豆乳女の番外編・思い出復習中
真の最終回の後編です。
真琴目線でお楽しみください。
びっくりゴリラに着いた私達は、階段を登って入口へと進んだ。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「うっ・・・」
「二人です」
「おタバコは?」
「吸いません」
「ではこちらへどうぞ」
あーなんかデジャブかも。
席についてから和くんのほうを見ると、なんでもなさげにこちらを見ていた。その目には『いつものことなのでお気になさらずに』と書いてあるようにも見えた。
またバカにして・・・。私はさっきのことでまだ怒ってるんだからね。
「フンっ」
「え、まだ怒ってるんですか?」
・・・でも今日って私から誘ったことになるんだよね?
なんか取り返しつかなくなってきたかも・・・。ただ和くんに会いたかっただけなのに。
私、何してるんだろ。
「真琴さん。機嫌直しませんか?」
「和くん・・・」
「真琴さんももう怒ってないですよね? 取り返しつかなくなっちゃったーとか思ってるんじゃないですか?」
「なんでわかるの?」
「だって顔に書いてますもん」
アハハと笑う和くん。
そんなに顔に出やすいのかなぁ?
「そんなに顔を触ったってわかりませんよ。俺しかわかんないですよ」
「そんなに顔に出てる?」
「なんとなくですけどね。雰囲気ですよ。雰囲気」
「・・・アハハ。そっかぁ」
「さて、何食べます? 俺、もう決まりました」
和くんは優しいな。そこに惚れたんだけど、改めて思うと凄い和くんのこと好きだわ。
さてメニューメニューっと。
うわー。冬限定のコレも美味しそう。でもこっちも捨てがたい。うーん、悩む。
あ、前来た時これ食べたなぁ。よし。今回もこれにしよう。
「私、これ」
「あ、やっぱりそれですか」
「えっ! もしかして顔に書いてた?」
「違いますよ。前に来たときと同じもの頼んだら面白いなぁって思ってたら、ホントにそれだったんでびっくりしました」
「和くんはどれにしたの?」
「俺も前と同じです。シンクロしまくりですね」
「まるで双子みたいだね」
店員さんにメニューを注文して、あの時の思い出話が始まった。
「確かここで真琴さんに栄養ドリンクさんって呼ばれた気がします」
「呼んだ呼んだ。和くんは私のこと豆乳女って呼んでたよね」
「あの時は笑いましたねー」
「店員さんに注意されたもんねー」
そう言って後ろを二人で確認して笑った。
「今だから言いますけど、実は真琴さんと佳子さんのラーメン屋で会う前から真琴さんのこと知ってたんです」
「え? なんで?」
正直驚いた。私が忘れてるだけかとも思ったが、和くんが私を知ったいきさつを話してくれてホッとした。
「なので、お客さんと店員さんってそんなもんなんですね」
「まぁよっぽどの常連さんじゃない限りは覚えてないもん。ってゆーか、お店に来て私のこと見てただけって、ストーカーじゃないの?」
「訴えたら負ける自信ありますね。アハハ。でもその時は見てるだけで幸せだったんですもん。オアシスみたいなもんですよ」
「そんな大袈裟な」
「いや、本当ですよ。真琴さんの笑顔はとても素晴らしいですって」
「恥ずかしいからやめてー」
どうしてこんなに恥ずかしいことをサラっと言えちゃうかなぁ? しかもこんなに人がたくさんいる前で。
私も和くんの笑顔は好きだし、他にも好きなところはたくさんあるけど恥ずかしくて言えないもん。
運ばれてきたハンバーグを食べ終わってお会計を済ますと、前よりも冷たい風が火照った顔を冷やした。
「じゃあ帰ろっかな」
「送っていきますよ」
「明日もあるしいいって」
「だってまた襲われたりしたら困ります」
そういえば前は襲われたんだっけ。あれは怖かったなぁ。
うぅ・・・思い出したら怖くなってきた。
「和くんが迷惑じゃなければ送っていって欲しいです」
「ホントに前と同じ感じですね」
「復習してるみたいだよねー」
笑いながら話しながら私の家までの道を歩いた。
やっぱり和くんのこと好きだなーと思いながら歩いた。
最初は和くんのほうが私にベタ惚れだったみたいだけど、今ならどっちのほうがベタ惚れしてるのかわからないぐらい好きだ。
もしかしたら私の方が好きかもしれない。
「あの公園寄って行ってもいいですか?」
「公園?」
和くんが前を歩いて公園の中へと入っていく。
ここの公園は、私と和くんが告白しあった公園だ。
その時のベンチの前に来ると和くんがクルリと反転して、すごい真剣な表情をしていた。
「真琴さん」
「は、はい」
「本当は明日言おうと思ってたんですけど、今言っちゃいます」
「はい?」
「俺と結婚してください」
は? なんて? 結婚?
