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BLゲームの主人公の兄に転生したけれど、弟が土管を最優先するので攻略どころではない件  作者: 怒れる布団


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第五章:攻略対象(王子)を魔道具で操作する弟は、その気になれば傾国の男寵

 図書室での一件から数日後。俺は今日も弟・リヒルの動向に神経を尖らせていた。


 あの『黒魔術の本』は、後でこっそり調べてみれば、本来はおまじない程度の効果しかない代物だった。(よかった……)


 だが、リヒルは無駄に魔力が強い。万が一、術が成功しすぎて第一王子が文字通りの言いなりにでもなれば、国家存亡の危機だ。


 何より、弟が「国を傾ける魔性の男寵」として歴史に名を刻んだりしたら、凄く嫌だ。


 学園の中庭、噴水のそばで、その日、フリード王子とリヒルが親しげに談笑しているのが見えた。


(来た! イベント発生だ!)


 俺は息を潜めて物陰から様子をうかがう。王子は相変わらず眩い金髪をなびかせ、優雅な物腰でリヒルを見つめている。


「リヒル。庶民の生活を調査するために、私と二人っきりで旅行する件……考えてくれたかい?」


 王子の艶やかな声が響き、その指先がリヒルの肩に触れようとした。


(旅行!? 二人っきりで?! 断れリヒル、許さん!!)


 俺が飛び出そうとした、その時だ。


 リヒルはニコリと微笑み、王子の手を両手で優しく包み込んだ。


「はい。殿下。……お望みのままに」


 そう言うと、リヒルはうっとりとした、どこか切なげな視線を王子に向けた。


(……! まさか、リヒル! お前、本当に王子に絆されてしまったのか!?)


 本来のゲームルートなら、こんなに早く愛は育まれないはずだ。だが、リヒルのあの憂い顔……。王子もまた、リヒルの視線に恍惚とした表情を浮かべている。


「ああ、リヒル……君のその瞳、私の理性を蝕んでいくようだ。いつまでも君に、弄ばれていたい……」


(ダメだ、もう手遅れか!? 本当に黒魔術が成立してしまったのか!?)


 見れば、リヒルが手の中に何かメモのようなものを持っている。まさか、呪文の詠唱か?


 俺は居ても立っても居られなくなり、物陰から飛び出した。


「リヒル! 旅行など断じて許さ――」


「あれ、兄様?」


 リヒルは無邪気に振り返った。俺はすかさずリヒルの手からメモをひったくる。そこに書かれていたのは、禍々しい魔法陣……ではなかった。


『↙→↘↓↙←↘ + BLボタン』


(………………………ああ、うん。どう見ても……格ゲーの隠しコマンドだな……)


 なぜか赤墨汁で地を這うような筆致だった。


「兄様、凄いでしょう?あの本を読み解いて、ついにこの『コマンド』を解析したんです!」


「コマンド……?」


「あの本、装丁は黒魔術書ですが、裏の顔はパズルを解くような数秘書なんですよ。知恵を絞って読み解けば、この魔道具の操作コマンドが出てくるんです」


 そう言ってリヒルが取り出したのは、どう見ても前世のゲーム機のコントローラーだった。


「……リヒル、これは?」


「少し前、父上のお使いに行った時の、あの小箱の中身です。気になったので、魔法で封印を解いて取り出しました」


「父上は、『絶対に開けるな』と言っていただろう……!」


「兄様。父上の『絶対に開けるな』は、つまり、『全力で開けて解析しろ』という期待の裏返し(フリ)ですよ!」


 違う。あれはただの厳命だ。


 だが、このコントローラー。リヒルの解析によれば、対象者の脳信号を横から上書きして、骨格を強制駆動させるという、人道無視のトンデモ兵器だった。


 リヒルが親指でレバーを弾けば、王子は物理法則を無視して横滑り(ダッシュ)し、リヒルが『BLボタン』――Black-magic Leverの略――を叩けば、王子の意識が飛んでいても最強の法術が放たれる仕組みだ。


 リヒルは目を輝かせて言った。


「隣国のシルフハーフェンの街で開催される武術大会で、この魔道具からコマンドを入力します。そうすれば体術に自信のない殿下でも、僕が操作することによって圧勝できます。全戦、ハメ技で完封勝利です!」


 横にいる王子も深く頷くた。

 しかし、これは使い方によっては、一国を滅ぼす可能性だってある魔道具だ。『封印解いたから使ってみました』のノリで使っていいものではない。


「リヒル、これは本人の筋肉の限界を無視して動かすから、一歩間違えれば殿下の体がバラバラになるぞ!」


「大丈夫ですよ、兄様。僕、腕には自信がありますから。それにハメ技のいいところは、相手がどんなに泣いても、こちらのペースに引きずり込めるところなんです。一度捕まえてしまえば、あとは僕の指技で勝利して、殿下を満足させてみせます!……さあ、殿下。僕に操作される感覚、楽しんでくださいね」


「ああ……楽しみだよ、リヒル。君の指さばき……。たとえこの身が砕けようとも、君の指さばきで踊れるなら本望だ……」


 期待に震える王子。


 指さばき。聞き方によっては卑猥極まりないが、魔道具をカチャカチャとテスト操作しているリヒルに、一切の邪念がないことだけは確かだった。


 ……邪念はないが、倫理観がログアウトしている。


(大会当日、王子はリヒルに精密操作され、人間離れした動きを披露させられるのだろう。まさに『操り人形』……。いやいやいやいや、阻止!)


 結局、俺はリヒルが小箱を勝手に持ち出したことを父上に通報し、リヒルは「一ヶ月の外出禁止(学園以外)」という厳罰を受けた。結果として、王子との「密月旅行イベント」は未然に防がれたわけだが。


 リヒルは折角手に入れた魔道具を実践したくて、今も自室でうずうずしているようだ。


 そして近い将来、間違いなくこう言うだろう。


「兄様、被験体になってみませんか?」


 ……と。


 俺は四たび、痛む胃をおさえて、虚無の天井を見上げた。


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