08
三人組が去ったあと、僕は少し考え、ある覚悟を決めた。
「クロハ、僕はやっぱり本当の事をいうことにしたよ」
「……それはやはり、他の冒険者たちの前で全てを話すという事でしょうか」
「本当ならそういう風にしたほうがいいのかもしれないんだけどね。でも、残念ながら僕はそんな度胸も勇気もないから、今起こってる問題を解決することにしたんだ」
「問題を解決、ですか。でもそれですと、他の冒険者以外に……いえ、NPCのほうですね?」
「そういう事」
さすがはクロハ、察してくれたようだ。
「今回の騒ぎはドラゴン、つまりは僕が原因で街にいるNPCたちが警戒して全ての門を閉鎖してしまったこと、そしてその警戒態勢がいつが解けるか分からないということが原因でここに居る冒険者達もイラだってる。だから僕は、この街で一番偉い人のところにいって全てを話して、どうしてこうなったのか理解してもらって警戒を解いてもらおうと思うんだ」
「でも、それですとミツキ姉さんが……」
「故意ではないとは言えここまで騒ぎが大きくなったんだ、せめてNPC側に対してはしっかりと事情を話してときたいんだ。……これは個人的な考えなんだけどね、WLの世界では僕らは余所者、NPC達のほうが本物の住人だと僕は思っている。そして僕はその人達に迷惑をかけた、だから謝罪をする。まあ話して謝罪した結果、この街に二度とこれなくなるだろうけどね。まあそのときは、クロハが言ってた東の街でのんびりと遊ぶさ」
「……」
そう言った僕に、悲しそうな顔するクロハに対して笑いかけた。
「ま、そういうわけでこの街で一番偉い人の所に行ってくるよ。クロハは――」
「私も着いて行きます」
「えっ」
僕はクロハを見て目をパチパチさせる。
ここまで付き合ってくれたからもう十分なんだけど。
「いや、何もクロハ着いてきてくれなくても…」
「いいえ、私も行きます。今回の騒ぎ、私にも原因がありますから」
「えっ……いやいやいや!クロハ全然何も悪くないじゃないか!」
「いいえ。ミツキ姉さんがドラゴン姿になった際に、私は街で騒ぎになると気づけたはずでした」
「いやでも、それは僕の<竜化>した姿に驚いて……」
「それにその後、ミツキ姉さんの掌に乗せていただいて、<飛行>で空を飛ぶ体験もさせていただいた時も、飛んでるときに街が見えていたにもかかわらず、浮かれてしまって配慮できませんでした」
「いや、でも、それは……」
「それに」
そこで言葉を区切り、ニコリとクロハは微笑む。
「ミツキ姉さん、その偉い人の居場所知ってるんですか?」
「ぬっ」
「それにですね、今のミツキ姉さんは女の子です。さっきの三人組みたいな輩に、ミツキ姉さんも絡まれてしまいますよ」
「いやさっきの連中はクロハが目当てだと――」
「あとですね――」
「うぅぅっ…わ、分かった!クロハに一緒に来てほしいです!だから着いてきてください!」
「はい、承りました」
ニコニコと素敵な笑顔をするクロハさん。
勝てない、何年経ってもクロハに勝てない。
小さい頃から言葉巧みに誘導されて、気がつけば一緒に遊んでたりするし。
またある時は買い物に付き合ってほしいと言われていざ行けば映画館だったり、着せ替え人形にされたりと――クロハさんほんま怖いお人やでぇ!
……あれ、ひょっとしてこれは僕がチョロイだけなんじゃないのか?
