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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「見守るという愛」前編

「どうか私を保護して頂けませんか」

「・・・は?」

突然“ホール”から飛び出してきた娘。自らをアルテミスと名乗り、同時に保護を求めてきた。当然の如く、その場の男達は戸惑い、固まり、顔を見合わす。

「どこから?」

冷静に、クリスが尋ねる。

「ザ・デッドアイです。ザ・デッドアイは、クーデターを起こし、国を乗っ取った人物の、言わば黒幕というべき存在です。このままでは我が国の平和が乱されてしまう。なので私は“こちら側”から何とか出来ないかと思い、思い切って飛び出して参りました。ですがもしかしたら“あちら側”から私を狙う者が現れるかも知れません、なので、保護して頂ければと」

「武器も持たずに飛び出してきたのか」

「武器なんて野蛮なものは持ちません。私には“アニ・ソーサ”があります」

そう言ってアルテミスはまるで腰にあるホルダーからピストルを抜くように、それを持って見せた。形としては小さなダンベルのようなもの。しかし金色に染められ、美術品のようなその美しさは真っ先に“この世のものではないもの”を見ているような感覚を男達に覚えさせた。

「何だそれ。それで殴るのか?」

半笑いでノイルがそう言うと、アルテミスはそんな物言いの人は初めてだと呆気に取られる。

「いえ、そんなとんでもないです。これで人を殴るなんて。これは杖です。アニ・ソーサは、太陽の杖という意味です」

「魔法ねぇ、ほんとにそんなもんあるのか?」

「いや――」

アルテミスより先に口を挟んだのは、クリスだった。男達の中で、クリスだけは実際に見ていたからだ。魔法とやらを。その迫力は、今でも脳裏に焼き付いているほどだ。爆音を掻き鳴らす、凄まじすぎるその“暴風”が。



第5話「見守るという愛」



「――たかが虫ごときに軍隊がやられると思うか?あんたらが来なかったら全滅だった、その魔法とやらでな」

「あのレザーコートの男か?」

「あぁ。簡単には言い表せないが、風が、刃のように向かってきて、人も戦車もあの様だ」

「じゃあそいつも、杖持ってたのか」

「・・・いや、確か何も持ってなかったか」

「恐らくそれは、身に付けるものに精霊を宿してるからだと思います、例えば指輪とか」

気丈な態度のアルテミス。恐らく見た目は20歳前後だろう。しかしごく自然に話に入ってきたアルテミスに、クリス達もまるで前から知り合いだったかのように顔を向けていく。

「魔法を使うには、精霊を宿した物質を手に持つか、身に付けなければなりませんから」

「え、じゃあ、俺がそれ持ったら使えんのかよ魔法」

するとアルテミスは最早まるで下町の平民を見るような眼差しをノイルに向けるようになっていた。

「えぇ。これは貸しませんよ?これは由緒正しい家宝ですから」

「持つくらい良いだろ」

「いやです」

「あの虫の事を教えろ。あれは何だ」

例の如く冷静に、クリスが尋ねる。

「あれは魔虫と呼ばれるものです」

「そっちには自然に居るものなのか?」

「えぇ」

「ホールも当たり前にあるものなのか?」

「開発されて間もないので当たり前というほどのものではありません。そもそもあれは物資の運搬用のものです、次元の穴を開ける為に作られたものではありません。なのでこちらにあるホールは恐らく、クーデターを企てた者達が改造したものと思われます」

「つまり、最初にコンタクトをしたのは“そちら側”なのか?クーデター首謀者とザ・デッドアイの接点は何だ」

「そこまでは分かりません。それを知る為にも、私はこれからザ・デッドアイを探っていきます」

とある街角に建つ、長方形の3階建てビル。近隣の住民達は、そこが会社なのかマンションなのかも分からない。常に閉まっていて、言わばゴーストビルといった印象。しかし誰も見向きもしないそんな建物を、1台の車が観察していた。マフィア対策の部署「TVM」に属する警官達だ。正に今、内偵が行われているゴーストビル。しかしその中は無人ではなかった。何故ならそこは、ザ・デッドアイの拠点だからだ。因みに情報源はノイル。

