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出会いの歯車

side:南雲


「せっかく、わたし達。」


「“友達”になれたんじゃないんですか……?」


八桜ちゃんが、ぽつりと。

泣きそうな顔で、そうつぶやいた。


だから、


申し訳なくて。


「あのさ……。」


フザケた、その一言しか発せなかった。




「        」



    Ψ


Side:李音


二人が居なくなって数分間。

俺は何をするでもなく、道ばたの木の下に座って休んでいた。


「……暇だ。」

呟き、頭上を見上げる。木の葉の間から、木漏れ日が差しこんでいた。


「ったく。せっかく遊びに来たのに初日からこのザマかよ。」


軽く額に手を当てる。いつもよりさらりとした前髪が手に触れて、その感触が、今、自分が女性の身体(アバター)であることを再確認させてくれる。


「まったく。本当にまったく。ありえないだろ。」


今日一日で、本当に信じられない位濃厚な時間を過ごした。




こんな一日、嫌ではない、いや、むしろ。



『―――もしこの時間が毎日続いてくれるなら―――』



そうなってくれるなら。


そんな事を考えかけて。


「……まぁいいや。それより。今やれる事を片付けようかね。」


一つ、大きなため息をつき。お尻の土を払い、立ち上がる。


頭をぽりぽりと掻き、欠伸(あくび)を一つ。軽く伸びをする。





「さてどうするよ?そこの透明人間。」

そして、虚空に問いかける。


目には見えないけど、なにかが居る。

おそらくこれは。

「『ステルス』だろ。そんなん張って近づかれたんじゃ、おちおち昼寝も出来やしない。なんか用があるのなら、直接来てくれないか?」



そう言うと、何も居なかったであろう空間に女性が現れる。


「ふぅん?…あたしに気づくって。なかなかすごーいんだねぇ、お姉さんは。」 


 ユルい口調で話している。女子。肌は白めの肌色。髪は透き通った水色。軽装備、武器は腰に吊ったダガー。


 それらの情報から相手のプレイスタイルを把握する。


(――種族は――スライムか。

 ジョブ……ステルスってことは、シーフあたりかな?…………あと、でけぇ。うん)


 冷静に分析(オイ)。言葉を続ける。


「アホか?

 あんなに隠すつもりもなく近づいてくりゃ誰でも気づくだろ。」


「うんにゃー。実はそうでもなかったり。

 普通のヌルゲーマーなら『ステルス』だけで結構だませるんだよねぇ…。

 お姉さん、なかなかやっるぅー。」


「あ、そ。それで?なんか用事か?

