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ラティオ・レコード ~砕かれた薔薇と復讐の玉座~  作者: Muu-S


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【第47話】抜け道


 空を飛ぶ自動運転の空機を横目に、学生たちが話し込んでいる。


「超便利で良い時代だよな。携帯端末も高性能だし」


「うん、最近監視の目が増えたのもいいよね。変なことする移民者もすぐ捕まるし、もっと増えてくれたら完全に安心なのに」


「ね~最近は常識的な掟の強化もしてるし、安全になったよな」


 この子たちは気づいていない、人間社会の構造に虐待されていることを。その『安心』と『便利さ』が、自由と引き換えに与えられた『依存』であることを。


 常識の範囲という大義名分で徐々に『自由の権利が奪われている』ことを。


 俺が作り上げた支配構造は、今も機能し続けている。


 極秘裏に用意された会議室には、俺の子孫たち──世界を裏から操る支配層の面々が座していた。彼らの表情は焦燥に満ちている。


「なかなか戦争が起きない……ならば、監視の目を増やせ、自由を封じろ」


「前の戦いで出来た『大法典』が邪魔で戦が出来ない! 理由は何でもいい、後から作れ! 内容を 変えられるように庶民を誘導しろ! それがお前らの仕事だろ!」


「最終戦争の後は『永遠の平和』と言って統一国を作れば完璧だ」


「分かったな? フーゲル国の総統よ……実行しろ、お前には娘がいたよな? 辛い目に合わせたくはないよな?」


「ま、待ってください! やります! 民の首を縦に振らせて見せます!」


「でも、本当に永遠の権力と富を与えてくれるのですか?」


「もちろん、保証しよう。 だが、嘘ならばどうなるか分かるな? お前の周りには常に、あらゆる組織の工作員が見張っている。 暗殺も可能だ」


「国の総統など簡単に入れ替えられることを忘れるな。 お前らゲリオン国、コペルツ国、他の総統も同じだぞ、我々に従い実行しろ」


「この脚本から逸脱する者はいらん! 排除する!」


「フヒヒ……民などどうなろうと関係ない。 吾輩は遠慮なく総統という配役をこなしてみせますぞ」



   ◇ ◇ ◇



 恒久の平和という耳触りの良い言葉の裏で、完全な支配を目論んでいた。


 俺が教えた通りに。


「多くの人が支配に気付き始めている! どうにかしろ!」


「情報伝達班! 誤情報を広めろ! 言論統制を強める口実を作れ!」


「肉食獣を多く殺せば草食獣が増え農作物に重大な被害が出る。それに便乗しろ! 仕方なく『配給制にします』と言えば庶民は従わざるをえなくなるはずだ!」


 俺の子孫たちは、問題そのものを作り出そうとしている。


 物質世界、この惑星ラティオはバランスで循環している。


 肉食獣が減ればバランスが崩れさらなる被害が増え始める。


 この汚れた環境も、バランスを崩し続けた結果だ。


 本来、自然界の問題は人間が介入すればするほど悪化する。


 最善の修復方法は余計なことをせず、全てにおいて放置すること、やがて元の環境に戻る。


 今起きている環境問題も、長期間にわたる修復に必要な過程だ。


 それを環境のためにという大義名分で、善意を利用し更にバランスを悪化させてしまう。


 だが、支配層はそれすらも『配給制』という支配の道具にしようとしている。


 彼らの言動は「恐怖」と「統制」という柱が崩れかかっていることを示していた。


 俺の子孫たちは、俺から受け継いだ通り、冷酷かつ効率的にその支配を続けていた。


 これは、全て俺が作り上げたものだ。


 ある日、元天帝国の明側で、庶民が動き始めた、そのすぐ後のことだった。


「税が高すぎる!」


「もっと平等な社会を!」


 民衆が、広場に集まっていた。


 俺の子孫は、すぐに工作員を送り込んだ。


 数日後──


【速報! 平和的な行進が暴徒化! 商店を襲撃!】


 情報伝達機構が、大々的に報じた。


 実際には、工作員が民衆に潜り込み意図的に暴動を起こしたのだ。


 他の庶民は、冷めた目で報せを見ていた。


「平和的な行進? ただの暴徒じゃないか」


「迷惑だ」


 こうして、本来の訴えは、かき消された。


 俺が教えた手法──問題を作り、解決する。



   ◇ ◇ ◇



 集団的な訴えは、常にこうして歪められ、悪意を持って利用される。


 仮に訴えが成功したとしても、その提言は支配者に都合よく解釈され、徐々にすり替えられていく。


