栄養ドリンク男・通常とDVD
時刻、午後5時。
「こんばんわ。真琴さん」
「こ、こんばんわ」
びっくりさせてあげようと思って後ろに立ってからメールを送った。
いきなり来たから驚いてるのか?
「な、なんでここに来たの?」
すごい照れてるな。
でもこんなに照れてる真琴さんもまた可愛いな。
「近くに真琴さんがいるって言ってたから来ちゃいました」
なんて嘘とかついてみちゃったりしてみる。
実はメイド喫茶を出た俺と高橋は、高橋の行きつけのゲーセンで一通り遊び、最後にこのアニメショップに寄る予定だったのだ。
ホントは偶然でもなんでもないけど、高橋のおかげで真琴さんに会うことができた。
少しは感謝するかな。
ふと気づくと高橋が後ろで山田さんと話していた。
「やっぱりゼローシュさんだったんだー」
「ちょ!ここでその名前出さないでもらえる!?」
なるほど。あの時言ってた「知り合いかどうか微妙な人」って言うのは山田さんのことで、さらに高橋が言ってた「ゼローシュさん」っていうのは山田さんの事だったのか。
「大丈夫っすよ。佐々木はもう気づいたみたいだし、彼女さんのほうは俺の存在すら見えてないみたいだし」
たしかに真琴さんはうつむいてもじもじしている。
「じゃあそーゆーことだから。また遊ぼうな。俺たちは帰るから。あとは二人でごゆっくり~」
「お!あんた意外と良いとこあるじゃん!見直した!」
「今更かよ!佐々木をここに連れてきたのは俺っすよ!」
「マジか!そこんところ詳しく聞かせてもらおうじゃないの!」
ヒラヒラと手を振る高橋と、その背中をバシバシと叩いてる山田さんは、話しながら店を出ていった。
そして真琴さんに視線を戻した。
やっぱり可愛いと思った。
いつもの淡々とした時の真琴さんも可愛いけど、いつもとは全然違う服装でもじもじしてる真琴さんも可愛かった。
我ながらのろけすぎだな。いや、骨抜きにされてるのか?
「真琴さん?」
なかなか落ち着きを取り戻してくれない真琴さんに声をかけた。
「はい」
ぼーっとした赤い顔で顔を上げて俺を見てくる。
「とりあえず出ましょうか」
「う、うん。そうだね」
振り返って出口のほうへと足を向けた時、手に温かいものが触れてきた。
思わず見ると真琴さんの手が俺の手を握っていた。
「え?あ、ま、真琴さん?」
「え?ご、ごめんなさい。つい・・・」
急に手を握られて驚いた。
つい、って。
どうしたんだ?今日の真琴さんなんか変だ。
手を離されそうになったので、慌ててつかみ返す。
「とりあえず出ましょうか」
真琴さんと手をつなげたとはいえ、ここはアニメショップの中なのだ。
だんだん恥ずかしくなってくる。
真琴さんの手を引いて出口へと早足で向かった。
外に出て、歩道と車道の間にある柵に並んで腰をかける。
「大丈夫ですか?熱でもあるんですか?」
フルフルと頭を横に振る。
じゃあどうしたんだ?まさか恥ずかしくて直視できないのか?
すると頭をコクリと縦に振った。
また心の声が・・・ってマジデスカ。
「なんでそんなに恥ずかしがってるんですか。別に会うのは初めてじゃないじゃないですか」
真琴さんがよくわからなくなってきた。
「なんてゆーか心の準備ができてない時に会っちゃったから・・・」
ようやく調子を取り戻してきた真琴さんがつぶやいた。
「そーゆーことですか。てっきり熱でもあるのかと思ってました」
「でも顔が熱い。外が涼しくてよかった」
顔を仰ぎながらこちらを向いて、まだ赤い顔をあげて笑顔を見せる。
・・・・・・抱きしめてしまいたい。
しかし公共の場ということでなんとか我慢できた。
「ふう。落ち着いてきた。ありがとね。和くん」
「いえ」
「それより佳子は?」
「高橋と帰りましたよ」
「高橋?」
「えーと。俺の高校の時の友達です」
「なんで佳子と?」
「なんか知り合いらしいですよ?俺もさっき初めて知りました」
「ふーん」
「ところでそのリュック何入ってるんですか?すごい重そうですけど」
「あ、これ?えっとね・・・いや、内緒!」
途中で言葉を切られた。
きっと言えないようなものが入ってるんだろう。
「そうそう。今度でいいから『通常』貸してくれない?」
「あ。もちろんいいですよ。でもアレ重たくないですか?」
「重たいけど、さっきそこで読んでたら続きも読みたくなって。それに和くんも読んでるし」
「アレ面白いですよ。DVDも見ましたけど、漫画とはまた違う面白さがあるって感じでした」
「え、そうなの?DVDは見ないつもりだったんだけどなぁ」
「なんで見ないんですか?」
「私の家、DVDの再生機器がないんだよ」
そう言われてみるとなかったような気もする。
あの漫画はアニメでも面白かった。
ちょっと女の子達を前面に推しすぎている感じもしたけど、俺の笑いのツボを的確に突いていた。
「じゃあ俺の家で見ませんか?」
「え?行っていいの?」
「はい。真琴さんが良ければですけど」
「お邪魔しちゃおうかな」
「じゃあいつにします?」
「今からじゃダメ?」
・・・え?
「やっぱり迷惑だよね・・・」
「いや!そんなことないです!むしろ大歓迎ってゆーか!」
「そう?そこまで言われたら行くしかないね」
「あ、はい」
「実は和くんの家行ってみたかったんだよねー」
両手をパンと叩いて楽しそうに話す。
とりあえずいつ掃除したっけ?確かちょっと前に掃除したはず。いや、ちょっと待て。前っていつだ?
完全に真琴さんのペースだ。俺は少し反撃したくなってきた。
どこか・・・どこか弱点は・・・
「あ、でもその前にウチよってもいい?このリュック置いていきたいんだ」
ひらめいた!
「じゃあそのリュックの中身を教えてくれたらウチに来てもいいですよ?」
「えっ!?」
言ってから思ったけど、もしも真琴さんが言ってくれなかったらここで解散だよね。
失敗したかも・・・
「そんなに中身知りたいの?」
「いえ、無理にとは言いませんけど」
「でも和くんの家に行けなくなるんでしょ?それはちょっと残念だから・・・」
なんかものすごく申し訳なくなってきた。
「あ、いや、冗だ」
「本が入ってるの!」
途中で真琴さんの声にかき消された。
たしか今、本って言ったよね?
「本?なんで隠してたんですか?」
「しかも15冊くらい入ってる・・・」
「いや、別に15冊くらい入っててもおかしくはないんじゃないですか?」
「え?そ、そうだよね?変じゃないよね?」
「はい。・・・多分。少なくとも僕は思いません」
なんでそんなことを隠していたのか?
今日の真琴さんはよくわからん。
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