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何がどうなってか、僕は勝負を挑まれた。
しかも歌対決、ちょっと意味がワカラナイ
相手は今話題の(らしい)アイドルからだ。
本当にわけがわからない。
そもそも何故歌勝負なのか。
理由を何度聞いてもフィフィは「勝負!」と妙に一点張りで答えてくれない。
困った僕は、クロハを見る。
「頑張ってください!」とキラキラした目で僕を見ていた。
いや無理ですから。
ド素人に何を期待しているんですかクロハさん。
ええい、もうこうなったら腹を括ろう。
どうにでもなーれ!
「分かったよ…歌勝負受けるさ。けどその前に、一つ」
「えっほ、ほほほんと!?……コホンッ、それで何?」
何で勝負挑んできた本人が驚いてるんだろう。
そして何故か急に喜びだし、それを咳払いして誤魔化すフィフィ。
そんなフィフィに僕はとても大事なことを伝える。
「肉が焼けたから先に食べていい?」
ミディアムレアになった暴れ牛肉を指差す。
香ばしい匂いに思わず鳴るお腹。
『た、食べていいわ』と言われたので食べる。
うん美味しい。
美味しいけど、この後のことを考えると食べるペースが落ちそうだ。
まあ仕方がない。
今はよく噛んで、味わって食べよう。
噛めば噛むほどお米が恋しい。
本気で竜化してでも米探しに出かけようか悩む。
嗚呼、ホンットに白い炊きたてのお米がほしい!
*
「ふぃ…お待たせ」
「……貴女ねぇ…」
「ん?どうした?」
「いえ……まあ、気をつけなさいよ?」
「え、何が?」
「はぁ…、隣の貴女……って、貴女も気をつけなさいよ?」
「クロハです。私達のことは心配いりませんよ。フィフィさんも、お気をつけくださいね?」
「あら、お互いにね」
「ええ」
「「うふふふ」」
どういうやり取りなんだろうこれは。
お互いに通じるものがあったのだろうか。
ワケガワカラナイ。
「えーとそれで、歌勝負…かぁ……」
「そうよ。何?あまり乗り気じゃないみたいだけど」
フィフィさん、貴女どこをどうやったら乗り気になれるというのですか。
何故歌唱勝負なんですかほんとに。
まあ答えてくれないだろう。
「それで、勝負ってことは勝敗があるんだろ?」
「ええ、勿論よ!」
「勝敗判定は?あと、負けた方は何かあるの?」
「そうね……勝敗は今この場に集まってる冒険者達の前で歌い、その反応で決めるとしましょう!私が勝ったら、言う事を一つ聞いてもらうわ!そ、そして私が負けたら……わ、私も貴女のいう事をなんでもひとつ聞くわ!」
フィフィの言葉を聞いて、「キマシタワー!」やら「うおー生ライブだ!」やら「録画用意遅いぞ何やってんの!」等ざわざわと騒ぎだす周り。
一方僕は、フィフィの言葉を聞いて頭を回転させる。
フィフィは流行のアイドルグループのメンバー(らしい)で、僕はド素人の一般人。
これどうやって勝ばいいのだろうか。
そもそも、まず勝てると思う事自体がおかしいのではなかろうか。
仕方ない、今回の事は怒らせてしまった罰という事で割り切ろう。
――言う事の内容次第では断固拒否するけども!
「それで、言う事の内容って決まってるの?」
「ええ……、ちょ、ちょっとこっちに」
フィフィは僕とクロハを手招きする。
近寄ると、フィフィは小声で周りに聴こえない程度に声のボリュームを下げて話しだす。
「そ、その……私が勝ったら貴女たちは、私とフレンド登録してほしいの」
「「えっ」」
そう言ってフィフィは顔を真っ赤にする。
キョトンと、僕はクロハと顔を見合わせた。
えっ、それだけ?
えっ、ほんとに?
