栄養ドリンク男・佐々木和のプロローグ
主人公男・佐々木和の話です。
栄養ドリンクはからだに良い。
だってあんなに滋養強壮とか疲労回復とかしてくれるんだ。
からだに悪いはずがない。
だから俺は栄養ドリンクが好きだ。
俺が栄養ドリンクを飲み始めたのには色々ある。
語ってもいいか?
まぁ答えは聞いてないけど。
あれはまだ俺が小さかった頃の話だ。
確か中学生ぐらいの頃だ。
あの頃はやんちゃだった。
授業前にジュースを買ってきて授業中に隠れて飲んだり、勉強道具を机の中に入れっぱなしにして帰ったりもした。
授業のノートには謎の英語が書かれていたり、謎のマークが書かれていた。
ノート提出の時に消すのを忘れて先生から『佐々木くんは絵が上手ですね』とコメントがあったりもした。
俺は茶髪にしたりとか、学校をサボったりという低レベルでナンセンスなことはしなかった。
俺が世界の中心。俺が世界を回しているんだ。
きっと明日になれば宝くじが当たるよりもすごいことが俺の身に降りかかってくるだろう。
常にそんな気がしていた。
・・・あの頃の俺はバカだった。
あの頃、掃除当番で机を動かしてた時に、不良組のやつの机の中身を落としてしまってビクビクしながら片付けたのはいい思い出だ。
そんなこんなでちょっとやんちゃ(笑)だった頃、俺はからだが弱かった。
別に持病を持っていたとか心臓に負担を抱えていた訳ではなく、ただ単に病気になりやすかっただけだ。
あの頃の俺にとっては、
「世界が俺に課した試練なんだ」
とかなんとか思っていたに違いない。
常に制服の内ポケットには何かの薬が入っていた。
偏頭痛持ち、時々くる腹痛、ちょっとした微熱。
全てが魅力的な症状だった。
そんなある日。
学校帰りに、前を歩いていたサラリーマンっぽい男の人が、ビニール袋いっぱいに栄養ドリンクを入れてオレンジ色の看板のコンビニから出てきた。
「そういえば栄養ドリンクってどうなのかな?」
健全でやんちゃな俺は栄養ドリンクは大人の飲み物だと思っていた。
あれは大人が飲むものだ。だから今の俺にはまだ早い。
そう言い聞かせながらコンビニに入り、栄養ドリンクコーナーの前でいろいろ見ていた。
一本3000円するのもあった。
「なんだこれ。めっちゃ高いし」
中学生にとっては3000円は大金である。その頃の俺も例外ではない。
母親から毎月もらう5000円のお小遣いをやりくりしながら友だちと遊んだりしていた。
「ん?」
そこでふと目に止まった商品。
『エナジードリンク・イエローブル』
青い缶に黄色い文字で陳列されていた。
値段はなんと200円。
「破格じゃないか!これをたくさん買ってこのコンビニを潰してやろう」
そんなことを思いつつ、イエローブルを3本も買ってコンビニを後にした。
家に帰るなり、部屋に入り飲んだ。
意外と美味しかった。その勢いで3本とも飲み干した。ほぼ一気飲みだった。
「なんか疲れが取れた気がする」
プラシーボ効果とは恐ろしいものである。
そんなにすぐに効果があったら商売上がったり下がったりだ。
疲れが完全にとれた俺は、上機嫌で家族と夜ごはんを食べた。
異変が起きたのはそのあとだった。
寝る前にトイレに行きたくなった俺は布団から出てトイレへ行った。
誰だって我慢しておねしょはしたくない。
トイレで用を足していた俺は放出されていく液体を見た。
「う、うわぁ!!」
液体が黄色すぎたのだ。それも尋常じゃないくらいに。
若干濃い黄色になるくらいならたまにあったが、ここまでの黄色は初めてだった。
トイレからなんとか生還した俺は、布団にうずくまり少し震えながら寝た。
翌日。土曜日のため学校は休みだった。
昨日のトイレでの一件が怖くて家のパソコンで調べてみた。
もしかしたら何かの病気かもしれない。
『尿 黄色』で検索した。
しかし検索しても検索しても『腎臓の病気』や『肝臓の病気』といったようなものばかり。
だんだんと怖くなってきた俺は、一日中布団の中で丸まっていた。
夜になって母親が心配して様子を身に来た。
しかし尿の話など母親には恥ずかしくてできない。
「大丈夫?」
「なんでもない!!」
ほぼ半泣き状態で母親に返事した。
母親は何事かと思ったらしく、部屋を出ていった。
少しすると仕事から帰ってきた父親が部屋に来た。
布団の横に座った父親は
「なんかあったのか?友達にいじめられたのか?」
普段の明るすぎて気持ち悪い父親からは考えられないような声だった。
「俺・・・死ぬんだ・・・」
びっくりした父親は理由を聞いてきた。
泣きながら話した。
イエローブルの話。トイレの話。病気の話。いつも持ち歩いている薬の話。
いつも薬を持ち歩いているのを知っていた父親は、俺の肩に手を置いて話し始めた。
「いいか和。薬のことはいつも言ってるけど飲みすぎはからだに毒だから控えろ。そしてイエローブルはエナジードリンクって言ってからだを元気にしてくれる飲み物なんだ。だからからだに悪いはずがない」
「でもトイレで・・・」
「あれはエナジードリンクが、からだの中から疲れを出しているんだ。ようは副作用なんだ」
「副作用?」
「そうだ。和も薬を飲んだら眠くなるだろ?あれと一緒だ」
「眠くなるのは授業がつまらないから・・・」
「そんなバカな。薬を飲まない時の授業はとても面白いはずだ。和は授業の面白さをまだ見つけ出せてないんだ。もう少し頑張ってみろ」
そうだったのか。副作用か。だからテストの点数が悪かったのか。
「あと一つ。薬よりもイエローブルのほうがからだに良いぞ」
「!?」
「薬は悪いところを直すだろ?だからマイナスを0に戻すだけなんだ。でもイエローブルはどうだ」
「どうなの?」
「わからないか?0の状態でもからだに元気がみなぎってくるんだ。つまり0の状態からプラスにしてくれるんだ」
その頃の俺には衝撃だった。
そして俺はこの日から薬をやめた。
かわりに毎朝一本イエローブルを飲んだ。
いくらイエローブルでも飲みすぎはからだに毒だと言われたので、一日毎朝一本だけを守った。
そして現在も毎朝の栄養ドリンクは欠かせない。
あの日から俺は病気知らずだ。病院とか何年も行っていない。
今はもう24歳なので普通の栄養ドリンクも飲んでいる。
一番調子を保てるドリンクを探している。
そんなわけで俺は栄養ドリンクが好きだ。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
次は豆乳女です。
こんな感じで交互にそれぞれの視点で書いていきます。
よろしければ今後もお付き合いください。




