはただその魂が抜けたような顔色を伺う。考えられるのは、うつ状態。街の穴の生活で心の病に掛かってしまう事は珍しい事じゃないとニュースでやっていた。ましてやテント暮らしの人達がそうなってしまう割合は仮設住宅の人達に比べて多いと。だからクロキスはゆっくりケイシンの背中を擦る。無反応のケイシン。こうなる前に、どうにか出来なかったのかと、クロキスは内心で溜め息を吐いた。

「とりあえず、お母さんに来て貰おう。確かナースだったよな?」

「・・・テント」

「え?テントに居るのか?」

何となくテントの方面に顔を向けるクロキス。これが胸騒ぎというならそうかも知れない。仮設住宅にすら入れず、それでもいつものように働き、生きていかなければならない。そのストレスなんて、容易に想像が出来る。──まさか・・・。

「ケイシン、様子、見てきて良いか?」

無反応なケイシン。子供がこんなにも“凍りついて”しまうほどの現実。それが何かは分からないが、何かが起こっているのは事実だろう。そうクロキスは立ち上がる。

「2匹はケイシンのそばに居てやってくれ」

頷く2匹。ケイシンが独りで居るという事は、きっと2人共が。そんな最悪な想像が頭から離れない。そうクロキスは足取りも焦り、そしてテント通りにやって来た。名札みたいにぶら下がる簡易な表札を確認し、生唾を飲んでからチャックを下ろす。最新式グランピングテントとは言え、一目で全体を見渡せる。だからすでに、否応なしにクロキスは目に留めていた。横たわっている2人を。恐る恐る近付くと、それはやはり、遺体だった。何でこんな事になったのか。もしかして、レジスタンスの言ってた事は本当だったのか。軍は人間に戻す為の薬で副作用をでっち上げ、ギガスを殺す薬を作っていると。まさか、その犠牲者がこの2人だなんて。あまりにも残酷だ。ふとクロキスはケイシンの言葉を過らせる。──ハロナが一体どうしたって・・・そうだ、精霊が居れば、死んだ者は生き返る。

「ケイシン」

トロフィー公園に戻ってきたクロキス。ケイシンはベンチに上がって体を寄せるミルクを撫でていた。でも眼差しも表情も相変わらず凍ったまま。

「ハロナの精霊を呼べば、2人は生き返るんだよな?」

凍ったまま、ケイシンは小さく頷く。

「じゃあ連れてくるから、待ってろよ?」

そうは言ったものの、クロキスは目を泳がせる。引っ越し先の住所など知らない。安否確認の為の名簿には名前くらいしか書かれてない。知ってるのはベンダンに行った事くらい。──いや、精霊であれば誰でもいいのかも知れない。いやダメだ、今は基地建設は凍結されていて異世界には行けない。もしかしてケイシンは、偶然にハロナがここに来るのを待ってるのか?けどこのままじっとしてられない。どうすれば。

とある一軒の仮設住宅のドアがノックされた。扉が開けられ、出てきたのは1人の中年女性。女性はクロキスの顔を見て会釈する。

「先生」

「どうもお母さん、メイリナさんは居ますか」

「あ、はい。・・・メイちゃん、先生が訪ねてきたよ」

ハロナの友達、メイリナは何で先生が来たんだろうといった顔で玄関にやって来た。

「メイリナも、ケイシン知ってるよな?」

「全然話した事ないよ?」

「あぁ、ケイシンが今重症なんだ、でもハロナが連れてる精霊に頼めば何とかなる。協力してくれないか?」

「協力って」

「オレ、ハロナの連絡先知らないんだ。教えてくれるだけでいい」

「ああ・・・はい」

それから下校中のハロナのファブレットにはメールが届いた。そしてパッと現れたハロナとエリミール。

「ケイシン、大丈夫?」

ゆっくりと顔を上げたケイシン。その瞬間でもハロナには理解出来た。本当に、心が壊れてしまったのだと。

「何があったのよ」

「軍に、連れてかれて。人間に、戻されて、でも、母さんと、レイト・・・死んだ」

「今、軍には噂があるんだ。人間に戻る為の薬を作ってる裏でギガスを殺す薬を作ってるってな。それで軍は無差別にギガスを殺してる」

ハロナの頭にふっと甦る記憶。それは家に軍人が来て、同意書を書かされた事。

「先生も人間になったの?」

「オレはまだ。死にたくないしな、軍が来ても逃げる」

「ふーん。あれ、先生って、今も先生やってるの?」

「まあな。学校の跡地に青空教室作ったから」

「そうなんだ。エリミール、ケイシンの家族生き返らせるのお願いしていい?」

〈いーよ〉

人間に戻ったからケイシンの目に映るエリミールはキラキラ。でもそんな事に何かを感じる余裕は今は無い。クロキスに支えられ、歩き出すケイシン。そしてテントに入るハロナ達。2人のキレイな遺体にハロナは顔をしかめるが、ふとケイシンを見るとその表情は何も変わらない。

〈先ずは亡骸を燃やすからね〉

「え、テントも燃えちゃうよ?」

〈燃えないよ。霊気の炎だから〉

別に魔法で炎を出す訳でもなく、エリミールはただ2人の遺体を見下ろしただけ。なのに遺体は神秘的な空気と共に灰になっていく。しかも舞い上がるその灰もそのまま目に見えないほど細かくなって消えていく。クロキスの目には神秘的な炎は映っていたが子供みたいにはしゃぐ事はせず、むしろハロナ達にも見えてるんだろうと何も言わない。

