『弱くて可憐な姉』の取り扱い説明書〜弟の愛が重すぎて、世界を裏から支配することにしました〜
『愛する姉様は乙女ゲームの悪役令嬢~姉様を守るため脱!乙女ゲーム!脱!断罪ルート!脱!国外追放!』https://ncode.syosetu.com/n9457mv/
のアンサーストーリー
「可愛すぎる弟の勘違いと暴走を、お姉様はいかにして愛で、完璧に手のひらで転がしていたのか」——アイリス(姉)目線のアンサーストーリーです!
『愛する姉様は乙女ゲームの悪役令嬢~姉様を守るため脱!乙女ゲーム!脱!断罪ルート!脱!国外追放!』を是非先に読んでからお読みください。
愛する姉様は乙女ゲームの悪役令嬢~姉様を守るため脱!乙女ゲーム!脱!断罪ルート!脱!国外追放!
https://ncode.syosetu.com/n9457mv/
鏡の前で淡い桃色の髪を整えていると、背後から愛しい弟——レオンがそっとリボンを添えてくれた。
「姉さん、今日の髪型も世界で一番似合っていますよ」
「ありがとう、レオン。ふふ、あなたにそう言われると本当に綺麗になれた気がするわ」
少し首を傾げて微笑むと、鏡の中でレオンが感動に震えている。
(……ああ、今日も私の可愛い弟は、世界一尊いわね)
白状すると、私は自分の「顔立ち」と「雰囲気」の使い道を熟知している。
可憐で、儚げで、のんびりとしていて、主張しない伯爵令嬢。
それが私——アイリス・フォン・ローゼンベルクの表の顔だ。
けれど、私の内面はそんなにヤワじゃない。何しろ、お父様の「冷徹な洞察力」と、お母様の「一度敵と定めたら絶対に逃がさない狩人の血」を完璧に受け継いでいるのだから。
そして何より、私には人生をかけて護るべき「宝物」がある。
それが、前世の記憶とやらを持ち、私を過保護なまでに愛してくれる弟のレオンだ。
思い返せば、レオンが7歳の頃。
お父様の執務室で「なぜ僕をあと2年早く産まなかったのですか!?」と机を叩いて大泣きしていたあの頃から、私は悟っていた。
(この子は私を『乙女ゲームの悲劇の悪役令嬢』だと思い込んでいて、私を守るために命を削ろうとしているわ)
正直、乙女ゲームなんてどうでもいい。
公爵家のドラ息子からの婚約打診?
あんな下品で手癖の悪い男、私自身が裏で社会的・物理的に潰そうと準備を進めていた。だが、私が手を下す前に、11歳になったレオンが目を血走らせて魔道具を売りさばき、情報を流し、完璧に廃嫡まで追い込んで消し去ってくれた。
……報告書を読んだ時、私は自室で悶絶した。
(何て健気なの……! 私のためにそこまで……っ! 可愛すぎて頭がおかしくなりそう……!)
弟の健気な暴走を傷つけないよう、私は「あら、婚約のお話、いつの間にか立ち消えになって良かったわねぇ」と呑気な可憐な姉を演じ切った。
裏で糸を引いていたお父様とは、視線だけで『レオンの成果を褒めてあげましょうね』と無言の合意を交わした。
◇
そして、私がグランドール魔導学園に入学して半年。
王太子のシルヴェスター殿下が、私に近づいてきた。
自作自演で私を助けたフリをし、私の「高純度の魔力」を利用しようと生徒会に勧誘してきたのだ。
さらに、男爵令嬢のアリアという少女。彼女は怪しげな魅惑魔道具で男子生徒を魅了し、私に対して不自然な殺気を向けていた。
(……ウザいわね)
私は入学3日目で、生徒会の不透明な帳簿の裏金をすべて暗号解読し、シルヴェスター殿下が王室の資金を不正流用している証拠を完璧に押さえた。
アリアの魅惑魔道具の波長も、お父様から贈られた鑑別魔道具で特定済み。いつでも王立騎士団に通報して、国家叛逆罪で吊るし上げられる状態に整えていた。
ただ、私は待っていたのだ。
……だって、王都から届くレオンの手紙にこう書いてあったから。
『姉さん、僕が飛び級試験に合格して、すぐに行きます! 絶対に僕が守りますからね!』