誰か教えてください。
思わず、まだ周りに集まったままの冒険者達さんをチラっと見る。
サっと目を逸らされた。
悲しいです。
それからクロハに連れられて辿り着いた先は、大きな建物――冒険者ギルドだった。
冒険者ギルドは、ここで冒険者登録をすることで様々な依頼を受けることが出来る。
この冒険者ギルドの掲示板に張り出される依頼書、雑用やモンスター退治等々といった依頼を受け、成功すれば報酬がもらえる仕組みとなっている。
受けれられる依頼にはランク分けがされており、冒険者ランクによって受けることが可能かどうかの目安になる。
ちなみにランクはFが最初でそこから最高SSSまでランクアップすることが出来るのである。
「えーっと、冒険者ギルドに来たってことは、もしかしてよくあるギルドマスター的な人がこの街で一番偉い人だったり?」
「そうですね。と言いましても、ギルドマスターの他に、この街の警備をしてくださってる警備隊の隊長さんも同じぐらい偉い人に当たりますね。」
「なるほどね……よし!いっちょ怒られにいくか」
そうして僕は冒険者ギルドの扉をくぐった。
ギルドの中に入ってまず大きなカウンターが目に入った。
カウンターはそれぞれ看板が立てられていて、それぞれ登録、依頼受注、報告、相談窓口等と書かれていて、それぞれの場所に担当受付の人がいた。
その奥ではバタバタと慌しく行き来したりするギルド員の人や兵士のような格好をした人がみえる。
また、入ってすぐ右側にも大きな掲示板もあって、そこに依頼が張り出されるようだったが、今は人がほとんどいなかった。
僕は、カウンターの相談と看板に書かれた場所へと向かう。
……少し誤算だったのが、カウンター自体が僕の身長よりやや高かった。
仕方なく僕は背伸びをしてカウンターによじ登るようにして担当の人に話しかけることにした。
……ちょっと受付の人全員がこっちを見て驚いている気がする。
しかしそこは受付員。
エルフの女性の人はすぐさまニコリと笑みを浮かべ対応する。
「ようこそ冒険者ギルドへ。何かご相談でしょうか?冒険者ギルドへの登録は、看板に登録と書かれた受付カウンターで行えますが大変、申し訳ありません。ただ今緊急事態の為、登録することは出来ません。」
この対応の仕方は、きっと登録できない事を相談窓口に聞きに来る人が大勢いたのだろう。
ならば早いところ解決しないと。
「いえ別のことで相談があって参りました」
「そうですか。それではどういった内容の相談でしょうか?」
「はい。今回のドラゴン騒ぎについて、その事でギルドマスターの方と大事なお話がしたいと思ってやって参りました。」
僕がそう言うとエルフの人はピクリと眉を少し動かした。
ちょっとドキドキしてきた。
「……失礼ですが、貴女方は今回のドラゴン騒ぎについて何か知っているのですが?」
「はい。しかし今この場ではお伝えすることが出来ません。ご内密にしていただきたい内容ですので、ギルドマスターの方とお話をさせて頂きたいのです」
すこしエルフの人は「少々お待ちください」といって受付を離れて奥に行った。
暫く待つと、エルフの人が戻って来て「こちらへどうぞ、ギルドマスターがお待ちしています」とギルドの奥へ僕らを通して案内してくれた。
少し奥に入ったところで扉があった。
どうやらここがギルドマスターの部屋なのだろう、エルフの人が扉をノック、中から「どうぞ」と声がした。
意を決して扉をくぐると、ヒゲモジャの身長の小さなおっちゃん、みるからにドワーフでギルドマスターの人なのだろう――がソファーに座り、その対面には全身重そうな鎧を着たナイスミドルなヒューマンのおっちゃんが座っていた。
僕とクロハは自己紹介をして頭を下げた。
すると二人は驚いた顔をしていた。
何で会う人会う人驚くんだろうねホント。
ハッとした表情で我に返ったのだろう、ギルドマスターのドワーフのおっちゃんが口を開く。
「オホンッ、よく来てくれた。ワシがこの冒険者ギルドのギルドマスターをしているドワルヴだ。こっちの鎧を着とる方がこの街を警備してくれとる警備隊長のエルメル。――それで、早速本題なのだが、なんでもドラゴン騒ぎについて何か知っているとか?」
そう言って僕らの顔を見るギルドマスタードワルヴさん。
ちょっとドワルヴさん、頬が赤くなってるんですけど今そういう場面じゃないですよね。
深呼吸をして覚悟を決め、僕は口を開いた。
「今回の騒ぎ――原因は私なんです!この度はお騒がせして申し訳ありませんでした!」
「「えっ?」」
驚くドワルヴさんとエルメル隊長さん。
まあいきなり自分がドラゴン騒ぎの原因だと言われても何のことか分からないだろう。
「ええっと君…ミツキと言ったか、もう少し具体的にどういう事なのか説明してもらえると有り難いんだけど」
エルメル隊長さんに言われたので僕は今回のことを全て話しはじめる。
