栄養ドリンク男・閑話~山田五郎は問い詰める
俺の名前は山田五郎《やまだごろう》。
同じ職場の後輩の佐々木和《ささきかず》と居酒屋に来ていた。
そこらへんにあるようなチェーン店の居酒屋だ。
ほとんどの席が個室になっているため気軽に話せる。
特に意味はないが、何となく一緒に飲みたいだけだった。
俺にだってそういう時ぐらいある。気分って奴だ。
普通に飲んでしゃべって笑いあっていただけだった。
今日はそれだけで良かったのに、一本の電話が面白い情報を与えてくれた。
居酒屋に入って大体一時間ぐらいした時だった。
それまでに何杯かのビールのジョッキを空にした。
テーブルの上に置いていた和のスマホが震えた。
「あ。電話だ。ちょっと失礼しますね」
「ここで出ていいよ。別に気にしないからさ」
俺と和しか居ない空間だ。誰も気にしないさ。
「じゃあすんません」
そう言って電話に出る和。
そうは言っても意外と礼儀正しい和は、俺に迷惑が掛からないようにしているのか、からだを横に向けて話していた。
「あ。こんばんわ。はい、大丈夫です。・・・ホントですか?・・・買い直そうかとも思っていたんですけど・・・そうですか。よかったです」
電話の声は良く聞こえないが、知り合いか?
買い直すって・・・なんかやらかしたのか?
まぁいいや。あとで和に聞いてみよう。
「あ。はい。って言っても昨日からですけど」
昨日?昨日って・・・電話相手は佳子か?
色々推測できるが、酒が入ってるせいか頭がうまく回らない。
佳子と何があったんだ?
色々考えながらビールの入ったジョッキに口を付ける。
『まこちゃんを幸せにしろよ!!』
「っつ!!はい!頑張ります!」
急に和のスマホからバカでかい声が聞こえて、吹き出しそうになった。
声にも驚いたが、聞いたことのある声だったからだ。
「あんなバカな声出すのは佳子しかいねぇよな」
ボソリと呟くが、和には聞こえなかったみたいで、そのまま耳を抑えながら電話をしている。
話し方からすると誰かに変わったみたいだ。
これは後で色々聞くしかないな。
そう思って改めてジョッキに口を付ける。
「はい。おやすみなさい」
どうやら電話が終わったそうだ。
ここからは俺のターンってやつだな。
「あ、すみませんでした。長々と電話してしまって・・・」
「そうだな。ホントに長かったな」
「え。あ、そんなに長かったですか?」
「めっちゃ長かったわ。だから全部聞かせろ」
「え?何をですか?」
「今の叫び声、佳子だろ?」
げ、と声を上げて自分の頭をポリポリとかいた。
「聞こえてたんスね」
「そりゃあんなデカイ声なら聞こえるだろ。で、なんで佳子と電話してるんだ?昨日そんなに盛り上がったのか?」
自分で聞いておいてなんだが、少し早口過ぎた気がした。
「実はですね・・・」
和が言いにくそうに口を開く。
「その・・・」
「なんだよ。はっきり言えよ」
「実は・・・高倉さんっていたじゃないですか?」
「ん?あの佳子の友達か?ってゆーかなんでその人が出てくるんだよ」
「今その人と付き合ってるんです」
は?はぁああああ??
「って言っても昨日からなんで付き合いたてですけどね」
また頭を掻きながら照れたように言う。
え?昨日今日出会った人ともう付き合ってんの?
ってゆーか世間って狭いなーおい。
「先輩?大丈夫っスか?」
「え、おう。もちろん」
なんで俺が混乱してるんだ?
俺はこんなキャラじゃなかったはずだ。
ってゆーか・・・
「なんでもっと早く言わないんだよ!」
「なんで怒ってるんですか!」
「いや、悪い。ちょっと興奮してただけだ。で?」
「いや、付き合ってるってことをあんまり言いふらさない方がいいのかなーって思ってたんですけど、高倉さんも山田さんに言ってるみたいだったのでいいかなーって思って」
「そうゆうことか。で、どうやったら付き合うことになるんだよ」
「昨日、佳子さんじゃなくて高倉さんが来たんですよ」
和は昨日のことを話し始めた。
内容は~かくかくじかじかうんぬんかんぬん~というわけで今に至ると。
「お前・・・テコンドーやってて良かったな」
「感想がそれですか」
照れているのか、頭を掻きながら恥ずかしそうに下を向く。
それにしてもこんな展開って有りなんだな。
「いやいや、それにしても良かったじゃんか。あの憧れの高倉さんと付き合えることになって」
「実は全然実感ないんですけどね」
「なんだよそれ。あんだけ劇的な告白しておきながらそれはないだろ」
「でも劇的だったからこそ実感がないんですよ。明日目が覚めたら夢でしたーってなりそうなくらい現実味がないですもん」
「たしかに少し現実離れしちゃってるもんな」
「でも嬉しいことは嬉しいです」
「仕事中もニヤニヤしっぱなしだったもんな」
「マジですか!」
「お前は顔と声に出やすいんだから気をつけろよー」
「精進します」
ぺこりと頭を下げられた。
「で、どうなんだよ。うまくやっていけそうなのか?」
「うーん・・・よくわかんないですけど、なんとかなると思います」
「ずいぶん自信有りだな」
「なんとなくですけどね。高倉さんとだったらうまくいくと思います」
「まぁなんかあったら相談しろよ。一応お前よりも長く生きてるからな」
「って言っても1ヶ月ぐらいしか変わりませんけどね」
「うるせぇ」
そう言って二人でジョッキに口を付けた。
うん。今日のビールはうまいな。
この話で閑話は終了となります。
いや、閑話とか言ったものの、ストーリー進んでますよねー(笑)
細かいことは気にしないのです。
というわけでからはまた普通の話に戻ります。
次回もお楽しみに!