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ラティオ・レコード ~砕かれた薔薇と復讐の玉座~  作者: Muu-S


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【第6話】四人の絆


 校長の後を追いながら、バスティオが続けた。


「そうかな? 僕、よく分からないや」


「何かね、目がね、他の人とは違うんだよ」


 バスティオは、僕の顔を覗き込んだ。


「皆、なんか目が死んでんじゃん?」


「もうこの世の終わりかのような眼をしてるんだけど、テリアルはキラキラしてるんだよな!」


「よく分からないけど、分かるのはバスティオは元気に溢れているということくらいかな。そこは、なんか皆とは違う」


「お、俺の言いたい事が伝わったみたいだな!」


 バスティオは、嬉しそうに笑った。


「そういう感じだよ。悪いな、どういえばいいのか分からないんだ」


 バスティオは、頭を掻いた。


「まあ、雰囲気ってやつかな!」


 何がどう伝わったのか分からないけど、バスティオは嬉しそうにしていた。



   ◇ ◇ ◇



 しばらく歩いていると、広い空き地のある森の中についた。どうやらここも、学校内らしい。


「では、これから狼系の魔物、魔狼と戦ってもらう」


 校長の言葉に、生徒たちの表情が凍りついた。


「魔狼を3体、この円内に移動させるまで待ちたまえ」


 校長の言葉に、生徒たちから悲鳴が聞こえ始めた。


 無理もない。


 戦闘経験もない子供が、魔狼と戦うだなんて。


 僕は物心つく前から11歳になった今までずっと修行を積んできたから、まだしも。多くの生徒は、急に連れてこられたばかりなのだから。


 バスティオの様子は実に冷静で、すでに戦う体勢に入っていた。


「よっしゃ! 俺がさっさと魔狼を倒すから、テリアルは皆のフォロー頼むぜ!」


 バスティオは、剣を構えた。


「任せた!」


「うん、僕は隙を見て動くよ」


「準備が出来ました。3方向から魔狼が出るので、倒してください」


「大丈夫です。死人が多すぎたら止めに入りますので、残りの方が合格ということにします」


 ダラスは冷酷な目で、僕たちを見下ろした。


 これは明らかに人数減らしのためのテストだ。


 僕が、多くの人を守らなければ……


 魔狼の影が見え始めたと思ったら、既に人が襲われていた。


「まずい……!」


 僕は、周囲を見渡した。


「あの大きな岩の影なら、何人かは隠せるかもしれない!」


 僕は、岩の近くまで走った。


 すると、近くに泣いている青髪の女の子がいた。


「こっちだ! 早く隠れろ!」


「う、うん!」


 青髪の女の子は、震えながら走ってきた。


 僕は、できるだけ多くの人に気づいてもらうために、大きな声で叫んだ。


「この大きな岩に隠れろ!」


 何人か隠れた後、僕は魔狼を倒しに行くことにした。


 すると、一人魔狼から逃げている緑髪の男の子がこっちに来ている。


 だが、そのままだと間に合わない!


 助けに行かないと!


 僕は、走って来る緑髪の男の子の手を取り、大岩の方へ押しやる。


「っ! 今だっ!」


 魔狼の鋭い爪が空を切るのを紙一重でかわし、その腹部に剣を閃かせた。


 ラームの剣は肉を切り裂く感触もなく、滑らかに深々と突き刺さる。


 魔狼は呻き声を上げ、バランスを崩して大岩に激しくぶつかり、動きを止めた。


「今だ!」


 僕は飛び乗り、動脈が走る首筋目掛けて、ためらいなく剣を突き立てた。


 魔狼は痙攣し、絶命する。


 周りを見渡す。


 多くの人は岩陰に隠れ、下を向き泣き崩れている。


 戦っているのは、僕とバスティオと他3人くらいだ。


 3人は魔狼と戦っている。そのままなら倒せそうだ。問題は無い。


 バスティオの方を見る。彼は、特大剣を盾のように構え、迫る魔狼の攻撃を防ぎ続けていた。


 その防御は鉄壁だが、庇いながら戦っていたせいで、体力を激しく消耗し、今にも倒れそうだ。


 助けに入るために、僕は走り出す。


 距離があって間に合わなそうだったため、僕は地面から拳大の石を拾い、魔狼の額目掛けて渾身の力で投げつけた。


 石は正確に魔狼の額を打ち、怯んだ魔狼が僕の方へ怒りに満ちた唸り声を上げて突進してくる。


「よし! こい!」


 僕は地面を蹴り、砂と土を握りしめて魔狼の顔に投げつけた。


 視界を奪われた一瞬の死角に滑り込み、重心を失った魔狼の心臓目掛けて、剣を真下から突き上げた。


 周りを見る。


 どうやら、数名死者が出てしまった。


 すると、ピーという音が鳴ったかと思うと、校長が話し始めた。


「はー……もうよい」


 校長は、ため息をついた。


「生き残った者、おめでとう。合格です」


 校長は、僕たちを見渡した。


「今日はもう、寮に帰るなり家に帰るなり、好きにしなさい」


「始まりの刻8時から保健室に入り、時限爆弾センサーの埋め込み手術をします。以上」


 ダラスはあからさまに不機嫌そうな顔で、舌打ちをした。


「ちっ! 今回は生き残りが多いな。取り分が減るではないか……」


 そう吐き捨てると、彼は足早に去っていった。


 あんな人が校長なのか……どうなっているんだ?


