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「――で、お二方、話終わった?」

「ええ!もうばっちり!」

「すいません、お時間を取らせてしまいました」


二人はすっかり意気投合して、お互いにフレンド登録を()()()()


……僕も何も言わず、さっさとフィフィにフレンド登録申請を出してみる。

フィフィは一瞬驚き、嬉しそうに表情を緩めて僕のフレンド申請を()()()()

――うん。もうこれ歌勝負とかしなくて良いんじゃないかな。


「……なあフィフィ、もう歌勝負しなくていいんじゃないか?」

「ええっ!?な、何でよ!」

「いや何でと言われても、もうフレンド登録したし」

「……あっ!」


フィフィはものすごく、しまった!という表情を浮かべた。

友達が出来て舞い上がってすっかり忘れてたんですね、わかります。


「ま、待って!別の考えるから!」

「いや別にそこまで無理して勝負しようとしなくてもいいんじゃないか」

「むぅー……そうじゃなくて!そのぉ――」


早口で喋りだしたフィフィの話の内容を要約すると、やはり僕が「カンパネラ」を知らなかった事が不満らしい。

なので、この場で歌って知ってもらおうと思って勝負という形にしたらしい。

そこまでする執念みたいなのかよくわからないが、アイドルとして譲れないものがあるのかもしれない。

結局勝負無しで普通に歌うという形になった。

音楽が無くても楽しめる歌をチョイスするようだ。

ちなみに、フィフィが歌ったあとに僕もやっぱり一曲歌うというのはやはり決定事項だった。

うん、何がいいか考えよう。




今フィフィは即席で用意された舞台(木箱)の上にたち、僕とクロハは一番良くよえる最前列の真正面に居る。

フィフィ目を瞑って深呼吸をし、ゆっくりと目を開き、観客に向けて大声を出して話し出した。


「みんなー!WL楽しんでるーッ?」

「「「「うおおおおおー!」」」」

「今日はこの場を借りて少しだけ歌っちゃうよー!リュリュとシュシュはいないけど、精一杯歌うので応援よろしくねー!それと、私の後にもう一人歌うのでそっちもよろしくねー!」

