【第39話】協奏曲
【重要な注意】
この話には、拷問、精神的に非常に重い展開が含まれます。
特に精神的負担が大きい内容ですので、苦手な方は読み飛ばすことをお勧めします。
「窓の外をよく見ろ。貴様らに与えられた仕事は、そこに潜む脅威がないかを、その目で確認することだ」
「移動には一日ほどかかる。終の刻は寝れるように、窓は自動的に閉じられる」
「それまでは、せいぜい景色を堪能しておけ」
漆黒の葉巻型空機が、かすかに低く唸るような音(ウ~ン)を立て、ぬるりと空へと昇り始めた。
「うおっ! 飛んだぞ!」
ある勇者が、興奮して叫んだ。
「まさか、空を飛ぶ機械に乗れるなんて!」
「ゆ、夢みたいだ……」
別の勇者が、感激した声で言った。
「天帝王様はなんて寛大なんだ!」
◇ ◇ ◇
「こんな凄いものに乗るとは思わなかった……」
さらに別の勇者が、呟いた。
ふん。お前たちが乗っているのは、最新技術で作られた地獄への片道切符だ。
この偽りの高揚感を、せいぜい噛み締めろ。
当然ながら、外界に魔物の脅威など、ウプロンドによって全て排除されている。
皆が眠くなってきたころ、空機は自動で窓を閉じた。
ガラス窓の外側には、もう一枚の重厚な扉が備えられており、それが閉じられると、外界の光は完全に遮断され、内部は暗闇に包まれ、機内の淡い光だけが足元を照らす。
空機は高度な自動運転のまま、音もなく降下し、目的地であるドルダルダ火山の火口へと正確に着陸した。
火口の縁には、奴らを永遠に閉じ込めるために用意された巨大な檻が待機していた。
◇ ◇ ◇
この檻は、床下までも忌まわしい構造が施されていた。
今はボロ布で外を遮断し、何も見えないようになっているが、それを引き剥がせば、眼下には煮えたぎる灼熱の溶岩が広がる地獄の光景へと造り替えられているのだ。
始まりの刻──人々が目を覚ます時間になった。
天帝王たる俺は、復讐の炎を胸に、冷酷なまでに次の指示を下した。
「お目覚めのご様子、何より。時間を惜しむゆえ、速やかに移動を開始していただきたい」
「あ、あの……」
ある勇者が、不安そうに尋ねた。
「窓、まだ閉めてるの、な、なんでですか?」
「今から外界の脅威から守られた拠点に移動する。空機の安全、すなわち貴様らを守るために閉じているのだ」
◇ ◇ ◇
「いいか? そのまま明かりの差す方向へ、一言も発さず歩き続けろ」
「拠点に武器を持ち込むな、準備が整うまでは、そこの箱にしまえ。これは命令だ」
そして、復讐の核心へ。
俺はかつて俺を侮辱し、裏切ったオベロン、いじめの首謀者バルスト、裏切り者ロニア、校長のダラスの4名を、他の愚か者とは切り離し、空機を移動させて特別に用意した別の檻へと向かわせた。
復讐の舞台として隔離され、特別に造られたこの穢れた檻は、外界の真実を覆い隠すため、先ほどと同様の薄汚いボロ布に覆われている。
薄暗く良く見えない為、誰も疑問に思わない。
これから始まる絶望への前座なのだ。
周りはただ静まり返っていた。
◇ ◇ ◇
全員の移動が完了した後、天帝王たる俺は、聖騎士オルタスだけは、あえて他の勇者どもと共に誘導させた。
なぜなら、奴こそ、俺の復讐の標的、あの女ミラサの父親だからだ。
オルタス個人への恨みはない。
だが、やがて奴には、ミラサが特別な独房に隔離されているという、残酷な真実を知られる場合がある。
その場合、俺に対して敵意を向けることだろう……新しい時代になったのだ。誰も疑問を持ってはならぬ。
役目を終えた聖騎士団には、「これにて任務は完了した」と偽りの安寧を与え、空機と共に天帝国へ帰還させた。
俺は、即座に外へ出て、全てを監視するための施設へと向かった。
耐火性の特注の監視の目が仕込まれた檻の内部を、冷徹にモニター越しに確認する。
そして、檻に備え付けられた特注のクレーンの起動レバーを、冷酷に引き下ろした。