〈それじゃあ生き返らせるからね〉

それから灰すら消えて無くなったそこに直後、クレインとレイトが現れた。でもドラマで見る幽霊と同じく、透明な2人。

「母さん」

「あれ、どうして」

そしてエリミールが霊気を注ぎ、2人が色付いて現実感で満たされると、ケイシンは溜め息を吐き下ろした。そこまで子供じゃないし、すぐに抱きついたりはしないんだなとハロナはふとケイシンを見る。

「先生も、どうしたんですか」

「実は、2人は、死んでしまったんです。軍によって。人間に戻る薬を作る裏ではギガスを殺す薬も作っていると噂されてて、2人は恐らく、その実験台にされたんでしょう。ケイシンが独りでベンチに座ってるところを見かけて、それで2人が死んでしまった事を聞いて、でも精霊に生き返らせて貰えるから、ハロナと精霊を連れてきたんです」

クレインはケイシンを抱き締めた。軍は副作用なんてほぼ無いって言っていた。なのに、何でこんな事に。そうクレインはどうしようもない寂しさをどうすればいいか分からず、ただケイシンを抱き締めた。するとケイシンは静かに泣き出した。まるで渇れていた地面が湧き水で滲んでいくように、静かに。でもそんな姿を見てハロナはむしろ安心し、エリミールと頷き合った。

「先生、ありがとうございました。ハロナさんも精霊さんもありがとう」

それからハロナ達がテントを出ると目の前ではミルクとチーズが待っていた。2匹は尻尾を振っていて、まるで一緒に喜んでいるようだった。すると2匹はテントに入って行き、そしてハロナは満足げにパッと消えた。

それはまるで、針が刺さったかのよう。抜けなくて痛い。抜くにはどうしたらいいかを考えれば考えるほど、脳裏には軍人達の姿が浮かぶ。ケイシンはカーペットを無意識に見つめていた。欲しいものは、力だ。

「ケイシン、聞いてるの?」

「え」

「これからレイトと役所に行ってくるから留守番しててね」

「うん」

うろ覚えだけど、母さんは死亡届を撤回してくると言っていた。クレインとレイトが出掛けていった後、ケイシンは2匹と一緒にトロフィーを歩いていた。気分は落ち着いている。いや、何か自分でも不気味なほど落ち着いていた。だってやりたい事は分かっていたから。でもその探してる人がどこに居るのかは分からないので、ケイシンはとりあえずベンチに座った。

「あ、ミルク達じゃん」

そんな時にそこにやって来たのはケイシンのクラスメイトだった男子、ゲンガと女子、リーノ。顔見知りだからと、2匹は分け隔てなく甘えていく。

「何か久しぶりだなぁ、オオカイト」

「うん。2人はまだギガスなの?」

「いや、もう人間に戻ったよ」

「そっか」

「オオカイトってまだここに住んでるの?」

「そうだけど」

「ふーん、レジスタンスの戦いに巻き込まれたりしないの?」

「1回、軍人が家に来た時、家の前で軍人が吹き飛ばされて死んだ」

「うわ。ウチはもうそういうの勘弁だからすぐに引っ越したけどさ。やっぱりすげえな、レジスタンス」

「さっきだって軍人と戦ってたしね」

「どこで」

「あっちの・・・カケベル・ドームシティの方の仮設住宅地。危ないから行かない方がいいよ?男子ってほんとそういうのすぐ行っちゃうし」

「でも・・・レジスタンスの人に用があるから」

「え、用って」

「聞きたい事があって」

「・・・ふーん」

2人の事などお構いなしにすぐに歩き出すケイシン。その後ろには2匹がついている。最近は街の穴も少し賑やかになってきた。復興ではなく、屋台通りが出来たり、フリーマーケットエリアが出来たり、でもレジスタンスのせいで何か雰囲気が静かになった。でもやっぱり、1番の原因は軍だ。

「レジスタンスの人?」

「いや、違うけど」

そう聞き出してもう5人目。それでもケイシンは何かに取り憑かれたように行き交う人々を見つめ、そしてフラッと近付いていく。

「レジスタンスの人?」

「え、そうだけど」

「どうして強くなったの?」

ケイシンが話しかけたのは2人の男だった。すると当然の如く、易々とは喋れないと男達は顔を見合わせる。

「何だお前、レジスタンスに入りたいのか?」

「分かんないけど、軍に人間に戻されて、でも、力が欲しくて」

「せっかく人間に戻されたのにか?」

「母さんと、弟が」

「死んだのか」

「うん、でも──」

「そうか。まぁ教えてやってもいいんじゃないか?戦う動機があるんだしな」

「でもまだ子供だろ」

「家族を2人も殺されたんだぞ?」

「あの、でも──」

「でもギガスじゃないしな、ウパーディセーサになっても戦力としては微妙じゃないか?」

「あの──」

「いや改良型だけでも強かったし、いいんじゃないか?」

「お前、レジスタンスに入る気はないのか?」

「え?」

「レジスタンスに入るっていうなら力が手に入る方法教えるぞ?」

「・・・えっと」

ふとケイシンは2匹に振り返った。2匹は相変わらず円い眼で、キョトンとしていた。

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