「「「「おおおおーーー!」」」」


声を大にして喋るフィフィに、ものすごい大声援を送る冒険者達。

この場にいる大体の人がPCだが、よくよく見るとNPCも混じっていた。

これから始まることに興味があるのだろう、明らかに街人ルックな服装をしている人がチラホラ見かけ、よくお世話になるお店の人もいる。

例えばそう――冒険者ギルドのギルドマスターのドワルヴさんとか。

彼はフィフィに向かって鼻の下を伸ばし、頬染めながら大声援送っていた。

おい仕事はどうしたギルドマスター。

また職員の方々(主に女性職員さん達)から冷たい目で見られて怒られるぞ。




「それじゃあ歌うね!曲は――」


フィフィは曲名を告げ、少ししてから足でタンタンと、リズムを取り少しづつ体を動かし始めた。

音楽は無いけれど、冒険者(ファン)には分かるのだろう、見事に統一された手拍子を小さく、鳴らしていた。

マイクが無いから手拍子でフィフィの声を消してしまわない配慮だろう、実に見事な気遣いだ。

ところでドワルヴさん、貴方何故PC同様に乱れぬ手拍子が出来るんですか。

本当にNPCなのか疑いたくなるレベルですよ。


「――――♪」


フィフィが歌っている曲は、騒がしい感じの曲ではなく、静かな感じの曲のようだ。


「―――♪ ――……♪」


歌っているのはラブソングのようだけど、今風なのか分からない、どこか昔風に感じる。

しかし、これはこれで僕は心地よいと思った。


「――――♪」


穏急をつけ、力強く歌うフィフィの姿は最初話しかけてきたときとは別人のようだ。

話しかけられたときは本人がアイドルと言われてもピンと来なかったが、なるほど確かにステージ場(木箱)で歌い踊り、周りを魅了する彼女の姿はまさにアイドルだ。


「―――……♪ ……――聴いてくれて、どうもありがとう!」

「「「「「うおおぉぉぉフィフィー!!」」」」」


曲を歌い終えて手を振るフィフィに、惜しみない拍手喝采が贈られていた。

僕も勿論拍手をしていた。

一通り手を振り終えたフィフィはステージ(木箱)から降り、僕らを手招きをしたので近寄る。


「ふふん!どうだった?」

「いや良かった。良い曲だったし今度他にもCD色々と探して買いに行くよ。」

「ほほホント!?嬉しい!そうだっ、私個人的なオススメは――とか!――とかかな!ダウンロード販売もしてるからそっちで購入してもいいし!」

「分かった。これで楽しみがまた増えたよ」

「ふふ、ミツキ姉さんもすっかりファンですね」

「かなり気に入ったよ。曲はかなり自分好みだったし、フィフィもとても上手だしね」

「ほ、褒めすぎだって――もうっ照れるからやめて!……コホンッ!さ、さあ、次はミツキの番だからね!」

「ああ…僕の番、かぁ。うーん…フィフィ、短い曲だったら二曲歌っても良い?」

「え?いいけど、ミツキが歌うのって短いの?」

「うん。二曲合わせて三分ちょっとかな」

「へぇ!一体どんなのか楽しみ!」

「ふふ。ミツキ姉さん楽しみにしてますね」

「まあたぶん知らない曲だろうから、期待はしないでほしいかな」


クロハとフィフィに見送られ、苦笑しながら僕は舞台へと向かう。

舞台によじのぼ……のぼ……のぼ……れたぁッ!僕は舞台上から集まってる人を見る。

舞台上から改めて見ると、沢山の人が集まってて思わずビクっとしてしまう。

集まってくれた人達が拍手をしてくれるが、こんなことは初めてなので焦った。

「ミツキちゃーん!」と大きな声で手を振ったりしてる人が沢山いて恥ずかしい。


そしてよくよくその声を聞いてみると、何時の間にか冒険者ギルドの窓口のシュディーさん(初日の騒動のときに話しかけた相談窓口にいたエルフさん)がきていた。

しかもそれだけじゃなく、他の職員さん達もきている――どういうことなの。

冒険者ギルドの方は大丈夫なのか心配になったが、最前列にいたギルドマスターがいなくなっていた。

――うん、きっとそういうことなのだろう。


いつまでもこのまま舞台上で棒立ちしてても始まらないので覚悟を決める。


「えっと、今回皆さん貴重な時間を割いて集まっていただいてありがとうございます。先に謝っておきたいのですが、私は最近の流行曲とかは全然知りません。なので、これから私が歌う曲は古いマイナーな部類の曲なのをご理解いただけますよう御願い申し上げます。それと、とても短い曲ですので、二曲歌わせていただきたいと思います。――それでは一曲目、とても短い曲ですが私のお気に入り曲で――で――です。」


一礼するとシンと静まり返る。

あまりの静けさに緊張してきたので深呼吸。

落ち着いてきたので。軽く声を出して調子を確認。

舞台上から目をあけて観客方面に歌うのは怖いので目を閉じ、頭の中でBGMを流し、僕は声をだした。


「――When you want to feel close♪」


今僕が歌っている曲は古いCMオリジナルソング。

曲はCM時間の三十秒弱と、とても短い曲。

僕はそのCMを初めて見たとき、この曲を一発で気に入った。

さらに曲だけでなく、CMの映像もかなり鮮明に覚えて気に入っている。


「Open your arms give a hug――♪」


CMの内容は新商品のセーターを着た様々な老若男女の二人組みのカップルが、ただ静かに抱擁しあうだけなのだが、静かな曲の効果もあってか、とても暖かいものに感じたのだ。

