豆乳女・送ってもらう
「だめだよ。ここは今日付き合ってもらったお礼に私に奢らせてよ」
「いやいやいいですって。俺が奢りますって。ご飯誘ったのは俺なんですから」
レジの前で、奢る気満々だった私に、佐々木くんが奢らせてくれと言って聞いてくれない。
いくら佐々木くんが誘ったと言えども、この状況で奢ってもらうのは悪いと思う。
「じゃあこうしましょう!俺が高倉さんの分を払う。高倉さんが俺の分を払う。それでどうですか?」
「んー・・・まぁいいや。そうしましょう」
栄養ドリンク男のくせにいいこと言うじゃないの。
と、心の中でつぶやいてみる。
それにしても栄養ドリンク男なんて言葉使ったの初めてかも。
いやいや、普通こんな言葉使わないか。
「いきなり首振ってどうしたんですか?」
「なんでもないよ」
「そうですか。ならいいですけど」
階段を降りきって外に出ると、夜の風が気持ちよかった。
「うわー。なんか気持ちいいですね」
「また私と同じこと考えてた」
「マジすか」
お互いに顔を見合わせ笑う。
お酒が入っていないのにこんなにいい気分なのは久々だ。
「今日はありがとね」
「いえ。こちらこそ。ってこれから送っていくのにもう締めの言葉ですか」
「送ってくれなくていいよ。すぐそこだし」
「近くても夜は危ないですよ。って近いんですか?」
「まぁね。歩いて10分ぐらいかな」
「そんなに近いんですか!?」
「だって交通費とか考えたら街中に住んでもあんまり変わらないし」
「だったらむしろ送りますよ」
佐々木くんは意外と頑固かもしれない。
自分が決めたことはあんまり曲げなさそう。
「じゃあお言葉に甘えて近くまで送ってもらおうかな」
「じゃあ行きましょうか。どっちですか?」
「ん。あっち」
夜の街を二人で並んで歩く。
初めて会ったときはあんなに緊張してたのに、今はもう仲良くなってバカ笑いとかするし。
「そういえば初めて高倉さんと会ったのって、ちょっと前ですよね」
「私も考えてた」
「高倉さんってもっと恥ずかしがり屋で『テヘッ』とかいう感じの人かと思ってました」
「なにそれ!言ってみようか?」
「いいですよ。高倉さんはそんなキャラじゃないってわかりましたから」
「テヘッ!」
「タイミング悪っ!」
アハハと笑う二人。
久しぶりに佳子以外の人とこんなに話してる気がするなぁ。
「そういえばその敬語ってどうにかならないの?」
「えー・・・だって高倉さん年上じゃないですか」
「一つしか変わらないんだから別に敬語じゃなくてもいいよ」
「いいんですか?」
「だから私は気にしないって」
「わかりました。じゃあ敬語やめます!」
「よし!頑張れ!」
「・・・って言われても急には治せないですね」
「アハハハハ!地道に頑張りたまえ」
「精進します」
私たちはこのあとも笑いながら楽しく歩いた。
結局佐々木くんの敬語は取れなかった。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「じゃあこの辺でいいや」
「そうですか。今日はありがとうございました。楽しかったです」
「うん。私も楽しかった」
「じゃあまた今度何かあればご飯でも行きましょう」
「うん。その時は佳子も呼んで、今日のお詫びをさせようか」
佐々木くんが笑顔で、そうですね、と言った。
なんか・・・なんかないかな。
私は頭の中で何か話題を探していた。
佐々木くんともう少し話したかった。
こんなに楽しいのは久しぶりだったせいかもしれないけど話したかった。
「あの!」
「あの!」
私と佐々木くんの声が被った。
私は佐々木くんの言いたいことが何となくわかった。
「あ、高倉さんからどーぞ」
「いや、佐々木くんのほうがちょっと早かったから」
「えーと、またご飯誘ってもいいですか?」
やっぱり同じこと考えてた。
「もちろん」
「良かった。断られたらどうしようかと思いました」
「この状況で断れるような強い精神を私はもってない」
「今度は奢らせてくださいね。で、高倉さんは?」
「同じ」
「今日こーゆーの多いですね」
佐々木くんは笑った。私もそれにつられて笑う。
「じゃあまた連絡します」
「私も暇なら連絡するね」
「アハハ。じゃあおやすみなさい」
「気を付けて帰るんだよ」
「高倉さんも」
互いにお辞儀をして別れた。
いやーまさかここまで同じこと考えてるとは思わなんだ。
ひょっとして双子なんじゃないか?
頭の中で色々考えていたら、フフフっと声に出して笑っていた。
その時、すれ違った二人組の男が声をかけてきた。
「あれぇ?お姉さん一人?しかもめっちゃ楽しそう」
「だな!笑ってたもんね!ねぇ、よかったらこれから俺たちと遊ばない?」
おかしいなぁ・・・
コメディのはずだったのに・・・
次回もお楽しみに!