 あいにくさ、俺、消失系女子と話すな、って、ばっちゃに約束させられてんだ。」


「ありゃ。警戒されちゃった?」

「当然だろ?初対面の挨拶に、人に気づかれないようにコンニチハ、なんて、そんなヤツと仲良くするような、奇特な趣味は無いつもりだからな。」

 軽く身構える。


「んー、それもそっか。ま、見つかった時点で()()()()ってことでー。

 あとは、この子にお任せーっと。」


「え、は?暗殺?何を……っ!?」


 彼女の足元に突如描かれる光の紋様。


 ―――-魔方陣が現れる。


『はいはい、めんどいからさっさと済ますよー。()の世の(ことわり)と力の名の(もと)に、呼び命じてその姿を(あらわ)せっ! 』


 ゆるゆると魔方陣のなかに影が固まり、「ナニカ」の形を為していく。


「げ。課金アイテムかよ。」


『さぁおいで。「スライムリザード」!』


 課金アイテム"オトモモンスター"。

 プレイヤーが呼び出し、命令に従って動くモンスター。

 呼び出してから10分間、周囲の敵を攻撃する。

 ちなみに、モンスターということで、強さにはランクがあり、『スライムリザード』はーーー


「スライムリザード?そいつ、そんなに強くないだろ。」

「ん?んー。そだねー。

 ま、いまは戦うつもりもないし。私が逃げる為の時間稼ぎ、かなー。」


「時間稼ぎ……?随分舐められたもんだな。

 スライムリザード程度、潰すのにそこまで掛からないぞ?」


 ニヤリと笑って腰のホルダーから包丁(エモノ)を引き抜く。


「んー。ま、ふつーなら、そうだろうねー。

 それじゃ私は逃げるよー。またねー、お姉さん。」


 そう言い残すと、彼女はその姿を陽炎のように揺らめかせる。


 現れたときと同様に、ステルスで消えようとする。


「待てって!…っと。」


 形を成した影―――スライムリザード、―――が、追いすがろうとする俺に立ち塞がる。


「――ッ、ジャマだ!!」


 スキル“スピードバッシュ”を発動し、一息にぶった切る――。


 ――ザシュッ。

 明らかな違和感。コチラの攻撃によるモンスターへのダメージの通りが明らかに少ない。


 スライムリザードなら、ベータテストの序盤に腐るほど狩った。


 だから解る。これは――-―。


「――マジかよ。

 このスライムリザード、物理耐性付いてやがる。」


 包丁の柄を軽く握り直す。


「エンチャントか?こりゃ、倒すのに骨が折れるわな。」


 ステルススライム女子の居た場所を見る。


 ーー当然、だれもいない。


「チェッ、しゃーないな。俺はここに足止めか。」


「仕方ないな。んじゃ―――」


意識を反転させる。


体に巻きついた包帯が真っ赤に染まる。


頭の中身が戦うことだけに特化されていく。


どろり。と体のまわりを紅いエフェクトが覆っていく―――



「―――凶刃、乱舞。」

その声を最後(ヒキガネ)に、ぷつん、と自分の中で何かが切れる音がする。




「ささっと適当に細切れミンチにぶったぎってやるにゃ――!!」

ぺろ、と包丁を舐める。とろりとした唾液が包丁の刃を濡らす。

そして、それに影響されてか。

幻惑的に揺らめく紅いオーラが、手に握った包丁の刃紋を強調するかのように、集まり。ゆらり、ゆらりと光を上げる。


そして叫ぶ。



「んで、ダイナマイトで暴れん坊なあの北半球に測量(おさわり)という名のオシオキをしてやるのにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


叫び声は、虚空に響き。

そのあまりの勢いに、プログラム動作のはずのスライムリザードがビクッ、とひるみました。


「さあ、北半球もといすーぱー肉まん!!まっているのにゃ!今追いつくのにゃ!!!」


スライムリザードが心なしか、「マジやってらんねぇ」という顔をしたような気がします。


「その(肉まんの)為に、ささっとぶっっころすのにゃ!!!」



 あぁ――――突っ込み不在の恐怖。



 Ψ



 side:???


「ん。ここまで来ればだいじょぶかなー。

いっやぁー、久しぶりに思いっきり逃げたー。いい運動したね、うん。」


 街の裏路地。


「にしても結構強そーなお姉さんだったー。真面目にやったら結構手間取りそうだねー。」


 私はステルスを解除して歩いている。


 「そういやなんか、仲間の娘達とケンカしてたみたいだけど……なんだろ?仲間割れかな?

そうだといいなー。少しは楽になるかなー。」


 足はカカトから落とす。腕は頭の後ろに交差。

そのまま足を脱力とともに地面に下ろす。


「いやぁー、途中で切り上げて逃げて正解だったねー、うん。あのままやってたら確実に」


 ーーぐるり。360度を見渡す。


「ねぇ、一人で話すの飽きたんだけど。いい加減出てきてくれないかな?」


 周囲の雑多に置かれた木箱、荷物。


 それらの影に。どこかに。『だれか』いる。


 隠密スキルもないのに、かなり上手に自分の気配を消していた。


 ━━━厄介。


 そう、感じた。



「へぇ、能天気で間の抜けた木偶(デク)の坊だと思っていたけれど。なかなかどうして、遣り手の唐変木(とうへんぼく)の様じゃあないか。」


 なんか猫が出た。見つけられたのに格好つけてる。


 ーームカつく。


「えー?

 なんであなたみたいなぽっと出の雑魚モブに評価されなきゃいけないのかなー。

 うん、正直ウザイよー?」



 ピキッ ← 両者の額に青筋の浮かぶ音



「あれ。そういやもう一人居なかったっけ?

