【第36話】手ほどき
【注意】
この話には、支配や拷問の言及が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
「では、貴様が負った傷を癒やし、次の興行の脚本でも練るとしようか!」
「フン、テメェが創り上げたこの腐りきった構造は、俺の復讐のために存分に利用させてもらうぞ……」
「ハッハッハ!良い! その純粋な憎悪、我の期待が高まるっ!最高に愉快なゲームの始まりだ!」
「では、その貴様の復讐劇の筋書きを、まずこの我に聞かせてみるが良い」
「まず確認だ。お前は興行の邪魔になる魔物を全て排除したんだろう?その後、どう処理した?」
「全て地中深くに埋めたぞ。何万年もかかろうとも、鉄であろうがプラスチックであろうが、いずれほとんど土に還る」
「全ては循環し、そして、再び生まれるのだよ」
「そうかよ。結構だ」
「まず、かつて俺が地獄を見た勇者学校の全生徒、職員、関係者を集めろ。バスティオは不要だ」
「そして、俺を陰湿に嘲笑い、苦しめた奴らを特別に選別し、隔離する」
「表向きは魔物の残骸処理とでも説明させろ。連れ出した後は……心ゆくまで拷問だ」
「フム……貴様はまだ、肉体の激痛が真の苦痛ではないことを知らぬようだな」
「貴様を追い詰めたあの絶望的な日々を創り出した我が、本当の拷問を教えてやろう」
「あ?」
俺は苛立ちをあらわにした。
「戯言を抜かすな。苦痛を与えりゃ拷問だろ。何を偉そうに」
「肉体だけではない、精神的な苦痛を徹底的に植え付け、完全な内面の改造を施す。最終的には、拷問官という名の支配者を心から愛するようになる。結局、その後に始末するのだ」
「はぁ?なんだよそれ……気色悪い……」
「良い。復讐の次の段階へ進め」
「まずはこの狭苦しいリンティカ天帝国を出る」
「この広いラティオ星のターミネーターゾーンに、人が住めるよう勧誘し、信用を得る」
「その後は……」
俺は、考え込んだ。
「そういえば、復讐の先は何も考えていなかったな。天帝国を去る前は、この腐りきった人類すべてを破滅させるつもりだった……」
「だが、今は、俺を直接的に嘲笑い、踏みにじった愚か者どもにしか目が向かねぇ、後は条件と言う名の約束だけだ」
「フム、貴様の憎悪を一時的に鎮めた、あのヴェンの村とノノイのせいか」
「だが、結構!貴様のその個人的な憎悪の連鎖こそが、この腐敗した世界の最高の興行を継続させる」
「貴様の復讐劇を心待ちにしているぞ、天帝王テリアル!」
俺は、その後、穢れた権力の中心、あのリンティカ天帝国の王宮にある豪華絢爛な治療室で、復讐を果たすための器を修復し続けた。
一年と三ヵ月。
長すぎる屈辱の期間だ。
最初の一ヵ月で、満身創痍だった肉体は天帝王級の治療により完全に治癒した。
だが、ウプロンドは俺を解放しなかった。
残りの一年と二ヵ月、あの鳥の化け物から、俺は支配者としての冷酷で醜悪な手ほどきを受け続けた。
大衆の思考を封じる方法。
意図的に選択を与え、『選択肢はこれしかない』と錯覚させる技術。
重要な決定の日に、醜聞で目を逸らす術。
甘い毒を与え、それが破滅だと気づかせない手口。
与えてから取り上げる『依存』を作る手口。
憎悪の標的を作り、本質から『目を逸らさせる』構造。
安寧を破壊し、助け舟という名の檻で囲い込む。
無力感を刷り込み、自発的な諦めを作り出す。
望みを叶えた後、条件を徐々に変え、惨めな状況に逆戻りさせる。
知れば知るほど、吐き気がこみ上げた。
俺は、怒りを込めて言った。
「チッ……貴様から叩き込まれた支配の法則には、心底から吐き気がするんだよ、ウプロンド!」
「この腐りきったシステムこそ、全ての悪意の根源だろうが!」
「ハッハッハッ! それは結構! 実に結構!」
「だが、それらに『従っているのは庶民だ』。我には関係ない!」
「そういえばな、テリアル。貴様が勇者学校にいた時、ドラゴンが襲来したことを覚えているか?」
「チッ!……あれも、貴様の仕業か」
「その通り! あれは貴様の実力を測るためだ」
「我は貴様の成長を、ずっと見守っていたのだよ。監視の目で全てを見ていたからな」
「そして、壊されることのない壁が破壊されたこと……あれも我の指示だ」
「……何だと?」
「ハッハッハッ! 気付かんか? 貴様ら愚かな庶民に恐怖を与え、税を上げる口実を作るためのな!」
「見事に成功したぞ! 庶民どもは、恐怖に駆られて税の増額を受け入れた! これが支配だ、テリアル」
「恐怖を与え、問題を作り、解決策を提示する」
「そして、庶民は仕方なく新たな鎖を受け入れるのだ! 実に滑稽であろう?」
「てめぇ……!」
「貴様は、このラティオ星という舞台に生まれてきて、心の底から感謝すべきなのだぞ」
「て、てめぇ! どの口がそんな戯言を抜かす!!」
「事実さ! 貴様は知るまい、いや、知るわけがなかろう!」
「貴様ら人類が、我のマシな興行にどれだけ護られているかをな!」
◇ ◇ ◇
「我は、かつてこれより遥かに陰湿で、救いようのない支配構造を幾度も見てきた」