そのときの映像を思い出し、気がつけば自分の抱きしめるように歌っていた。


「When you want to someone closer―――♪」


そのCMは、今でも大事に保存しているぐらい大のお気に入りだ。

曲も販売されないか楽しみにしてたのだけれど、CD販売しないというアナウンスを聞いたときはショックを受けた。

それから何年も経ってからネットでのダウンロード販売が開始されたときは喜んだのをよく覚えている。

もちろん、今でも良く聴いている。

うん、ログアウトしたらまたCM見よう。



「Open you arms show your love――……♪」


歌い終わり、目を開けて一礼する。

観客の方はシンと静まりかえっていた。

やはりマイナーすぎて誰も知らなくてついていけないようだ。

クロハは両手を組んで前に出してキラキラとした表情をしているが、フィフィの方は口を開けて驚いていた。

反応に困るリアクションだ。

うん、早く次ぎの曲を歌って終わらせよう。


「えっと、それでは二曲目、知ってる方もひょっとしたらいらっしゃるかもしれませんが、――で――です」


最初のときと同じく一礼、そして深呼吸。

一曲目のときで少しは慣れたので、今回は目をちゃんと開けて歌う。


「歌を歌って―――♪」


今度のは、知ってる人は知っている日本の女性シンガーソングライターの曲。

その人は海外ではかなり有名だったのだけれど、日本では何故か知名度が高くなかった。

TVではほとんどといっていいほど紹介されたことは無いが、ネット上で比較的有名で、この人のいろんな曲が動画でも良く使われたりもした。

その人の曲はどれも、心に来るものばかりで歌唱力もとても高く、歌姫ってこの人のことをいうんだろうなとさえ思えたほどだ。


「―――小鳥の声を私にくれた――♪」


僕は、その人の曲でほとんど音楽が使われていないのをチョイス。

歌唱力が重要な曲なのだけれど、拙い僕の歌唱力で一生懸命歌う。





「――少し自慢げに歌ってる――……♪ ~♪~♪」


最後の口笛パートもしっかり吹いて歌い終わる。


「えっと、ありがとうございました。」


歌い終わり、頭を下げるもまたしても静まりかえっていた。

うん、ここまで反応がないとつらいものがあるな。

さっさと舞台から降りると、クロハはニコニコと歩いて、フィフィはものすごい形相で駆け寄ってきた。

驚いていると、フィフィは僕の両手をガシっと掴んだ。


「ミツキ……凄い!!」

「えっ?」

「凄い凄い凄すぎよ!!何あれ凄い!ビックリよ!ドビックリよ!」

「えっ、う、うん?あ、ありがとう?」


何々何なの。

フィフィさんのテンションの高さにドビックリですよ。

それと手を離してくれるとありがたいんですが。


「ふわぁ…良い歌だった……。ねねねっ!他にもミツキお勧めの曲とかあったら教えて!」

「わ、分かった。分かったからまず落ち着こう!」

「ふふ。フィフィさんもミツキ姉さんの虜になってしまわれたようですね」

「クロハ、誤解を招きそうなその言い方はやめて!」



フィフィにお勧めの曲を色々と教えつつ、どんな感じの曲なのか聴かれると軽く(・・)歌ったりとして楽しんだ。

僕もお気に入りの曲を知ってもらえて気に入ってもらえるというのが嬉しかった。

その間、まだ集まってた人達はまたポカンとしてたりとしたけど気にしないことにした。



それから、フィフィと街でよく遭遇するようになった。

互いに教えあった曲を歌ってみたり、一緒に歌ってみたり。

あと、いつも聴いて楽しむだけのクロハに歌わせて、フィフィがまた驚いたりとした。

うん、これわざわざVRMMOで楽しむことじゃない気がするけど――こういうのも悪くないな。



後日、フィフィとミツキの歌い合いは他PCが動画として保存、アップロードされて掲示板サイト等で話題となり、またミツキが歌った曲のDL販売件数が急激に伸びたりとするのだが、これはまた別の話である。






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