「続いてのニュースです。先ずは政府の会見の模様をご覧下さい」

「えー先程、兵器研究施設第1棟の鎮圧を完了したと、司令部が報告を受けました。未確認生命体の完全なる殲滅も時間の問題でしょう」

「羽の生えた少女について、政府が軍用目的で強制的に連れ去ったというのは本当ですか?」

「それについては誤解です。施設への保護は、あくまで人間に戻る為の特効薬を精製する為です」

「ですが実際に、戦わせてますよね?立派な軍用じゃないんですかっ?」

「戦わせたのではありません。データを取る為にやむを得ず力を使って貰ったに過ぎません」

「女の子達の負傷について、どう責任を取るおつもりですか」

「持てる全ての医療技術でもって、現在も速やかなる完治を目指しています」

「赤茶色のレザーコートの男の身元は」

「それについては、現在調査中です」

「ザ・デッドアイとの関係は」

「現在調査中です」

そこで画面はスタジオに戻り、キャスターの横には戦いの様子が空から撮られた映像が流された。レザーコートの男が倒れ、軍人達が“ホール”の下へと建物に入っていく。そして軍人達が戻ってきて――。

「ぶっ!」

「うわ汚ねっプロテイン吐くなよ、バカか」

真っ直ぐ立ち、腰に手を当ててプロテインを飲んでいた最中、コップの中でプロテインを吹き出し、顔がびしょびしょになったグラビス。しかし彼はテレビに指を差し、ソファーに座っていたティネーラも同じくテレビに映った“人物”に目を見張る。そして同時に、ティネーラはニヤついた。驚き、予想外、そういったものに、ティネーラはついついそんな反応をしてしまう。

「へいへーい、まったく何しに来たんだか、“お姫様”は」

ゴーストビル3階の一室。ティネーラはおもむろに席を立った。

「ちょっとばかし真意でも聞いてくるよ」

「あぁ」

ティネーラが向かったのは地下。エレベーターを出ると、その地下1階は寛げる3階とは対照的な機械だらけの研究所であり、彼はそんな空間にいつも少しばかりの息苦しさを感じていた。“こちら側”は窮屈だと。

「1番に繋いでくれる?」

「はい」

ホールがバチバチと鳴り出し、青い光をちらつかせる。間接的に、そのチカチカする光はとある昔の「照明弾」を思い出させる。合図の為に青空に打ち上げられる照明弾。やがてホールに青い光の膜が張られると、そこにティネーラは入っていった。着いた先は“王間”だ。普段ならそこは一般人など到底入れる場所じゃない。しかし彼は現在、“一般人”ではない。その玉座を“現在”所有している人物の、部下なのだ。転移を“受信”する側のホールは赤い膜を張る。つまりティネーラが王間に出ると、目の前には誰が来るのかと待ち受けている人が居た。その人物は正にティネーラの“雇い主”であった。

「ティネーラか」

「アポロン王子、知ってますか?アルテミス姫があちら側に来た事」

「何だと!?いつだ」

「6番ホールの反応が無くなる直前だと思います。その後、空から撮られた映像に、6番ホールがあった場所から出てくる姿が捉えられたので」

アポロンはギョロりと瞳を動かした。何を見ているという事ではなく、記憶を振り返っていた。そして歩き出した。王間にあるこのホールのコントロールパネルには、オペレーターを常駐させていない。そしてアルテミスは、ホールを繋ぐくらいの簡単な操作なら出来る。そんな風に頭を巡らせながら、アポロンはコントロールパネルの履歴を閲覧した。自分がここを離れていた時、このホールは6番ホールと繋がれていた。

「アポロン王子、どうかしましたか」

「アニ・ソーサが、紛失した」

一点を見つめ、冷静にそう言葉を返してきたアポロンに、ティネーラは内心で首を傾げる。突然アルテミスに関する事ではない話をしたからだ。

「だが、もしかしたらアルテミスがアニ・ソーサを持ち出したのかも知れない」

「つまり、アルテミス姫が、アニ・ソーサを持ってあちらに逃げたと?」

「仕方ない。私が出向こう」

「え、アポロン王子自らですか?」

「アニ・ソーサに太刀打ち出来る者が他に居るのか?」

「いえ」

「まったく、困った妹だ」

密室で、ルーナが横たわる。それをガラス1枚隔てた別室で眺めるルア達。そしてルーナの真上にあるスキャナーが赤いレーザーでもってルーナの頭から足までをスキャンする。

「はい、いいよ」

人差し指に極小の針を刺し、一滴の血液を採取する血液検査。変身した状態での血圧測定、心電図検査などなど。そして最後には30秒で終わる全身のCTスキャン。やがて一通りの検査を終えたルーナは元の服に着替え、ルア達と共に待合室に居た。

