栄養ドリンク男・まさかの再会
佐々木和の朝は1本の栄養ドリンクから始まる。
冷蔵庫からヌンケルを1本取り出す。
腰に手を当て、キャップを取り、一気飲み。
「プハー!」
この一連の流れを終えて初めて、朝を迎えたことを実感する。
そして気分が良い!
天気は悪いが、気分は最高だ!
今なら雨を全部避けながら歩くことが出来そうなくらい心が軽い!
なんたって「佐々木くん」から「和くん」にランクアップしたのだ!
俺も「高倉さん」から「真琴さん」に呼び方が変わったのだ!
真琴さんの前ではドキドキしてて、素直に大喜びできなかった。
けど、朝目が覚めて夢じゃなかったと思った瞬間、実感が湧いてきた。
今喜ばずしていつ喜べと申すのか!
「最高の朝だ!!」
時刻は午前9時。
こんなに目覚めが良くて元気なのに、仕事は休みで予定も無い。
「暇だなぁ」
山田さんに借りたマンガとDVDは既に見終わっている。
だけどなかなか返す機会が無くて、袋に入れて壁に立てかけてある。
暇だ。
こんなに暇なのも珍しい。
なにかしたい。どこかに出かけよう。
うん。そうしよう。
今から仕度すれば10時には出かけられるな。
このくらいの時間になれば色々と店も空いてるだろうし。
よし。そうしよう。
「そうと決まれば早速準備だ!」
そして到着。
特に行く場所も予定も決めていなかったから、いつも来ている市内まできてしまった。
これじゃいつもと変わらない気もするけど・・・まぁいいか。暇だし。
とりあえず街中をブラブラと歩いてみる。
ファッションビルにゲームセンター、居酒屋が沢山ある通り、でかいカニがいる建物、時計台。
いつもとは違う通りを歩いて大通公園までやってきた。
2丁目にある噴水のところで座った。
季節ごとに様々な催しをしているこの公園だけど、この時期は至って静かだった。
公園の左右を走る車の音と真後ろにある噴水の音しか聞こえない。
たまにはこんな休日もいいなぁ。
最近色々あったからなぁ。
主に真琴さん関連だけど。
色々思い出して思わずニヤける。
「あれ?」
目の前の通りを知った顔が通っていった。
たしか高校の時の・・・
思わず追いかけて声をかける。
「おい。高橋?・・・聞こえてないのか?」
声をかけられた人物はイヤホンをつけていたため振り返ってはくれなかった。
次はトントンと肩を叩いてみた。
ん?、と声を上げて振り返った。
「よ。久しぶり」
「おぉ!佐々木じゃん!久しぶりだな!」
こいつは高校の時の親友の高橋真司《たかはししんじ》。
同じテコンドーの道場に通っていた仲間だ。
趣味とかも全然違ったが、何かしら通じ合うものがあったみたいでよく一緒にいた。
しかしそれぞれが違う大学に入ったため、連絡を取らなくなっていた。
というよりも、高橋が当時ケータイをまだ持っていなかったから知らなかっただけというのもある。
そんなこんなで今日の再会になる。
「何年ぶりだ?」
「多分高校卒業して以来だから・・・7年?」
「そんなに経つのか!」
笑いながら高橋が言った。
昔からそうだったが、よく笑う奴だった。
笑いのツボが浅いせいか、爆笑までのラインがとても低い。
「そういえば最近の人生どうよ?」
高橋が近況を尋ねるときは『人生』という大分類で聞いてくる。
「最近かー。特に変わったことは・・・いや、彼女が出来た!」
「嘘!マジかよ!爆発しろ!」
「なんで爆発せにゃならんのだ」
「こっちの都合だ。で、誰?俺の知ってる人?」
「いや、最近知り合ったばっかりだから多分知らない人かな」
「あれか?出会い系か?」
「お前には絶対会わせないからな」
高橋の質問を冷たく一蹴して話題を戻す。
「で?高橋は?」
「俺か?俺は・・・特にないかな」
「ふーん」
ふーん、と言ったものの、俺は気になっていた。
「なぁ、それ何?」
高橋のカバンに付いていた緑色のキャラクターのストラップを指さした。
「あ?これか?これはな、ミクさんだ」
「ミクさん?」
もしかしてのもしかしてだが、こいつもそっちの道に走っていってしまったのか?
山田さんとあったときもそうだったけど、ここ最近でそっちの世界に足を踏み入れる機会が極端に増えた気がしてならない。
「ミクさんってなんだ?」
「え?お前知らないのかよ!今ミクさんを知らない人なんて年寄りぐらいだぞ?」
「年寄りに失礼だろ!」
「いやいや、そのぐらい浸透してるってことだよ」
「マジでか」
「そんな頭で大丈夫か?」
「うるさいわ!」
高橋ってこんなキャラだったか?と思いつつもミクさんのことを聞いてみた。
「で、ミクさんってなんなんだよ」
「ミクさんはな・・・あ。立ち話もなんだし、どっか行こうぜ。どうせ暇なんだろ?お前の彼女の話も聞きたいし」
「勝手に暇って決めつけるな。まぁ暇だからいいけどな」
「なんだこのめんどくさいツンデレは」
「は?」
「いや、こっちの話」
さっきから意味のわからん単語が次々と出てくる。
あの頃の高橋とはもう違うのだろうか?
きっとあっちの世界に行ってから、おかしくなってしまったのだと考えたい。
おそるべしオタクの世界。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
良ければ感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
次回もお楽しみに!