【第35話】欺瞞
「ハッハッハ! 見事な決別だ! 悲劇と憎悪に満ちた、素晴らしい興行だ!」
「さあ、新たな支配者よ。貴様の復讐劇を、存分に見せてくれ!」
「幕は開いたぞ、ウプロンド。まず、邪魔な魔物を今すぐ、この世界から全て処分しろ」
「勿論だ! 天帝王の御言葉とあらば!」
「この新たな興行の障害となった雑魚どもは、直ちに排除しよう」
「天帝国へ伝えろ。魔神を倒した勇者テリアルが、この世界の新しい天帝王となる、と」
◇ ◇ ◇
「フム、フム。庶民どもが、その欺瞞をどう受け止めるのか、貴様も特等席で鑑賞してはいかがかな?」
「おっと、少々待たれよ」
ウプロンドは、物質化、非物質化の能力を使い、玉座の間から姿を消したかと思えば、次の瞬間、巨大なモニターを手に持ち、再びその異形の姿を再構成して現れた。
「ほら、勝者よ」
ウプロンドは、モニターを置いた。
「席はここだ。この中継を楽しみ、愚かな民の反応を堪能するといい。この我が演説を終えたら、貴様を天帝国へ移動させる」
「民衆への最初の挨拶だけ、冷徹に練っておくのだな。それでは行ってくるぞ!」
すると、ウプロンドはまたしても非物質化して消えた。
◇ ◇ ◇
モニターには、リンティカ天帝国の中央区商店街を歩く人々が映し出されていた。
映像の中のモニターから、報せが流れて来た。
「ただいま、天帝王ローディオ様より、臣民への重大な布告がなされます。皆様、お見逃しの無いよう、最後までお話しを聞きましょう」
「臣民たちよ! この七千年、我々を苦しめた魔神は、たった今、打倒された!」
「この前代未聞の偉業を成し遂げた勇者の名は、テリアルである!」
「これにより、臣民たちへの魔神討伐協力の最大の報奨として、絶対神ウプロンド様が、今、この世界に御身を顕現なされるとの事!」
「これは、人類初の出来事である! 中央区商店街におられる臣民たちは、空を見上げよ!」
◇ ◇ ◇
その瞬間、モニター越しで空から、四つの翼を最大限に神々しくはためかせるウプロンドが、物質化して現れた。
中央区商店街以外では、その姿は見えない。
モニターは、ウプロンドの威容を余すところなく映し出した。
「おお! 我が息子娘たちよ!」
「我が絶対神ウプロンドなり!」
モニターからは、絶対神ウプロンドを直接見て、嬉しくて泣き崩れる人、恐怖で顔が歪む人、信じられないという表情をする人、面白いくらいに様々な反応を見せる。
「魔神は、勇者テリアルの手により、ついに倒された! もう、魔物に怯える日々は終わったのだ!」
「この人類初の偉業を成し遂げた勇者テリアルを、本日から天帝王テリアルとして、この世界を導く新しい指導者に任命する!」
◇ ◇ ◇
「元天帝王ローディオは、そのサポート役となるであろう!」
「よって、布告する! 消費税は250%から3%へ! 勇者学校は即刻解体!」
絶対神ウプロンドは、宣言した。
「そして、全勇者のカテーテル式時限爆弾センサーの機能は、今この瞬間をもって、全て解除する!」
モニターの向こう側で、庶民たちは涙と歓喜に顔を歪ませていた。
長年の重税と恐怖からの解放という偽りの餌に、彼らは文字通り酔いしれている。
俺は、その歓喜の映像を吐き気を催すものとして見つめた。
「………愚かだ。何一つ真実を知らない癖に、この偽りの解放に、心から喜んでいる」
庶民の反応に、俺は心底からの軽蔑を感じた。
彼らは、表面上の甘美な物しか見ずに、その裏に待ち構えている真実から、自らの意志で目を背けている。
その無自覚な愚かさが、俺の憎悪をさらに焚きつけた。
「救いようがねぇ……」
◇ ◇ ◇
「我、絶対神ウプロンドの命により、勇者神にして新たな天帝王となるテリアルを、今、この場へ連行する!」
「その間、モニターを刮目せよ!」
するとウプロンドは非物質化したかと思えば、次の瞬間、目の前に再構成された。
「どうだ? 神々しかったであろう?」
「クソ、だな」
「ハッハッハッ! では、興行の次の舞台、元天帝王ローディオの王宮へ参ろうではないか!」
ウプロンドは、説明した。
「新たな支配者よ。貴様自身と、纏う衣類に至るまで、我が目的地へと座標を定める」
「これは、貴様とこの我の共振によって、今のお前に出来ないことを可能にするのだ。目をつぶって、ただ、そう信じ抜けばいい」
俺は、この化け物の戯言を理解できなかったが、復讐という目的のために、言われるがままに目を閉じた。
◇ ◇ ◇
わずかに耳鳴りがする。
空気感、音、そして遠く聞こえる匂いまでもが全く違う。
目を開けた瞬間、視界は王宮の広間を捉え、元天帝王ローディオが目の前に立っていた。
「着いたぞ、テリアル! ここが、貴様が支配する新たな舞台、天帝国の王宮だ」
「さあ、愚かなる民衆への最初の挨拶だ。貴様の復讐劇の、いよいよ出番が来たぞ」
その時、俺は違和感を覚えた。
「!?」
俺は息を飲んだ。
ローディオの体は、上半身しかなかった。下半身は機械の台座に固定されている。
いや……これは『立っていた』のではない。そこに『あった』のだ。
モニターは正面からしか映さない。横から見れば、彼が機械だと一目瞭然だ。
……天帝王が完全世襲制の理由は、これか。
彼の外見はリタ以上に精密に作られていて、目を見ても人間のようだった。
カーテンがあることで機械であることを悟られないための、ウプロンドの欺瞞の一つなのだろう。
「只今、絶対神ウプロンドの御名において、新たな天帝王テリアルが、ここに臨席されたことを布告する」
「臣民たちよ。天帝王テリアルの、最初の御言葉を聞き入れよ!」
◇ ◇ ◇
俺は、顔を隠すカーテンの前に、冷たい決意を胸に立った。
カーテンがゆっくりと開かれ、俺の顔が、天帝国全土のカメラに映し出されていく。
「民よ。俺は魔神との激戦により、今、深い傷を負っている。その傷を癒すことが、最優先となる」
「ゆえに、本日は、天帝王としての最初の挨拶をもって、出番を終える」
「だが、安心しろ。これからは、俺が天帝王として、貴様ら庶民の生活を大幅に改善することを、ここに誓おう!」
こうして、新たな天帝王の、偽りの宣誓を伴う中継は、静かに終わりを告げた。
「フム、フム! 我がシナリオ通り、見事な欺瞞の興行であったぞ、テリアル!」
「チッ、どうでもいい……くだらねぇ茶番だ」
「愚民どもが偽りの解放に酔いしれているだけで、吐き気がする」
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【第35話 終わり】
次回:【第36話】手ほどき
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