ビックリして声が出ない。
「・・・結婚? 誰と?」
誰と? って一人しか居ないじゃん!!
「もちろん真琴さんとです」
「えーと・・・結婚って結婚?」
「え? はい。あの結婚です」
私と和くんが結婚・・・。こんなの夢でも見なかったなぁ。ってそんな悠長なこと考えてる暇じゃない。
「でもまだ私たち付き合って1年も経ってないし・・・」
「やっぱりそうですよね・・・。俺もどうかと思ったんですよ。でも先輩に相談したら、上手くいくって言われたんですよ」
「山田さんが?」
「はい。でも俺も真琴さんと結婚できるなら嬉しいですし、こんなに綺麗な人がお嫁さんになってくれたらいいなぁとは前から思ってましたし」
「なんて相談したのさ」
「え? 真琴さんと結婚したいと思うのは変だと思いますか?って」
そりゃ私も結婚とか考える歳だし、和くんのこと大好き過ぎて今日こうやって会いに行ったわけだし、結婚するなら和くんがいいとか考えなかったこともないわけだし・・・
でもまだ付き合ってまだそんなに経ってないし、私こんなだし・・・
あー!もうウジウジ考えるのはもうやめよう!
「えっと・・・私も和くんと結婚したいです」
「マジですか!」
「マジです」
「えっと、じゃあこれってもしかしてプロポーズ成功ってやつですか!?」
「こんな私で良かったらもらってください」
「うわっ! 俺どうしよ! えーと、落ち着け落ち着けー。あっ!」
カバンの中をごそごそとする和くん。なにやら小さな箱を取り出すとこっちに向けて開けた。
「これって・・・」
「えへへ。買っちゃいました。サイズは佳子さんに聞いたんで多分合ってると思います」
ちょっと、断られてたらどうするつもりだったのよ。
やばっ、泣きそう。プロポーズされるのってこんなに嬉しいものなんだ。
テレビの中でしか見たことなかったから、実際に言われても全然実感なかったけど嬉しすぎるわ。
「手、いいですか?」
「あ・・・はい。なんか恥ずかしいね」
私の手から手袋を取って、左手の薬指に箱から出した指輪をはめる。
これが婚約指輪ってやつかー。
「安物ですけどね。もっと立派になったらもっといい指輪買いますから、今はそれでお願いします」
「私すごい嬉しい。ずっと大事にする」
「で、こんな時にこんなこというのもなんですけど、このあとって何したらいいんですかね?」
ドラマとかだと、ここで抱き合ってエンディングだけど、私たちはエンディングが流れる世界に生きていないので、どうしたらいいのやら。
「えーと・・・とりあえずキスしよっか」
「この雰囲気でですか。真琴さんらしいですね」
「またそうやってバカにして」
口ではそんなこと言いながらも和くんに抱きつきに行くと、優しく受け止めてくれた。
私たちは私たちのペースで進んでいこう。
そんなことを思いながら幸せな時間の中でキスをした。
再び歩きだして私の家へと向かった。
「あ、そろそろ敬語やめてよね」
「えー、ちょっと難しいかもしれません」
「じゃあ結婚の話はなかったことに・・・」
「嘘だよ。真琴」
「もう・・・そんなに結婚したかったの?」
「だって好きだから。こんなに人を好きなったのは初めて」
「・・・幸せにしてね」
「もちろん」
おしまい
ここまでお読みいただきありがとうございます。
『豆乳女と栄養ドリンク男』はここで終了となり、次の話はあとがきとなってます。
今まで応援してくださった皆様。
本当にありがとうございました。