栄養ドリンク男・ドキドキ
高倉さんがこんなに怖がっていたなんて思わなかった。
それに俺を頼りにしてくれてたことが嬉しかった。
そして今、目の前で泣いているこの人のことを愛おしいと思った。
そう考えていたら、からだは勝手に動き、抱きしめていた。
優しく。壊れないように。それでいて力強く。
「すみませんでした。こんなに怖い思いをしていたとは思いませんでした。俺も高倉さんを守らなきゃの一心で精一杯でした。すみません」
高倉さんは自分の中のいろんな感情を、涙として流しているのかもしれない。
なら落ち着くまでこうしているのが今の俺の役目だと思った。
どれくらいそうしていただろうか。
少しの時間が長く感じた。高倉さんの涙は流れ出るのをやめた。
「ぐすっ。ん。もう大丈夫」
「ティッシュ使います?」
こくりと頷く高倉さんにベンチの上のティッシュを取って渡す。
一枚目で涙を拭く。二枚目で鼻をかむ。
「相変わらず大胆ですね」
「・・・うるさい」
目を真っ赤にして声もぐずぐずしてるけど、いつもの高倉さんに戻ったようだ。
「落ち着いたみたいですね」
「ありがとうございました」
丁寧におじぎをする高倉さん。
つられておじぎをしてしまう。
「あ、いえ、お気になさらずに」
おじぎの後、顔を上げる時に高倉さんの顔を見ると、なにやら急に恥ずかしくなってきた。
今までの行動を思い返して見ると、とても大胆な自分が脳裏に浮かんできた。
「あ!その、なんていうか、その・・・」
「ん?何が?」
「いや、えーと・・・ほらーそのーなんてゆーかですね・・・」
「どうしたのさ」
「いや、あの、抱きしめちゃったりしたじゃないですか。それが今更恥ずかしくなってきたというかなんというか・・・」
「私は嬉しかった」
「すみませんでした!・・・え?」
「だから嬉しかったって言ったの」
「マジすか?」
「何回も言わせないでよ。恥ずかしい」
このままでは俺の精神力が持たない気がする。
こんな状態が続いたら告白してしまいそうだ。
しかし今告白したらつり橋効果で本音じゃないかもしれない。
そこらへんがちょっと怖い。
告白は別の日にしたい。
あ。
「そ、そうだ!連絡先聞いてもいいですか?」
「そうだった。忘れるところだった」
「あ。でも俺、スマホに変えたばっかりで、アドレスとか入力してもらわないといけないんでした」
「え!なにそれ。めんどくさい」
「そんなにズバッと言わないでくださいよ。じゃあ俺が入力するんで貸してください」
「変なとこいじらないでよ?」
「いじりませんよ」
少し落ち着いてきた。
高倉さんもスマホなので、落とさないように借りる。
とりあえず今はこの入力に全身全霊をかけよう。
ポチポチポチポチ。
スマホ打ちづらいなー。
「ねぇ、まだー?」
「そんなこと言われてもスマホ慣れてないんで勘弁してください」
「もう私やってあげようか?」
「あとちょっとですから待っててくーだーさーいーよーっと。終わりましたよ」
スマホを高倉さんに返す。
「えーと。私が佐々木くんに送ればいいの?」
「そうです。そうしてもらわないと一方的に教えただけですもん」
「・・・・・・」
何やら黙り込んでしまった。
きっと文章を作っているのだろう。
スマホが震えた。画面を見るとメールが一件。
メールを開く。
『好きです』
この一言だけ書いてあった。
一瞬何事かと混乱するが、すぐに思い当たる。
目の前の人物を見ると、スマホを見ながらチラチラとこちらの様子を伺っている。
その人物に向かって話しかける。
「なんでそんな回りくどいことするんですか」
「な!私なりに趣向を凝らしたのに!」
「これ本心ですか?」
「どーゆーこと?」
「つり橋効果かもしれないですよ?」
「あの怖いドキドキと好きのドキドキを勘違いしちゃうやつ?」
「それです」
「なにそれ。じゃあ逆に聞くけど、佐々木くんはどう思ってるのさ」
高倉さんは怒ってしまったみたいで、背中を向けてしまった。
これは答えないとマズイよな。
もう自分に正直になろう。
「俺は高倉さんが大好きです」
もう後戻りできないぞ!頑張れ俺!
「今日、いろんな高倉さんを見てきました。笑った高倉さん。恥ずかしがる高倉さん。怒った高倉さん。泣いてる高倉さん。この全部を見て俺は高倉さんのことを愛おしいと思いました。えーと・・・だから、つまり・・・付き合ってください!!」
言った!言ってやったぞ!!
今日は寝れないや!!
「私も」
「え?」
振り返って高倉さんが言う。
「私も好き。つり橋効果とかそんなの関係ない。とにかく好き」
「じゃあ・・・」
「ってゆーか私が先に言ったのに」
「・・・えぇー!?メールはずるいですよ」
「ずるくないよ。文明の知恵に頼ったんですー」
「全然上手いこと言えてないですからね!」
「アハハ。じゃあ改めてよろしくお願いします」
握手を求めてきた。
「こちらこそ」
その差し出された手を握ると、そのまま引き寄せて抱きしめた。
「やられると思った」
「超能力者ですか」
「シンクロしまくりなんだよ」
互いに顔を見つめ合い、まぶたを閉じた彼女にキスをした。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ここで一段落となりますが、まだまだ二人の物語は続いていきます。
ちょっと余談をば。
コメディーだと思っていた時期が僕にもありました。
しかしキャラ達(主に二人)が勝手に暴走した結果、こんな感じになってしまいました。
まぁこれはこれで良しかなと思ってます。
これからもこんな拙い文章でも、応援していただけると嬉しいです。
次回からは閑話ということでちょっと変則的にします。
というわけで次回もお楽しみに!