(ふふ、レオンが私をヒーローのように助けに来てくれるのね。それなら、その舞台を整えてあげなくちゃ)
私はわざと決め手を出さず、おとなしく「困った可憐な先輩」を演じてレオンの到着を待った。
◇
そして今日。
超特例の飛び級試験を圧倒的な破壊力で突破し、学園の廊下に現れたレオン。
抱きしめた時の小さくてあたたかい体。半年ぶりに嗅ぐ弟の匂い。
「姉さん……! 会いたかったです!」
「ふふ、おめでとう。レオン」
そこに、空気を読まないシルヴェスター殿下とアリアが割り込んできた。
殿下はレオンを自分の手駒にしようと勧誘し、アリアは「アイリス様ばかり特別扱いズルい!」と金切り声を上げる。
レオンは即座に「善人な弟」を演じ、涙目で辞退してみせた。
(ふふ、嘘泣きも上手になったわね、可愛いわ)
けれど、アリアがさらにレオンを責め立てようとした瞬間——
私の胸の中で、お母様から受け継いだ「狩人の血」が冷たく沸騰した。
(……私の可愛いレオンに、汚い声を浴びせないでちょうだい)
私はそっと一歩前へ出た。
首を少し傾げ、おどおどとした「儚げな姉」の仮面を被る。
「あの……アリア男爵令嬢……? 私の弟は……まだ11歳で幼いですし、自分自身の未熟さを心配して辞退しただけなのです……。それを『ズルい』とおっしゃられても……あの子、何か悪いことをしてしまったのでしょうか……?」
声は可憐で、儚げで、震えている。
だが、アリアの瞳をじっと見つめる私の瞳の奥には、「これ以上私の弟に不快な言葉をかけたら、例の公爵令息みたいに社交界から消してあげるけれど、覚悟はできているかしら?」という絶大な殺意を込めておいた。
「ひっ……! あ、いや……別に責めたわけじゃ……!」
本能的な恐怖を察知したアリアが、顔面を蒼白にして後ずさる。
(あら、察しがよくて結構ね)
続いて、シルヴェスター殿下へ向き直る。おっとりと、柔らかく微笑みかけながら。
「殿下……アリア様はきっと、生徒会で殿下のお役に立とうと一生懸命になられているのですね……。素晴らしいご意気込みですわ。……アリア様、私のような者には分からないけれど、きっと何か素敵なご実績を準備されているのでしょう……?」
(逃げ道は塞いだわ。帳簿の不正を隠したまま、実績ゼロのアリアを生徒会に入れる口実なんて、殿下には作れないでしょう?)
言葉に詰まり、冷や汗を流す2人。
完璧なチェックメイトだ。
横を見ると、レオンが「姉さん! 自分は出しゃばらず、相手を立ててあげるなんて……! なんてお優しいんだ……!」と感動に目を輝かせていた。
(……ふふっ。やっぱり気づいていないのね。本当に可愛いわ)
「では殿下、失礼いたします。レオン、行きましょうか」
「はい、姉さん!」
2人を置き去りにして歩き出す。
レオンはポケットの中で録音魔道具を操作し、「王子の不正を暴いて、姉さんに内緒で失脚させてやる……!」と鼻息を荒くしていた。
(ええ、頑張ってねレオン。あなたが集めた証拠と、私がすでに握っている証拠を合わせれば、王太子の首なんて一発で飛ぶわ。あなたが『僕が守ったんだ!』って達成感を得られるように、最後のおいしいところはあなたに譲ってあげるからね)
「レオン?」
「はい、姉さん!」
「ふふ、やっぱりレオンが近くにいてくれると安心するわ。私、要領が悪いから……レオンがいてくれないとダメね」
くすくす笑いながら、伸び上がってレオンの頬にチュッとキスをする。
真っ赤になって「僕が一生、害虫どもから守って養いますからね!」と叫ぶ弟。
(ええ、楽しみにしているわ。私を世界一愛してくれる、可愛い私の騎士様)
脱!乙女ゲーム?
脱!断罪ルート?
ふふ、そんなもの、最初から存在すらさせないわ。
私の可憐な手のひらの上で、弟が一生懸命に世界を救おうと走り回る——この最高に愛おしい日常を、私は誰にも邪魔させないのだから。




