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料理が用意されるまでの間、僕は他冒険者から種族やらスキルについて聞かれたので答えていた。
人によっては、自分のスキル構成やスキルの詳細などは隠したりするらしいのだけれど、僕は別に知られても何ら困らないので話した。
そして僕は、集まっている冒険者達に対してだけではあるけれど、今回の騒動の原因が僕であることも伝え謝罪をした。
詳しい事を教えてほしいと言われたので、ギルドマスターと警備隊長に伝えた内容をもう一度最初から話した。
皆納得したように頷き、SA有効竜化中の大きさについては「それは誰もが予想できない」とに言っていた。
僕はもう一度謝罪し、もうすぐ警戒態勢も解けることも伝えた。
門が開くことを皆喜び、また集まっている冒険者皆が嬉しいことに、気にしなくていいと言ってくれた。
どうやらここにいる人達は訓練場で退屈せず、更に僕の竜化姿で大いに楽しめたのが大きいようだった。
それから暫く、外に出てからどこに行くやら、こんなモンスターを見かけたやらといった会話に花を咲かせていたら職員さんが来て、料理が出来たことを伝えてた。
訓練場を離れる際、ドラゴンのスキル情報を掲示板に上げてもいいかと聞かれたので承諾し、僕は訓練場にいる人達と別れて、食堂に移動した。
立てない程空腹状態の僕が、どうやって食堂まで移動したのかについては、あまり思い出したくない。
簡単に言ってしまえば、クロハが僕を運び、他の人達が運び方を見て大いに騒ぎ出したということ。
僕は暫く隣に居るクロハの顔を見れそうにない。
決して恥ずかしかったからという意味でなく、クロハがどんな表情をしているのかという意味でだ!
もちろん、運ばれる様子を他冒険者はしっかりとSSを撮り、運ぶクロハに至っては録画をしていたことをミツキは知らない。
用意された料理をみて、僕は思わず目を輝かせてしまった。
グラタン、ステーキ、シチュー、(豆腐)ハンバーグ、スパゲッティ等々……沢山のそれっぽい料理が置かれていた。
その結構な量と、油が多そうな料理が沢山並んでいて、普通の人が見たら見るだけで胃もたれしそうだが、僕は口の中で唾液が分泌されて思わずゴクリと喉を鳴らした。
どれもこれも美味しそうで、どれから手をつけようか暫し悩む。
ここはやはり熱いうちに食べたいジュウジュウいってるステーキから攻めることにした。
いただきますと手を合わせ、ナイフとフォークを持って肉を切り、そして食べる。
―美味しい。
じゅわっと口に広がって純粋に美味しい。
あまりの美味しさに頬が緩む。
僕はそこから無心にナイフとフォークで切っては食べ、切っては食べとパクパクと頬を緩ませながらモシャモシャ食べる。
自分の口が小さいのがもどかしい、そう言わずにはいられないぐらい頬張って食べた。
嗚呼、至福――。
―あとこれで白ご飯があればもっと最強だったなぁ。
そんな自分の世界からハッと戻ると、いつの間にか職員さん等々が集まっていて、皆がみていた。
何で皆さんそんなに僕を微笑ましい顔で見てるんですか。
ちょっと恥ずかしくなった僕の様子をみて、職員さん―相談窓口にいたエルフの人がニコニコ笑い、話しかけてくる。
「そんなに美味しそうに食べて下さるなんて、作った私達もとても嬉しい限りですわ。さあ、次はこの料理も召し上がってみてください。とても美味しいですよ」
なんとこれらの料理は皆職員さんが作ってくれたらしい。
騒ぎを起こした相手に対してここまでしてくれるとは、嬉しい限りだ。
にこりと笑って礼を言い、勧められた豆腐ハンバーグみたいなのも食べる。
これもまた美味しい!