「こちら側の検査技術はすごい精密なのですね、感心します」

「アルテミスさんの世界は、もしかして魔法で病気を治したりするんですか?」

「えぇそうです。精霊と深く関わっている私達は、何をするにも精霊の力を借ります」

長椅子に座る3人の娘。ルア、ルーナ、そしてアルテミス。ルアの隣で伏せているヘルはふと、ルアとアルテミス、同い年くらいに見える2人の少女の似たような匂いを感じていた。

「精霊って、どんなの?」

「形は無いのです。万物に宿りし精霊は、人の祈りによって力を生み、それを人に分け与えるのです」

「祈るだけなら、あたしも出来るかな」

「誰にだって出来ますよ、精霊は誰にでも分け隔てなく加護を施します」

「どうやるの?」

「さあルーナ、そろそろ施設に戻る時間だよ」

待合室に入ってくるユピテル、その隣にはルアの知らない女性が居た。しかしルーナは、その女性の姿に固まった。何故ここに居るのかと。

「え?」

「ごめんな、元々ちょっとだけルーナを借りるって約束だったからさ」

ルーナは俯く。このまま家には帰れない。特効薬も今すぐ出来る訳じゃない。でもあそこにはキアラ達が居る。キアラ達を放って、自分だけ帰るのも何かイヤだ。

「それじゃデータのコピーはしっかり貰っておくわね」

「えぇ。じゃあ、ルーナを頼みますよ」

「さあ行くわよ?みんな待ってるから」

「うん」

ルーナは振り返りルアを見て、ルアは連れていかれるルーナを見てそしてユピテルの顔を伺った。唐突な別れ、しかし国には逆らえない。ルアの胸に、小さな不安が差し込む。

「お父さん。ルーナは本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、特効薬はちゃんと作られるさ」

そう言って、不安げなルアの頭を、ユピテルは優しく撫で下ろす。そんな父娘をアルテミスは静かに眺め、静かに目を逸らした。

「もしもしパパ?」

「ルーナ!!大丈夫なのか?怪我は!」

「大丈夫。戦うのが終わったら家に電話していいって言われたから」

「そうか、でいつ帰れるんだ?」

「まだ分からない。特効薬もすぐには出来ないみたいだけど、検査じゃない時はいつでも電話出来るから、大丈夫だよ」

ルーナはベッドに座り込んだ。これからも自由に父親の声が聞ける。それだけで、この部屋の景色が先程とはまるで違う。どこかお泊まり遠足にでも来たかのよう。ここにきて、ようやく冷静になれてきた。どうやらあたしは、人を越えた力を持ってしまったようだ。それはあの大きな虫を簡単に殺せる力。守る為の力と言えば聞こえはいいけど、学校の友達が見たら、きっとみんな怖がる。ヘルを見る時みたいに。

「ルーナの親って、偉い人なの?」

「え!?ううん全然普通だよ?」

「でも、政府に楯突いてルーナを連れ去ったって」

「えっと・・・あたしを連れてくのを頼んだのは、あたしのパパじゃなくて、お姉ちゃんのパパだよ」

「・・・ん?」

「あたしとお姉ちゃんは、ママは同じだけど、パパは違うの。あたしのパパは普通の人だけど、お姉ちゃんのパパが偉い学者なんだって」

「そうなんだ」

「キアラのパパは、どんな人?」

「電話に、出ないの。ママは心配してくれてるけど、パパは、私がバケモノになってきっと私が嫌いになったんだと思う」

「でもほら、特効薬で元に戻れるし、大丈夫だよ」

「でも――」

戦う前とは少し変わっているように見えた。俯き加減で、少しの暗さがある表情。しかし今の方が、不安の他に“迷い”があるように、ルーナには見えた。

「この力があれば、空も飛べるし、簡単に・・・殺せる」

「・・・な、何を?」

「え、あの虫・・・とか、悪い奴、とか」

確かに、高揚感はあった。守る為に力を使う、ヒーローみたいでカッコイイ。でも、キアラ、最初は人殺しなんて嫌だって言ってたのに。ルーナはふとそれ以上聞くのが怖くなった。人殺しだって嫌じゃないなんて言葉が返ってきそうで、ぞっとした。