 僕は、バスティオのいる所まで行った。


「大丈夫か?」


「あー、くそっ、危ねぇとこだったぜ!」


 バスティオは、息を切らしながら笑った。


「へへっ、もっとこのデカブツを自在に扱えねぇと、俺の看板が泣くってもんだ!」


 バスティオは悔しそうに、自分の剣を見つめた。


「でも、凄いよ。庇いながらここまで戦えるなんて」


「ありがとうな!」


 バスティオは、にこやかに笑った。


「やっぱ、お前とは仲良くなれそうだぜ!」


 バスティオは、僕の肩を叩いた。


「お、おう!」


 こういう関係が友達なのだろうと思い、嬉しくなる。少し照れてしまう。



   ◇ ◇ ◇



 しばらくすると、最初に見かけた泣いていた青髪の女の子と、魔狼から逃げていた緑髪の男の子が近寄って来た。


「た、助けてくれてありがとう……」


 青髪の女の子は、まだ震えながら小さな声で言った。


「ほ、本当に死ぬかと思ったよ」


 緑髪の男の子は、怯えた表情で深く頭を下げた。


「助けてくれて、ありがとう……」


「どういたしまして。無事で良かった……」


 僕は、安堵して微笑んだ。


「へへっ、俺、バルストって言うんだ」


 バルストは、ぎこちなく「へへっ」と笑った。


「もしよかったら、俺と友達になってくれないか?」


 バルストは、少し顔を赤らめながらも、決意したように僕に手を差し出した。


「うん、僕はテリアル。宜しくお願いします」


 僕は、彼の差し出した手を取った。


「へへっ……テリアルか。よろしく」


 バルストは嬉しそうに、けれどどこか不器用な笑みを浮かべた。


「あ、ずるい! 私もテリアルと友達になりたい!」


 青髪の女の子が、前に出てきた。


「私はロニア。よろしくね!」


 ロニアは、バルストに負けじと僕に手を差し出した。その涙ぐんだ瞳は、じっと僕を見つめていた。


 僕は、彼女の差し出した手を取った。


「うん、よろしくお願いします」


「ははは! モテモテだなテリアル! だったら、もうこの4人は友達だな!」


 バスティオは、みんなを見渡した。


「俺はバスティオだ。宜しくな、バルスト、ロニア!」


 バスティオは、みんなの輪の中心でそう宣言した。


 僕の胸の中に、これまでに感じたことのない温かい熱が広がった。


 修行一筋だった僕にとって、それは確かな絆の誕生だった。



   ◇ ◇ ◇



 僕達は、歩きながら話した。


「帰る前に、バルストの寮の部屋を見てみたいな」


 僕には自分の家がある。


 勇者学校の寮に行く理由もないけど、どういう感じなのかは気になっていた。


「どんな感じか気になるんだ」


「へへへ……いいぜ。じゃあ、俺の部屋、見に行くか」


 バルストは、照れくさそうに頭を掻いた。


「独り占め出来るなんて、最高だぜ……」


「うふふ……どうせなら、食堂も見てみない?」


「おお! 良いじゃん! 見に行こうぜ!」


 食堂へ足を踏み入れると、天井のクリスタルから零れる光が、食卓に並ぶ鮮やかすぎる料理の山々を照らしていた。


 バターの濃厚な香り、肉の焼ける香ばしさに、思わず息を呑む。


 生徒たちは皆、裕福そうに食事を楽しんでおり、その光景は見ているだけで空腹を刺激した。


「凄い……こんな豪華な食事を、本当に毎日食べられるの? まるで夢みたいじゃない!」


「ま、まともに……食事ができるなんて……!」


 バルストは、震える声で言った。


「俺……俺……っく……ひっひっ……!」


 ロニアとバルストは、食卓に並ぶ山のような豪華な料理を見つめ、声を殺して涙を流していた。


 天帝国の最下層にいた彼らにとって、この豪華な食事は、きっと夢のようなものなんだろう。


「とんでもねぇぜ! 感傷に浸ってる暇はねぇ!」


 バスティオが、明るく言った。


「せっかくだ。遠慮なく俺は爆食するぜ!」


 寮の部屋は、食堂とは打って変わってシンプルだったが、家具は新しくて綺麗だった。


 部屋の中央には、体が沈み込むほど厚みのある白いベッドが鎮座している。


「へへ……ベッドが……ある……」


 バルストは、ベッドを見つめた。


「あら、こんなに豪華な寮と食事。私たち個人の自由意志や人権なんて、すっかり忘れさせてくれそうじゃない?」


 ロニアの顔が、少し曇った。


「まさか、始まりの刻から、私たちみんなの心臓付近に『カテーテル式時限爆弾センサー』を埋め込むなんて、とても思えないわ」


 ロニアの発言で、皆は甘い幻想から現実に引き戻された。


 始まりの刻8時から爆弾という名の『身体の所有権の剥奪』がされる、絶望的な運命を思い出した。


 バルストは「はっ!」と息を呑み、さっきまで豪勢な食事に感動して涙を流していたとは思えない程、恐怖で顔が青ざめた。


 持ち前の陽気さで空気を変えていたバスティオでさえ、その楽観的な覇気を失っていた。


 僕も正直、とても怖かった……


 一日を終え、肉体よりも精神が疲弊していた。


 一人での修行よりも、今日という一日は、ずっと重い。


 だが、友達が四人も出来た。


 仲間が増えた喜びと、魔神を倒し恐怖のない未来を創れるという漠然とした希望。


 その裏側で、聖騎士団候補という自分の秘密が、ガラスの破片のように胸に突き刺さっていた。


 もし、バスティオたちにこの事実が知られたら?


 その不安を抱え込みながら、僕は眠りについた。




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【第6話 終わり】


次回:【第7話】身体の剥奪


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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみください。

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