 大きな動きは、目立つからこそ潰しやすい。


 支配層にとって、視認できる反抗は対処が容易なのだ。


 しかし──


 もし、庶民一人一人が組織的な指示ではなく、個々の判断で、静かに疑問を持ち始めたならどうだろう。


 その膨大な、しかしバラバラな小さな疑問の芽を、支配層は摘み取ることはできない。


 一人一人が、実際に接する機会のある者へ、口頭で疑問を伝える。


 それは言論統制が届かない、水面下の連鎖を生む。


 これこそが、ヴェンが教えた『調和』の真の力なのかもしれない。



   ◇ ◇ ◇



 別の日、暗側の国で、庶民の不満が高まっていた。


「仕事が辛すぎる」


「休みがない」


 支配層の者たちは、すぐに対応した。


「新しい祝日を制定します!」


 庶民は、歓喜した。


「統治機構が解決してくれたぞ! ありがとうございます!」


 しかし、その裏で、彼らは『産業活性化法案』といった耳触りの良い名目で、労働時間を増やす法を密かに可決していた。


 得られた祝日は一日。引き換えに、毎日の労働時間は一時間ずつ延長されたのだ。


 その裏で進められた人権の静かなる剥奪に気づく者はほとんどいなかった。


 俺が教えた手法──一時的な快楽を与えて反抗の力を奪う。



   ◇ ◇ ◇



 支配層が新たな手を打ったのは、それから間もない時間だった。


 街頭の大きなモニターには、煌びやかな報せが躍る。


【速報! 国民的英雄、闘技者のエースが世紀の御婚約!】


 庶民たちは一斉に、その話題で持ちきりとなった。


「まじかよ!」と誰もが携帯端末を覗き込む。


「知らなかった! 一体誰と結ばれるんだろうな!」


「すごい報せだ! これでしばらくは明るい話題で持ちそうだ!」


 しかし、誰もがその華々しい報せに熱中しているまさにその裏で、統治機構は極秘裏に新しい法を可決していた。


【全家庭対象 監視の目設置促進・義務化法案、可決】


 人々の意識は、全く別の場所に向かっている。だからこそ、気づき辛い。


 俺が教えた手法──重要な問題から目を逸らさせる。



   ◇ ◇ ◇



 その構造の深さに気づくのは、常にほんの一握りの者たちだ。


 大衆は「これが当たり前だ」と思い込み、立ち止まって思考する暇もない。


 ただ毎日働かされ、その疲れを娯楽に逃がすだけ。


 しかし──


 その沈黙の中、少しずつ、誰かが支配の構造を理解し、それを『口頭伝達』という形で人々に教え始めている。


 それは、あの、ヴェンのように。


 世界には、支配の眼が届かない領域が僅かに残されていた。


 分厚い森の奥。人跡未踏の山の向こう。


 監視の目が届かない、誰もその存在を知らない場所。


 そこには──ヴェンの村に似た場所が、点在していた。


 都会は便利だが、監視の目が多く、逃れるのは非常に厳しい。


 しかし──村だけではない。


 都会に近い便利な田舎、あるいは不便な田舎でも人と人の繋がり。


 その繋がりが、広く浅くでもいい。そこにも、支配から逃れる道は存在する。


 大切なのは、場所ではなく、人々が互いに助け合い、自立し、調和を選ぶことなのだ。



   ◇ ◇ ◇



 人々は、手を動かし自給自足で生活し、助け合い、支配者の存在を忘れたかのように穏やかに過ごしている。


 子供たちは、焚き火を囲みながら、大人たちから『常識を疑え』という、言葉を教え込まれている。


 この目に見えない自立こそが、支配から逃れる最も効果的な『抜け道』なのだ。


 もし、このような場所が小さな灯のように少しずつ増えていき、


 もし、庶民が支配の構造に気づき、一人一人が冷静に『おかしい』と口頭で伝え、


 もし、多くの人が互いの知識を出し合い、ヴェンの教えのように助け合い始めたのなら──


 その時、外部からの攻撃や、武力による制圧は必要ない。


 支配は、内側から静かに、その機能を停止するだろう。


 それが、ヴェンが語った『調和』の真の意味なのかもしれない。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【第47話 終わり】


次回:【最終話】君へ


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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみください。

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