「ほらよ」

ストライクと共に戻ってきたノイルは、エントランスパークのベンチで待っていたルアとアルテミスに缶ジュースを手渡した。

「これは、何ですか」

「こうやって開けるんです」

ルアが缶を開けてみせると、アルテミスは見よう見まねで缶を開け、そして恐る恐るジュースを口に流し込んだ。冷たく、甘酸っぱい液体が舌を潤す。それは初めての感覚だが、その味には覚えがあった。慣れ親しんだ果実の味、それだけでも、無意識に笑みが溢れた。

「ありがとうございます。お陰で気持ちが休まりました」

「へへ、いいって。口に合って何よりだよ。まぁ女の子にはオレンジジュースやっとけば外れないしな」

「やはりオレンジなのですね。私の故郷にもオレンジがあります」

「ほう、そうか。そういう繋がりがあるって事か。何つったかな、パラレルワールドだったか」

「それで、アルテミスさんはこれからどうするんですか?」

「ザ・デッドアイについて情報を集めます。何か知ってたら教えて頂けませんか」

「それならノイルが詳しいですよ、ね?」

「ああまあ」

「何故お詳しいのですか?」

「そら調べてるからな」

「何故お調べに?そういうお仕事ですか?」

「元々はそういう仕事だった。ちょっとした因縁もあって、今はそういう仕事をしてる奴に協力する為に、ザ・デッドアイを調べてる」

「じゃあご一緒します」

「えっ?いやあの、俺より、政府に付いてた方が良いだろ、保護して欲しいんだろ?」

「保護なら、あなた方2人でも大丈夫です」

「大丈夫ってど――」

「最初に会った人があなた方だなんて、きっとこれも精霊の導きですね」

「ちょっと待って2人って、ノイルさんは良いけど俺は無理だなぁ」

「いやちょ」

「何故ですか?」

「俺はルアちゃんを保護してるから」

「俺は暇みたいな言い方すんなよ。嬢ちゃんの妹の件は落着したからこれで解散だろ?それなら俺はまた情報収集だ」

「ならご一緒します、情報も手に入れる事が出来て、一挙両得です」

「おいおい保護する前提かよ、ったく」

「ではこうしましょう。ルアの守護獣を借ります。そうすればルアもストライクも、私と共に行動する事になります。1人でないなら良いですよね?」

「1人が嫌だとかそういう事言ってる訳じゃねぇ」

「(シュゴジューって、まさかボクじゃないよね?)」

「あら、あなた以外に獣が居ますか?」

「(そもそもボク、シュゴジューじゃないけど)」

「じゃあ何ですか?」

「(何って、ただの家族だよ)」

「なら正式に契約出来ますね」

「(契約!?てかポジティブっ)」

「ご褒美差し上げますよ?我が国自慢の高級肉」

「(肉!?)」

「ヘル、惹かれないの」

「(仕事内容だけ聞いとこうかな)」

「ちょっ」

「そうですね、先ずその鞍に精霊を宿し、守護獣としての役割を果たせるようにします。それで報酬によって守護を請け負う、そういう流れです」

「(うへ!?え、それボク、魔法使いになれるの!?)」

「ふふ、興味持って頂けました?因みに魔法を使う者は精霊使いと呼ばれます。どうします?善は急げですよ?」

「アルテミスさんっ!」

「どうしました?」

「それって戦うってことでしょ?そんなのダメですから」

「(でも魔法使いになれてお肉貰えるって、ラッキーだよ)」

「そうだぞ嬢ちゃん、そもそもヘルは人を守る為に寄越されたんだろ?良いじゃねぇか魔法使いくらい」

「そんな、勝手に決めないで下さい」

「ならルア、あなたにも報酬を差し上げます」

「えっ!?・・・報酬って・・・」

「あっそうだわ!ルアも精霊使いにさせてあげます」

ルアは項垂れた。歯が立たない。こんなワガママな人は生まれて初めてだと。天然なのか、それとも見掛けに寄らず口が上手いのか。そんなルアの横で、アルテミスは無邪気に微笑んでいた。

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