「そして、その法則を参考に、このラティオ星の支配システムをアレンジしたのだ」
「そう、惑星テラという星だ」
「人間は24時間365日、あらゆる全ての行動・発言・思考までもがAIに採点され、それにより人間の価値が決まり、人生が決定されていたのだ」
「自由など一切ない!」
「人権の重要さを甘く見た愚かな庶民が多くいたため、いつの間にか『人権そのものが消え失せた』のだ」
「まあ、実際に惑星テラでは、そうならなかったパラレルも存在するがな」
「我が言いたいのは、そのような徹底的な監視と管理の環境に比べれば、貴様のこのラティオ星の支配は、まだ自由で、遥かマシだということだ! ハッハッハッ!」
◇ ◇ ◇
「己の絶望が、どれだけ生ぬるいものだったかが理解できるだろう……この資料書がそうだ、興味があるなら読みたまえ」
そう言い放つと、ウプロンドは、その醜悪な優越感を隠しもせずに、その惑星テラの資料書を玉座の隣にある机に乱暴に置いた。
俺は、その資料書を時間がある時に読んでみたが……
その内容は、俺がかつて過ごしたこの世界での地獄すら生ぬるく感じさせる、吐き気を催すほどの徹底した支配構造だった。
人としての自由も尊厳も、一瞬の思考の余地さえも推測され許されない、完璧な監視の中での管理社会……
チッ、こんな世界に生まれなくて、心底良かったとさえ思ってしまった。
とことん醜悪でおぞましい支配構造だ。
この俺を絶望させた腐りきった世界ですら、その地獄絵図に比べればまだマシであることに、驚きを隠せなかった。
◇ ◇ ◇
そういう世界にならない為には、一定数の庶民が『調和を選び対立しない』こと、全てに対し疑問を持ち、常識ではなく独自の考え、すなわち自分だけの哲学を持ち、個人個人が助け合うことらしい。
それじゃあ、まるでヴェンの村みたいじゃないか……
今のこの天帝国では無理だろうなと思った。
この国の連中は今、俺という魔神を倒した英雄に縋りきっている。
新たな支配構造に、自ら入りに行っているのだ。
翌日、俺は冷え切った憎悪を胸に、リンティカ天帝国の全モニターに向けて、天帝王としての最初の『興行』を開始した。
「民よ」
「魔神討伐以降、生活は、いかほどの幸福がもたらされたであろうか?」
監視の目の映像には、偽りの安寧に酔いしれ、歓喜に満ちた庶民の姿が映し出されていた。
◇ ◇ ◇
「税が減って、本当に生活が楽になったよ!」
庶民の一人が、嬉しそうに言った。
「天帝王テリアル様、ありがとうございます!」
「長年の恐怖が消えた……」
別の庶民が、涙を流した。
「魔神を倒してくださったこと、心から感謝しております!」
「以前よりもずっと平和で、毎日が幸せです!」
さらに別の庶民が、明るく言った。
「もう、何も怖いものなんてありません!」
主権が彼ら自身にあることすら忘れ、この俺という新たなリーダーが全てを解決してくれると盲信する。
自分達で行動せず、リーダーが何とかしてくれるという考えが、既に終わっている証拠だ。
「俺は復活し、この天帝国にさらなる幸福をもたらすべく、新たな風を入れる政策を断行する!」
◇ ◇ ◇
「魔神の脅威は去ったが、外界には未だ、魔物の残党、あるいは新たな脅威が潜んでいる可能性があると推測する!」
「ゆえに、この天帝王たる俺と、かつて俺と共に勇者学校で学んだ全ての者たち、そして現存する全勇者を集め、未知なるターミネーターゾーンの本格的な探索を開始する!」
俺の復讐の獲物は、本来、俺を嘲笑い踏みにじった連中だけで十分だった。
だが、この腐りきった社会は、俺が去った後も俺に対して影での嘲笑を継続的に続けている可能性がある。
念には念を入れる。
俺が勇者学校に入学して以降の、全ての勇者と、あの吐き気のする学校関係者ども一人残らず、この復讐劇の舞台へと引きずり出してやる。
「探索ののち、我々は必ず天帝国に戻る」
「そして、安全が確認された広大な土地に、真の自由と安寧に満ちた新たな国を創設し、共に、新たな世界を見渡そうではないか!」
◇ ◇ ◇
「おお! ついにこの狭苦しい天帝国の壁から出られるぞ!」
ある庶民が、興奮して叫んだ。
「天帝王様は真の救世主だ!」
「で、でも……」
別の庶民が、不安そうに言った。
「外はかつて魔物と魔神のいた恐ろしい場所なんでしょう? 私はまだ、この天帝国に残って安全を待ちたいわ……」
「新たな国ができれば、きっとリンティカでは手に入らない珍しい食材が見つかるはず!」
さらに別の庶民が、期待に満ちた声で言った。
「食べ物の幅が広がるぞ!」
「よって、条件を満たした旧勇者学校の者たちには、追って通達が届く」
「その指示に、一刻も早く従い行動するように!」
中継は、無慈悲にプツンと切断した。
俺の復讐のシナリオは、次の残酷な段階へと移り始める。
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【第36話 終わり】
次回:【第37話】立派
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回もお楽しみください。




