栄養ドリンク男・忘れ物
まさか次の予定まで立てちゃうとはなぁ。
世の中うまくできてるもんだ!
今日は帰りに高い栄養ドリンクでも買っちゃおうかな!
そんなことを考えながら、高倉さんと別れてほんの少し歩いた時だった。
「あっ!!!!」
俺は重大なことに気がついた。
「連絡先しらないや・・・」
今度誘いますって言ったばかりなのに、どうやって誘うつもりだよ!俺のバカ!
高倉さん、まだ外にいるかなぁ?
そう思って来た道を引き返すと声が聞こえてきた。
「ちょっと!やめてください!」
「いいじゃん!俺たちと夜の街にくりだそうぜ!」
「嫌です!」
「そんなこと言わずにさ!」
この声・・・高倉さん?
間違いない。あの直後に絡まれてるのか?
いやもしかしたら違う人かもしれないし・・・
でも嫌がってるし止めないとマズイよな!
高倉さんじゃなくても助けると心に決めた俺は曲がり角をいそいで曲がった。
「だから嫌だって言ってるでしょ!」
「いいから来いよ!」
「あんまり言うこと聞かないなら痛い目見るぞ!」
「おい!何してるんだ!」
大体5メートルぐらいまで走り寄ったところで俺は叫んだ。
「なんだお前?」
「佐々木くん!」
「こいつの知り合いか?」
よく見ると二人とも頭が悪そうな顔をしていた。
服はラップをしてそうなダボダボのズボンにダボダボのジャージを来ている。
「その人を離しませんか?」
さっきまでの勢いを殺すかのような敬語をぶちかましてしまった。
これはこれで自分の頭が冷静だと判断できたので結果オーライだ。
しかし二人組は相変わらず怒鳴るだけ。
「あぁん?全然答えになってないじゃねぇか!ちゃんと質問には答えろよ!」
「そうだぞ!兄貴の言うことがきけねぇのかよ!」
「俺はこの人の知り合いだ。これでいいのか?」
「なんだこいつ!」
「兄貴!こいつ兄貴のこと馬鹿にしてますよ!」
こんな悪役がまだこの世にいたのかと思うと日本は恐ろしい国だと実感できる。
「俺はもう怒った!この女よりも先にこいつをぶちのめしてやる!」
「あーあ。兄貴を怒らせちまったな!兄貴はここらへんじゃ敵なしの人なんだぜ!」
もうだめだ。こいつ。頭の悪さがにじみ出すぎてる。
興味がなくなったのか、兄貴のほうが高倉さんの背中を乱暴に押した。
そのまま高倉さんはこっちに走ってきた。
「なんで戻ってきたの?」
「第一声がそれですか」
「だってまさか戻ってくるなんて・・・」
よく見ると高倉さんは震えていた。
早くこの場を離れよう。
「あ。じゃあ返してくれたので帰りますね。さぁ、高倉さん。帰りましょう」
くるりと背中を向けた。その瞬間バカが叫んだ。
「おい!オメェ!兄貴から逃げられると思ってるのかよ!」
「そうだぜ、兄ちゃん!ただで返すわけにはいかねえよ!」
やっぱりこうなっちゃうのか。
高倉さんもいるから穏便に過ごしたかったんだけどなぁ。
兄貴がポケットから折りたたみナイフを取り出してそれを開いた。
武器とかズルい!
「ズルイってなんだコノヤロー!」
そのまま兄貴が突っ込んできた。
「下がってください」
高倉さんに下がるように言うと、俺は荷物を足元に落とし、一歩前に踏み出した。
「死ねぇ!!」
叫びながらまっすぐ顔面にナイフを突き出してきた。
俺はそれをしゃがんでかわし、しゃがんだままの体勢で兄貴の左足に向かって足払いをかけた。
「うおぉっ!」
驚いた兄貴はそのまま横に倒れてしまう。
それを見た俺は確信した。
あのバカが言ってたことは嘘だ。と。
「高倉さん。携帯で警察呼んでもらってもいいですか?」
「え?あ、はい」
後ろで呆然と立っていた高倉さんに声をかけると、驚いたような返事が返ってきた。
やっぱり驚くよなぁ・・・。
俺は高校の三年間テコンドーをやっていた。
たまたまテレビでやっていたKー1の試合で、テコンドーの選手がK-1ファイターに圧勝しているのを見て感動した俺は、近くにあったテコンドーの道場に通うことになったのだ。
その三年間しかやっていなかったが、おかげで動体視力が良くなったし、からだも柔らかくなった。
今もストレッチとか、キックの練習(ただ綺麗に見せたいだけ。かっこいいじゃん)とかをしてるので、顔面へのハイキックとか後ろ回し蹴り程度ならなんなくできたりする。
でも、格闘技やってる人って一般人相手だと怪我させたらいけないって言うじゃん。
それなのに喧嘩を時々ふっかけられることが高校時代にはあった。
なので正直、喧嘩には慣れていた。
そして今回はナイフもってるし仕方ない、と心の中で決めたのだ。
「てめぇ・・・俺を怒らせたな・・・」
「怒らせるも何も、そっちが勝手にやってきたんだろ?」
俺は、多分兄貴は格闘技はやっていないと見た。
どうみても格闘技をやっている人の動きではなかった。
それでもなお向かってくる兄貴。
きっと弟分の前では負けられないのだろう。
「俺をバカにしやがって・・・そっちの女からやってやる!」
そう言って俺の後ろにいる高倉さんを見ると、さっきと同じようにそのまま突っ込んできた。
俺と高倉さんの前に近づくと、ナイフを振りかざした。
「死ねぇ!!」
高倉さんを狙われたらもう叩きのめすしかない。
俺は兄貴の振りかざした腕めがけて、左足を突き出した。
迎撃するように出された足に対応できず、兄貴は手首当たりを俺の足に叩きつけてしまう形になる。
その反動でナイフが乾いた音を立てて地面に落ちる。
その音を合図にしたかのように、俺は左足を地面に下ろし、下ろした左足を軸足にして右足を兄貴の側頭部めがけて70%ぐらいの力で蹴り上げた。
「ぐあっ!」
側頭部を蹴られた兄貴はその場でしゃがみこむ。
その時、パトカーのサイレンが聞こえた。
近くを巡回していたパトカーが駆けつけてくれたのだろう。
「兄貴!」
バカのほうが兄貴に駆け寄る。
パトカーが来てしまったらナイフを持ってる兄貴は銃刀法で捕まってしまう。
バカは兄貴に肩を貸すといそいそと帰ろうとした。
「大丈夫ですか!兄貴!この野郎、よくも兄貴を!」
「やめろ!」
「兄貴・・・」
「兄ちゃん。悪かったな」
「人の女に手を出さないでいただきたいです」
「ハハ。変な兄ちゃんだな」
「普通に嫌がってたら諦めろよ」
「肝に命じておくよ。帰るぞ!」
「待ってください!兄貴!」
兄貴とバカの関係も気になるが、今回は高倉さんが無事でよかった。
振り向いて高倉さんを見ると、口を開けてポカーンとしていた。
テコンドーかっこいいです。
あと数年後にはあのダサい防具が一新されていることを願いたい(笑)
ジャンル変更しました。
コメディーから恋愛にかわりました。
でも恋愛コメディーとして続けていきます。
これからもよろしくお願いしますー
次回もお楽しみに!