【第40話】空虚
【注意】
この話には、処刑、死の描写、精神的に重い展開が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
オベロンは、その場で泣き崩れ、絶望に浸る。
「……へへ。みっともねぇな、先生はよ」
バルストが、嘲りを込めて言った。
「何をペコペコしているんだか」
バルストは、嘲りを込めた唾を檻の鉄床に力強く吐き捨てた。
「おい、テリアル! テメェ、俺をこんな檻に入れやがって、一体どういうつもりだ?」
「俺は聖騎士団候補のテメェを、天帝王のテメェを! 散々、徹底的に虐めてやったんだ! 最高の気分だったぜ! ひっひっひ!」
◇ ◇ ◇
「気付いていないのか? 未だに、俺の方が天帝王のテメェより立場が上なんだよ!!」
「……ふん。……そうか」
「天帝王たる俺よりも高貴で偉大なお前に、この俺が心を込めて考案した『天帝王級の特別待遇』を思う存分、味わっていただきましょう」
バルストは、絶望の淵にいるにもかかわらず、何一つ学ばず、己の浅薄なプライドにしがみつく愚かな人間だということが、この冷徹な言葉で明白になった。
お前が、その高潔なプライドをズタズタにされ、「助けてくれ」と命乞いする……
その後がキモなんだよ。
頼むから、ギリギリまでもてよ?
◇ ◇ ◇
青ざめたロニアが慌てた様子で叫んだ。
「テ、テリアル! 私、初めて勇者学校で貴方に会った、あの時から、本当は分かっていたのよ!」
「貴方には、底知れない力と、優しさがあるって! あの時、私がバルストといたのは……そうしなければ、あの陰湿な集団に潰されてしまうと思ったからなの」
「貴方が聖騎士団候補だと知られた時、あの場所に留まるには……仕方がなかったのよ……心の奥底から謝るわ、ごめんなさいテリアル……」
「私、本当は最初から、貴方のことが、誰よりも好きだったのっ!!」
◇ ◇ ◇
「つまり、お前は己の醜い保身のために好きだった男さえも見捨て、バルストという駒を利用したということだろ?」
「……とんでもないクソ女だ! 信じられん!」
「心の奥底からだと? くだらん! ならば、俺が与える苦痛に耐えられたら、許してやるよ」
「何でもすると、そう言っていただろう? それとも、何でもの意味が分からなかったのか?」
「分からなかったとしても、もう遅い。受け入れろ」
ロニアは、うつむき、ただ涙を流す。
◇ ◇ ◇
「天帝王! テ、テリアルよ!」
今度は、ダラスかよ面倒くせぇな……
「一体これは何の悪ふざけですか!?」
「私は上流階級であるぞ! この勇者のゴミクズどもと、私を一緒にすること自体がおかしい!」
「上流階級たる私は、この国の法と信仰において、何事があろうと罰せられることはないのだ!」
「これは根本的に間違っている! 直ちに私をここからお出し下さい!」
こいつは何様のつもりで俺に命令してんだ?
立場を分かってないようだな……
「この国の法と信仰において、何事があろうと罰せられないか……」
◇ ◇ ◇
「俺はな、ウプロンドと話し合って、何でもしていいと言われた。つまり、俺が天帝王になった時点で、この国の法と信仰は意味を持たない」
「これからは、俺が法そのものなのだよ理解したか?」
「お前が犯した唯一の過ちは、あの吐き気のする勇者学校の校長を選んだことだ」
「逃げ場はない。天帝王たる俺の言葉に、黙って従うのだ」
「そ、そんな馬鹿な!」
ダラスが、自分の存在を支えていた世界の法と信仰が、一瞬で紙切れになったことを悟り、絶望した。
「ありえない! この世の理が崩壊している! 助けてくれ! 誰か! この世界の秩序を取り戻してくれ!」
◇ ◇ ◇
「はぁ? 秩序だと? そんなのは『支配者の意図でいつでも変えられる』」
「今は、俺が天帝王だ」
「お前ら、ダラス、オベロン、バルスト、ロニアには、まず火口から100メートル圏内にいる連中を、音声付きでその断末魔の全てが途絶えるまで鑑賞してもらう」
「それが終われば、次はお前らの番だ。せいぜい、己の末路を心行くまで楽しむがいい」
「テリアル……そうか」
聖騎士オルタスが、落ち着いた声で言った。
「今、思い出したよ。君がまだ幼かった頃、私がリンティカ勇者学校まで連れて行ったよな……」
「……そうか。これが、因果応報というものなのか……」
◇ ◇ ◇
「違います、聖騎士オルタス。貴方を檻に入れたのは、勇者学校に連れて行かれたからではない」
「貴方個人に、私的な憎悪はない」
「では、なぜ……?」
「未だに身柄を確保できない、貴方の娘ミラサの身代わりです」
「貴方に罪を償ってもらうことで、この復讐の連鎖を一旦チャラにできる。光栄に思え」
勿論嘘だ。
俺はミラサを許すことは出来ない。
残念だが、ミラサの父である時点で運命は決まっているのだ。
「それで、よろしいですね?」
「……そうか。理解した……」
◇ ◇ ◇
「心配は無用です。貴方だけは、苦痛を与えずに殺しましょう」
この人は、良い人だ。それは分かる。
しかし、野放しには出来ない。
俺に出来るのは楽に死なせてあげるだけだ。
「これくらいは天帝王としての慈悲です」
そして、天帝王たる俺は、監視スウォーマーに備え付けられた光線銃を起動させた。
一瞬の光が走り、オルタスは倒れた。
「うわぁぁぁ!!」
ある勇者が、悲鳴を上げた。
「いやゃ~~~!!」
別の勇者が、叫んだ。
「では、死体とともに死に絶えるまで、ごゆるりとお過ごしください」
奴らの様子をモニター越しに冷徹に観察する。
「暑い……」
「トイレはどこですればいいのよ……」
「もう、終わりだ……」
◇ ◇ ◇
絶望の声が、スピーカーから流れてくる。
これだ。
この声こそ、俺が渇望した協奏曲だ。
だが──
不思議なことに、心は満たされない。
もっと苦しませれば、満たされるのか?
俺は、奴らの尊厳を完全に捨てさせた。
日が経つにつれ、奴らの悲鳴は激しくなった。
「助けてくれ……」
「もう、許してくれ……」
「ごめんなさい……」
3日目、オルタスの遺体は腐敗が進んでいた。
奴らは、嘔吐し、泣き叫んだ。
◇ ◇ ◇
俺は、その光景を見つめていた。
これで満たされるはずだ……俺を満たせ。
これで、やっとあの屈辱が晴れるはずだ。
だが──
胸の奥は、冷たいままだった。
7日目、奴らの多くが倒れ伏していた。
皮膚は日に焼け、やつれ果てている人もいる。
俺は、モニターを見つめ続けた。
なぜだ。
なぜ、満たされない。
──いや。
内心では、分かっていた。
満たされるはずがない。
でも、今更止められない。
◇ ◇ ◇
これは必要なことだ。
奴らは、俺を嘲笑った。
俺を踏みにじった。
だから──
だが、その言い訳は、どこか空虚だった。
10日目。
もう、ほとんどの者が動かなくなっていた。
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【第40話 終わり】
次回:【第41話】戻れない
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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