 たしかー……そうそう、キツネの子。

 あの子はどうしたの?まな板猫。」



「……フン。もし知っていたとしても、君に教える必要性を全く感じないのだけどね。

 その程度も(わか)らないとは。

 ふむ、君の質量は随分と高そうだけど……。

 あぁ、その胸部につけた、無駄に肥えた贅肉(ぜいにく)のせいで脳味噌(ナマゴミ)が少ないのかな?」



 ──ギシッ (周囲の空気が軋む音。)




「すまない。乳牛。君に伝えたいことがあるんだが。」

「奇遇だねぇー、ドブ猫。私も貴方にいいたい事があるんだよねー」




「む。そうか。ならば…こうしよう。せーので同時に伝えるというのはどうだろうか。」

「ん。賛成ー。いいアイデアだねー。」




「だろう?ははははははは。」

「うんうん。あはははははは。」





「ふむ。それではいくぞ?」

「おーけー。」




「「せーの。」」








『てめぇぶっ殺すぞ「贅肉(ムダチチ)スライム」「平面(マナイタ)猫」ッッッッ!!!!!!』





  Ψ



 side:八桜


「南雲さんに言われた通り、ギルドに来たけど……。」


 私は不安だった。


 初めてやったネットゲーム。


 初めて体感した架空の世界。


 ――『孤独(ひとりぼっち)』。


 それを意識すると、私の両足は。


 まるで、暗闇の中に放り出されたように、向かう先を見失い。


 その場に縫いつけられたように、動かなくなってしまうのでした。


「怖い……。」


 やっとの事で吐き出したのは、そんな、気弱で、周囲の喧騒にかき消されてしまいそうな程に、小さな一言でした。


「怖いです……リオンさん、八雲さん…寂しいです……」




『私の憶測が正しければ、必ず、絶対に。

 今回の騒動、その情報が必要になってくる。

 できれば私も付いて行きたいところだけど……私は、今は、私のやる事に専念しないといけないんだ。

 ごめん、ヤオちゃん……よろしくね。』


 八雲さんがそう言って、町の路地のほうに駆けていったのを、ふと思い出し。


 頭の中で自分のやるべき事を反芻します。


(ああ。わたし、私のやるべきこと、は―――。)


 それでも私の足は、震え。

 目的とは外れて、進み。

 

 建物の壁に背を預け、道端の木箱によろよろと座り込んでしまいます。

 そのまま自然と視線は下の方へ――自分のふともものあたりに向いて。


『お前なんか!――おまえみたいな奴が――』


 恐怖、不安、孤独。そんな弱い感情が私の頭の中を駆け巡り――


『――お前がいなければっ!!僕が!!僕が!!』


 ふと視線を上げると、町の風景が目に飛び込んできます。


ふらふらとさ迷う視線で町を見渡すと。

町の中央、水晶の像(ぽーたる、というらしいです。新しく入ってきた人はあそこに集められるらしいです)の所に、大きな角の生えた、鬼?の女の人がいました。

その女の人は、きょろきょろと周りを見渡しています。


「・・・・・・。」


その女の人が、なんだか、数時間前の自分に重なる気がして。


「あの、大丈夫ですか?何かお困りですか?」


気がつくと、声をかけていました。



「んん?おお。いやな、知り合いと一緒にゲームをやろうとやくそくをしたんだがよぅ、……お嬢ちゃん、『ぎるど』ってのはどの建物だい?そこで待ち合わせをしてるんだ。」


「ギルドですか?それなら、あの建物ですけど……。」


「おっ。やっぱりベータの時と町並みが違うと分かんないもんだねぇ。ありがとね。っと。袖摺りあうもなんとやらってね。どうだい、フレンド登録頼むよ。」


「え、あ、はい!えっと……」


 『沙羅双樹(さらそうじゅ)』 さん からフレンド申請がありました。

  受諾しますか?



         【Yes】/【No】


「いぇす……オーケーです。」


「ん、よし。これで終わり…っと。それじゃ、またどこかで。今度会ったら、酒でも飲もうな!」


そう言うと、『沙羅双樹』さんはギルドの方へ駆け出してゆきました。


「・・・はっ。」


なんだかとっても存在感のある人でした。……さらそうじゅさん、ですか。

変わった名前の方ですね。

……といいますか、これからわたしが行くのもギルドなのですから、あと数分もしない内に鉢合わせする事になるのではないかと。


―――それはそれで面白そうですね。

思わず、くすりと笑いがこみ上げて来ました。



「ふふっ。それじゃ、『またどこかで、今度』会いに行きたいところですね。」



笑いながら私は。

ギルドの方へ向けて歩き出すのでした。


 

足の震えは―――いつの間にか、止まっていました。

次回はバトル回です!適度に待っててください(◦ω◦)ノシ

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