栄養ドリンク男・Sメイド
時刻、午後1時半。
「いいって!俺は外で待ってるから!」
「いやいや!ここまで来んだから入れって!」
「いやいやいやいや!無理だって!ほら!俺には真琴さんという彼女が居るから!」
「なんだよそれ!俺だってミクさんという嫁がいるのに来てるんだ!」
「お前のは画面の中の存在だろーが!」
「あーもう、うるせえな!さっさと入れ!オラ!」
「うわっ!」
カランカラン♪
「おかえりなさいませー。ご主人様」
どうしてこうなった。
たしか、俺にオタクのことを教えてくれると言っておとなしくついて行ったら、看板に「メイド喫茶・ポムポム」って書かれた店に入れられそうになって抵抗したんだけど・・・このザマだ。
「説明乙」
どうやら心の声が丸聞こえだったみたいだ。
だが今はそんなことはどうでもいい。
なんでメイド喫茶に連れてこられたのか。そこが問題だ。
「まぁ落ち着けよ。無理矢理連れてきて悪かったな」
「ほんとにな」
「怒るなよ。ここは俺が奢るからさ」
「そこまで言われたら仕方ないな。付き合ってやるよ」
「相変わらず現金な奴め」
とりあえずメニューを見る。
メニューには「メイド特製ふわんふわんオムライチュ」とか「ひんやりかき氷の詰め合わせ」とか「みっくちゅじゅーちゅ」とかあった。
「あ。先に言っておくけど、セットを頼んだら、コースターにメイドさんが絵を書いてくれるからな」
「つまりそれはどういうことだ?」
「つまりそれはどういうことだと思う?」
「俺には、「セットを頼んだら、コースターにメイドさんが絵を書いてくれるから、それを俺によこせ」って聞こえた」
「大正解だ」
なんてやつだ。
まぁ奢ってもらうんだからそのくらいは許してやろう。
真琴さんの絵なら欲しいな。
「で、決まったか?」
「おう。このケーキのセットにする」
メニューには変な書き方をしているが、中身は普通の喫茶店と変わらないメニューだ。
ただ店員が皆、メイド服を着ているというだけだ。
「すみませーん」
「はい。お決まりですか。ご主人様」
少し甘えた感じの声でメイドさんがやってきた。
「俺はこのメイド特製ふわんふわんオムライチュ」
こいつ言いおった!メニューをフルで言いおった!
少しだけど高橋を見直した。
「こちらのご主人様はなにになさいますか?」
「えーと、俺はこのケーキのセットで」
「お飲み物はこの中からお選び頂けますがどれになさいますか?」
メニューを見ると、ドリンクも名前がひどかった。
俺には高橋のような度胸がないから普通に言う。
「じゃあアイスコーヒーで」
「すみませんご主人様。もう一度よろしいですか?」
「アイスコーヒーで」
「ん?」
そう言って耳に手を当てて「聞こえません」のジェスチャーをしてくるメイド。
なんとなく察した。
「あいちゅこーひーでお願いします」
そう。正式名称じゃないとメイドには聞こえない(設定)らしい。
「かしこまりました。アイスコーヒーですね。それではお待ちください」
普通に言って席を離れていった。
向かいで高橋がうつむいて笑いをこらえている。
このメイド・・・やりおる。
あとで覚えてろよ。
必ず仕返ししてやる。
俺はそう心に決めたのだった。
「お待たせしました」
しばらくしてメイドさんが注文した品を持ってきた。
「ご主人様。今回、このケーキセットを注文していただいたので、メイドがご主人様のために絵を描かせていただこうと思いますが、何かリクエストはございますか?」
俺はこの瞬間を待っていた。
作戦はもちろんこうだ。
『難しい絵を描かせて失敗させる』
メイドにもダメージを与えて、さらに高橋にもダメージを与えるという一石二鳥の作戦だ。
高橋と話しながら待っているときも、頭の中では何を書いてもらおうかと考えていた。
「じゃあ北斗の膝の膝史郎を書いてくれ」
あの誰でも知ってる世紀末アニメの主人公だ。
この店で働いているのに知らないとは言わせないぞ!
なんせこの俺でも知ってるんだからな!
「かしこまりました。では少々お待ちください」
笑顔で言って、空いていた隣のテーブルへコースターを持っていき、細いペンで書き始めた。
待っている間暇なので、ケーキを食べて待っていた。
高橋はメイドさんに、オムライスの上にハートマークを書いてもらって上機嫌だった。
5分後。
「大変お待たせいたしました、ご主人様。申し訳ございませんが、ご主人様」
こんな短時間で描けるはずがないんだ。
俺の勝ちだ・・・
「時間が足りず、色が塗れませんでした。白黒で失礼いたします」
「え?なにこれ?」
俺は驚愕した。
コースターに描かれていたのは紛れも無く膝史郎だった。
ただ、少し小さくて可愛らしいからだにはなっているものの、顔はほぼ原作通りだった。
しかも北斗百烈膝を繰り出している瞬間だった。
「これで満足いただけましたか?ご主人様?」
満面の笑みで返された。
満足ってゆーか・・・
「これじゃ商品にしても売れるよ」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
時刻、2時半。
俺の完全敗北だった。
メイド喫茶を出た俺は高橋にたずねた。
「メイドさんってみんなあんなにすごいの?」
「まぁメイドさんだからな」
「どういうことだよ」
「メイドはなんでも出来て当たり前ってことだ。さぁ!次行くぞ次!」
俺はメイドの基本概念を考え直す必要があるようだ。
そして高橋との旅はまだ続く。
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次回もお楽しみに!