◇ ◇ ◇
ウゴゴゴゴ……
地獄の底から響くような、不気味な低音が鳴り響き、檻が移動を開始する。
その瞬間、モニターの向こう側で愚かな勇者どもが本能的なパニックに陥るのが見て取れた。
「ひ、ひぃっ! 地面が動いたぞ!?」
ある勇者が、恐怖に叫んだ。
「な、何が起きてるんだ!」
「う、嘘だろ!?」
別の勇者が、パニックになった。
「まさか、どこかへ運ばれているのか! どこへ行くんだ!」
俺は、檻をドルダルダ火山の火口の真上へと、狂気的なまでに正確に移動させた。
そして、スウォーマーを操作し、外界を欺いていたボロ布を、容赦なく一気に引き剥がした。
空中に静止したままの機体から、幾重にも重なった光学レンズが赤く点滅し、電子の眼が周囲をスキャンし、標的の状態をデータへと変換して画面に映し出した。
「お、おい、冗談だろ!?」
ある勇者が、絶望的な声を上げた。
「外の景色が!」
◇ ◇ ◇
「やめろ、下を見るな!」
別の勇者が、叫んだ。
「あ、あれは……マグマだっ!?」
「いやあああああ!」
さらに別の勇者が、悲鳴を上げた。
ああ、これだ。
この絶望に塗れた愚か者どもの悲鳴こそ、長きにわたる屈辱と憎悪を晴らす、俺が渇望した最高の協奏曲だ。
俺は、檻を火口から奴らの生と死の境界線たる絶妙な100メートル圏内に固定した。
気温は約35℃くらい、鉄の床は45℃辺りだ。
この緻密な調整が、奴らの地獄の舞台だ。
簡単に死なせてたまるか。
(苦しみ味わえ!!)
◇ ◇ ◇
水と食料は、スウォーマーが自動で運搬する。
飲み食いで困ることはねぇ。
飢えや渇きで意識を失い、絶望を最大限に搾り取る機会を失うなど、論外だからな。
より長く苦しんでもらうため、医療スウォーマーが自動で絶え間なく治療してくれる。
早く死んでもらっては、つまらないからだ。
檻の内部は、皮膚を焼くほどの熱ではないが、常に不快な焦熱の熱気に満ちる。
絶えず、熱による「不快」と「まだ生きられる安堵」が、絶えず体力や精神を摩耗させるのだ。
奴ら愚か者どもには、この焦熱の恐怖を、決して逃れられない絶望と共に、心行くまで味わってもらう。
これこそ、長きにわたり俺が受けた屈辱と苦痛への、完璧な復讐劇だ。
◇ ◇ ◇
そして、いじめの首謀者、バルストらがいる檻だけは、特別席だ。
煮えたぎる火口が鮮明に斜め下から見えるように設置し、醜悪な現実から目を背けさせはしない。
覆っていた忌々しいボロ布は、容赦なく引き剥がす。
バルストらがいる檻には、大きなモニターが設置されている。
奴の青ざめた顔、歪み切った絶望の表情を、特注モニター越しに、じっくりと鑑賞してやる。
「な、なんだ!? 何が、一体何が起こっているんだ!」
オベロンがパニックに陥った。
「わ、わかった! 俺はお前に酷いことをした! 聖騎士団候補だなんて言いふらしてな!」
◇ ◇ ◇
「だが、あれは……あれは、このクソみたいな世界のせいだ!」
「お前が天帝王になったことで、こんなクソな世界は終わったんだ! 頼む、許してくれ! な、どうか命だけは!!」
俺は、檻に付けたスピーカーで冷たく答えた。
「ふ~ん、そうか? だが、俺はお前の、満面の嘲笑に満ちた顔を、寸分とも忘れていないぞ。オベロン」
「誰彼構わず、八つ当たりしたかったクソ教師よ。お前の決定的な過ちは、この俺を標的としたこと、そして聖騎士団候補という真実をバラしたその瞬間だ」
「オベロン! 覚悟を決め、悔い改めよ!」
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【第39話 終わり】
次回:【第40話】空虚
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回もお楽しみください。