ステーキを食べたときのようにこちらもモシャモシャと食べる。
「どうだ美味いか?ああ、食べながらでいいから聞いt――」
「ギルド長、いまミツキ様がお食べになられているのでお静かに願いします」
「えっ!?いやワシこれからだいz」
「後にしてください!ミツキちゃんが集中して食べてくれないじゃないですか!」
「そうです!あんなに一生懸命に、美味しそうに食べてるのを邪魔しちゃだめです!」
「あ、あのワシ、ギルマス……」
「「「「黙っててください」」」」
「は、はい……」
「さあミツキちゃ…様、お気になさらず。次はこちらも食べてみてください。」
何かギルドマスターが話しかけてきたが、職員さん数名に引っ張られていって、落ち込んでいた。
何があったんだろう。
それから、相談窓口のエルフさんや途中から他職員さんの勧めで次々料理を食べていった。
うまうま。
「――嗚呼、ご馳走様でした。とても美味しかったです!」
料理を全て食べ、満腹になった僕は作ってくれた職員さん達に礼を言って頭を下げた。
職員さん達も何やらホクホクした様子でお粗末様といっていた。
クロハも何故かホクホクしていた。
―しかし実に美味しかった。
どうすればあんなに美味しく作れるのだろうか。
僕が自炊しても、あんな美味しく作れないし、簡単な物しか作れないから羨ましい限りだ。
ふむ、これを機に<料理>スキルを覚えて練習してみるのもいいかもしれない。
「……おう、綺麗に食べ終えたようだな……」
「はい。とても美味しくいただきました!」
「そうか……じゃあ、これからの事を話すぞ…」
「は、はい」
何故だろう、ギルドマスターがやたらと落ち込んでいた。
「おほんっ!明日からお前にギルドからの依頼を受けてもらうわけだが…時間の方は大丈夫か?」
「はい、特に何も用事はありませんので大丈夫です」
「そうか、まあ都合の悪い日があれば早めに言ってくれたらいい。で、だ、今日お前さんに木箱を運んでもらった結果、木工ギルドの手伝いをしてもらうことにした」
「木工ギルドですか…。それで私は、どんな事をすれば?」
「今日お前さんに木箱を運んでもらったな?5個纏めて運搬しても大丈夫なのを確認した結果、伐採された原木を、お前さんにドラゴン姿になってもらって木工ギルドに運搬してもらいたい」
なるほど、確かに人の手で運ぶのと、ドラゴンが運ぶのとでは手間と労力に大きく差がでるだろう。
「分かりました。それでいくつかお聞きしたいのですが…」
「何でもきいてくれ」
「まず、この木工ギルドでの労働時間はどのくらいなのでしょうか?それと時間次第ですが、今日見て頂いたとおり、竜化中の姿だとお腹が空きやすくなりますので、食料の確保をどうにかしないといけないのですが…」
「そうだな――朝9時ぐらいから開始して、長くとも昼過ぎの1時ぐらいまでだと思ってくれればいい。ドラゴンの姿ならば原木運搬作業も早くなるだろうからな。そして食料については心配しなくていいぞ。朝、まずは冒険者ギルドに来てくれれば、こちらから食料を支給する。そして木工ギルドでの仕事を終えたらまたこちらに戻ってこい。そうしたらお前さんが今日食べた料理のように、うちの職員達が用意してくれるぞ」
そう言って職員達の方を睨むギルドマスター。
しかし職員達は平然としていた!
ギルドマスターはしょんぼりとしてしまった。
なるほど、訓練場で木箱を全て運び終えた際の職員さん達とのやり取りはこの事だったのだろう。
「…分かりました。食料の方よろしくお願いします」
「ああ…。ああそれでだ、お前さんにまずは冒険者ギルドに登録してもらわんといかんから、後で登録してもらうぞ」
「分かりました」
「後はそうだな……依頼した木工ギルドでの仕事を終えた後の時間は、掲示板から好きな依頼を受けてもらってかまわんからな。木工ギルドでの分は報酬が食料、それ以外の時間はお前さんの自由だ」
「――ありがとうございます」
感謝してもしきれない。
ここまで好待遇の処罰は無いだろう。
しっかりとやり遂げよう。
その後僕は、冒険者ギルドの登録を済ませ、後は好きに動いてもらって構わないとのことなのでクロハと一緒に冒険者ギルドを出た。
時刻は17時過ぎ、空は夕焼けに染まっていた。
街の門は開放されたのだろうか、様子を見に行くと開放されていた。
「良かったですね、ミツキ姉さん」
「ああ、街を追い出されなくて良かったよ。罰も好待遇だしね」
「ふふ、頑張ってくださいね」
そんなやり取りをしつつ、僕らは街をぶらぶらと歩く。
――さあ気合を入れて頑張ろう。