「何でまたフレンド登録?」
「それは……恥ずかしい話なんだけど……その、WLで一緒に遊ぶ友達がいなくて…」
「えっと、不躾な質問でお聞きしたいのですが、フィフィさんは個人的にWLを入手されたのでしょうか?それとも会社から渡されて?」
「ちょっとごめんクロハ、会社からってのは?」
「ええっとですね、今回イメージソングに起用されたということでしたから、こういった場合、運営側かフィフィさんの所属事務所あたりからソフトを配られている可能性がありますので」
「へぇ、そうなんだ。……ん、じゃあ会社側から貰ってるとしたらフィフィのグループメンバーの、ええっと…名前知らないけどあとの二人か、その子らもWLやってるってことも」
「はい。ですが、フィフィさんの先ほど仰られた事が言葉通りなら――」
「なるほど、ぼっちか」
「ぼっちって言わないで!」
若干半泣きになりかけながら叫ぶフィフィ。
何もそんなに怒らなくてもいいじゃないか。
確かにずっとぼっちは辛いけど、たまには一人でいたいこともあるだろうに。
クロハと買い物に出かけた次の日あたりとか特に……。
あれ、おかしいな視界が歪んできた。
「え、何ちょっといきなりどうしたの!?大丈夫?」
「大丈夫何でもないよ」
「そ、そう…?――それで、クロハ…ちゃんが言ってたことなんだけど、私個人としてWLしたくて予約しようとしたんだけど手に入らなかったんだよねぇ。で、そうしたら私の所属してる事務所がWLの運営会社からソフトを私達三人分貰ってきてね、皆で遊ぼうって事になったんだけど……二人とも――ああ、『リュリュ』と『シュシュ』っていうんだけどね、二人は今ちょっと忙しくてWLできないから一先ず私一人だけ先にやってたんだけど……私自身ちょっと人見知りなのと、あと自分で言うのも何だけど、容姿も目立つから話しかけられたりするのがちょっと怖くて……ステージの上とかだとそんな事ないんだけど」
「なるほどねぇ―って、それなら良く僕らに話しかけれたね。」
「それは、ミツキは良く街で見かけるし、可愛いし、人前でも堂々としてるし可愛いし、それにさっきみたいに料理しながらよく歌ってたりしてし可愛いし、雰囲気が柔らかいし可愛いし話かけやすそうだなと思ってあと可愛いしそれに――」
「モウヤメテッ!!あと僕は男だから!」
「……えっ?」
何回可愛いって言ったんだこの子は。
僕の心が木工ボンドじゃどうしようもない程折れそうなんで勘弁してください。
だから僕は事実を告げる!
まあ一切別に何も隠してないんだけど。
「またまたぁ、冗談でしょ」
「男だよ。不本意ながらWLでは女だけど」
「え?それってどういう……?」
「つま「つまりミツキ姉さんがVRギアの認識で女性と判断される程可愛らしいお方という事です!」ちょっとクロハさん、クロハさーん?」
「え……ほんとに……?」
「はい!現実世界ではミツキ兄さんですがWLではミツキ姉さんです!」
「クロハサンクロハサン。ストップ、ストーップ。やめて折れる、これ以上にないぐらいポッキリと折れちゃうから」
「ミツキ……ほんと……?」
「アッ、ハイ」
フィフィは僕を見て最終確認してきたので頷く。
驚くフィフィは色々と質問し、それに全てクロハが答えた。
既に会話がクロハとフィフィの二人だけで進行しだし、きゃーきゃー言いながら、時より「反則だわ」やら「是非見てみたい」やらが聴こえてきた気がするけど、知らない、僕は聴こえなかった。
人見知りだというフィフィがクロハと早くも打ち解けた様子なのは喜ばしいことだろう。
まあ会話の話題が僕であると言う事を除けばだけども。
何故僕の話題でそこまで盛り上がれるのか、コレガワカラナイ。
ところで、当初の予定はどうなったんですかフィフィさん。
会話に熱中しすぎて周りがソワソワしてますよー!