自分がドラゴンであること、そしてそのドラゴンのスキルについて、そして結果この騒ぎになったこと。
特に僕がそのドラゴンだと聞いてギルドマスターと警備隊長はびっくりするぐらい驚いていた。
どこの世界でもドラゴンというのは畏怖の念があるようだ。
まあ僕自身はドラゴン(笑)なんだけども。
さらに信憑性を高めてくれるか分からないが、角と翼も出すとさらに驚いていた。
そして僕が全てを話し終えると、ギルドマスターと警備隊長は同時に唸りだした。
「――なるほどな。それでドラゴンの技がどんなものか試して戻ってきたら大騒ぎになっていた、と」
「はい。ですので、今回のことでこの街に大変迷惑掛けてしまったことをお詫びします。それに、何か罰があるのであればそれも喜んでお受けします」
「ああ、うん、いや、その、そうだなぁ…」
「その前に一つ君に聞いておきたいことがあるんだが」
恐る恐るといった感じにエルメル警備隊長が問いかけてきた。
「何でしょう?」
「その、君はドラゴンなんだよな?」
「ドラゴンですね」
「ドラゴンはその、プライドが高いんじゃ…」
「そんなものは私には全然関係ありません。それに私は自分はドラゴンだからといって威張ったりなんかしませんし、第一私は冒険者です。そんなどうでもいい事なんかよりお金を稼いで美味しい料理を食べるほうがよっぽど大事です。現に<竜化>でドラゴンの姿になったおかげで、食費が嵩んで財布の中身もすっからかんなので、次の食事代だけでも最低限稼がないといけないという死活問題なので」
僕の言葉を聞いた二人は呆気に取られ、クロハはくすくすと笑っていた。
いやだって、ねえ?そもそもドラゴンになったのは今日だし、そんなドラゴンのプライドとかそんなものはどうでもいいし、興味もない。
それに、お金が無いからなんとかして金策もしないといけない、なんちゃってドラゴン(笑)に何ができようか。
すると呆気に取られていた二人は大声で笑い出した。
「がっはっはっは!いや参った!なるほどなるほどそうかそうか!」
「くははは!なるほどな、うんうん」
何かを納得したらしい2人。
何か僕はおかしなことを言ってしまったのだろうか。
「よーし!それじゃあ、今回の騒動の件についてお前さんに罰を与えるとしようじゃないか」
一通り笑ったギルドマスターが呼吸を整え、ニヤリと口歪めて言った。
とうとう罰が下されるときが来た。
よくて街から追い出され、悪くて……悪くてなんだろうか?
「お前さんに与える罰は――この冒険者ギルドに登録し、そしてギルドから指定された依頼をこなすことだ。そうだな、罰の期限は三日間、でどうだろうか、エルメル」
「まあそのくらいが妥当だろう。俺からは特に言うことはない」
「「えっ?」」
僕は思わぬ罰の内容に、クロハと目を合わせた。
あれー?
「えっと、それはどういう……?」
「今回お前さんがこの街対して騒ぎを起こした、ならばその償いとして街の為に働く、ごく自然な流れさ」
「それに君はドラゴンで、しかも冒険者だ。ならばそのドラゴンとしての力を使わせてもらいたいのだよ。」
「……いいんでしょうか?」
「なぁに、今回の騒動をある意味での早期解決したという事も兼ねての減罰三日間だ。不服かな?」
「い、いえ。私はてっきり、街に二度と来れなくぐらいのものを覚悟していたので……」
「がっはっは。それじゃあつまらん。せっかくの良い人材だ、ここで追い出したりするのは勿体無いってもんだ」
「……っ。ありがとうございます!」
僕は二人に感謝の礼をした。
なんという格好いい人達なんだろう。
「それで一つ確認しときたいんだが、お前さんの<竜化>だったか、それを使う時にドラゴン姿時の大きさとかは変えられるのか?」
「えっと、私が試した際は支援効果有りの状態だけでしたので、支援効果無しでやれば恐らくは試した時よりもかなり小さなドラゴンの姿になるかと思います」
「ふむ、試してはいないのだな?」
「はい。試そうとする前にお腹が空いたので街に戻りました」
「ああ、変身すると腹が減りやすくなるんだったか。なるほど、ならば今はどうなんだ?」
「出来ますが、えっと?」
「いやなに、姿の小さなドラゴン姿になれるのであれば、依頼の内容も変わってくるからな」
「なるほど。ただどの程度の大きさになるのか分からないので広い場所に移動して試してみないことには」
「そうだな。それでは冒険者ギルドの訓練場に移動しよう。あそこならば大丈夫だろう」
「うむ、話は決まったようだな。それではドワルヴ、俺は部下達にこの警戒態勢を解いて門を開くよう伝えにいってくるとしよう」
「ああ分かった、またな」
「エルメル隊長さん、今回お騒がせして申し訳ありませんでした」
そう言ってもう一度頭を下げた僕に、エルメル隊長は頑張れよとニヤリと笑って退出していった。